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第6巻第4章 セシリオの狙い

エスメラルダの居場所

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「結局、エスメラルダさんがどこに行っちゃったのかはわからないのかあ……」

 エスメラルダの襲撃に対応してくれた全員の話を聞き終えたマヤは、深くため息をついた。

「原初の魔王はルーシェ殿以外全員居場所を隠しているからな。マルコス殿がルースの力を使わないとたどり着けない異空間に城を構えていたところを見ると、セシリオ殿も同じように普通のやり方ではたどり着けない場所に城を構えていてもおかしくない」

「だよねえ……」

 マッシュの推測が正しいとすると、セシリオのところに一方的に乗り込むのはほぼ不可能と言っていいだろう。

 その上乗り込めたとして、原初の魔王であるセシリオに勝つことができるとは思えないので、セシリオに気が付かれないようにシャルルを取り戻す必要がある。

 乗り込む方法に目処がつけばそれで解決、というわけではないのだ。

「とりあえずエメリンさんが帰ってきたら、セシリオさんの居場所について聞いてみるとして……もう一つの気になるのは、セシリオさんが何をしようとしてるかってことだよね」

「それは私も気になっていました。シャルルさんが言っていたオーガに伝わる伝説が本当なら、聖剣とオーガの王族が揃うと原初の魔王を倒せるほどの力が手に入る、ってことですけど、セシリオ様はすでに原初の魔王ですし、そんな力を手に入れても意味がないと思うんですよね……」

「もしか、して、ほかの、原初の、魔王、様を、倒そうと、してる?」

「セシリオさんが、ルーシェさんやマルコスさんを倒そうとしてるってこと?」

「うん。原初の、魔王様、同士は、互いに、不干渉、だけど、シャルルさん、に、やらせ、れば、関係、ない。それに、ついでに、マヤさんに、罪を、なすりつけ、られる」

「確かに……キサラギ亜人王国所属のオーガがルーシェさんとマルコスさんを殺せば、私が下剋上をしたって思われるわけか。元はといえば私を過去に送ってまでオーガの王族であるシャルルさんを連れてきたマルコスさんが悪いわけだけど、そのマルコスさんは殺されちゃってるから、なんの証言もできない……」

「うん、死人に、口無し」

「それじゃあセシリオ様は、他の原初の魔王を排除して、あわよくばマヤさんも一緒に排除して、唯一最強の魔王になろうとしてるってことですか?」

「うーん、それはどうなんだろう? 正直そんなことをしたから何になるんだっていう気はするんだよね。だってセシリオさんって、今でもすでに世界でたった3人の原初の魔王の一人なわけじゃん? それに、あの3人って、相互監視とか言ってる割にはみんな好き勝手やってるよね?」

 不干渉と言いつつお忍びで部下に変装してキサラギ亜人王国に遊びに来ているルーシェや、マヤを過去に送ったマルコス、エスメラルダを使ってゾグラス山を混乱に陥れた挙げ句、キサラギ亜人王国からシャルルをさらっていったセシリオ。

 正直、今でも好き勝手やっているようにしか思えなかった。

 他の2人の監視があってもこれだけ自由に好き放題やっているというのに、わざわざセシリオがルーシェとマルコスを排除する理由が分からない。

「だから、それが理由じゃなくて、何か別の理由があるんだと思うんだよね」

「別の理由、ですか?」

「うん。例えばそうだなあ……他の2人を殺してその力を吸収すると、その力を自分のものにできる、とかさ」

「本当にそんなことできるんですか?」

「さあ? わかんない。でも、原初の魔王だよ? それくらいできそうじゃない」
 
「それはたしかにそうですね。もしそれができるなら、セシリオ様が力を求めて他の2人を手にかけた、ってことで説明もつく? んでしょうか?」

「まあ一応はそうかもしれんが、あくまでマヤの推測にすぎん。本当のところは本人に聞いてみるしかないだろう」

「できれば本人と会わずにシャルルさんを取り返せればいいんだけど……」

 マヤが乾いた笑いしていると、屋敷のドアが勢いよく開け放たれた。

「大変っす! ルーシェ様のお城が、謎の仮面をつけた剣士に襲われてるっす!」

「え? シェリルさん!? 何、どういうこと?」

「襲撃があったと聞きました! 私が護衛についていながら申し訳ございませ――シェリル、どうしてあなたがここにいるのかしら?」

「わっ!? エメリン様!? いつからそちらに?」

「いえ、ついさっきですけど……それより、なぜあなたがここにいるんですか?」

「そっ、そうでしたっ! マヤ様! ルーシェ様のお城が謎の仮面の剣士に襲われてるんです! 助けに来て欲しいです!」

「ルーシェさんのお城が謎の剣士に襲われているから助けてほしい、ね」

 マヤはルーシェの城を襲っているのが剣士だということに引っかかりを覚える。

(もしかして、もう聖剣を持ったシャルルさんが戦力として実戦投入されてる? いや、もしそうだとしたら準備期間が短すぎる。だってシャルルさんが攫われたのは昨日なはずだからそれから丸一日すらかかってないことになるけど……)

 マヤは顎に手を当てて考えをめくらせる。

 ちなみにマヤがなぜこのようにのんきに考え事ができるのかといえば理由は単純だ。

 おそらく襲撃者の一番の狙いであるルーシェは、こうして今目の前にいるからだ。

「シェリルさん?」

「ひいぃ!?」

 シェリルは、後ろから肩を掴まれて短く悲鳴を上げる。

 それも無理からぬことで、肩を掴むのに合わせてシェリルを呼んだエメリンの声には、思わず震え上がってしまうような迫力があった。

「な、何でしょうか、エメリン様……」

「シェリルさん、あなたどうして持ち場を離れてこんなところにいるのかしら?」

「え? えーっとそれは……その……緊急事態だからで……」

「あなたの仕事は、緊急事態にマヤさんに助けを求めに来ることなのですか?」

 エメリンのその言葉は、明らかにシェリルではなくルーシェに向けられたものだった。

「だ、だって……お忍びで街で遊んで帰ろうとしたら、襲撃されてて、私がいなくてもうまく対応してたみたいだけど、何だか帰りづらくなっちゃって……」

「はあ、そんなことだろうと思いました。いいですか、ルーシェ様」

「うん、なあにエメリン……」

「ルーシェ様が襲撃中にのこのこ帰って来ても、配下の誰も怒ったりしません」

「エメリン……!」

「ルーシェ様が無茶苦茶なのはは以下全員がわかってますから」

「エメリン…………」

 とても悲しい信頼のされ方をしていたルーシェはガックリと肩を落とす。

 何はともあれ、マヤたちは襲撃を受けているというルーシェの城へと向かうことになったのだった。
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