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第6巻第4章 セシリオの狙い
マヤとエスメラルダの帰還
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「マヤ……」
マヤはキサラギ亜人王国に帰る道中、突然現れたルースに声をかけられた
「ルース? どうしたの突然?」
ルースは深刻な面持ちでうつむいていた。
「すまない、シャルルを守れなかった……」
「え? それってどういう……」
「実は――」
ルースはぽつりぽつりとエスメラルダの襲撃の一部始終を語り始めた。
エスメラルダが空間転移でシャルルの前に現れたらしいこと、シャルル自身に加え、ファムランドとレオノルを中心としたSAMASが応戦したこと、転移される直前で気がついたルースが空間転移を妨害したが、逃げられてしまったこと。
説明を終えたルースは深々と頭を下げる。
「本当に申し訳ない。私が力不足だったばかりに……」
「いやいやいや、ルースが謝ることじゃないよそれより大丈夫だった? 怪我とかしてない?」
「ああ、この通り私は無傷だ。あの程度の転移に遅れを取る私ではないからな」
「それにしても、どうしてエメリン殿はいなかったのだ? エメリン殿がいればエスメラルダごときにシャルル殿を奪われたりしない気がするが……」
「マッシュさん、多分ですけど、お母さん今日は遠足に行ってるんじゃないかと」
「遠足? 何だそれは?」
「ああ…………ごめん、それ私のせいだ。遠足っていうのは学校では定番の行事なんだよ。先生と一緒に学校の外に出かけて行って、そこでしか学べないことを学ぶっていう」
「エメリン殿がシャルル殿の護衛をほったらかしてその遠足に同行したと?」
「そういうこと。私が遠足の日だけはそっちに行っていいよ、って言ったんだよ。一応、シャルルさんに確認して大丈夫そうなら、とは言ってあったけど」
「ここ最近のキサラギ亜人王国は平和そのものだった。シャルルも問題ないと判断したのだろう」
「だろうね。はあ…………ううんっ、落ち込んでる場合じゃないね! とにかく今はシャルルさんを取り戻す方法を考えよう。ルース、私の屋敷に繋げてくれる?」
「了解した」
ルースは瞬時にドアへと変身する。
マヤはドアをくぐって、はるか先にあるはずのマヤの屋敷に一歩で移動した。
***
「んっ…………ここは……」
シャルルが目を覚ますと、目に飛び込んで来たのは見慣れない天井だった。
「お目覚めですか、シャルロット姫」
シャルルは同じ部屋の中から聞こえて来た声に、首を回してその姿を視界に収める。
「……っ!? お前は!」
「はい、エスメラルダです。申し訳ございませんが、拘束させて頂きました。私があなたに負けることは万に一つもありえませんが、暴れて怪我でもされたら困りますので」
エスメラルダの言葉通り、シャルルはベッドに拘束されていた。
オーガであるシャルルの膂力でも壊せないように、鋼鉄の分厚い腕輪が、床に打ち込まれた太い杭に、これまた太い鎖で繋がっていた。
(これを壊すのは無理だろうな……それに、壊せたとして……)
意識を失う前のことを思い出したシャルルは、エスメラルダに手も足も出ずに敗北したことも思い出していた。
「…………何が目的だ?」
「ご協力感謝します、シャルロット姫。あなたには聖剣を使って倒して頂きたい方々がいるのです」
「聖剣を使って?」
(マヤたちは聖剣を入手しそこねたのだろうか? それに、聖剣を使って斃さなければならない者というのは一体――)
「そうです。聖剣を持ったオーガの王族でないと倒せない存在――原初の魔王ルーシェ様とマルコス様を、シャルロット姫には殺していただきます」
「原初の魔王を、殺す、だと?」
エスメラルダが言っていることがにわかには信じられず、シャルルはオウム返しに質問してしまう。
「その通りです」
「待ってくれ、そんなことが可能なのか? 原初の魔王といえば、世界の法則が人の形をとっているような連中だろう?」
魔王ルーシェは世界の記憶。
魔王マルコスは時間の守り人。
魔王セシリオは空間の管理者。
原初の魔王とはそれぞれに任せられた能力を持って世界を保っている存在、それがシャルルの認識だった。
「その通りです。しかしながら、我が主が言うには、原初の魔王も不死身などではないそうですよ」
「だから殺せるって言いたいのか? 不死身じゃないのと殺せるのは別問題だろう。いくら伝説の聖剣があるとはいえ、私に原初の魔王が殺せるとは思えん」
「普通はそういう反応でしょうね。今はそれで構いません」
エスメラルダは踵を返して部屋を出ていこうとする。
「そうでした、食事がベッドの横のデーブルに用意してあります。やった私が言うのもなんですが、相当ダメージを負っていたようですので、傷は治しておきましたが体力は消耗しているはずです。毒など入れておりませんので、しっかり食べてよくお休み下さい」
振り返ってそれだけ告げると、エスメラルダはそのまま部屋を出ていった。
「この状況で毒が入ってないなんて言われてもな……」
腕ずくで拉致されて拘束された状態で、用意された食事を無警戒で食べるほど、シャルルの頭の中はお花畑ではない。
むしろ、一人で冒険者をやっていた期間が長いシャルルは、こういう場合の警戒心は強いほうだと思っている。
ぐきゅるるるぅぅ…………。
食べるか食べまいか迷っていたところで、シャルルのお腹が大きな音を立てる。
エスメラルダの言う通り、体力を消耗しているのか、シャルルは急速に空腹を感じ始めた。
「背に腹は代えられない、か。それに、エスメラルダの話が本当なら、私を殺すわけにはいかないはずだ」
シャルルは誰もいない部屋で、誰にかも分からない言い訳の言葉を口にしてから、用意された食事に手を付け始めた。
***
「なるほど、だいたいルースから聞いてたとおりだね」
屋敷に帰ってきたマヤは、ルースの案内でエスメラルダにやられて倒れていたファムランド達を治癒魔法で回復させ、屋敷のベッドで休ませ、目を覚ました者から順に事情を聞いていた。
「すみません、私……ファムランドさんが殺されてしまうかもしれないって思ったら……っっ!」
マヤは両手で顔を覆って泣き始めたレオノルの肩に手をおいた。
「いいっていいって、気にしないでレオノルさん。出会って日の浅いオーガと、大切な旦那さんだったら、旦那さんを優先して当然だよ」
「陛下…………本当に申し訳ございませんでした。それから、その……ありがとうございます。私、陛下が陛下で良かったです」
「もう、レオノルさんは大げさだなあ」
マヤの手を取って見つめてくるレオノルに、マヤは苦笑する。
(でも、まいったね。シャルルさんを取り戻すための手がかりが全くないかもしれない)
マヤは「どうしたものか……」と内心頭を抱えるのだった。
マヤはキサラギ亜人王国に帰る道中、突然現れたルースに声をかけられた
「ルース? どうしたの突然?」
ルースは深刻な面持ちでうつむいていた。
「すまない、シャルルを守れなかった……」
「え? それってどういう……」
「実は――」
ルースはぽつりぽつりとエスメラルダの襲撃の一部始終を語り始めた。
エスメラルダが空間転移でシャルルの前に現れたらしいこと、シャルル自身に加え、ファムランドとレオノルを中心としたSAMASが応戦したこと、転移される直前で気がついたルースが空間転移を妨害したが、逃げられてしまったこと。
説明を終えたルースは深々と頭を下げる。
「本当に申し訳ない。私が力不足だったばかりに……」
「いやいやいや、ルースが謝ることじゃないよそれより大丈夫だった? 怪我とかしてない?」
「ああ、この通り私は無傷だ。あの程度の転移に遅れを取る私ではないからな」
「それにしても、どうしてエメリン殿はいなかったのだ? エメリン殿がいればエスメラルダごときにシャルル殿を奪われたりしない気がするが……」
「マッシュさん、多分ですけど、お母さん今日は遠足に行ってるんじゃないかと」
「遠足? 何だそれは?」
「ああ…………ごめん、それ私のせいだ。遠足っていうのは学校では定番の行事なんだよ。先生と一緒に学校の外に出かけて行って、そこでしか学べないことを学ぶっていう」
「エメリン殿がシャルル殿の護衛をほったらかしてその遠足に同行したと?」
「そういうこと。私が遠足の日だけはそっちに行っていいよ、って言ったんだよ。一応、シャルルさんに確認して大丈夫そうなら、とは言ってあったけど」
「ここ最近のキサラギ亜人王国は平和そのものだった。シャルルも問題ないと判断したのだろう」
「だろうね。はあ…………ううんっ、落ち込んでる場合じゃないね! とにかく今はシャルルさんを取り戻す方法を考えよう。ルース、私の屋敷に繋げてくれる?」
「了解した」
ルースは瞬時にドアへと変身する。
マヤはドアをくぐって、はるか先にあるはずのマヤの屋敷に一歩で移動した。
***
「んっ…………ここは……」
シャルルが目を覚ますと、目に飛び込んで来たのは見慣れない天井だった。
「お目覚めですか、シャルロット姫」
シャルルは同じ部屋の中から聞こえて来た声に、首を回してその姿を視界に収める。
「……っ!? お前は!」
「はい、エスメラルダです。申し訳ございませんが、拘束させて頂きました。私があなたに負けることは万に一つもありえませんが、暴れて怪我でもされたら困りますので」
エスメラルダの言葉通り、シャルルはベッドに拘束されていた。
オーガであるシャルルの膂力でも壊せないように、鋼鉄の分厚い腕輪が、床に打ち込まれた太い杭に、これまた太い鎖で繋がっていた。
(これを壊すのは無理だろうな……それに、壊せたとして……)
意識を失う前のことを思い出したシャルルは、エスメラルダに手も足も出ずに敗北したことも思い出していた。
「…………何が目的だ?」
「ご協力感謝します、シャルロット姫。あなたには聖剣を使って倒して頂きたい方々がいるのです」
「聖剣を使って?」
(マヤたちは聖剣を入手しそこねたのだろうか? それに、聖剣を使って斃さなければならない者というのは一体――)
「そうです。聖剣を持ったオーガの王族でないと倒せない存在――原初の魔王ルーシェ様とマルコス様を、シャルロット姫には殺していただきます」
「原初の魔王を、殺す、だと?」
エスメラルダが言っていることがにわかには信じられず、シャルルはオウム返しに質問してしまう。
「その通りです」
「待ってくれ、そんなことが可能なのか? 原初の魔王といえば、世界の法則が人の形をとっているような連中だろう?」
魔王ルーシェは世界の記憶。
魔王マルコスは時間の守り人。
魔王セシリオは空間の管理者。
原初の魔王とはそれぞれに任せられた能力を持って世界を保っている存在、それがシャルルの認識だった。
「その通りです。しかしながら、我が主が言うには、原初の魔王も不死身などではないそうですよ」
「だから殺せるって言いたいのか? 不死身じゃないのと殺せるのは別問題だろう。いくら伝説の聖剣があるとはいえ、私に原初の魔王が殺せるとは思えん」
「普通はそういう反応でしょうね。今はそれで構いません」
エスメラルダは踵を返して部屋を出ていこうとする。
「そうでした、食事がベッドの横のデーブルに用意してあります。やった私が言うのもなんですが、相当ダメージを負っていたようですので、傷は治しておきましたが体力は消耗しているはずです。毒など入れておりませんので、しっかり食べてよくお休み下さい」
振り返ってそれだけ告げると、エスメラルダはそのまま部屋を出ていった。
「この状況で毒が入ってないなんて言われてもな……」
腕ずくで拉致されて拘束された状態で、用意された食事を無警戒で食べるほど、シャルルの頭の中はお花畑ではない。
むしろ、一人で冒険者をやっていた期間が長いシャルルは、こういう場合の警戒心は強いほうだと思っている。
ぐきゅるるるぅぅ…………。
食べるか食べまいか迷っていたところで、シャルルのお腹が大きな音を立てる。
エスメラルダの言う通り、体力を消耗しているのか、シャルルは急速に空腹を感じ始めた。
「背に腹は代えられない、か。それに、エスメラルダの話が本当なら、私を殺すわけにはいかないはずだ」
シャルルは誰もいない部屋で、誰にかも分からない言い訳の言葉を口にしてから、用意された食事に手を付け始めた。
***
「なるほど、だいたいルースから聞いてたとおりだね」
屋敷に帰ってきたマヤは、ルースの案内でエスメラルダにやられて倒れていたファムランド達を治癒魔法で回復させ、屋敷のベッドで休ませ、目を覚ました者から順に事情を聞いていた。
「すみません、私……ファムランドさんが殺されてしまうかもしれないって思ったら……っっ!」
マヤは両手で顔を覆って泣き始めたレオノルの肩に手をおいた。
「いいっていいって、気にしないでレオノルさん。出会って日の浅いオーガと、大切な旦那さんだったら、旦那さんを優先して当然だよ」
「陛下…………本当に申し訳ございませんでした。それから、その……ありがとうございます。私、陛下が陛下で良かったです」
「もう、レオノルさんは大げさだなあ」
マヤの手を取って見つめてくるレオノルに、マヤは苦笑する。
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