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第6巻第4章 セシリオの狙い

龍帝ドラグ

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「よく来たな魔王マヤ」

 龍帝に謁見したマヤは、荘厳な空間に似つかわしくない軽さで片手を上げる。

「こんにちは龍帝さん」

「…………助けてもらった手前あまり強く言えんが、もうちょっと敬意を払おうとは思わんのか?」

「うーん、確かに龍帝さんからはルーシェとかと同じレベルの迫力を感じるけど、その見た目じゃねえ?」

 マヤは龍帝の、どう見ても幼女にしか見えない姿を指さしてふっと鼻で笑う。

「なっ!? マヤ貴様! 私のことを鼻で笑ったな! 許さんぞ!」

「許さないとどうするの~? 命の恩人を殺すのかな? 龍帝さんって、そんな不義理なことをする人だったのかな?」

「うぐっ……」

 涙目でぷるぷる震える龍帝を見て、マヤはニヤニヤする。

 青という人間や亜人には滅多にいない色の髪をお尻にかかるまで伸ばし、額に小さな角を生やしている点以外はただの幼女でしかない龍帝が、涙目で見上げる姿に、マヤは思わず嗜虐心を刺激されていた。

「ねえ龍帝さん、ううん、龍帝ちゃん、どうなのかな? ねえ、私のこと――あでっ!」

 龍帝の顎を持ち上げて追い打ちをかけ始めたマヤの頭を、後ろからオリガが小突いた。

「もう、マヤさん、そういうの良くないですよ。すみません龍帝様、うちのマヤさんが……」

「ううっ、オリガお姉ちゃん……」

「ええっ!? お姉ちゃん、ですか?」

 助けてくれたオリガの足にしがみつく龍帝に、オリガは戸惑う。

 しかしよく見るとオリガの口角は少し上がっていた。

 小さい子に頼られて嬉しいのかもしれない。

「はあ、ドラグちゃん、お客様の足にすがりついたら迷惑でしょ?」

「ミルズ~!」

 呆れたため息とともに謁見の間にやってきたミルズを見るやいなや、龍帝はミルズの後ろに隠れてしまう。

「えーっと、ミルズさん、これは一体?」

「すみません。龍帝様は魔力を使いすぎると子供になってしまうんですよ」

「じゃあ私があった時点で魔力を使いすぎてたってこと?」

 龍帝はマヤがおそらくエスメラルダの仕業と思われる立方体から救出した時点で今の幼い姿だった。

「そうです。あの立方体を壊そうとしたんでしょうね」

「なるほど。でも、いくらなんでも子供になりすぎじゃない? 中身まで子供になってる気がするんだけど……」

「いえ、内面は身体が大きいときもこのままです」

「ミルズ!? それは内緒にしてって……」

「隠しても仕方ないでしょう。それとも、身体が大きくなったらマヤさんに強気に出れるんですか?」

「それは……わからないけど……」

「じゃあもう白状しちゃいましょう。その方が楽ですよ」

「ううっ…………わかった……」

「いい子ですね、ドラグちゃんは」

 ミルズは龍帝の頭を撫でる。

「えへへ、そうかな?」

「ええ、いい子です」

 ミルズは龍帝の頭を撫でる。

 その光景を見ていると、どちらが主か分からなかった。

「それで、龍帝さんはなんで私を呼んだのかな? あ、ドラグちゃんって呼んだほうがいい?」

「そうだった。マヤを呼んだのはこれを渡すためだったんだ。それと、これからも龍帝でいい」

「わかったよドラグちゃん。ってこれ、エスメラルダさんが持って行っちゃった聖剣じゃん」

 マヤは龍帝ドラグが取り出した剣を見て目を丸くする。

 それはエスメラルダが持ち去ってしまった聖剣そのものだったのだ。

 ドラグが「まさかミルズ以外からドラグちゃんと呼ばれる日が来るとは……」などと呟いていた気がしたが、マヤはそれどころではない。

「ドラグちゃん、なんで聖剣がここにあるの? まさかエスメラルダさんが持っていったのは偽物なの?」

「いや、そのエスメラルダとかいうメイドがファズを殺して奪っていった聖剣は本物だ」

「え? じゃあこっちが偽物?」

「いや、この聖剣は本物だ」

「んん~? どういうこと? 奪われたのも本物で、ここにあるもの本物なの?」

「そういうことだな」

「じゃあなにさ、聖剣は2本あったってこと?」

「それは正確な表現ではない。聖剣は2本で1つなのだ」

「2本で1つ?」

「そうだ。オーガの王族に伝わっていた聖剣は、両手に1本ずつ剣を持ち、2本の剣による高速斬撃で敵を圧倒するものだからな」

「それで2つで1つってわけか」

「そういうことだ。だからエスメラルダとかいうメイドが奪っていった一振りだけあってもこの聖剣は真価を発揮しない」

「じゃあまだ聖剣を奪われたわけじゃないってことだね」

「そうですね。龍帝様、この聖剣は私たちが頂いても良いのですか?」

「構わん。それがあっても狙われる理由が増えるだけだしな」

「それじゃありがたくもらっていくね」

 マヤは聖剣を収納袋にしまう。

「それじゃあ私たちは帰るよ。シャルルさんも心配だしね」

「心配、ということは、そのシャルルというのがオーガの王族か」

「うん。エメリンさんがいるから大丈夫だとは思うけど」

「そうか。それではな、マヤ。今回は世話になった」

「うん、またねドラグちゃん。今度は大人なドラグお姉さんにも会いたいなあ……」

「お前なあ……」

 仮にも私は龍帝だぞ……と呆れるドラグにひらひらと手を振って、マヤは謁見の間を後にしたのだった。
 
***

「遠足?」

「はい、明日朝から夕方までなのですが……」

 シャルルは学校で子どもたちに剣術を教えながらエメリンと明日の予定を話し合っていた。

「ほっ、それっ、甘い甘い~。それで、遠足とは何だ?」

 シャルルは3人の少年が次々に繰り出す剣撃をかわしいなし受け止めながら、エメリンに尋ねる。

「私も初めて聞いたのですが、どうやら学校では年の1回遠足という行事を行って、普段の授業では学べないことを、学校の外に行って学ぶらしいんです」

「学校の外で学ぶ、か。それはマヤが言っていたのか?」

 シャルルはエメリンと話しながらも「今のは鋭かったぞ、いい感じだ」などと剣術も指導も忘れない。

「そうです。それで前々から予定していた遠足が明日、というわけです」

「なるほど。行ってくればいいんじゃないか?」

「いいんですか? 私は一応マヤさんがいない間のあなたの護衛なんですよ?」

「半日くらいエリーに守って貰わなくても大丈夫だよ。それに、、子どもたちもその遠足ってのを楽しみにしてるんだろう?」

「はい、それはもう随分前から」

「じゃあ行ってあげないと。私のことは気にしなくていい。もし襲われたとしても半日くらいなら自力で逃げ続けることもできる」

「そうですか…………わかりましたシャルルさんがそう言うなら」

 こうして、明日の朝から夕方までエメリンはキサラギ亜人王国から離れることが決定したのだった。
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