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第6巻第3章 聖剣争奪戦

聖剣の力?

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「見つけた……」

 マヤたちがファズのところへ向かうことを決めたころ、ファズはようやくお目当ての物を見つけた。

「これがあれば、私が龍帝様を殺し、この世界の頂点に立てるっ!」

 ファズは大会の優勝者に渡されるはずだった聖剣を手に取り、興奮した表情でそれを掲げる。

 魔王セシリオの言うことが正しければ、これには龍帝をも滅ぼす力があるという。

 今までこの聖剣がファズに手元にあったことも何度かあったが、まさかただの装飾品だと思っていたこの剣に、それほどの力があるとは驚きである。

「しかし、いくら原初の魔王の言うことでも、手放しで信じるのは危険かもしれません」

 ファズは聖剣を構えると、試しに何度か振ってみる。

 残念ながら、それだけでは何も分からなかった。

「誰か敵がいないと駄目なのでしょうかね?」

 ファズはあたりを見回すが、ファズの他にはステラとオスカーの姿しかない。

「そうですね、オスカーさん、ステラさんを開放いたしましょう」

「本当ですか?」

「ええ、本当ですとも」

 ファズがぱちんと指を鳴らすと、オスカーの前でドラゴンに乗っていたステラの首から力が抜け、がくんっと下を向いた。

「ステラ! 大丈夫かい、ステラ!」

「安心して下さい。私が無理やり精神を操っていた反動で意識を失っているだけです」

「良かった……」

 安堵したオスカーに、ファズが邪悪な笑みを浮かべる。

「さて、これを持って私たちの契約は終了しました。そうですよね?」

「…………何が言いたいんですか?」

「いえ、ただの確認ですよ。あなたは私がステラさんを開放するでの間言うことを聞く、私はあなたが私の言うことを聞いている限りステラさんには危害を加えない。そういう約束でしたよね?」

「そうでしたね。それが一体どうしたというのです?」

 ファズの質問の意図を測りかねるオスカーに、ファズは酷薄な笑みを浮かべる。

「つまり、もうあなた達を傷つけてはいけない道理はないということですよ」

 ファズはステラとオスカーが乗るドラゴンに視線を向ける。

 ドラゴンの頂点に君臨する四皇に視線を向けられ、その意図を一瞬で理解したドラゴンは、突然暴れ出した。

「うおっ!?」

 オスカーは意識を失っているステラを抱え、暴れるドラゴンの背からなんとか地面に着地する。

「さあオスカーさん、私を楽しませて下さい。でないと、大事な大事なステラさんを殺してしまいますよ?」

「外道ですね」

 にらみつけるオスカーに、ファズは口角をあげる。

「外道で結構」  

 ファズは聖剣を構える。

 普段剣を使うことはないファズだが、別に剣が使えないわけではない。

 達人とは言えないが、そこらの人間の騎士よりは剣の腕があると自負している。

「逃げることは……できそうにないですね」

 素早く後ろを振り返ったオスカーは、先ほどまで自分たちが乗っていたドラゴンが退路を塞いでいるのを確認した。

「さあ、いきますよっ!」

 ファズは一息で間合いを詰めると、聖剣を振りかぶってオスカーへと迫る。

 単調な動きだったが、四皇と呼ばれる最強格のドラゴンの身体能力故に、わかっていても避けられる動きではなかった。

 オスカーは回避を諦めて、防御魔法を発動させる。

(一点集中でいけばなんとかなるかもしません)

 オスカーはファズの剣が当たるごくごく狭い範囲で防御魔法を発動し、そこにありったけの魔力を込める。

「ほう、なかなかやりますね」

 結果としてファズの剣を止めてみせたオスカーに、ファズは感嘆の声を漏らす。

「しかし、それだけです」

「がはっ……」

 ファズが一瞬のうちに数度剣を閃かせると、オスカーの体のあらゆるところから血飛沫が上がった。

「さて、これでおしまいですか? 起き上がらないなら、あなたの大事なステラさんを殺してしまいますよ?」

 聖剣の切っ先がステラの白い首をわずかに切り、真っ赤な線が流れる。

「ファズっっ!」

 オスカーは立ち上がると、ファズに向けて魔法を放とうとする。

 しかし、先ほど斬りつけられてすでに満身創痍なオスカーの魔法は、ファズへと届くことはなかった。

「遅すぎます。まあ、試し斬りにはなりましたけど」

 オスカーの魔法が発動する前に、ファズは一瞬で近づきオスカーを大きく袈裟に斬った。

 オスカーは呻くことすらできずにその場に倒れ込む。

 倒れたオスカーを中心に、その周りには大きな赤い円が描かれていく。

「さて、本当にステラさんを殺してもいいですが……」

 ファズは手を止めると、1つの方向をじっと見つめ始める。

 その数瞬後、ファズが見ていた方向から白い髪の少女を先頭にした一団が飛び出して来た。

***

「オスカーさん! オリガ、オスカーさんの治療を!」

「わかりました!」

 ファズのところに到着したマヤは、地面に倒れているステラ、血溜まりに沈むオスカー、そして真っ赤に染まった聖剣を持つファズを見て、おおよその状況を理解した。

「聞くまでもなく、あなたがやったんだよね、ファズさん」

「いかにも。これの力を試したかったからな、試し斬りさせてもらった」

「へえ、なかなかのクズじゃん」

「なんとでも言え。どうせお前らも私の試し斬りの相手に過ぎないのだからな」

「ふうん、凄い自信だね。私、自分で言うのもなんだけど、かなり強いよ?」

「だからどうした? いいか、お前らと私ではもう次元が違うのだよ」

 ファズは聖剣を構えてマヤへと挑発的な視線を向ける。

「それじゃあ試してみようかな」

 マヤは自分に強化魔法をかけると、一歩でファズまでの距離を詰める。

(へえ、これに反応できるんだ)

 そのまま踏み込んで抜刀とともに斬りつけたマヤの攻撃を、ファズは聖剣で受け止めていた。

「この程度であそこまで自信満々だったとは笑わせる」

 ファズは力任せに聖剣を振り抜くと、そのまま斜めに斬り上げてくる。

「甘い甘い」

 マヤはそれを剣の腹で受けて流し、逆にファズへ斬撃へと繋げる。

 それから数合のやり取りを経て、ファズはやや息が上がっており、マヤは全く持って涼しい顔で再び間合いを取った。

「なぜ……だ……はあはあ…………なぜ……はあ……なぜ、私の攻撃が、通らない…………はあはあ」

「まあ、単純に技量の差だよ。あなたに速さと鋭さくらいなら私でも見えるし、見えるなら対処できる。そうなったら最後に物を言うのは技量だよ」

「…………なはずはないっ……」

「ん?」

「そんなはずはないっ! これさえあれば、私は最強なんだっっ!」

 吠えたファズは、そのままマヤへと突っ込んできた――。
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