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第6巻第3章 聖剣争奪戦

エスメラルダVSカーリ

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 エスメラルダは飛び退ってカーリと距離を取り、油断なくカーリを観察していた。

(ここからが本番だな……)

 カーリはエスメラルダが本気になったことを感じ取った。

 ここまでも手を抜いていたということはないのだろうが、今の攻防でカーリの実力を認識し、エスメラルダはそれをねじ伏せようとしてくるだろう。

「どうだ、ここは見逃してはくれんだろうか」

 カーリは望み薄だとはわかっていながらも、エスメラルダに交渉をお持ちかけてみる。

「おや、剣聖カーリは好戦的だと聞いておりましたが、逃げるのですか? それとも、伝承が誤っているのでしょうか?」

「伝承に間違いはない。我は確かに好戦的だとも。強者との戦いが何よりの喜びだからな。しかし、今はオリガもいる、この身体もカーサからの借り物だ。こんな状況で、死ぬかもしれない相手と戦うほど、我は戦闘狂ではない」

「そうですか。しかし、申し訳ありません。あなたはともかく、爆発の謎を解いてしまいそうなオリガさん見逃すわけにはいきませんので」

「まあそうだろうな。仕方ない、オリガ、もし私が負けたらなんとか逃げてくれ」

「カーリさんっ!?」

 死を覚悟したカーリの言葉に驚くオリガに笑みを向けると、カーリは再びエスメラルダへと距離を詰める。

「今度は容赦しません」

 疾走するカーリへと先ほどの倍以上の斬撃が矢継ぎ早に迫り、カーリは避けるだけでは対処しきれなくなり、剣でナイフを弾きながらなんとか距離を詰める。

 剣の間合いに入ったカーリが踏み込みと、エスメラルダが少し後ずさりした。

(どこからか自分の斬撃が来るとわかっていれば――)

 カーリはエスメラルダの能力で自分の斬撃が返って来ることがわかっていながら、再びエスメラルダへ斬りつけた。

(――かわすことはそう難しくないっ!)

 今度は背後から袈裟に斬る形で迫った斬撃を半身でかわしながら、カーリはエスメラルダを観察する。

「返ってくるとわかっていて斬り掛かってくるとは、何がしたいんです?」

「そんな強力な能力だ。そう何度も使えないのではないかと思ってな」

 カーリは回数数制限付きの能力なのではないかと睨んでエスメラルダに攻撃を続ける。

 ――というふりをして、エスメラルダの動きをひたすら観察した。

(奴の周囲の一定範囲があの空間を繋ぐ能力の効果範囲なのは間違いない。だが、やつを中心にして一定範囲に発動されている能力なのだとしたら、なぜ我が踏み込むと奴は後ずさりする?)

 カーリが切っ先でエスメラルダを捉えようとした時、エスメラルダは後退りなどしない。

 しかし、カーリが踏み込み、剣の上の方から中程までのあたりで捉えようとすると、エスメラルダは後退りするのだ。

 しかし、それになんの意味があるのかは、まだわからない。

 カーリは卓越した技術でエスメラルダのナイフによる攻撃をかわし、返ってくる自分の剣をかわし、エスメラルダの動きを観察し続ける。

(それに、得物がナイフなのも気がかりだ。間合いが関係ないから、と奴は言っていたが、本当にそれだけか?)

 エスメラルダの言っていることは別におかしくはないのだ。

 エスメラルダの言う通り、空間を越えて攻撃できるエスメラルダに、得物の長さによる間合いの恩恵はほぼないと言っていい。

 しかしながら、それなら別に長くてもいいはずなのだ。

 わざわざナイフのような小さくて間合いの狭い得物でなくても……。

 そこまで考えて、カーリは1つの仮説にたどり着いた。

(小さい? 小さいことが重要なのか?)

 早速その仮説を検証するために、カーリはエスメラルダに踏み込んで距離を詰めてから斬り掛かろうとする。

 今までの攻防と同じく後ずさって少し距離を取ろうとするエスメラルダへ、カーリが剣を止めてもう一歩踏み出した。

「…………っ!?」

 完全に剣を放つ直前まで動作を進めてからの中断に、エスメラルダは反応が遅れてしまう。

「ほう、ナイフで受けることもできるのか」

 カーリの放った斬撃は、空間を越えてカーリに迫ることはなく、エスメラルダのナイフに受け止められていた。

「ええ、当然です。あてが外れて残念ですか?」

「まさか」

 エスメラルダはカーリの剣を大きく弾くと、華麗な身のこなしで再び距離を取ろうとする。

 カーリはすかさず追いかけ、今度はまた切っ先で捉えるように剣が届くギリギリのところから斬撃を放つ。

「よ、っと」

(今度は剣の先が空間を越えて返ってきた……なるほど、だいたいわかってきたな)

 おそらくだが、エスメラルダの空間を繋げる力で繋げた先に飛ばすことができるのは、一定の大きさ以下のものなのだろう。

 具体的には、エスメラルダが持っているナイフよりも少し大きいくらいが、飛ばせる限界のようだ。

 だからこそエスメラルダは、後ずさりカーリの剣全体ではなく切っ先だけを範囲に入れることで、カーリに剣を返していたのだ。

「流石の身のこなしですが、残念ながら私の能力に回数制限なんてありませんよ?」

「それはそうだろうな」

 諦めさせようと思って教えた内容に、特に衝撃を受けたようでもない様子で返すカーリに、エスメラルダは眉をひそめる。

「どういうことでしょう」

「いやなに、お前の能力についてな、実を言えば最初から回数制限なんてものはない、あるいはあるとしても無視できるくらいの回数できるものだと思っていたのだ」

「では、何が目的だったのです?」

「お前の観察だ。そして、それは終わった」

 カーリは剣を構えると、エスメラルダへ深く踏み込んで斬り掛かる。

「ちっ!」

 エスメラルダはナイフでカーリの剣を受け止める。

「お前の能力には、回数制限はないが、大きさの制限がある、そうだろう?」

「さて、どうでしょう?」

 エスメラルダは肯定こそしなかったが、否定もしなかった。

 しかしそれは、この状況と合わせれば肯定したも同然だった。

「お前が認めるかはどうでも良いが、種が割れればこちらのものだ」

 カーリは言うやいなや間断なく深い斬撃をエスメラルダへと放っていく。

 ナイフで応じるしかなくなったエスメラルダは防戦一方だった。

「くっ……仕方ありません」

 エスメラルダはカーリの斬撃をギリギリでさばきながら、胸元から瓶を取り出して地面に落とす。

 薄い瓶は高い音を立てて割れ、エスメラルダの足元に魔法陣が浮かんだ。

「何をした!?」

 カーリは直感的に危険を感じて大きく飛び退る。

「今回は私の負けです、剣聖カーリ。また機会がありましたら」

 エスメラルダはその言葉を言い終えると同時に、地面へと落ちていったのだった。
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