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第6巻第3章 聖剣争奪戦

拘束空間

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「十の剣、七の型、剥~薄羽~」

 マヤは静かにつぶやくと、高速の斬撃を立方体へと放った。

 一瞬の間に複数回放たれたその斬撃は、立方体の表面を長方形に切り取る。

「なあマヤ、さっきの決勝戦でも使っていたが、その十の剣、なんとかというのは何だ?」

「そういえば、マッシュには説明してなかったっけ? これは、私がウォーレンさんに手伝ってもらって作った剣の型だよ」

 マヤの言葉に、ウォーレンも頷いた。

「マヤがなにか技がほしいというのでな、手伝ってやったんだ」

「だからいちいち技名を宣言して使っているということか」

 マッシュは戦闘の真っ最中でも長い技名をマヤがつぶやいていた理由に得心がいった。

「あー、それは、まあ……実はそれだけが理由じゃないんだけど」

 そういうことか、と頷くマッシュに、マヤは苦笑して後頭部をかいた。

「どういうことだ?」

「あれは、かっこいいかなあ、って思ったのももちろんあるんだけど、この技を使うための準備でもあるんだよね」

 技を発動するために毎回行う決まった予備動作、いわゆるルーティンというやつだ。

「つまり、技名を言わないと技が使えないということか?」

「そういうこと」

「それはあまり実戦向きではない気がするが……」

「まあ確かに。だから今まであんまり使ってなかったんだよね」

 マッシュの指摘にマヤは頷く。

 どうやらマヤ自身も十の剣が実戦的ではないことはわかっているようだ。

「それより2人とも、結局立方体はどうなったんだ?」

 ウォーレンに言われてマヤとマッシュは慌てて立方体に視線を戻した。

「薄羽は斬った物の表面をめちゃくちゃ浅く切り裂く技だから、仮に中に人がいたとしても無事だと思うんだけど……」

 マヤが長方形に切り取った部分を押してみると、その部分が長方形の内側に倒れた。

「おおっ! 俺が殴ってもなんともならなかったのに、流石だな、マヤ」

「えへへ~、それほどもあるけど?」

 マヤはドヤ顔で切り取った長方形を持ち上げて外に出すと、立方体の中に入っていく。

「おいマヤ、大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫。一応強化魔法は使ってるし」

 心配するマッシュの声を軽く流し、マヤは薄暗い立方体の中で目を凝らす。

「ん? ミルズさん?」

 立方体の内側には、ミルズが倒れていた。

 マヤは立方体の外に顔だけ出してマッシュとウォーレンを立方体の中に呼ぶ。

「これは、ミルズ殿だな」

「どうしてこんなところで倒れているんだ?」

「さあ? でも息はあるみたいだし、とりあえず起こしてみようか」

 マヤは倒れているミルズに近づくと、その脇にしゃがみ込み、その肩を揺する。

「んんっ…………ここは……」

「起きた?」

「マヤさん…………そうだっ! 決勝戦は……っ!?」

「一旦中断したよ。だってそこらじゅうで爆発が起こってそれどこじゃなかったし」

「爆発…………そうでした、それで私は民を守って……」

 ぽつりぽつりとミルズが話した内容をまとめると、爆発の瞬間とっさにミルズは自分の村の民をかばうために力を使い、そのまま力を使い果たして意識を失ったらしい。

 そして気がついたらこの立方体の中にいたということらしかった。

「じゃあこれはミルズさんの魔法とか能力とかそういうのじゃないんだ」

「ええ、こんなの魔法は使えませんし、こんなものを発生させる能力も私にはありません」

「ふむ……ミルズ殿、この立方体に見覚えもないのか?」

「ないですね。少なくとも私たちドラゴン固有の魔法にこんなものを生み出す魔法はありません」

「じゃあ一体何なんだろう?」

「わからんな。これをやった人物は何がしたかったのだ?」

「ね、何がしたかったんだろう?」

 マヤたちが3人ともこの立方体の意味が分からず頭を悩ませていると、ミルズがおずおずと手を上げた。

 いつもは悠然と、そしてどこか超然としているミルズらしくない弱々しい仕草に、マヤはミルズが本当に弱っているのだと分かった。

「その……ひとまず避難場所に行きませんか? 私の民が無事か心配で……」

「そうだね、そうしようか。ここにいても私たちじゃこの立方体のことはこれ以上何もわかりそうにないし」

 ミルズの提案に乗って、ひとまず避難所に向かうことにした。

 立方体については、後でオリガに見て貰えば何かわかるだろう。

(爆発の範囲も四角かったし……何か関係あるんだろうけど……)

 マヤたちは爆発と目の前に立方体の関係に直感的な不安を感じつつも、力を使い果たして足元がおぼつかないのミルズを介抱しながら避難場所へ向かったのだった。

***

「やっぱり変な形ですね」

 オリガは再びやってきた爆発現場を見て思わず呟いた。

「なんか、四角い、まま、爆発が、広がった、みたい?」

「ええ、そういう感じですね」

「これって、何となく、結界? の、魔法に、似てる、気が、する?」

「結界、ですか?」

 言われて改めて爆発現場を見てみると、確かに爆発現場は大きな結界の中で爆発が起きたような……。

「もしかしてっ!」

 オリガは自分が使える結界の魔法のうち、結界の形が立方体のものを頭の中で洗い出す。

(一番簡単な六界キューブテリトリーなら私でも大きさを変えられる……この中で爆発デトネーションを発動して、それを一気に広げれば……)

 おそらく推測に過ぎないが、それなら立方体の範囲に爆発を発生させることが可能だ。

六界キューブテリトリー! 爆発デトネーション!」

「オリガさん?」

「カーサさん、今から爆発を起こすので巻き込まれないように私のそばにいて下さい」

「え? うん、わかった、けど……」

 カーサはよく分からないままオリガの隣に移動する。

「行きますよっ!」

「これ、はっ!?」

 カーサの目の前で爆炎を閉じ込めた立方体が広がっていき、ある地点でそれが一気に開放され、爆炎と衝撃波が辺りに広がった。

「そうです、おそらく、今回の爆発はこうやって起こされたんだと思います」

 どうして面倒なことを、と思ったオリガだったが、やってみてその理由が分かった。

 爆発デトネーション六界キューブテリトリーの中に押し込めることで、開放までにたくさんのエネルギーを込めることができるのだ。

 時間をかけて六界キューブテリトリーの中に何度も何度も爆発デトネーションを発動しておけば、瞬間的にたくさんの魔力を使えない者でも大きな爆発を起こすことができる。

「でも、それだと、なんで、オリガさんが、気が、付かな、かったん、だろう、ね?」

「そこがわからないんですよね~……」

 どれだけ六界キューブテリトリーを小さくしてあっても、結界魔法が不自然に設置されていれば、オリガが気が付かないということはまずない。

「たったこれだけの痕跡から、爆発の原理までたどり着くとは、流石は伝説の副官エメリン様の娘といったところでしょうか」

 言葉に合わせて拍手をしながら表れたその人物にオリガとカーサは勢いよく振り返る。

(あれはやばいぞ?)

 その人物を見て、カーサの頭の中でカーリがそう呟いた。
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