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第6巻第3章 聖剣争奪戦

爆発の原因

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「爆弾を持ち込んだ人は見つかった?」

 捜索を始めて1時間が経った頃、観客が避難して誰もいなくなった会場で、マヤたちは集まっていた。

「いえ、それらしい人物は……」

「マヤさん、爆弾を、持ち、込んだ、人は、もう、爆弾を、持ってない、はず、だよね? どう、やって、探せば、いい?」

「あっ……」

 マヤの頬を冷や汗が伝う。

 言われてみればその通りである。

 どこの世界に、見るからに「爆弾を仕掛けます」といった格好で爆弾を仕掛けるやつがいると言うのだ。

「まあ、マヤだからそこら辺を深く考えていないのはわかっていたがな。私は火薬の臭いがするやつがいないか確認していたが、見当たらなかった」

「さすがマッシュ! でも、私だからって深く考えてないっていうのはちょっと酷いんじゃないかな?」

「事実だろう?」

「ぐぬっ……そうかもだけど……」

「まあまあ、今はそれどころじゃないですよ。私は爆発の痕跡からどんな爆弾だったか調べようと思ったんですが、そこでちょっと変なものを見つけました」

 オリガは投影プロジェクションで壁に爆発が起きた場所の風景を映し出す。

「これの何が変なの?」

 マヤは映し出された映像を見て首を傾げる。

 マヤの目にはただの焦げてえぐれた壁にしか見えなかった。

「爆発の範囲が角ばっている、のか? これは」

「流石ですお兄ちゃん。お兄ちゃんの言う通り、今回の爆発はなぜだか爆発の中心が角ばっているんです」

 爆発は基本的に、発生の中心から放射状に広がっていき、その結果爆発の範囲は球形になるはずだ。

 しかし、ウォーレンとオリガの言う通り、今回に爆発は不自然に四角かった。

 改めてよく見てみると、どうやら爆発の範囲は立方体になっているようだ。

「どうしてこんな不自然な爆発を?」

「わかりません。でも、こんな変な爆発をしているということは……」

「爆弾じゃなくて魔法なんじゃないか、ってことか」

 マヤの言葉に、オリガは頷く。

 しかしながらそうなると何らかの方法でオリガの目を欺いたということになる。

 魔法の技量だけなら魔王に匹敵するオリガの目を欺くなど、そんなことができるのはオリガの母親を除けば、原初の魔王くらい……。

「…………っ!?」

(まさか本当に原初の魔王が……? でも、それだとしたら一体誰が……ルーシェじゃないだろうし、セシリオさん……は正直良くわからないけど、わからないから違うともいえない……けど、ここにはオーガの王族に伝わる聖剣があるんだから、一番可能性が高そうなのはマルコスさん?)

「どうしました、マヤさん?」

「へっ!? あっ、いや、何でもないよ。それにしても、普通に爆発させなかったことになにか理由があるのかな? これがオリガの目を欺けた理由とか?」

 マヤは思考の海に沈んでいた意識を引っ張り上げると、慌てて爆発の推測を話して取り繕った。

(まさか、ね? マルコスさんがこんなことしない、よね?)

 突然過去に飛ばされた経験があるマヤとしては、無いとは言い切れないのが辛いところだが、ひとまず今はその可能性は胸の中にしまっておくことにする。

 まだそうと決まったわけではない最悪の推測を伝えていたずらにみんなを怖がらせる必要もないだろう。

「その可能性はありますね。私もこんな爆発に仕方は知りませんし。龍の民に伝わる特殊な魔法かなにかでしょうか?」

「そうかもね。とりあえず、オリガはその爆発跡をもうちょっと詳しく調べてくれるかな」

「わかりました」

「カーサ、念のためオリガを護衛してくれるかな」

「オリガ、さんを? いいけど……必要、ない、と、思う、よ?」

「うん、そうなんだけど一応ね」

「わかった」

「うん、お願いね。私たちはそうだな……とりあえずミルズさんのところに行ってくるよ。なにか知ってるかもしれないし」

「そうだな、ダンカン達もミルズ殿のところにいるだろうから、まずはそうするのがいいだろう」

「じゃあ決まりだね。それじゃオリガ、かーさ、そっちはお願い」

***

「ここら辺にいるはずなんだけど」

 マヤたちは崩れてしまって場所がよくわからなくなっている観客席を移動して、おそらくミルズたちがいたであろう場所にやってきていた。
 
「こうも崩れていてはな……」

 ウォーレンは瓦礫をどかして誰かいないか探している。

「ここも酷い有様だ。そこら中に血痕がついている」

「そうだね。ひとまず避難できてはいるみたいだけど、やっぱりミルズさん達も避難してるか」

 ミルズほどの実力者ならその場にとどまっているかもしれないと思いやってきたが、どうやら避難場所に行くのが正解だったようだ。

 マヤたちが諦めて避難場所に移動しようとした時――。

「マヤ、あそこだけなんだか不自然じゃないか?」

「ん? どこ?」

 ウォーレンの指差す方を見たマヤだったが、何が不自然なのかよく分からなかった。

「あれだあれ。なんかやたらと四角くないか?」

「うん? あー……言われてみればそうかも。大きい四角いなにかに瓦礫が乗ってる感じだね」

 ウォーレンの言う通り、その一角の瓦礫は、不自然に直角に盛り上がっており、横から見ると四角い感じがした。

「なんだろうね、あれ」

 マヤはとりあえず近づいてみると、近くの瓦礫をどかしていく。

 ウォーレンも加わり、一通り瓦礫をどけると、その中にはよくわからない立方体が鎮座していた。

「本当になに、これ?」

「何だお前たち、何を見つけたんだ?」

「マッシュ。これなんだと思う?」

「うん? 何だこの箱? のようなものは?」

「いや私が聞いてるんだけど……ってことはマッシュも知らないのか」

「知らないな。こんな大きな立方体なら一度見たら覚えているはずだ」

「だよねえ。ウォーレンさん、ちょっと殴ってみてよ」

 マヤは謎の立方体をコンコンと叩く。

 音からして硬そうではあるが、壊せないほど硬い感じもしなかった。

「大丈夫なのか、そんなことして」

「さあ? でも、いざとなったら私がなんとかするから、ちょっとやってみて」

「そういうことなら……おらっ!」

 ウォーレンは腰の入った重い拳を謎の立方体に叩き込む。

 ばごおぉぉん、という轟音が響き、その衝撃で地面の砂が巻き上がって砂煙が発生する。

 その砂煙が晴れた後には、無傷の立方体が残っていた。

「ふむ、中々頑丈だね」

 マヤが感心していると、マッシュの耳がピクピクと動いた。

「中になにか……いや、誰かいるぞ?」

「わかるのマッシュ?」

「ああ、わずかだが声が聞こえた。おそらく、ウォーレン殿の攻撃でその立方体になにかあったのだろう」

「つまり、攻撃自体は有効だったかもしれない、ってことか……それなら」

 マヤは立方体を見上げながら、腰に下げた剣に手をかけた。
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