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第6巻第2章 竜騎士闘技会

決着の瞬間に

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「行くよっ!」

 マヤは小さくつぶやくと、ドラゴンから降りて前傾姿勢で駆けていく。

 マヤの強化魔法によってもとより高い身体能力を大幅に強化されたマヤのドラゴン、ドラちゃんも、遅れずマヤの後ろについてきていた。

「ただまっすぐに来るだけじゃ、僕たちは倒せないよ」

 オスカーがステラの耳元で囁くと、マヤとドラちゃんが走っている地面が突然ぬかるんだ。

「なるほどオリガがやったのと同じか」

 マヤはぬかるみを無視して走り続けたが、そのぬかるみは思いの外深く、すぐに足が抜けなくなってしまう。

 マヤはなんとか転ばないように立ち止まったが、立っているだけでどんどんと足が沈んでいってしまっていた。

「ふむ、これはまずいね……」

「おや、もう降参ですか?」

 そんなはずはないだろう? と言外に問いかけるオスカー。

 マヤは不敵な笑みを浮かべてその予想に応える。

「まさか、まだ見せたことのない技を使わないといけないみたいだから、ちょっと考えちゃっただけだよ」

「ほう、僕たち相手に手の内隠したまま戦うつもりだったと。流石ですねマヤ様は」

「そんなんじゃないって。でも、仕方ないから見せてあげる」

 マヤは上半身の力を抜いて、腕をだらんと体に横に垂らす。

 そのままゆっくりと目を閉じたマヤに、オスカーはその行動が理解できず警戒を強める。

「何がしたいんです?」

「………………」

 マヤはオスカーの質問には答えず、脱力したまま立っている。

 その間にもマヤは少しずつぬかるみに沈んでいっているのだが、マヤは微動だにしない。

「何がしたいのか知りませんが、動かないなら今のうちに攻撃するまでです」

 オスカーがステラにささやき、追加の魔法攻撃とドラゴンによる物理攻撃を仕掛けようとする。

 ステラが魔法を発動し、ドラゴンがマヤへと近づこうとしたその瞬間――。

「十の剣、一の型、転~草薙~」

 マヤが静かに言った瞬間、マヤの周囲のぬかるみが弾け飛ぶ。

 何が起こったのかさっぱり分からなかったオスカーだったが、ステラのドラゴンは本当的に危険を察知したようで、大きく飛び退りマヤから距離を取った。

「何を!?」

「まあ一応成功、かな」

 ぬかるみがなくなった地面をゆっくりと歩いてオスカーに方へ近づいていく。

「どうやったかは知りませんが、もう一度はめてしまえば同じこと!」

 オスカーが再びステラにささやくと、マヤの足元がぬかるみ始める。

「流石に同じ手はくわないって」

 マヤは即座にぬかるみの範囲外で飛び出すと、そのまま飛んでいるドラちゃんに背に飛び乗る。

「さて、これからが本番だね」

 マヤはドラちゃんの背に仁王立ちし、オスカーとステラを見下ろした。

***

「くそっ、このままでは優勝できないではないですか!」

 ファズはマヤ相手に明らかに劣勢に立たされているステラとオスカーを見て歯噛みをする。

 しかし、悔しそうな表情を浮かべたのもつかの間すぐにその表情は笑みへと変わる。

「まあいいでしょう。こういうときのための仕掛けですからね」

 ファズが何やら呪文を唱えた瞬間それは起こった。

 会場の至るところで爆発が発生し、会場には悲鳴が満ちる。

「さあ、本当の闘技会の始まりです」

 邪悪な笑みを浮かべるファズは、会場に騒ぎを知り目に、1人姿を消したのだった。

***

「ん?」

 オスカーとステラの攻撃をドラちゃんの高速飛行でかわしていたマヤは、会場から大きな音がしたことに気がついた。

「どうしたんです?」

「いや、何か観客席の色んなところが……」

 マヤの言葉に観客席に目を向けたオスカーも、その至る所から上がっている黒煙を確認した。

「何が起こっているんです?」

「さあ? でも、いつの間にか実況も聞こえなくなってるし、何かあったのは確かっぽいけど」

 マヤはひとまずオリガたちの方を確認した。

 マヤの視線に気がついたオリガがこちらに手を振ったのを見て、マヤはひとまず胸をなでおろす。

「それでどうする、まだ続ける?」

「いや、いったん中断でいい」

「了解。それじゃ、私はオリガたちにところに行ってくるよ」

 マヤはオスカーたちにそれだけ言うと、オリガたちのところへと移動する。

「オリガ、何があった?」

「マヤさん……その、実は私もよくわからないんですけど……」

 オリガが言うには、突然会場のあちこちで爆発が起きたらしく、詳しいことはわかっていないらしい。

「ただ、これが普通の魔法によるものじゃないのは確かです。私は念にため魔法の罠なんかには常に警戒していますが、この会場にはそのたぐいの魔法は仕掛けられていませんでした」

「なるほど……それじゃあ物理的に爆弾を持った人がオリガの目を盗んで入ってきたか、オリガにもバレない方法で魔法を仕掛けてあったか、のどちらかか」

「2つ目は、ない、気が、する。オリガさんに、バレない、ように、魔法を、仕掛ける、のは、無理、だと思う」

「そうだな、そんなことをできるとしたらエメリンさんくらいだろうが、エメリンさんがこんなところでそんなことをするとは思えない」

「だね。じゃあ爆弾を持ち込んだ人を探してみようか」

 マヤの言葉に頷いた一同は、すぐに散開して怪しい人物を探し始めた。

***

「これはこれは龍帝様」

「この訳のわからん空間お前の仕業か、ファズ!」

「決めつけは良くないですよ龍帝様」

 謎の空間に囚われた龍帝に上辺だけの敬意を示しつつ、ファズはその前を素通りして目的のものを探し始める。

「何をしている! 早く私をここから出せ! さもなくば……」

「さもなくば、なんです?」

「殺す。私がそれくらいのことはやるということを、お前はよく知っているだろう?」

「ええ、知っていますとも。しかし、今のあなたはそこから出られない。そして、あなたは私を犯人だと思っている。そんな状況であなたを出すわけないでしょう? 私だって死にたくないですからね」

 ファズの言葉に、龍帝はますます激高する。

「やはりお前の仕業ではないか! 赦さん許さんぞ!」

「はあ、ですから決めつけは良くないですって言っているじゃないですか。第一、私に龍亭様を閉じ込めておけるような空間を作る力があると思いますか?」

「むっ……それは確かにそうだが……」

「でしょう? ですから私が犯人のはずはないんですよ。まあ、関係がないとも言いませんが」

 ファズは龍帝の周囲を一通り漁り終えると、踵を返した。

「それでは龍帝様、私は用がありますのでこれで」

 ファズは龍帝の怒声を背に聞き流しながら、探しものを続けるのだった。
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