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第6巻第2章 竜騎士闘技会

四皇ミルズ

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「突然背後から攻撃しておいて、私の戦いが楽しみとか、よくそんなことが言えるね?」

 マヤは女性に掴まれていた剣を引いて鞘に納めると、女性に非難の目を向ける。

「くすくす……私があなたになにかするのがわかっていて泳がせた人に言われたくありませんね」

「言ってくれるじゃん。で、あなたは何者なの? ステラさんの親戚?」

 マヤは女性の頭の角を見て、女性をステラの血縁者か何かではないかと予想した。

 ステラの親戚なら、行方不明となったステラを探してきていてもおかしくないだろう。

「魔王ステラですか? 残念ですが、私とあの魔王は無関係です」

「じゃあ何者なのさ? そんなふうに頭の横から角が生えてるのなんてステラさんくらいしか知らないんだけど?」

「まあ外ではそうでしょうね。私はミルズと申します。これでも四皇の1人なんですよ?」

「四皇? それってこのゾグラス山で龍帝の次に強い4匹のドラゴンのことでしょ? お姉さんは人型だけど?」

「高位のドラゴンは人型にもなれるんですよ。もちろん、ドラゴンの姿にもなれます」

 ミルズはそう言って背中から羽を生やし、再び肘から下だけドラゴンの腕に変化させた。

「それでさっき腕だけドラゴンだったのね」

「そういうことです。それにしても、まさか自分の代表団に顔を覚えられていなかったとは、悲しいです」

「え? ミルズさんが私達の代表なの? ねえダンカン君、そうなの……って、ダンカン君?」

 マヤが振り返ると、ダンカンは泡を吹いて倒れていた。

「ねえマッシュ、ダンカン君どうしちゃったの?」

「マヤがミルズ殿の攻撃を防いだのを見た瞬間に倒れたのだ」

「え、なんでさ」

「私に聞くな。倒れる直前「なんてことを……」と言っていたから、大方自分の村を治める四皇にマヤが剣を向けたのが相当衝撃的だった、とかそんなところじゃないか?」

「そんなこと言われても、ねえ?」

「まあ攻撃されそうになったのは事実ですし。でも、確かにここに来るまでの道中で、ダンカン君が自分たちはミルズ様の代表だ、と言ってましたから、本当なんじゃないですか」

「よく覚えてるねオリガ」

「何回も、言ってた、よ?」

「あれ、そうだっけ?」

 転生しても治らなかった生来の忘れっぽさですっかり忘れていたマヤは、恥ずかしそうに笑って後頭部をかく。

「まあいいでしょう。今年も優勝は難しいかと思っていましたが、あなた達ならあるいは……期待していますよ」

 ミルズは踵を返すと、そのままマヤたちがいる観戦席から離れていった。

「きれいな人だったな」

「え? 今なんて?」

 去りゆくミルズを見てつぶやくウォーレンに、マヤは驚いて振り返る。

「ん? だから、きれいな人だったな、って」

「…………ねえウォーレンさん? 私、この前は告白したよね?」

「ああ、そうだな」

「私の気持ち、知ってるんだよね?」

「ん? ああ、知ってるぞ…………あっ……」

 ウォーレンはそこでようやくマヤの言わんとしていることに気がついた。

「ち、違う、今のはそういう意味じゃ……」

「私のことキープしてるくせに、ミルズさんも狙ってるなんて、この浮気者おおお!」

「ぎへっ……!?」

 マヤの拳がウォーレンの腹を捉え、ウォーレンはその場でくの字になって倒れ込む。

「ふんっ!」

 マヤはそのままウォーレンをおいて次の試合に出場する選手の待機場所へと向かった。

 別にマヤとウォーレンは付き合っているわけでもないので、ウォーレンの発言一つでマヤがあそこまで怒るのも少しおかしな話かもしれない。

 しかしながら、女性が大半を占めるマヤたち一行の中に、ウォーレンをかばってくれるものはいなかった。

 ちなみに、この後行われたマヤたちの第一戦は、ウォーレンの言葉に心がもやもやしたままだったマヤの、ほとんど八つ当たりの大暴れによって、マヤたちの圧勝で終わったのだった。

***

「ふう、スッキリしたぁ!」

 マヤは試合相手を残らず倒し、晴れ晴れとした表情で観客席に戻ってきた。

「ははは……私達、することなかったですね」

「そうだな」

 結局マヤ一人の大暴れでほとんど決着がついてしまったのでやることがなかったオリガたちも、マヤに続いて観客席に戻ってくる。

 久々に現れたドラゴンライダーということで、マヤが登場した時点で会場は大盛りあがりだった。

 その上、そのドラゴンライダーがマヤのような美少女だったので、観客、特に男性客の盛り上がりは凄まじかった。

 当の本人は八つ当たり気味に大暴れしていたので、全然気がついていなかったみたいだが。

「さて、次の試合はどんな感じかなあ」

 マヤは選手に配られている対戦表を見ようと、収納袋の中をガサゴソとする。

「えーっと……これかな? いや違う……こっちか? ……でもないか……」

 マヤがあれじゃないこれじゃないと色々なものを出したり入れたりしていると、にわかに会場が騒がしくなった。

「ん? どうしたんだろ、急に」

 マヤは対戦表を探しながら、会場に流れている実況に耳を傾ける。

 第1試合の時は聞いておらず、自分たちが戦っている時はもちろん聞く余裕がなかったが、この会場には実況が流れているのだ。

『おーっと、これはなんということだ! 先ほどのミルズ様の代表に続き、こちらにもドラゴンライダーがいるぞ!』

(へえ、私たち以外にもドラゴンライダーいるんだ。なんだ、ダンカン君は伝説とか言ってたけど、そこまですごいわけじゃないんじゃん)

『しかもなんと、先ほどのドラゴンライダー同様今度も美女がドラゴンに乗っている』

 さり気なく美女だと言われマヤが喜んでいると、実況はどこかで聞いたことのあるような特徴を語り始めた。

「先ほどのマヤ選手が元気いっぱいの美少女なら、今度のドラゴンライダーは妖艶なる美女! 巻き角をのぞかせた美しい髪、抜群のプロポーションを隠そうともしないセクシーなドレス、まさに大人の色気満載です!」

「え、巻き角? セクシーなドレス?」

 マヤは対戦表を探す手を止めて顔を上げ、件のドラゴンライダーへと目を向ける。

 そこにいたのは、オスカーと2人で1匹のドラゴンにまたがるステラだった。
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