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第6巻第2章 竜騎士闘技会

ウォーレンの答え

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「わからない……」

 正直に答えて欲しい、というマヤの思いを受けて真剣に自分の気持ちを考えたウォーレンは、そう答えた。

「わからない?」

 黙考していたウォーレンがようやく口にした答えを、マヤはオウム返しにして質問する。

「ああ。ただ、はっきり言えることは、俺はマヤのことが嫌いなんてことはないし、女として見れないなんてこともない」

「じゃあ……」

 好きってことでいいの? とマヤは続けることができなかった。

 なぜなら、きっとそういうことではないのだと、申し訳無さそうに笑うウォーレンを見てわかってしまったから。

「好きかどうかはわからないんだ。確かに、マヤに近づかれて動悸が激しくなることもあったし、マヤのふとした仕草に目を惹かれたこともあった。でも…………俺にはそれが好きということなのかはわからない」

 ウォーレンの答えを聞いたマヤは、微笑みを浮かべてウォーレンから身体を離す。

「そっか…………わかった。私のことをちゃんと女の子として見てくれてるってわかっただけでも収穫、かな」

 マヤはウォーレンに背を向けると涙を拭う。

「ちゃんとした返事ができなくてすまない……」

「ホントだよっ! 女の子が頑張って告白したっていうのに、情けない返事してくれちゃって」

 マヤは意地の悪い笑みを浮かべてウォーレンの胸を指でつつく。

「すまん」

「いいよ。正直に答えてっていったのは私だもん。ウォーレンさんのことだから、ああ言わなかったら、私のこと好きかもわからない状態でオーケーしてくれちゃってたでしょ?」

「それは……わからないならマヤを傷つけたくないからな」

「やっぱり。相変わらず優しいね、ウォーレンさんは。だから好きになっちゃったんだろうけど?」

「…………っ! そんな簡単に好きだとか言わないでくれ……」

 ウォーレンはやや頬を染めてマヤから目をそらす。

「どうして?」

「なんだ、その……はずかしい、からだ……」

 珍しく歯切れの悪いウォーレンに、マヤはニヤリと笑う。

「おやおや、好きかどうかわからない女の子に好きって言われて恥ずかしいの~?」

「だからっ、そんな簡単に好きとか言うなと……っ!」

 マヤへと視線を戻したウォーレンは、マヤが耳まで真っ赤にしていることに気がついた。

「はあ、まったく……恥ずかしいならからかったりするな」

「なっ!? は、はあ!? 恥ずかしくないもん! 恥ずかしがってるのはウォーレンさんでしょ!」

「あーはいはい、分かった分かった。ほら、カーサたち戻ってくるみたいだぞ?」

 ウォーレンの言う通り、屋台で買ったらしき食べ物を両手いっぱいに抱えたカーサたちと、選手登録を終えたマッシュたちがそれぞれマヤたちの方へと歩いてきているのが見えた。
 
「本当だ!? 落ち着け~落ち着け私~」

 マヤはなんとか紅潮した顔を冷まそうとパタパタと手で顔を仰ぎながら心を落ち着かせる。

「すみませんマヤさん、カーサさんがあれもこれもと次々屋台を回るものですから……」

「オリガさん、それは、ひどい。最後は、オリガさんも、屋台に、夢中、だった。これ、とかは、オリガさんが、食べ、たいって――むぐっ」

「あはは……いやですねカーサさん。私が屋台の料理なんかに夢中になるわけないじゃないですか……ははは」

「むごっ、むごごっ、うぐっ」

 オリガに口を塞がれたカーサは何か言いたげだったが、オリガの無言の説得によってしばらくすると静かになっていた。

「マヤ、とりあえず選手登録は完了した。って、買い過ぎではないか? それは……」

 マッシュは屋台の料理を抱えているカーサとオリガを見て呆れていた。

 そんなみんなの様子を見て、マヤとウォーレンは内心安堵する。

 どうやら、誰にも2人のことは疑われていないようだ。

 まあ、周囲にはマヤとウォーレン以外は見ず知らずの人しかいなかったので、当然といえば当然だが。

 と、2人が安心していると……。

「マヤさん、ウォーレンさんと何かありましたね? 後で詳しく聞かせて下さい」

「なっ!? なんの、こと、かな?」

 オリガに耳打ちされたマヤが言葉に窮し――。

「お兄ちゃん、マヤさんと、何か、あった、よね? 後で、教えて、ね?」

「な、ななな何言ってるんだっカーサ!? 俺とマヤは別に何も……」

 カーサに耳打ちされたウォーレンが見事に墓穴をほっていた。

 どうやら普段からマヤとウォーレンの恋の行方を気にしているオリガとカーサは、2人の間の微妙な雰囲気の違いに気がついていたようだ。

 この日の夜、オリガと相部屋になったマヤと、カーサと相部屋になったウォーレンは、それぞれの部屋で根掘り葉掘り質問攻めに会うことになるのだが、それはまた別のお話。

***

「あれが竜騎士闘技なんだね!」

 開会式を終えて観客席に来ていたマヤは、すでに始まっている第一試合を見ながら興奮した様子で席から身を乗り出していた。

「危ないぞマヤ」

「大丈夫大丈夫。落ちたりしないし落ちても大丈夫だし」

「いや、そうではなくてだな……」

「マヤ、ウォーレンはお前のパンツが見えてしまいそうだと言っているんだ」

「なっ~!? ウォーレンさんの変態!」

 マヤはバッとスカートを押さえると、ウォーレンへ非難の目を向ける。

「濡れ衣だ。まだ見えていなかった」

「まだってことは見ようとしてたんじゃん!」

「あっ……いや、それは……」

「まあ許してやれマヤ。それより、なかなか面白いことになっているぞ」

 マヤがマッシュの言葉に戦いへと目を戻すと、ちょうど一方のドラゴン使いが相手のドラゴンへと魔法を放ったところだった。

「ドラゴン使いが直接攻撃するのもありなんだ」

「そのようだな。ただし、見たところ魔法攻撃はほとんど効果がないみたいだが」

「そうでしょうね。ドラゴンの魔力量は凄まじいですから」

「そうなんだ。でも、それならなんであのドラゴン使いは魔法を放ってるの?」

 マヤはさり気なく腰に下げている剣の位置を確認する。

「目眩ましくらいにはなるから、というのが現実的な答えでしょうが、建前上はそれが伝統だから、ですね」

「伝統ってことは、昔はドラゴン使いのほうがメインで戦ってたってこと?」

「そうですよ。だから、竜騎士闘技会なんです」

「なるほど、昔はドラゴン騎乗した竜騎士、つまりはドラゴンライダーが戦ってたってことか。それで、お姉さんは誰なのかな?」

 マヤは背後から迫っていた攻撃を一瞬で抜刀した剣で受け止める。

「流石は久方ぶりに現れたドラゴンライダーですね。これはあなたの戦いが楽しみです」

 手首から先をドラゴンのそれに変形させてマヤの剣を受け止めていたのは、頭に大きな角を2本はやした妙齢の女性だった。
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