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第6巻第1章 ドラゴンの住まう山

ゾグラス山へ

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「これは速いですね……」

「でしょう? 自慢の魔物たちなんだあ」

 マヤはシロちゃんたちを褒められて、大きく胸を張る。

「それで、とにかく急いだ方がいいっていうから出発したけど、そのゾグラス山っていうのは、具体的にはどんな場所なのさ」

「ゾグラス山というのは、一言で言えばドラゴンが住んでいる山です」

「ドラゴン! なにそれなにそれ! そんなのこの世界にいるんだ!」

 マヤは内なる男の子的ワクワクを抑えきれず、キラキラした目をエスメラルダに向ける。

「なんでそんなに楽しそうなんですかマヤさん」

「わかる、強者との、戦い、わくわく、する、よね」

「いやそれは違うんじゃないかと思いますけど……」

「それにしてもドラゴンか。とっくに絶滅したと思っていたが」

 マヤの前で丸まっているマッシュの言葉に、オリガも大きくうなずく。

「マッシュさんの言うとおりです。ドラゴンは絶滅した、というのが一般的な考え方だっと思いますが、そのゾグラス山というところには、ドラゴンがいるのですか?」

「ええ、いますよ。そもそもドラゴンが絶滅した、というのはゾグラス山に入ることができない人間たちの認識です。ドラゴンはすべてゾグラス山に集まりそこからでなくなったというのが正しい表現でしょう」

「なるほどね、それでそのドラゴンがいる場所に行くと、どうしてステラさんが危ないの?」

「ドラゴンは強力な種族だから、というのが理由ですが、それだけでは納得できないですよね?」

「まあね。他の人間の冒険者とかならそれでも納得できるけど、向かったのは仮にも魔王であるステラさんだし、大抵のことはどうにかできると思うんだけど」

「それはたしかにそうかもしれません。しかし、今回ばかりは魔王ステラとドラゴンは相性が悪いんですよ。なにせドラゴンには寿命がないですから」

「寿命がない? じゃあ歳をとっても死なないってこと?」

「そういうことです。そしてそれ故に、魔王ステラの天敵となる」

「どういうこと?」

「魔王ステラの得意とするのは老化魔法なんですよ。簡単に言えば、相手を一瞬で老人にして、弱体化させてから倒す、これは魔王ステラの戦い方です」

「なにその恐ろしい戦い方。絶対敵に回したくないんだけど」

「それは私も同意見です。でも、これがドラゴンには効かないんですよ。なにせ彼らには寿命がないわけですから」

「それでステラさんが危ないってことか」

 ようやっとエスメラルダが急いでいる理由がわかったマヤは、魔物たちの強化魔法を更に強める。

 マヤの魔物たちのおかげもあり、一行はエスメラルダの見立てよりもかなり早くゾグラス山へと到着した。
 
「ここがゾグラス山かあ」

 マヤは見た感じ普通の山道にしか見えない森の中を、周囲を警戒しつつ進んでいく。

 魔物たちによる広範囲の偵察に加え、オリガの魔法による探知とマッシュの耳による音での警戒もしているので、急襲されることはないだろう。

「思ったよりドラゴン出てこないね」

「なんでちょっと残念そうなんです?」

「へ? いやいや、別にそんなことはないよ? ドラゴンを生で見てみたいなあ……とか、そんなことはこれっぽちも思ってないよ?」

「絶対、ドラゴンに、会いたいって、思ってる」

「全く、お前というやつは……」

 マッシュにも呆れられ、マヤは口をとがらせて頬をふくらませる。

「何さ、みんなして……ん?」

 マヤがすねてそっぽを向いたときちょうど視界を共有していたカラスの魔物の視界の中で、少年がドラゴンと対峙しているのを見つけた。

「いた!」

「いたって、ドラゴンがですか?」

「うん。結構離れてるけど、あれは絶対ドラゴンだよ。なんか男の子が戦ってるっぽい?」

「子供がか? というより、この山に人は住んでいるのか?」

「住んでいますよ。ドラゴンを崇め、時にはドラゴンにまたがり戦うこともある、龍の民と言われる者たちが」

「龍の民! いいじゃんいいじゃっんかっこいいじゃん! 早速男の子のところに言ってみようよ」

「危なくないですか?」

「危なくない危なくない! 魔王様が守ってあげるって」

 そう言ってマヤは、ズンズンと森の中を分け入って進んでいくのだった。

***

「はあ、はあ、はあ、くっそ!」

 ドラゴンと対峙している少年は、何度もドラゴンに吹き飛ばされすっかりボロボロだった。

 少年は、先程から何度もドラゴンの背に乗っては、振り落とされるのを繰り返しているのだ。

「やっ! こんにちは、少年」

「うわああああっ!?」

 誰もいないはずの森の中、見覚えのない白い髪をした少女が突然横から顔を出してきたので、少年は驚いて飛び上がってしまう。

「おおっと、そんなに驚かなくても。別に取って食おうってわけじゃないんだしさ」

「ご、ごめんなさい……」

「いやいや、私は突然話しかけたのも悪かったからさ、謝る必要はないんだけどね。ところで少年は何をやってるのかな? なんかボロボロみたいだけど」

「ああ、実は、ドラゴンライダーの修行中なんだ」

「ドラゴンライダー! かっこいいじゃん」

「笑わないのか?」

「なんで? ドラゴンライダー、かっこいいじゃん。笑ったりしないよ」

「お姉さん……」

 笑われなかったことがよほど嬉しかったのか、少年はじっとマヤを見つめてくる。

「それで、そのドラゴンライダーって何?」

 マヤをようやくできた理解者だと思っていただけに、少年はマヤの言葉を聞いて思わず膝から崩れそうになる。

「知らないでかっこいいとか言ってたのかよ!」

「あはは……ごめんごめん。でも、ドラゴンに乗ってなにかするんでしょ? やっぱりかっこいいと思うけどなあ」

「だろ! でも、どうしても乗せてくれなくてさあ」

「なるほどねえ。誰か教えてくれる大人はいないの?」

「それは……」

 少年が言い淀んでいると、遅れていたオリガたちが追いついてきた。

「もう、早いですよマヤさん」

「わわっ、なんだなんだ!? エルフにオークに、うさぎ?」

「紹介するよ。私はマヤ。こっちは私の仲間で、うさぎのマッシュ、ダークエルフのオリガ、オークのカーサとウォーレンさん、それとよくわからないけどメイドのエスメラルダさん。みんなにも紹介するね、こちらは……えーっと、そういえば名前聞いてなかったね」

「ダンカンだ。ドラゴンライダーを目指してる」

 これがマヤたちとゾグラス山に暮らす龍の民との、最初の出会いだった。
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