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第6巻第1章 ドラゴンの住まう山

ドラゴンとステラの得意技

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 時は少し遡り、ステラがマヤのところをから帰ってきた数日後のこと。

 ステラとオスカーの姿は、ゾグラス山の山道にあった。

「はあはあはあ……結構きついわね、この山道」

「そうだね。なかなかハードだ。飛べれば楽なんだろうけど」

「そうね。どうして飛べないのかしら、全く。準備してきて正解だったわ」

 そう言いながら前を行くステラは、いつもの露出激しめのドレスワンピースではなく、上は長袖のシャツに下はカーゴパンツ、その上から着用者の魔力を使用して水と汚れを弾くように魔法が付与されている上着の上下を着ている。

 これらはすべて、人間の冒険者が山に入る時に使っている装備品だ。

 後ろを行くオスカーも同じ格好をしている。

「そうだね。それにしても、ステラは昔から本当に用意がいいね。まさか私の分まで装備品があるなんて」

「当たり前じゃない。準備してしすぎることはないわ」

「その通りだ。まあしかしなんだ、あまりにも私の体のサイズにぴったりなのは、流石というかなんというか……」

「わ、わるかったわね、オスカーの全身の寸法まで覚えてて」

「いや、嬉しい気持ちもあるんだよ? だが、流石にここまでぴったりにできるほど、私の体のことを知られていると思うと、流石に少し恥ずかしくてね」

「仕方ないじゃない、オスカーは私の理想の少年なのよ。嫌でも覚えるわ」

 後ろからなのでよく見えなかったが、オスカーはステラの耳が真っ赤になっているのを確認した。

「はははっ、素直に喜んでいいのかな、それは?」

「何よ、嫌なわけ?」

「嫌なら君と結婚なんてしてないさ。っと、ステラ」

「ええ、なにか来るわね」

 ステラたちの右方向から、何者かが急速に接近してくる気配を感じた2人は、警戒を強める。

 2人が戦いの準備を整えた瞬間、その眼の前に巨大な影が舞い降りた。

「ずいぶん大きいわね」

 余裕の言葉とは裏腹に、ステラは警戒を緩めずに眼前の巨体を見上げる。

「なるほど、これがドラゴンというものか」

 そう、2人の前に現れたそれは、ドラゴンと呼ばれる存在だった。

 見た目としては羽の生えた大きなトカゲといった感じだが、トカゲと決定的に異なるのは、ドラゴンが魔力を持っていることだ。

「私以上の魔力……まずいかもしれないわね」

「君のあれが効かないということかい?」

「さあね、それはやってみないとわからないわ。オスカー、いつもどおり行くわよ」

「了解だ」

 オスカーは持物インベントリから取り出した細剣を手にドラゴンへと向かっていく。

 瞬きほどの間に5度放たれたる刺突。

 その速度は、並の剣士では目で追うことすらできないだろう。

 しかしながら、そんなオスカーの攻撃は、すべてドラゴンの身体を覆う鱗に弾かれてしまった。

「くっ、なんて硬さだ」

「オスカー危ない!」

「おっと!」

 ステラの警告で間一髪ドラゴンの尻尾をかわしたオスカーは、ひらりと跳んでステラの隣に着地する。

「大丈夫?」

「ああ、問題ない。しかし困ったな。私の剣では傷ひとつつけられないらしい」

「そうみたいね。でも、おかげで準備はできたわ」

 ステラはドラゴンに向かって手をかざすと呪文を唱える。

老化エイジング!」

 老化エイジング、それがステラが最も得意とする魔法であり、ステラを魔王たらしめている魔法である。

 ステラが若返りを研究する過程で開発し、ステラしか使えないこの魔法は、一言で言えば相手を急速に老化させる魔法である。

 極めて単純な効果なのだが、その威力は絶大である。

 それこそ、これが使えるというだけでステラが魔王となってしまうくらいには。

 なぜなら、決まればほぼステラの勝ちだからである。

 魔法使いにも、戦士にも、剣士にも、老いには勝てない。

 そんな老いを強制的に一瞬で訪れさせる、それが老化エイジングなのである。

「どうステラ、効いてる?」

 様子の変わらないドラゴンを見ながら尋ねるオスカーに、ステラの頬を冷や汗が伝う。

「おかしいわ……もうだいぶ年を取ったはずなのに……きゃっ!」

 大人しく老化エイジングを食らっていたドラゴンが突如としてあげた咆哮に、ステラはその場で尻もちをついてしまう。

「ステラ! 一旦逃げよう!」

「ええ! えいっ!」

 ステラは持物インベントリから取り出した玉をドラゴンに向かって投げつける。

 その玉はドラゴンに当たった瞬間、煙幕をまき散らしながら弾け、強烈な臭いを放つ。

「今よオスカー」

 その言葉だけですべてを理解したオスカーは、身体強化でステラをお姫様抱っこすると、そのままの煙幕の中を駆け抜ける。

 煙幕の中にいる間に、オスカーの腕の中でステラが透過インビジブルを発動し、2人はなんとかドラゴンから逃げることができたのだった。

***

「まさかゾグラス山がここまで危険なところだったなんて……」

 ドラゴンの初戦闘から数日、ステラは拠点にしている洞窟に置いたベッドの上に大の字で寝転んだ。

「そうだね。もう戻れる気がしないよ」

 オスカーは魔法で外からは見えなくしてある洞窟の入り口から外を眺める。

 そこには空を飛ぶドラゴンたちや、山道を歩くドラゴンたちの姿があった。

「それにしても、どうして老化エイジングが効かないのかしら」

「可能性がいくつかあるだろうけど一番有り得そうなのは、ドラゴンがとんでもなく長命種だって可能性だろうね」

 長命種であれば、老化をものすごい勢いで進める老化エイジングの効きが悪くて当然である。

 実際、エルフと人間では老化エイジングを使ったときの年をとるスピードが全く違う。

「でも、あそこまで変化がないのは初めてよ。流石におかしいわ」

「それじゃあ、あり得るのはドラゴンが不老不死である可能性だ。同じく不老不死の魔王たちに老化エイジングが効かないのと同じじゃないかな?」

「まあそう考えるのが妥当でしょうね」

 ちなみにあの後、ステラとオスカーは、何度か別のドラゴンとも遭遇し、戦闘を行っている。

 しかし、そのうちのただの1体も、老化エイジングが聞いた個体はいなかった。

「でも、困ったわね。老化エイジングが使えないじゃ、私はただの足手まといだわ」

「そんなことないさ。ステラの準備のお陰でなんとか今日まで無事でいられたんだしね。とにかく、今はどうにかして城に帰る方法を考えよう」

「うん」

 オスカーの言葉にコクリと頷いたステラは、オスカーの隣に行くと身体を密着させたのだった。
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