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第5巻 エピローグ
オーガたちの受け入れ先
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「マヤ、オーガたちはお前が預かれ」
「やっぱり?」
マルコスの言葉は、マヤの予想した通りのものだった。
「当たり前だ。そもそも私が連れ帰るように言ったのはオーガの王族、つまりはそこにいるシャルルだけだ。オーガ全員を連れて帰ってきたのはお前だろう?」
「まあそうだけど。いいけどね、元よりそのつもりだし」
マヤはさっそくオーガたちに声をかけると、これからキサラギ亜人王国というところに移動することを伝えた。
「そうだマルコスさん、シャルルさんもうちで預かっていい?」
「構わん。やつの力が必要になった時に協力してくれるのであればそれで良い」
「了解。それじゃ私たちはオーガと一緒に帰るよ。私の国に直接帰りたいんだけど、ルースに頼めばできるのかな?」
マヤの質問に、マルコスの脇に控えていたメイドが答える。
「聖魔石の力を操ることができるルース様なら可能かと」
「だってさ、ルース。とりあえず私の屋敷の前の広場に繋げてみてよ」
「了解だ」
マヤの隣にいた白い髪の少女ルースは、返事をするなりドアへと姿を変えた。
「どれどれ……おっ、成功だね。おーい、みんなー、こっちこっちー」
マヤはそのままキサラギ亜人王国にオーガたちを連れ帰った。
までは良かったのだが、大変なのはここからだったのである。
「ちょ、ちょっとマヤさん!? なんですかこの人たちは」
屋敷の前の広場が突然騒がしくなったのを聞きつけてやってきたジョセフは、広場を埋め尽くすオーガたちを見るなり慌ててマヤのところにやってくる。
「あはは、連れて帰ってきちゃった」
「いやいやいや、連れて帰ってきちゃった、じゃないですよ。どうするんですかこんな大勢」
「まあまあジョセフさん落ち着いて」
「いいえ、マヤさん、今回ばかりはジョセフの反応が正解です」
「エリーまでそんなこと言うなんて」
「エリー? …………驚きました、どうして私の愛称を知っているんですか?」
「ああそうか、エリーは、いや、エメリンさんは忘れちゃってるんだよね。そういえば、ハイメ君は元気?」
「あの人のことまで……オリガに聞いたのですか?」
「ううん、そうじゃないよ。ちょっと色々あってね。後でルーシェさんに言って記憶戻してもらうといいよ」
「はあ……? よくわかりませんがわかりました。って、それより大切なのはこのオーガたちをどうするか、です」
「ねえ、どうしよう?」
「どうしようって……無策だったんですか?」
「うん。だって私の国に連れてくればどうにかなると思ったし」
「はあ……相変わらずですね、マヤさんは」
「あはは、褒め言葉として受け取っておくよ」
「褒めてないですよ、まったく。でも、王様の頼みですから、どうにかしましょう」
「さっすがエメリンさん」
「マヤさんも動くんですよ。とりあえず、クロエとジョンのところに行って、建築士と大工をもっと派遣してくれるように交渉して来て下さい」
「了解。じゃ、行ってくるねー」
マヤは言うなり久々に呼び出したシロちゃんに乗ると、ジョンの城へと向かったのだった。
***
「ってわけで、建築士と大工を派遣して欲しくてやってきたわけだよ」
「お義母様の頼みか……」
「あはは、さすがお母さんというかなんというか、要するにそれって、新しく来た人全員分の家をこれから立てるから建築士と大工をもっとよこせってことですよね?」
「そうだろうねー」
「相変わらずの力技、お母さんらしいなあ……」
「まあでも、それしか解決策は無いしさ。それはそうとクロエさん、今気がついたんだけど……」
「ん?」
マヤはクロエに近づくと、その手を取った。
そのままその手首に巻かれているブレスレットを観察する。
「これって、クローナさんのブレスレットだよね?」
クロエが腕にしているそれは、間違いなく過去の世界でクローナが腕につけていたものと同じだったのだ。
「どうしてマヤさんが私の本当のお母さんの名前を知っているんですか?」
「なるほど、クロエさんはクローナさんの娘だったんだね」
「クロエ、誰なのだそのクローナという人物は」
「はい、クローナは私の実の母です。人間の男性と結婚し、その男性が亡くなった時にともに死ぬことを選んだらしく、もうこの世にはいませんが」
「それでエメリンさんに引き取られたってことか」
「そうです。それにしても、どうしてマヤさんが知っているんです? それにこのブレスレットのことは本当にお母さんしか知らないはずですけど」
「まあ色々あってさ。今度時間がある時に話すよ。それで王子様、建築士と大工は派遣してくれるのかな?」
「今回はマヤに恩がある。それにお義母様のご要望であれば無下にはできないからな。できる限り協力しよう」
「ありがとうっ! やっぱり持つべきものは王族の友達だね」
「誰が友達だ誰が。私は今お前の国になっているところを襲撃したんだぞ? もう忘れたのか?」
「でもあれは事故じゃん? クロ姉を助けたいジョンちゃんの暴走でしょ? それに、クロ姉もオリガお姉ちゃんを助けたくてあんなことを計画してたわけだし?」
「「なっ!?」」
わざと「クロ姉」「ジョンちゃん」と呼んでからかうマヤに、ジョンとクロエは絶句してぷるぷると震えている。
「クロ姉、やるぞ」
「うん、ジョンちゃん」
「あははは、できるもんならやってごらーん」
マヤは怒って飛びかかってくる2人をひらりと交わすと、そのまま最上階にあるジョンの執務室の窓から身を踊らせる。
「逃がすか!」
「ジョンちゃんの言うとおりです!」
躊躇うことなく追ってきた2人に口角を上げたマヤは、そのまま2人の攻撃をかわし続け、2人を振り切ってジョンの城を後にしたのだった。
それから数日後、約束通りヘンダーソン王国からやってきた建築士と大工たちによって、キサラギ亜人王国はあちこちで建築工事が始まったのだった。
***
「じじいめ、俺を舐めてやがるな?」
空間に空いた穴を通してキサラギ亜人王国で建築工事を手伝っているシャルルを見ながら、青年は独りごちる。
口調の割に苛立った様子ではないのは、青年が絶対的強者であるからかもしれない。
「あるいは、あの新参魔王のマヤを相当買ってるか、だが……初見だったとはいえデリックに買ったのはそれなりだろうが、それだけで俺に勝てると思われちゃ困るぜ?」
青年は別の穴を通してエメリンに目をやる。
「まあしかし、デリックに比肩する魔王に、あの元副官がいたんじゃ、正面から行くなら俺が直々に行かねえと話にならねえだろうけどな」
めんどくさそうに青年が手を振ると、空間の穴が消える。
そのまま青年は、なにもないはずの空間に寝転がった。
「さて、どうしたもんかねえ」
青年は全く困った風でもなくつぶやくと、ゆっくりと目を閉じたのだった。
「やっぱり?」
マルコスの言葉は、マヤの予想した通りのものだった。
「当たり前だ。そもそも私が連れ帰るように言ったのはオーガの王族、つまりはそこにいるシャルルだけだ。オーガ全員を連れて帰ってきたのはお前だろう?」
「まあそうだけど。いいけどね、元よりそのつもりだし」
マヤはさっそくオーガたちに声をかけると、これからキサラギ亜人王国というところに移動することを伝えた。
「そうだマルコスさん、シャルルさんもうちで預かっていい?」
「構わん。やつの力が必要になった時に協力してくれるのであればそれで良い」
「了解。それじゃ私たちはオーガと一緒に帰るよ。私の国に直接帰りたいんだけど、ルースに頼めばできるのかな?」
マヤの質問に、マルコスの脇に控えていたメイドが答える。
「聖魔石の力を操ることができるルース様なら可能かと」
「だってさ、ルース。とりあえず私の屋敷の前の広場に繋げてみてよ」
「了解だ」
マヤの隣にいた白い髪の少女ルースは、返事をするなりドアへと姿を変えた。
「どれどれ……おっ、成功だね。おーい、みんなー、こっちこっちー」
マヤはそのままキサラギ亜人王国にオーガたちを連れ帰った。
までは良かったのだが、大変なのはここからだったのである。
「ちょ、ちょっとマヤさん!? なんですかこの人たちは」
屋敷の前の広場が突然騒がしくなったのを聞きつけてやってきたジョセフは、広場を埋め尽くすオーガたちを見るなり慌ててマヤのところにやってくる。
「あはは、連れて帰ってきちゃった」
「いやいやいや、連れて帰ってきちゃった、じゃないですよ。どうするんですかこんな大勢」
「まあまあジョセフさん落ち着いて」
「いいえ、マヤさん、今回ばかりはジョセフの反応が正解です」
「エリーまでそんなこと言うなんて」
「エリー? …………驚きました、どうして私の愛称を知っているんですか?」
「ああそうか、エリーは、いや、エメリンさんは忘れちゃってるんだよね。そういえば、ハイメ君は元気?」
「あの人のことまで……オリガに聞いたのですか?」
「ううん、そうじゃないよ。ちょっと色々あってね。後でルーシェさんに言って記憶戻してもらうといいよ」
「はあ……? よくわかりませんがわかりました。って、それより大切なのはこのオーガたちをどうするか、です」
「ねえ、どうしよう?」
「どうしようって……無策だったんですか?」
「うん。だって私の国に連れてくればどうにかなると思ったし」
「はあ……相変わらずですね、マヤさんは」
「あはは、褒め言葉として受け取っておくよ」
「褒めてないですよ、まったく。でも、王様の頼みですから、どうにかしましょう」
「さっすがエメリンさん」
「マヤさんも動くんですよ。とりあえず、クロエとジョンのところに行って、建築士と大工をもっと派遣してくれるように交渉して来て下さい」
「了解。じゃ、行ってくるねー」
マヤは言うなり久々に呼び出したシロちゃんに乗ると、ジョンの城へと向かったのだった。
***
「ってわけで、建築士と大工を派遣して欲しくてやってきたわけだよ」
「お義母様の頼みか……」
「あはは、さすがお母さんというかなんというか、要するにそれって、新しく来た人全員分の家をこれから立てるから建築士と大工をもっとよこせってことですよね?」
「そうだろうねー」
「相変わらずの力技、お母さんらしいなあ……」
「まあでも、それしか解決策は無いしさ。それはそうとクロエさん、今気がついたんだけど……」
「ん?」
マヤはクロエに近づくと、その手を取った。
そのままその手首に巻かれているブレスレットを観察する。
「これって、クローナさんのブレスレットだよね?」
クロエが腕にしているそれは、間違いなく過去の世界でクローナが腕につけていたものと同じだったのだ。
「どうしてマヤさんが私の本当のお母さんの名前を知っているんですか?」
「なるほど、クロエさんはクローナさんの娘だったんだね」
「クロエ、誰なのだそのクローナという人物は」
「はい、クローナは私の実の母です。人間の男性と結婚し、その男性が亡くなった時にともに死ぬことを選んだらしく、もうこの世にはいませんが」
「それでエメリンさんに引き取られたってことか」
「そうです。それにしても、どうしてマヤさんが知っているんです? それにこのブレスレットのことは本当にお母さんしか知らないはずですけど」
「まあ色々あってさ。今度時間がある時に話すよ。それで王子様、建築士と大工は派遣してくれるのかな?」
「今回はマヤに恩がある。それにお義母様のご要望であれば無下にはできないからな。できる限り協力しよう」
「ありがとうっ! やっぱり持つべきものは王族の友達だね」
「誰が友達だ誰が。私は今お前の国になっているところを襲撃したんだぞ? もう忘れたのか?」
「でもあれは事故じゃん? クロ姉を助けたいジョンちゃんの暴走でしょ? それに、クロ姉もオリガお姉ちゃんを助けたくてあんなことを計画してたわけだし?」
「「なっ!?」」
わざと「クロ姉」「ジョンちゃん」と呼んでからかうマヤに、ジョンとクロエは絶句してぷるぷると震えている。
「クロ姉、やるぞ」
「うん、ジョンちゃん」
「あははは、できるもんならやってごらーん」
マヤは怒って飛びかかってくる2人をひらりと交わすと、そのまま最上階にあるジョンの執務室の窓から身を踊らせる。
「逃がすか!」
「ジョンちゃんの言うとおりです!」
躊躇うことなく追ってきた2人に口角を上げたマヤは、そのまま2人の攻撃をかわし続け、2人を振り切ってジョンの城を後にしたのだった。
それから数日後、約束通りヘンダーソン王国からやってきた建築士と大工たちによって、キサラギ亜人王国はあちこちで建築工事が始まったのだった。
***
「じじいめ、俺を舐めてやがるな?」
空間に空いた穴を通してキサラギ亜人王国で建築工事を手伝っているシャルルを見ながら、青年は独りごちる。
口調の割に苛立った様子ではないのは、青年が絶対的強者であるからかもしれない。
「あるいは、あの新参魔王のマヤを相当買ってるか、だが……初見だったとはいえデリックに買ったのはそれなりだろうが、それだけで俺に勝てると思われちゃ困るぜ?」
青年は別の穴を通してエメリンに目をやる。
「まあしかし、デリックに比肩する魔王に、あの元副官がいたんじゃ、正面から行くなら俺が直々に行かねえと話にならねえだろうけどな」
めんどくさそうに青年が手を振ると、空間の穴が消える。
そのまま青年は、なにもないはずの空間に寝転がった。
「さて、どうしたもんかねえ」
青年は全く困った風でもなくつぶやくと、ゆっくりと目を閉じたのだった。
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