転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

文字の大きさ
上 下
240 / 324
第5巻第7章 オーガの姫

歴史の修正力

しおりを挟む
「ふう、やっと落ち着いた……」

 マヤは力なくソファーに座り込むと、だらりと四肢を伸ばす。

「マヤならあれくらいで疲れたりしないでしょ?」

「疲れるよ……何人来たと思ってるのさ」

「マヤの強化魔法なら疲労回復もできるでしょ?」

「それはそうだけど……」

「じゃあ疲れないじゃない」

「それとこれとは別なの。精神的に疲れたんだよ」

「そういうものなのかしら」

「そういうものなんだよ。ほら、ハイメ君からも言ってあげてよ」

「そうですね、僕も精神的に疲れました。疲労はエリー様に治癒魔法で回復してもらいましたけど、それとこれとは別問題ですね」

「ほら、ハイメ君だって疲れてるじゃん。エリーの精神が強すぎるんだよ」

「うぐっ……ハイメまでそう言うなら、そういうものなのかもしれないわね、悪かったわ」

「分かればいいんだよ、分かれば」

「なんだか納得いかないわ……」

 ハイメが味方についてくれたことで調子に乗るマヤに三白眼を向けながら、エリーはため息をつく。

「おーいマヤ!」

「シャルルさん、どうしたの?」

「ルーシェ様がマヤをお呼びだ」

「ルーシェ様が? わかった、今行くよ」

 マヤはシャルルからルーシェの場所を聞くと、その場所に向かった。

「いかがいたしましたか、ルーシェ様」

「…………未来で私とあなたは知己なのですよね?」

「ええ、そうですが、それがなにか?」

「その、普通に話してくれていいですよ? 未来ではそうなのでしょう?」

「なぜそれを?」

「あなたの態度を見ていればわかります」

「そうですか……いや、そうなんだ、流石だねルーシェは。それから、ルーシェももっと砕けた感じでいいよ? 未来ではそうだからね」

「じゃあお言葉に甘えて。私を呼び捨てにできるのは、原初の魔王以外ではマヤだけじゃない?」

「それはどうかな? エメリンさんも2人きりの時は呼び捨てにしてるんじゃないかな?」

「エメリンさんが私を? もしかして、私が彼女を副官にしようとしてるのと関係があるのかしら?」

 マヤはニヤリと笑いながら、白々しく知らんぷりをする。

「さあて、どうだろうね。それで、なんで私は呼び出されたの?」

「そうだった。マヤ、あの数のオーガをどうするつもり? まさか私の城で預かれってわけじゃないよね?」

「あはは、まさか。まあ、ルーシェならそれくらいできそうだけど、流石にそんなことに頼まないって」

「じゃあどうするの? どこかにオーガの国でも作るの?」

「2回も建国する気はないよ」

「2回も?」

「いや、今のは忘れて。でも、国を作るとかそういうんじゃないよ。オーガたちは未来に連れて行くつもり」

「全員?」

「全員」

「なんでまたそんなことを……」

「まあ色々あってさ。でも、連れて行かないとたぶん全員殺されちゃうんだよ、それこそルーシェが守ってくれでもしない限りね」

「…………なるほど、だいたいわかった」

 ルーシェは何がわかったかを口に出すことはなかったが、オーガが未来の世界では絶滅していることを察したのだろう。

「そういうわけだから、未来のマルコスさんが私たちを連れ戻してくれるまで、ここにいさせて」

「わかった。けど、たぶんもうお迎えみたい」

「え?」

『流石、お前の観測の前には時の壁すら無意味か』

「そんなことないわ、マルコス。私はマヤと話に来たあなたの精神エネルギーが見えただけだもの。未来のあなたを見ることはできないわ」

『それでも十分に恐ろしい。私はマヤにのみ聞こえるようにしたつもりなのだからな』

「未来のマルコスさんってことでいいんだよね?」

『ああ、その通りだ。オーガの姫とその仲間のオーガ全員を迎えに来た』

「いきなりだね」

『仕方ないだろう? こちらの私が寝ている時しか私はこちらに干渉できないのだからな』

「そうだったね。それで、未来に呼び戻すのってすぐ始められるの?」

『ああ、すぐだ。それぞれがそれぞれの場所にいて構わん。それでは、行くぞ』

 マルコスの声が一方的に告げると、マヤの身体を淡い光が包み始める。

「じゃあね、ルーシェ」

「うん、さようなら、マヤ。また未来で」

「うん、また未来で」

『そういえばいい忘れていたが、マヤ、お前という存在は本来この時間に存在しないものだ。お前がこの時代を去れば、お前という存在の記憶は、この時代の住人の中からいずれ消える』

「ええっ!? そうなの!? じゃあ戻ってもルーシェやエメリンさんは私のこと覚えてないんだあ……」

『いや、ルーシェは覚えているだろう』

「へ? どうして?」

 てっきりよくある歴史の修正力とかそういうやつだと思っていたマヤは、例外がいることに目を丸くする。

(まさかルーシェは世界の法則でさえ干渉できない存在、とか? いやいやいや、流石にそれはないよね、うん)

『ルーシェが原初の魔王だからだ。我々原初の魔王は、歴史の修正力の影響さえ受けん』

「って、本当に世界の法則でも干渉できないんかいっ!」

「どうしたのマヤ?」

「あ、いや、何でも……でもそれじゃあ、未来で初めて会った時、ルーシェは私のこと知ってたってこと?」

「そういうことになるね。でも、それはちょっと面白くないなあ」

 ルーシェはしばらくうんうんと考えて、ぽんと手を打った。

「そうだ、マルコス、お願いがあるのだけど」

『なんだ?』

「未来の世界に戻ったら「今がその時だ、観測者」って私に言ってくれるかしら?」

『構わんが、どうしてだ?』

「今から私の中のマヤに関する記憶を封印するからよ。そして、未来に戻ったあなたの言葉で封印が解けるようにしておくわ」

『なるほど、了解だ。それでは今度こそ行くぞ』

「うん。ばいばい、ルーシェ。また未来でね」

「うん、またね、マヤ」

 ルーシェが手を振った直後、マヤの姿は解けるように消える。

「さて、私も記憶を封印しよう」

 ルーシェは慣れた手付きで魔法を発動すると、自分の中のマヤに関する記憶を封印した。

 ついでに、同じ城の中にいるエメリンとハイメの中にあるマヤの記憶も、複製して一緒に封印しておく。

 ルーシェが先ほどまで話していたはずの人物のことをすっかり忘れたタイミングで、エリーとハイメが慌ててルーシェの部屋に入ってきた。

「ルーシェさま! シャルルさんが……っ! ううん、他のオーガたちも、みんな消えちゃったんだけど」

「僕が見ていたオーガの方々もです。急いでマヤさんに知らせないと……えーっと、マヤさんはどこに……というか、マヤさんって誰でしたっけ?」

「何言ってるのよハイメ、マヤは……あれ?」

 エリーは自分の記憶の中で、マヤの姿はぼやけ始めていることに気がついた。

「なによ、これ……ルーシェ様、私、マヤのこと忘れちゃう……っ!?」

 シャルルが姿を消したこと、オーガたちも姿を消したこと、マヤの記憶が薄れ始めていることなどから、何かを感じ取ったエリーは、ルーシェへと助けを求める。

「マヤという方は、存じ上げないのですが、私とも知り合いだった方でしょうか?」

「そ、そんな……」

 完全にマヤのことを忘れて質問を返すルーシェに、エリーはその場で膝をついた。

 なにか大切なものを忘れてしまった、そんな気がしてならないエリーだったが、そんな思いさえも、1週間もしないうちに忘れてしまったのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ
ファンタジー
少年マキトは、目が覚めたら異世界に飛ばされていた。 野生の魔物とすぐさま仲良くなり、魔物使いとしての才能を見せる。 しかし職業鑑定の結果は――【色無し】であった。 適性が【色】で判断されるこの世界で、【色無し】は才能なしと見なされる。 冒険者になれないと言われ、周囲から嘲笑されるマキト。 しかし本人を含めて誰も知らなかった。 マキトの中に秘める、類稀なる【色】の正体を――! ※以下、この作品における注意事項。 この作品は、2017年に連載していた「たった一人の魔物使い」のリメイク版です。 キャラや世界観などの各種設定やストーリー構成は、一部を除いて大幅に異なっています。 (旧作に出ていたいくつかの設定、及びキャラの何人かはカットします) 再構成というよりは、全く別物の新しい作品として見ていただければと思います。 全252話、2021年3月9日に完結しました。 またこの作品は、小説家になろうとカクヨムにも同時投稿しています。

処理中です...