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第5巻第7章 オーガの姫
マヤの思惑
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『マヤ、聞こえるか?』
「んんっ……なあに……」
マヤは夜中に突然聞こえた声に、眠い目を擦って起き上がる。
『繋がったな。私だ、マルコスだ』
(え? マルコスさん? 久しぶりじゃん! そうだ! ねえこの時代のマルコスさんがオーガの王族を殺そうとしてるんだけど!? 何がどうなってるのさ!)
『もうそこまでわかっているなら話が早い。じきに過去の私がそこの娘を殺しに行くはずだ。もう連れ戻して構わないな?』
(ええっ!? 急だね? まあ確かにオーガの王族は見つけたけど……)
『なら目的は達成だ。すぐに呼び戻すから準備を――』
(ちょっ、ちょっと待って! このままだとオーガは絶滅するんだよね?)
『ああ、そのうちな』
(ねえ、それじゃあ他のオーガも連れ帰っちゃ駄目?)
『何を言っている?』
(だってかわいそうじゃん。それに、たぶんマルコスさんはオーガの王族の力が必要なんだろうけど、それって本当に王族だけいればいいのかな?)
『どういう意味だ?』
(もし万が一、オーガの同族たちがたくさんいないと力が弱くなる、とかだったらどうするの、ってことだよ)
『そんなはずは……』
(絶対にないって言える? 試してみた?)
『マヤ、試したわけがないのを知ってて言っているだろう?』
(あはは、バレたか)
『はあ……わかった、連れ戻すのはまた今度にしよう』
(ってことは、オーガたちも連れ帰っていいんだね?)
『ああ、構わない』
(やった!)
『それと、過去の私からそこの娘を守りたいなら、ルーシェにでも預けるといい』
(おっ、ちょうど今ルーシェさんのところに向かってるよ)
『なら好都合だ。原初の魔王の庇護下にあれば、手は出せないからな』
(了解)
『それではこれで失礼する。そちらの私も目覚めるようだからな』
マルコスからの念話は、それきり途切れてしまう。
(よし、マルコスさんの許可も出たし、オーガを全員連れて帰るぞ)
マヤは決意を新たに、再び眠りについたのだった。
***
マヤはたどり着いた魔王ルーシェの城に目をやる。
「本当に最初は小さかったんだ……」
未来の世界では見たこともないような巨大な木に埋まっていたルーシェの城は、この時代ではまだ木の上に立っているお屋敷、といった感じだった。
今の時点でもお屋敷もそれを支えている木も十分に大きいが、未来の世界のそれと比べるとやはり小さく感じてしまう。
「最初はってどういうことよ? それに小さい? あれが? マヤの感覚って時々変わってるわよね」
「あはは……そうかも」
反論したいところだったが、反論して「最初は」の部分を追及されると困るので適当に受け流す。
「マヤ様、魔王ルーシェの城へはどうやって向かうのでしょうか?」
「たぶんあれじゃないかな? おーい」
マヤは近くを飛んでいた気球に声をかける。
「はーい、今行きまーす」
「ん? この声は……」
「お待たせしました! ルーシェ様の城にご用ですか?」
「ああ……やっぱり……」
マヤは予想通りの人物が現れたことに、思わず呟いた。
現れたのは、他でもない魔王ルーシェだったのである。
(いや、今の彼女はシェリルか……まあどっちでもいいや)
その昔ルーシェの副官として働いていたエメリンが、ルーシェがシェリルという名前で自分の配下に混ざって働いていることを知っていたので、昔からルーシェはシェリルに変装して働いていたのだろうな、とは思っていたマヤだったが、まさかこの頃からやっているとは予想外だった。
しかし、考えてみれば、この時代ではまだルーシェと顔見知りですらないマヤが、突然ルーシェを訪ねたところで取り合ってもらえるとは思えない。
そう考えると、最初にシェリルの出会えたのは幸運だったと言えるかもしれない。
「ん? やっぱり? なんのことっすか?」
「ああ、ううん、何でもないよ。それよりエルフのお姉さん、ちょっと耳貸してくれる?」
マヤはシェリルに近づくと、その長い耳に顔を近づける。
「なんっすか?」
シェリルは特に警戒することもなくマヤの口元に耳を近づける。
「あなたシェリルって名前だよね?」
「え? どうして知ってるんすか? もしかしてあったことあります?」
「まあね。だから、あなたが本当は魔王ルーシェだってことも知ってるよ?」
「っっっ!? な、なんのことっすかね~」
「誤魔化さなくていいって。ルーシェさんなら私が突然空中に出現したって知ってるでしょ? 何でも見えてるもんね?」
ルーシェなら知ってて当然でしょ? というような少し意地の悪い言い方をするマヤに、シェリルは少しむっとしてマヤを見る。
「何でも見えるからって、何でも見てるわけじゃ――あっ……」
「やっぱりルーシェさんなんだね?」
「はあ……どうしてわかったのですか?」
ルーシェは観念して認めると、マヤに尋ねる。
口調もシェリルの時の砕けたものから、魔王としての威厳を感じさせる堅いものになっていた。
マヤがエリーたちの様子を気にして振り返ると、その動きが完全に止まっていた。
「まさか時間を止めたの?」
「ええ、マヤさんが私がシェリルという名前だと知っていることがわかった時点で一応止めておきました」
「さすが原初の魔王。それで、なんで私がシェリルさんの正体を知ってるかって話だけど、私が未来でルーシェさんと知り合いだからだよ」
「未来で? マヤさんは未来から来たのですか?」
「うん」
「なるほど……マルコスですか」
「御名答。よくわかったね」
「人を過去に送るなど、マルコスくらいしかできませんよ」
流石は3人しかいない原初の魔王同士、お互いの能力についてはそれなりに詳しいらしい。
「それでルーシェさんにちょっと頼みたいことがあってね」
「なんですか?」
「受けてくれるの?」
「内容によります。マヤさんが未来から来たのであれば、歴史に大きく影響するお願いには応じないほうがいいでしょうから」
「それもそうだね。それじゃあみんなが聞いてるところで説明したいんだけど、それでもいいかな?」
「いいでしょう。時間を動かして皆さんを私の玉座にご案内します。その代わりマヤさん、私がルーシェだってバラさないで下さいよ?」
「うんわかった。案内よろしくね」
ルーシェがぱちんと指を鳴らすと、止まっていたエリーたちが動き出す。
「みんな、このエルフのお姉さんが魔王ルーシェのところに案内してくれるって」
マヤは何事もなかったかのようにエリーたちに声をかけ、一行は魔王ルーシェのいる代へと向かったのだった。
「んんっ……なあに……」
マヤは夜中に突然聞こえた声に、眠い目を擦って起き上がる。
『繋がったな。私だ、マルコスだ』
(え? マルコスさん? 久しぶりじゃん! そうだ! ねえこの時代のマルコスさんがオーガの王族を殺そうとしてるんだけど!? 何がどうなってるのさ!)
『もうそこまでわかっているなら話が早い。じきに過去の私がそこの娘を殺しに行くはずだ。もう連れ戻して構わないな?』
(ええっ!? 急だね? まあ確かにオーガの王族は見つけたけど……)
『なら目的は達成だ。すぐに呼び戻すから準備を――』
(ちょっ、ちょっと待って! このままだとオーガは絶滅するんだよね?)
『ああ、そのうちな』
(ねえ、それじゃあ他のオーガも連れ帰っちゃ駄目?)
『何を言っている?』
(だってかわいそうじゃん。それに、たぶんマルコスさんはオーガの王族の力が必要なんだろうけど、それって本当に王族だけいればいいのかな?)
『どういう意味だ?』
(もし万が一、オーガの同族たちがたくさんいないと力が弱くなる、とかだったらどうするの、ってことだよ)
『そんなはずは……』
(絶対にないって言える? 試してみた?)
『マヤ、試したわけがないのを知ってて言っているだろう?』
(あはは、バレたか)
『はあ……わかった、連れ戻すのはまた今度にしよう』
(ってことは、オーガたちも連れ帰っていいんだね?)
『ああ、構わない』
(やった!)
『それと、過去の私からそこの娘を守りたいなら、ルーシェにでも預けるといい』
(おっ、ちょうど今ルーシェさんのところに向かってるよ)
『なら好都合だ。原初の魔王の庇護下にあれば、手は出せないからな』
(了解)
『それではこれで失礼する。そちらの私も目覚めるようだからな』
マルコスからの念話は、それきり途切れてしまう。
(よし、マルコスさんの許可も出たし、オーガを全員連れて帰るぞ)
マヤは決意を新たに、再び眠りについたのだった。
***
マヤはたどり着いた魔王ルーシェの城に目をやる。
「本当に最初は小さかったんだ……」
未来の世界では見たこともないような巨大な木に埋まっていたルーシェの城は、この時代ではまだ木の上に立っているお屋敷、といった感じだった。
今の時点でもお屋敷もそれを支えている木も十分に大きいが、未来の世界のそれと比べるとやはり小さく感じてしまう。
「最初はってどういうことよ? それに小さい? あれが? マヤの感覚って時々変わってるわよね」
「あはは……そうかも」
反論したいところだったが、反論して「最初は」の部分を追及されると困るので適当に受け流す。
「マヤ様、魔王ルーシェの城へはどうやって向かうのでしょうか?」
「たぶんあれじゃないかな? おーい」
マヤは近くを飛んでいた気球に声をかける。
「はーい、今行きまーす」
「ん? この声は……」
「お待たせしました! ルーシェ様の城にご用ですか?」
「ああ……やっぱり……」
マヤは予想通りの人物が現れたことに、思わず呟いた。
現れたのは、他でもない魔王ルーシェだったのである。
(いや、今の彼女はシェリルか……まあどっちでもいいや)
その昔ルーシェの副官として働いていたエメリンが、ルーシェがシェリルという名前で自分の配下に混ざって働いていることを知っていたので、昔からルーシェはシェリルに変装して働いていたのだろうな、とは思っていたマヤだったが、まさかこの頃からやっているとは予想外だった。
しかし、考えてみれば、この時代ではまだルーシェと顔見知りですらないマヤが、突然ルーシェを訪ねたところで取り合ってもらえるとは思えない。
そう考えると、最初にシェリルの出会えたのは幸運だったと言えるかもしれない。
「ん? やっぱり? なんのことっすか?」
「ああ、ううん、何でもないよ。それよりエルフのお姉さん、ちょっと耳貸してくれる?」
マヤはシェリルに近づくと、その長い耳に顔を近づける。
「なんっすか?」
シェリルは特に警戒することもなくマヤの口元に耳を近づける。
「あなたシェリルって名前だよね?」
「え? どうして知ってるんすか? もしかしてあったことあります?」
「まあね。だから、あなたが本当は魔王ルーシェだってことも知ってるよ?」
「っっっ!? な、なんのことっすかね~」
「誤魔化さなくていいって。ルーシェさんなら私が突然空中に出現したって知ってるでしょ? 何でも見えてるもんね?」
ルーシェなら知ってて当然でしょ? というような少し意地の悪い言い方をするマヤに、シェリルは少しむっとしてマヤを見る。
「何でも見えるからって、何でも見てるわけじゃ――あっ……」
「やっぱりルーシェさんなんだね?」
「はあ……どうしてわかったのですか?」
ルーシェは観念して認めると、マヤに尋ねる。
口調もシェリルの時の砕けたものから、魔王としての威厳を感じさせる堅いものになっていた。
マヤがエリーたちの様子を気にして振り返ると、その動きが完全に止まっていた。
「まさか時間を止めたの?」
「ええ、マヤさんが私がシェリルという名前だと知っていることがわかった時点で一応止めておきました」
「さすが原初の魔王。それで、なんで私がシェリルさんの正体を知ってるかって話だけど、私が未来でルーシェさんと知り合いだからだよ」
「未来で? マヤさんは未来から来たのですか?」
「うん」
「なるほど……マルコスですか」
「御名答。よくわかったね」
「人を過去に送るなど、マルコスくらいしかできませんよ」
流石は3人しかいない原初の魔王同士、お互いの能力についてはそれなりに詳しいらしい。
「それでルーシェさんにちょっと頼みたいことがあってね」
「なんですか?」
「受けてくれるの?」
「内容によります。マヤさんが未来から来たのであれば、歴史に大きく影響するお願いには応じないほうがいいでしょうから」
「それもそうだね。それじゃあみんなが聞いてるところで説明したいんだけど、それでもいいかな?」
「いいでしょう。時間を動かして皆さんを私の玉座にご案内します。その代わりマヤさん、私がルーシェだってバラさないで下さいよ?」
「うんわかった。案内よろしくね」
ルーシェがぱちんと指を鳴らすと、止まっていたエリーたちが動き出す。
「みんな、このエルフのお姉さんが魔王ルーシェのところに案内してくれるって」
マヤは何事もなかったかのようにエリーたちに声をかけ、一行は魔王ルーシェのいる代へと向かったのだった。
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