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第5巻第6章 魔王オズウェル
エメリスの治療
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「どこだ、ここは……」
エリーが魔法を解除したことで目を覚ましたプラシドは、見慣れない天井を見て呟いた。
「ここは私の屋敷よ。それと、一応拘束してあるから」
エリーはひとまず冬眠の解除に成功したほっと胸を撫で下ろす。
そもそもこの魔法を解除できなければ、プラシドがエメリスを治すことができたとしても、なんの意味もないのだ。
「なるほど、魔法で仮死状態にしてあるのか」
「そうよ。ちなみにあなたもさっきまで同じ状態だったわ」
「……はっ、全く末恐ろしいお嬢さんだ。それで、なんでわざわざ仮死状態なんかにしてあるんだ?」
「それはね――」
エリーはプラシドに、エリスが瀕死の重傷を追った際にエメリスの意識が戻ったこと、エメリスを殺さずにエリスの人格が表に出てこないようにするために治癒した直後のエメリスの意識が表に出ている僅かな間に仮死状態にしたことを説明した。
「つまり、今のそいつはお前の母親の意識が表に出てきてる状態ってことだな?」
「そういうことよ。治せるかしら?」
「ああ」
「ねえねえプラシドさん」
エリーとプラシドのやり取りを見守っていたマヤは、気になったことがありプラシドに声をかけた。
ちなみにマヤのこの場での役目は、プラシドがなにか不審な動きを見せた際に、エメリスの身の安全を確保することだ。
手っ取り早いのは不審な動きがあった時点でプラシドを斬ることなのだが、マヤは魔法がさっぱりな上に、プラシドが死ねばエメリスを治す方法を知る者がいなくなってしまうため、プラシドを斬るのは最終手段ということになっている。
「どうしたんだ?」
「エメリスさんを治すのは簡単だってことだけどさ、そうするとエリスさんはどうなるの?」
「何だそんなことか。そりゃもちろん死ぬさ」
「死ぬ? 消えるとかじゃなくて?」
「ああ、死ぬ、だ。そもそも、エリスってのは別の人間の魂だ。どこかで夜の商売をしてた奴隷の女、とかいう話だったか」
「つまり、プラシドさんはエメリスさんの中にエリスさんを作るために、エリスさんの魂をエメリスさんの中に入れたってこと?」
「早い話がそういうことだな」
なんでもないことのように認めたプラシドだったが、それはつまり、エメリスの身体をした都合のいい人格を作るためだけに、人から魂を抜き出してエメリスの中に入れたということだ。
普通の神経ではできない所業だろうが、プラシドにとってはなんでもないことなのだろう。
「だから、死ぬ、なのか……」
エメリスを救うということは、エリスを殺すと言うことなのだ。
しかも、エリスというのはただの作られた人格ではなく、かつては1人の人間だったのだという。
「マヤ、それでも私は……」
「わかってるよ、エリー。でも、エリスさんだって被害者だからさ。どうにかしてあげられないかなって」
「甘いんだな、お前の新しい主は」
「甘くなければ私を仲間にしてくださったりしないでしょう? プラシド様はたまに頭がお悪いことがございますね」
プラシドの言葉に嫌味たっぷりに返すサミュエル。
「マヤ、魂ってのは基本的に生まれた身体以外には馴染まないもんだ。今エメリスの身体にエリスの魂が入れてるのは魔法で無理やり押し込んでるだけで、それがはずれればすぐにエメリスの身体から抜けて消えちまうんだよ」
「じゃあエリスさんの身体になら戻れるってこと?」
「まあそういうことだな」
「じゃあその魂を抜かれたエリスさんの身体は……」
マヤはなんとなく答えが分かっていたが、念の為プラシドに尋ねてみる。
「とっくの昔に魔法の素材として使っちまったよ。当たり前だろ?」
あまりにも予想通りの答えに、マヤはがっくりと肩を落とした。
「だよねえ……うーん、どうしたものか……」
「マヤ様、とりあえず封印しておくというのはいかがでしょう」
悩むマヤに、サミュエルが一歩前に出てそんな提案をしてくる。
「封印しておく? そんなことできるの?」
「できないこともないが、それには原初の魔王しか入手法を知らない聖魔石っつーめちゃくちゃ貴重な白銀の魔石が必要だ。確かオズウェルもいくつか持っていたはずだが……」
まあ本人はその価値も聖魔石って名前だってことも知らなかったみたいだがな、とプラシドは付け加える。
「え、聖魔石があればいいの? なーんだ、それなら簡単だよ。ちょっと待ってねえ…………」
マヤは収納袋を取り出すと、中をガサゴソやって性魔石を探す。
「あった! ほらこれでしょ?」
「なっ……!? なんでそこらのガキが聖魔石なんて持ってやがる!? 魔王でも普通は存在も知らねえってのに……」
マヤは、そりゃ私も魔王ですから、と言いたいところだったがそれを言うと話が非常にややこしくなること間違いなしなので、ここはぐっと我慢することにする。
「まあまあそんなことはどうでもいいじゃん? それに、そこら辺のガキじゃないし? 魔王を倒せちゃうガキだし?」
「はあ……それもそうだな……もうお前が何を言っても驚きゃしねえよ」
「で、この聖魔石があればエリスさんの魂はここに封印できるんだね?」
「ああ、その通りだ」
「じゃあエリスさんの魂はここに封印するってことで。さっそくエメリスさんの治療をお願いできるかな?」
先延ばしにしかならないが、エリスの魂が消えてしまうよりはいいだろう。
「了解だ。エリー、俺の合図でそいつの仮死状態を解除してくれるか? それと、拘束も解除してくれ。信用ならないなら片腕だけでもいい」
「わかったわ」
エリーはプラシドの拘束を片腕だけ解除する。
そしてプラシドの合図でエリーがエメリスの冬眠を解除すると、プラシドはすぐさま魔法を発動する。
「分離、封印。……ふう、これでいいはずだ」
外見上は何も変わっていない気がするが、プラシドの様子からして、どうやら無事終わったらしい。
「んんっ? エリーちゃん?」
「……っっ!?」
エリーはゆっくりと目を開けたエメリスを見て、目にいっぱいの涙を浮かべる。
「エリーちゃんが助けてくれたの?」
「お母さんっ!!」
エリーは勢いよくエメリスに抱きついた。
ようやく本当の再会を果たした母娘を、マヤたちは温かく見守っていたのだった。
エリーが魔法を解除したことで目を覚ましたプラシドは、見慣れない天井を見て呟いた。
「ここは私の屋敷よ。それと、一応拘束してあるから」
エリーはひとまず冬眠の解除に成功したほっと胸を撫で下ろす。
そもそもこの魔法を解除できなければ、プラシドがエメリスを治すことができたとしても、なんの意味もないのだ。
「なるほど、魔法で仮死状態にしてあるのか」
「そうよ。ちなみにあなたもさっきまで同じ状態だったわ」
「……はっ、全く末恐ろしいお嬢さんだ。それで、なんでわざわざ仮死状態なんかにしてあるんだ?」
「それはね――」
エリーはプラシドに、エリスが瀕死の重傷を追った際にエメリスの意識が戻ったこと、エメリスを殺さずにエリスの人格が表に出てこないようにするために治癒した直後のエメリスの意識が表に出ている僅かな間に仮死状態にしたことを説明した。
「つまり、今のそいつはお前の母親の意識が表に出てきてる状態ってことだな?」
「そういうことよ。治せるかしら?」
「ああ」
「ねえねえプラシドさん」
エリーとプラシドのやり取りを見守っていたマヤは、気になったことがありプラシドに声をかけた。
ちなみにマヤのこの場での役目は、プラシドがなにか不審な動きを見せた際に、エメリスの身の安全を確保することだ。
手っ取り早いのは不審な動きがあった時点でプラシドを斬ることなのだが、マヤは魔法がさっぱりな上に、プラシドが死ねばエメリスを治す方法を知る者がいなくなってしまうため、プラシドを斬るのは最終手段ということになっている。
「どうしたんだ?」
「エメリスさんを治すのは簡単だってことだけどさ、そうするとエリスさんはどうなるの?」
「何だそんなことか。そりゃもちろん死ぬさ」
「死ぬ? 消えるとかじゃなくて?」
「ああ、死ぬ、だ。そもそも、エリスってのは別の人間の魂だ。どこかで夜の商売をしてた奴隷の女、とかいう話だったか」
「つまり、プラシドさんはエメリスさんの中にエリスさんを作るために、エリスさんの魂をエメリスさんの中に入れたってこと?」
「早い話がそういうことだな」
なんでもないことのように認めたプラシドだったが、それはつまり、エメリスの身体をした都合のいい人格を作るためだけに、人から魂を抜き出してエメリスの中に入れたということだ。
普通の神経ではできない所業だろうが、プラシドにとってはなんでもないことなのだろう。
「だから、死ぬ、なのか……」
エメリスを救うということは、エリスを殺すと言うことなのだ。
しかも、エリスというのはただの作られた人格ではなく、かつては1人の人間だったのだという。
「マヤ、それでも私は……」
「わかってるよ、エリー。でも、エリスさんだって被害者だからさ。どうにかしてあげられないかなって」
「甘いんだな、お前の新しい主は」
「甘くなければ私を仲間にしてくださったりしないでしょう? プラシド様はたまに頭がお悪いことがございますね」
プラシドの言葉に嫌味たっぷりに返すサミュエル。
「マヤ、魂ってのは基本的に生まれた身体以外には馴染まないもんだ。今エメリスの身体にエリスの魂が入れてるのは魔法で無理やり押し込んでるだけで、それがはずれればすぐにエメリスの身体から抜けて消えちまうんだよ」
「じゃあエリスさんの身体になら戻れるってこと?」
「まあそういうことだな」
「じゃあその魂を抜かれたエリスさんの身体は……」
マヤはなんとなく答えが分かっていたが、念の為プラシドに尋ねてみる。
「とっくの昔に魔法の素材として使っちまったよ。当たり前だろ?」
あまりにも予想通りの答えに、マヤはがっくりと肩を落とした。
「だよねえ……うーん、どうしたものか……」
「マヤ様、とりあえず封印しておくというのはいかがでしょう」
悩むマヤに、サミュエルが一歩前に出てそんな提案をしてくる。
「封印しておく? そんなことできるの?」
「できないこともないが、それには原初の魔王しか入手法を知らない聖魔石っつーめちゃくちゃ貴重な白銀の魔石が必要だ。確かオズウェルもいくつか持っていたはずだが……」
まあ本人はその価値も聖魔石って名前だってことも知らなかったみたいだがな、とプラシドは付け加える。
「え、聖魔石があればいいの? なーんだ、それなら簡単だよ。ちょっと待ってねえ…………」
マヤは収納袋を取り出すと、中をガサゴソやって性魔石を探す。
「あった! ほらこれでしょ?」
「なっ……!? なんでそこらのガキが聖魔石なんて持ってやがる!? 魔王でも普通は存在も知らねえってのに……」
マヤは、そりゃ私も魔王ですから、と言いたいところだったがそれを言うと話が非常にややこしくなること間違いなしなので、ここはぐっと我慢することにする。
「まあまあそんなことはどうでもいいじゃん? それに、そこら辺のガキじゃないし? 魔王を倒せちゃうガキだし?」
「はあ……それもそうだな……もうお前が何を言っても驚きゃしねえよ」
「で、この聖魔石があればエリスさんの魂はここに封印できるんだね?」
「ああ、その通りだ」
「じゃあエリスさんの魂はここに封印するってことで。さっそくエメリスさんの治療をお願いできるかな?」
先延ばしにしかならないが、エリスの魂が消えてしまうよりはいいだろう。
「了解だ。エリー、俺の合図でそいつの仮死状態を解除してくれるか? それと、拘束も解除してくれ。信用ならないなら片腕だけでもいい」
「わかったわ」
エリーはプラシドの拘束を片腕だけ解除する。
そしてプラシドの合図でエリーがエメリスの冬眠を解除すると、プラシドはすぐさま魔法を発動する。
「分離、封印。……ふう、これでいいはずだ」
外見上は何も変わっていない気がするが、プラシドの様子からして、どうやら無事終わったらしい。
「んんっ? エリーちゃん?」
「……っっ!?」
エリーはゆっくりと目を開けたエメリスを見て、目にいっぱいの涙を浮かべる。
「エリーちゃんが助けてくれたの?」
「お母さんっ!!」
エリーは勢いよくエメリスに抱きついた。
ようやく本当の再会を果たした母娘を、マヤたちは温かく見守っていたのだった。
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