転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第5巻第5章 サミュエルを探して

決着

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「あり……えない……」

 エリーの拳をもろに食らい、サミュエルはその場に膝をついた。

「あら、意外と弱かったのねあなた」

 口ではそんなことを言っているが、エリーは身体強化を解かず、複数の魔法をいつでもサミュエルへと放てる状態だ。

「この数年で何があったというのだ?」

 数年あればどうとでもなるだろう、と思ったマヤだったが、エリーは1000年程度は生きるエルフである。

 人間とは時間の感覚が違うことを加味すると、エルフにとって数年というのは数ヶ月くらいのものなのかもしれない。

 おそらく魔王オズウェルによってエルフに近しいくらいの寿命は与えられているであろうサミュエルも同じ感覚なのだろう。

「私が強くなったのはこの本とそこにいるマヤのおかげよ」

「何だそれは……「オリガの魔法入門」? 魔法の入門書? そんなもので何が変わるというのだ」

「まあ普通はそう思うわよね。でも、この本の内容は入門書じゃないのよ。それと、念の為言っておくけど、マヤは私よりよっぽど強いわよ?」

「そんなことは言われずともわかっている」

「そう、それじゃああなたの負けってことで。私の質問に答えてくれるかしら? 私の母、あなたがエリスって別人格を上書きした女性を元に戻す方法を教えなさい」

「いいだろう……と言いたいところだが、それは無理だ」

「どうして?」

「簡単な話だ。あれは私の技術ではない」

「じゃあ誰の技術なのよ。魔王オズウェルかしら?」

「あの愚王にそんな技術があるものか。あれはプラシド、オズウェルお抱えの魔法使いの技術だ」

 オズウェル配下のはずのサミュエルが、オズウェルを愚王呼ばわりしたことが気になったマヤは、サミュエルへと近づいて話に加わる。

「愚王ってのは随分な言い草だね。一応オズウェルは主なんでしょ? 嫌いなの?」

「好きでも嫌いでもない。私は金で奴に雇われているだけだからな。あの魔王も仕事さえ問題なくこなせば態度などは気にしない」

「なるほど。それじゃあお金さえ払えば私達の味方になってくれたりする?」

「ちょっとマヤ、何言ってるのよ!?」

「え、だってサミュエルさんそこそこ強いし、仲間になってくれたら心強くない?」

「それはそうかもしれないけど……」

「今回の失敗で殺される可能性のある私にとっては魅力的な提案だが、それは無理だ」

 サミュエルはシャツの首元を指で下げてマヤたちに首を見せた。

 そこには、首をぐるっと囲むように魔法陣が描かれている。

「これは……なるほど……裏切ったら首が飛ぶみたいよ」

「そういうことだ」

「これもそのプラシドって魔法使いの技術?」

「ああ」

「エリーでも解除できなさそうなの?」

 エリーはかつてダニーの奴隷に入れ墨されていた魔法陣をいじって無効化したことがある。

 おそらくその魔法陣もプラシドが作成したものであるはずなので、今回も無効化できないかと思ったのだが……。

「うーん……難しいわね……随分と手が込んでるわ」

「自分の配下につける魔法陣は特別ってことか……。そうだなあ……じゃあ……」

 マヤは収納袋の中を漁る。

 その中からこぶし大の魔石を取り出した。

「あったあった。ねえサミュエルさん、これから一生私の言いなりでもいいかな?」

「どういうことだ?」

「まあまあいいから答えてみてよ」

「断ったらここで殺すのだろう?」

「まあそうだね。だって危ないし」

「だろうな。あの愚王のせいで殺されるくらいならお前の言いなりになるほうがましだ」

「よし、そういうことなら。えいっ!」

 マヤは手に持っていたこぶし大の魔石をサミュエルの胸の中心に叩き込んだ。

 自身へ強化魔法をかけた状態のマヤが、渾身の力で魔石を叩き込んだため、魔石はそのままサミュエルの胸に深くめり込んでしまう。

「ぐごばっ……!? ど、どうして……」

 助けてもらえる流れだったにも関わらず、瀕死の重傷を負わされたサミュエルは困惑してマヤを見上げる。

「まあまあ落ち着いてよ。強化ブースト!」

 困惑するサミュエルに微笑みかけたマヤは、魔物用の強化魔法を唱える。

 何をされているのかさっぱりわからないサミュエルと対照的に、エリーはマヤの意図を理解した。

(そういえば、魔石を埋め込んだ人間に強化魔法をかけることで魔人化ができるって書いてあった気がするけど……こんなに大雑把な手順だったかしら?)

 エリーは「オリガの魔法入門」に書いてあった魔人化の手順をとても大雑把に実行するマヤに不安を感じたが、その不安は杞憂に終わる。

「はい、完了。これでサミュエルさんは私の言いなりね」

「何だ、これは……傷が塞がっている……しかも、魔石が私の身体と一体になっている、のか?」

「理解が早いね。これでサミュエルさんは私の言いなりってわけ。そうだなあ……「逆立ちして3回回ってワンって鳴いて」」

 マヤは絶対にサミュエルがしないであろうことを命令する。

「なっ……身体が……!?」

 サミュエルは戸惑った表情を浮かべながら、その場で逆立ちすると、そのまま3回回り……。

「わんっ! くうぅ……屈辱だ……」

 大声で鳴いてから顔を歪めながら立ち上がった。

「まあこういうことだから。それと、首の魔法陣も消えてるはずだよ」

 サミュエルが首を確認すると、確かに魔法陣は消えていた。

「ねえマヤ、マヤって本当に何者なの? 魔法陣も書かずに魔人化してたみたいだし、なんかサミュエルも回復してるし……」

「まあ細かいことは気にしない気にしない。それよりサミュエルさん、早速だけどそのプラシドって人のところに案内してくれるかな」

「いいだろう……いや、いいでしょう。ご案内いたします」

「…………その無駄に丁寧なのが素なの? ちょっと鬱陶しいんだけど……」

「これが私の本来の話し方ですから。ご了承ください」

「あー……うん、じゃあもういいやそれで……」

 マヤはこんなことのために「魔人化した魔物使いから魔人への絶対命令権」を使ってまで命令するのもどうかと思ったので、サミュエルの話し方については好きにさせることにした。

「それでは早速ご案内いたします。マヤ様、先ほどの白い鍵を返していただけますでしょうか」

「さっきの鍵ね。はい」

 マヤは先ほどサミュエルが逃走しようとした時に奪い取った鍵をサミュエルへと返す。

「ありがとうございます。それでは早速……」

 サミュエルはドアに向かうと、先ほどの同様鍵穴などないドアノブに、その白銀の鍵を差し込んだ。

(あれって聖魔石の鍵だよね? ってことはルースみたいに空間転移できる道具なのかな?)

 マヤがそんなことを考えていると、サミュエルが差し込んだ鍵を回す。

 次の瞬間、部屋中を極光が満たした。

「マヤ様! エリー様! 気をつけてください、この光は本来のこの鍵の機能ではありません!」

「ええっ!?」

「ちょっとサミュエル! 早速裏切ったの!?」

「そうではありません! おそらく私の魔法陣は消えた時のための保険ではないかと……」

「なるほどね。それで私達はどこに――ってホントにここどこ!?」

 極光が収まり視界が回復したマヤたちの目の前に広がっていたのは一面の青空と、遥か下方に見える広大な森だった。

「また空じゃーーん!?」
 
 マルコスに過去の世界に飛ばされた時と同じ展開に、マヤは思わずそう叫んだのだった。
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