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第5巻第5章 サミュエルを探して

エリーの成長

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 複数の魔法を放ちながら身体強化でサミュエルへと近づいてくるエリーに、サミュエルはゆっくりと手をあげる。

「多少強くはなったようですが、これはどうです?」

 サミュエルは以前エリーと会った時のように、エリーの動きを止めようとした。

 しかし……。

「ほう……」

 今回はエリーを止めることはできず、サミュエルはそのまま距離を詰められてしまう。

「なるほど、あの時のあれはこういうカラクリだったのね」
 
 サミュエルは次々と繰り出されるエリーの魔法をかわし、自身もエリーへと魔法で反撃しなながら、エリーと距離を取った

「まさか私の拘束魔法の仕組みまで一瞬で看破できるようになっているとは……驚きました」

 サミュエル余裕の態度を崩さずに、エリーを称賛して拍手する。

「むしろ、私はなんでこんな簡単な魔法にかかっちゃったのか不思議だわ」

「なに、簡単なことですよ。私の拘束魔法は相手の体内、骨に干渉して相手の動きを止めるものです。その性質上魔法を遮る防御魔法を発動していない者にしか使用できません」

「じゃああの時は、私が貴方を攻撃しようとして身体強化に魔法を使ったから、あなたの拘束魔法にかかったってこと?」

「その通りです。ですから、今の貴方のように、複数の魔法を並列で発動できる者には全くもって使い物にならないんですよ、この魔法はね」

 サミュエルは相変わらず無駄に大仰な仕草で、きっちりと着込んでいたスーツのジャケットとベストを脱ぐとそのまま持物インベントリにしまう。

 最後にシャツの一番上をボタンを外すと、サミュエルは首を鳴らした。

「さて、魔法の並列発動ができる者と、それも5つ以上並列発動できる者と戦うのは久しぶりです。楽しませていただけると良いのですが……」

 その言葉の次の瞬間、サミュエルの姿がエリーの視界から消えた。

(へえ、なかなか速いじゃん)

 サミュエルの前に姿を表したエリーと違い、身を潜ませたままのマヤは、サミュエルの動きに感心していた。

(カーサほどじゃないけど、聖魔石の剣で私の強化魔法を受けてない時のウォーレンさんくらいには速いかな。おっ、エリー反応できてるじゃん)

 マヤがのんきにサミュエルの力を分析していると、その視界の中でエリーがサミュエルの攻撃を受け止めたところだった。

「なるほど……物理防御は捨てましたか」

「張るだけ魔力の無駄よ。どうせすぐ破られるんだしね」

 どうやらエリーは防御魔法を魔法のみ防ぐように変更し、サミュエルが仕掛けてくる肉弾戦には肉弾戦で応戦するつもりらしい。

「面白い。いつまで耐えられますかね?」

 サミュエルは酷薄な笑みを口元に浮かべると、拳を、膝を、蹴りを、肘をと、エリーへと打撃の雨を降らせる。

 それをエリーが受け止める度、屋敷全体が大きく振動していた。

 突然始まった激しい打撃の応酬に、そこから生み出される衝撃波に、元々サミュエルの近くにいた奴隷商人は部屋の端まで吹き飛ばされてしまい、泡を吹いて気絶している。

「どこまででも耐えてみせるわ。あんたの攻撃ぐらいね」

 エリーはその言葉通り、サミュエルが放つすべての攻撃を的確に予測し、その全てをもれなく受け止めていく。

「…………何があったのですか?」

 自分が本気になればエリーなど造作もなく倒せると確信していたサミュエルは、攻撃の手を緩めることなく思わず呟いていた。

「貴方には関係のないことよ。1つ言えるとしたら、私は頑張ったの。それだけよ」

「そんなはずはない……そんな数年努力した程度で……っ!」

 サミュエルはエリーの言葉を聞いて攻撃の手を一層激しくする。

 一見するとエリーの安い挑発に乗ったように見えるサミュエルだが、その頭の中は冷静そのものだった。

(これはまずいですね……このままでは埒が明かない。時間がかかるだけならいいですが、万が一やられるようなことがあるといけません。幸い相手は小娘1人。隙を見て逃げるのが正解でしょうね……)

 サミュエルは懐に閉まってある白銀の鍵へと意識を向ける。

 その時、わずかに視線が懐へと向いてしまったサミュエルだったが、この攻防の中でエリーがそれに気がつくことはないだろうと、再び戦闘へと視線と意識を戻す。

 サミュエルは攻撃の手を緩めずに3つの魔法を発動して、エリーに向けて放った。

 エリーはサミュエルに応戦しながらサミュエルの魔法に魔法を当てて相殺するが、その過程で一瞬の隙が生まれてしまった。

「ふんっ!」

「きゃっ……!?」

 エリーはサミュエルに足払いを食らって大きくバランスを崩す。

 サミュエルの攻撃が打撃のみだったので、エリーは足払いへの反応が遅れてしまったのだ。

 エリーは追撃を警戒して即座にサミュエルへと視線を戻そうとしたが、そこにサミュエルの姿は無かった。

「どこに……ん?」

 せわしなく首を動かしたエリーがサミュエルを見つけたのは、部屋のドアの前だった。

「あなたは強くなりました。私が敗北してしまうかもしれないと思うほどにね。ですから今回は引かせてもらいます」

 サミュエルは懐から白銀の鍵を取り出すと、ドアノブに差し込んだ。

 鍵穴などないドアノブに、まるでそこに鍵穴があるかのようにその鍵が差し込まれた瞬間、木製の茶色いドアが白銀のドアへと変化する。

「へえ、その鍵ってそういう使い方をするんだね~」

「誰だ!?」

 ドアをくぐれば無事逃走成功だ、と安心してサミュエルは、突然隣から聞こえて来た声に驚愕する。

「初めましてだね、サミュエルさん。エリーたちに色々酷いことしたんだって? 聞いてるよ?」

 場違いに軽いノリでサミュエルの脇腹を肘でつつこうとしたマヤに、サミュエルは迷わず拳を叩き込んだ。

「もう、容赦ないなあ。エリーに受け止められる程度の攻撃が私に効くとでも?」

「なん……だと……」

 サミュエルの拳を指1本で受け止めたマヤに、サミュエルは思わず言葉を失った。

「鍵の使い方が分かったから、これは没収ね。逃げずに戦いなさーい」

 いつの間にやらドアから鍵を引き抜きサミュエルから鍵を奪い取っていたマヤは、明るく言うとひらひら手を振ってサミュエルから離れていく。

 その背中を呆然と見ていたサミュエルの頬を、強烈な拳が襲った。

「ぐはっ……!」

「よそ見してる場合じゃないでしょ?」

 サミュエルを殴り飛ばしたエリーは、サミュエルが立ち上がった瞬間にはすぐ目の前に迫っており、次の拳を繰り出していた。

「ちぃっ!」

「さて、どこまで耐えられるかしらね?」

 最初に自分がエリーに言った言葉をそっくりそのまま返されたサミュエルは思わず歯噛みする。

「舐めるなよ! 小娘が!」

 いつもの慇懃無礼な口調を乱し、サミュエルは大きく吠えるとエリーの攻撃を捌きながら自身もエリーに攻撃する。

 屋敷全体を震わせながら、2人の攻防は続いたのだった。
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