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第5巻第5章 サミュエルを探して

力こそ正義

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「へえ、本当にサミュエルのこと知らないんだ?」

「あ、ああっ! 本当に俺は何も知らない! だ、だからっ……!」

 マヤは足元にすがりついてくる奴隷商人へ、ニッコリと笑って告げる。

「でもさ? さっき話を聞いたおじさんは、あなた経由でサミュエルと連絡をとってるって言ってたんだけど……本当に知らないんだね?」

 表面だけ見れば、笑顔で優しく問いかけているマヤだが、目の前で護衛をボコボコされた奴隷商人からすれば、その笑顔には恐怖しか感じない。

「あいつ……っ!」

「やっぱり知ってるんじゃない。ねえマヤ、もう寝かしちゃっていいかしら?」

「そうだね、それじゃ続きはエリーにお願いするよ。いい夢見れるといいね、おじさん」

 マヤがひらひらと手を振ったと同時に、奴隷商人を急激な睡魔が襲う。

 そのままその場で眠り始めた奴隷商人の頭に、エリーがそっと手をおいた。

 数分後、エリーが大きく息を吐いて立ち上がる。

「わかったわ。どうやらこの屋敷にサミュエルが出入りしてるみたいね」

「よっし! やっとサミュエルの尻尾を掴めたね」

「ええ、やったわね。それにしても疲れたわ……どれだけ用心深いのかしら……」

「ねえ……まさかこんなに時間がかかるとは思わなかったよ」

 マヤたちがクロイスに到着してから1ヶ月。

 毎日毎日休まずサミュエルの手がかりを探していたのだが、最初の2週間は全く手がかりがなかった。

 そして3週間目にようやく見つかった「サミュエルという人物からの情報で奴隷売買が上手くいった」という情報から、その出どころを辿りに辿って、ようやくサミュエル本人の情報にたどり着いたのだ。

「でも、それだけ用心深い奴が、今のこの屋敷に来るかしら?」

 エリーが辺りを見回すと、そこには破壊されて散らかった調度品の数々と、気絶させられて床に転がっている護衛たちの姿があった。

「来ないと思います……2人とも暴れすぎですよ。毎回ですけど……」

 部屋の入り口辺りで奴隷商人への尋問を見守っていたハイメが呆れたように言いながら部屋に入って来る。

「ハイメの言う通りだ。特にマヤ、お前ならもっときれいに奴隷だけ倒せただろう?」

「まあそれはそうなんだけどさ。でも、できるだけ全力で向かってくる護衛を倒したほうが、この人も怯えてくれそうじゃない? そうすれば、すんなりサミュエルの情報を吐いてくれるんじゃないかなあ、なんて」

「たしかにそうかもしれんが、実際吐かなかっただろ?」

「それはまあ……」

「シャルルさんそれくらいにしてあげて。ほら、これでいいでしょう?」

 エリーは魔法で部屋の状況をマヤが暴れる前の状態に戻す。

「すごいね……オリガもこの魔法使ってたけど、どういう原理?」

修復リペアを広範囲に使ってるだけよ。原理は説明できるけど……多分マヤにはわからないわよ? それでも聞く?」

「いや、やめとくよ。多分全くわからないから」

「それがいいわ。それで、後はサミュエルを待てばいいってことよね?」

「そうだね。ついでだからこの屋敷を私達の拠点にしちゃおうか」

「そんなことをしてサミュエルに不審がられないか?」

「そこは気をつけないとだけど、どっちにしろここにしばらく張り込まないといけないわけだから、1部屋くらいは色々いじらないとだし」

「それもそうか。それでは早速取り掛かろう」

 シャルルとハイメは手頃な部屋がないか探すべく廊下へと出ていった。

「エリーはこの奴隷商人と護衛を今まで通り動かしつつ、私達には気が付かないようにしてほしいんだけど、そういうことってできるかな?」

「そうね……たぶんだけどできるわ。これに書いてあったから」

「いやできるの!? 流石に無茶振りかなって思ったんだけど……というか何書いてるのさオリガ……」

 一応入門書のはずの「オリガの魔法入門」に、家主に今まで通り生活させつつ勝手に居候する方法が書いてあるのというのはどうなのだろうか。

「確かここらへんに……あったわ。えーっと、ヘンダーソン王国? の王子に攫われた知人を助けに行ったときにこの魔法があればもっとスムーズだっただろうな、と思ったから作った、って書いてあるわよ?」

「私のせいじゃん! なるほど、だからそんな魔法が書いてあるのか……いや、でも入門書に書く必要なくないかな……? まあいいや、とりあえず今役に立ってるし」

「それじゃあこの魔法をこいつらにかければいいのね?」

「うん、お願い」

 エリーは早速、オリガの魔法入門を片手に魔法の準備をし始める。

「これでやっとサミュエルとは接触できそうだね」

 ひとまず魔王オズウェルへの足ががりであり、おそらくエリーたちの真の仇であるサミュエルと接触できる見込みがたち、マヤはそう呟いたのだった。

***

「お久しぶりですサミュエル様」

 奴隷商人は突然訪ねて来たサミュエルを、手を揉みながら腰を低くして屋敷へ迎え入れる。

「来たわね」

 その様子を別の部屋から魔法で見ていたエリーは小さく呟いた。

「思ったより早かったね。結構頻繁に来てるのかな?」

 マヤたちが奴隷商人の館に潜伏し始めてから3日目、サミュエルが屋敷を訪れた。

「そうかもしれないわね。今のところ気が付かれていないみたい。マヤ、準備はいい?」

「もちろん。打ち合わせ通りでいいかな?」

「ええ、問題ないわ。行くわよ」

「うん」

 マヤとエリーは頷き合うと、勝手に拠点化していた部屋から音もなく廊下へと移動し、そのままサミュエルの元へと駆けていく。

「なんだ?」

 音もなく気配もなく移動していたはずの2人だが、サミュエルはマヤたちの姿が見える前に異変に気がついた。

 流石は魔王の配下といったところだろう。

「バレちゃったならしょうがないわね」

 エリーは奇襲を諦めてサミュエルの前に姿を表す。

「あなたは確か……そうです、ダニーのところにいたエルフのお嬢さんですね。どうしたんですか、こんなところで」

「あら、覚えていてくれたのね?」

「ええ、私は紳士ですので。女性のことを忘れたりしませんよ」

 サミュエルは余裕の表情で大仰に頭を下げてみせる。

 相変わらず慇懃無礼という言葉がぴったりな男だな、とエリーは心のなかで毒づいた。

「そう。それじゃあ、この人も覚えてるかしら?」

 エリーはぱちんと指を鳴らすと、魔法で手元に映像を映し出す。

 そこに映っているのは、エリーの母エメリスだった。

「もちろんですとも。ダニーが言いなりにしたいとうるさかったものですから、人格を封印して別の人格を作る方法を教えて差し上げました」

「…………そう、やっぱりあなただったのね」

「おや、あなたはその女性、確か新しい人格はエリスと言いましたか……と知り合いなのですか?」

「あなたには関係ないことよ」

「確かにそうかもしれません」

 エリーに冷たくあしらわれたサミュエルは、特に堪えた様子もなく肩をすくめる。

「念の為聞いておいてあげるわ。この人を元の人格に戻す方法を教えなさい」

「嫌だと言ったら?」

 サミュエルのその言葉を聞いた瞬間、エリーは魔法を複数発動しながらサミュエルへと襲いかかったのだった。
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