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第5巻第5章 サミュエルを探して

近くにいた尋ね人

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「しかしマヤ、オズウェルを倒すと言っても、オズウェルがどこのいるか知っているのか?」

 シャルルの問いかけに、マヤは首を横にふる。

 エリーをハイメがおんぶして連れ帰った日の翌朝、マヤとシャルルは宿の部屋で魔王オズウェルについては話し合っていた。

「全く知らないね。でも、魔王って言うくらいだから、どこにいるか有名だったりしないの?」

「魔王にも色々いるからな。魔王オズウェルの居場所については、少なくとも私は聞いたことがない」

「ふむ……それじゃあまずはそこからか」

「とりあえずエリーに聞いてみてはどうだ?」

 エリーは随分前から魔王オズウェルを倒すべく動き始めていたようなので、オズウェルの居場所を知っていても不思議ではない。

「それもそうだね。それと、奴隷王も探さないと……」

「奴隷王……これだけ探しているのに見つからないとは、相当用心深いのだな」

「ねえ~。そういえば、エリーってダニーの奴隷商人の地位と富を引き継いでるんだっけ?」

「たしかにそんなことを言っていたな。それがどうし――ああ、そういうことか」

「そうそう、そういうこと。もしかして奴隷王のこと知らないかなって」

「それは聞いてみる価値はあるかもしれないな」

「でしょ? 早速今日の練習の後に聞いてみよう」

 マヤはそう言って立ち上がると、いつもエリーと一緒に訓練をしている場所へと向かったのだった。

***

「また負けたわ~っ!」

 マヤに剣の切っ先を突きつけられたエリーは、そのまま後ろに大の字になって倒れる。

「はあはあ……いや、本当に最近はぎりぎり対応できてる感じだよ。本当に次から次へと魔法を発動してくるようになったよね」

 マヤは少し乱れた息を整えながら、エリーへと手を差し伸べる。

「それでもマヤは全部かわすか斬るかしてくるじゃない。こっちは攻撃だけで4つも同時に魔法を使ってるっていうのに」

「前から言ってるけど、戦闘経験が違うからね。エリーだって何回もやっていけば慣れるって」

「そういうものかしら?」

「そういうものだよ。ねえ、シャルルさん」

「そうだな、私のような冒険者の中でちょっと強いくらい剣士から見ても、エリーは時々戦い下手だな、と感じることがある。なにか言ってやりたいところだが、こればっかりは慣れるしかないからなあ……」

「そういうものなのね……わかったわ、これからも訓練を続けるしかないのね」

「そういうこと。もちろん実戦が一番ではあるんだけど、危ないからね」

「わかったわ。頑張ってみる」

「うん、頑張ってみて。私も手伝うからさ」

「そういえばマヤ、今日はエリーに聞くことがあっただろう?」

 シャルルの言葉に、マヤはエリーに聞こうと思っていたことを思い出した。

「そうだったそうだった。ねえエリー、エリーって一応奴隷商人なんだよね?」

「ええそうね。と言っても、ダニーの持っていたものをそのまま引き継いだってだけだから、私がなにか奴隷商人としてすごいわけでも、奴隷商人として今でも奴隷の売買を続けているってわけでもないんだけどね」

「それでもそれなりの地位の奴隷商人なんでしょう?」

「そうみたいね。ダニーがそれなりの地位みたいだったから」

「その奴隷商人として地位を見込んでお願いがあるんだけどいいかな?」

「内容によるけど、マヤのお願いならできる限り聞くわよ」

「じゃあ教えてほしいんだけどさ、奴隷王って呼ばれている奴隷商人を探してるんだけど、知らないかな?」

 マヤの質問に、エリーは一瞬驚いた後、マヤにジト目を向けた。

「ねえマヤ、それわかってて質問してるでしょ?」

「へ? なんのこと?」

 突然エリーに訝しがられたことに目を丸くするマヤに、エリーはマヤが本当に何も知らずに聞いてきたのだと気づいた。

「いえ、何でもないわ。疑ってごめんなさい」

「それは別にいいんだけど、エリーは私が何をわかってると思ってたの?」

「それは、私がその奴隷王その人だってことよ」

「え?」

「は?」

「「ええええええええええええっ!?」」

 エリーとシャルルの驚きの声が響く中、エリーは自嘲気味に笑った。

「これでもしマヤかシャルルさんのどちらかが私の命を狙う殺し屋だったら、私はおしまいだわ」

「えーっと、本当に奴隷王なの? エリーが?」

「ええ、そうよ。私、というより私の地位、すなわちダニーが持っていた地位が奴隷王、って感じね。まあ奴隷王って名前自体通称なんだけど」

「それでは、エリーが開催しようと思えば、オーガの奴隷の奴隷品評会を開くことも可能か?」

 突然エリーへと距離を詰めて顔を近づけてきたシャルルに、エリーはややたじろぎながら答える。

「私の持っている権限の中に奴隷品評会の開催、っていうのがあったはずだから、できると思うわよ。ただ、私は開いたことがないから具体的な手順は全く知らないわ」

「そうか……それではすぐに開催できるものではないのだな」

「そうね。少し時間をちょうだい。逆に私も2人教えてほしいことがあるんだけど良いかしら?」

「もちろん! 何でも聞いて」

「実は奴隷王のことを嗅ぎ回ってる怪しい2人組がいたんだけど心当たりないかしら?」

「え? そんな人たちがいたの?」

「ええ、何でも白い髪の女の子と屈強な男剣士の2人組で、どうにも女の子の方が強いらしいのよ」

「ん? それって……」

「ああ、それは……」

「あら、2人共どうしたの?」

 顔を見合わせるマヤとシャルルにエリーは首をかしげる。

「たぶんだけど、それは私たちだよ」

「ええっ!? だってマヤたちはどちらも女の子じゃない? 私は調べた情報だと、片方は屈強な男の剣士だって聞いてるわよ?」

「あー、それはねえ――」

 マヤは少し前までシャルルがさらしで胸を押さつけ、男のような格好をした剣士だったことを伝えた。

「なんでそんなに立派な胸をしてるのに、それを押さえつけて目立たないようにしてたのかしら?」

 エリーから非難の目を向けられたシャルルは、今は女物の下着と洋服によって豊かな膨らみを作っている胸を両腕で抱いてしゃがみ込む。

「そんな目で見ないでくれ……私にとっては本当に剣を振るのに邪魔だったのだ!」

「ふうん、そうなんだ?」

 ちなみにマヤとシャルルは知る由もないが、昨日の夜からハイメがシャルルの胸がすごかったという話を何度かしているため、エリーはシャルルの胸を目の敵にしているのだ。

「あだっ……こらエリー! 胸を叩くな!」

「ほらほら、エリー落ち着いてって」

「そうね、シャルルさんの胸を叩いても私の胸が大きくなるわけじゃないし。でも、そうなのね、マヤとシャルルさんが私を嗅ぎ回ってた奴らだったのね」

「私たちも、まさか探してた奴隷王がエリーだったなんて驚きだよ」

 こうしてマヤたちは、探し求めていた奴隷王を見つけることができたのだった。
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