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第5巻第4章 エリーの過去
エリーの過去10
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「ハイメに、ふれるなあああああ!」
エリーは叫ぶと同時に、エメリスに向けて魔法を放つ。
怒りに任せて放った攻撃魔法は、全く加減ができていなかった。
氷槍によって放たれた尖った氷が、狙い過たずエメリスに迫る。
「エリーちゃん!」
思わず叫んだクローナだったが、その時にはもう、エメリスが氷の槍によって貫かれた後だった。
「エリーさん、どうして……」
エメリスに迫られていたところを助けてもらったハイメまでも、エリーの行動に驚きを隠せない様子だった。
「はあはあはあ……私、どうして……」
魔法を放ったエリー自身も、自らの行動に驚いている様子だ。
エリーは魔法を放った自身の手と、その魔法で見るからに致命傷を負ってしまった母を交互に見る。
「今治癒魔法を使うから!」
クローナはエメリスに駆け寄ると、すぐに治癒魔法をかけ始める。
しかし、エメリスに添えられたその手は、エメリスによって掴まれ、エメリスから離されてしまう。
「ちょっと……待ってちょうだい……クローナちゃん……」
先ほどハイメを襲った時と異なり、昔懐かしい柔らかな笑みを浮かべるエメリスに、クローナは思わず涙が溢れた。
「エメリスさん!? エメリスさんなんですね!?」
「ええ……エリーの魔法で……ようやく……解放された……わ」
「お母さん!」
昔の母に、エリーが会いたかったエメリスに戻ったことに気がついたエリーも、エメリスのもとの駆け寄るとその手を取った。
「強く……なったのね……エリー」
「お母さん……お母さんっ! ごめん……ごめんなさい……私……」
「いいのよ……お陰で……久しぶりに……表に出てこれたわ」
それから途切れ途切れのエメリスの説明によると、ダニーが魔法や洗脳などの手法を使ってエメリスの精神を封印し、エリスという新しい人格を作ったのだという。
その結果としてエメリスの意識と記憶は表面に出てくることができず、エリーのことを何も知らないエリスという人格が自分の身体を操っているのを身体の中から見ていたということだった。
「じゃあ、どうして今はお母さんなの?」
「それはね……エリーが私の身体を……瀕死に……追い込んだからよ……」
「じゃあ、今お母さんを回復すると……」
「そうよ……だから……もう私のことは……諦めて……ちょうだい……」
「そんな……」
エメリスの言葉に、クローナは何も言えなくなってしまった。
「諦めないわ……」
「エリー……」
エリーの言葉に、エメリスはゆっくりとエリーの頭を撫でる。
エリーはその手を取ると、エメリスの目を正面から覗き込んだ。
「要するに、エリスの人格が表に出て来られないようにすればいいのよね?」
「それはそうだけど……どうするつもり」
「先送りでしかないけど……いつかなんとかするわ。治癒」
「やめて! またエリスが出てきてっ……」
「心配ないわお母さん。その代わり、少し長く眠ってもらうことになるけどね」
「どういうこと……?」
「細かい説明をしている時間はないわ。お母さんはエリスが出てこられないのように少しだけ耐えてくれる?」
「わ、わかったわ……」
エリスが出てこないようにしてくれなどと言われても、エメリスはそんなことやったこともないので、できるかどうか不安だった。
しかし、娘のエリーが自分のために頑張ってくれているのに、自分が頑張らないわけにはいかないと、エメリスはなんとか意識を強く持ち、エリスに精神を乗っ取られまいとする。
「それと、クローナお姉さんはお母さんから離れておいて」
「それはいいけど、エリーちゃん、一体何をするつもり?」
「後で説明するわ。それじゃ行くわよ。冬眠!」
呪文を唱えた瞬間、エリーの手から冷気が噴出し、同時にエメリスを急激な眠気が襲う。
しばらくして冷気が収まると、そこには静かに眠るエメリスの姿があった。
「冬眠? エリーちゃん、何? 今の魔法……」
クローナは聞いたこともない魔法を使ったエリーに驚きつつ、眠っているエメリスに近寄る。
そしてゆっくりとエメリスの手に触れて、そのあまりの冷たさに、慌ててエリーを振り返った。
「ちょ、ちょっと、エリーちゃん!? まさかエメリスさんを殺しちゃったんじゃないよね!?」
「落ち着いてクローナお姉さん。えーっと、どれどれ……」
エリーはエメリスの頭の近くにしゃがみ込むと、ゆっくりと首に手を添えた。
「………………うん、脈はあるわね。ペースも理想的だわ」
「え? 脈あるの?」
エリーの言葉に、クローナも慌てて握っていたエメリスの手首に掴み、脈を確認する。
「って、やっぱり脈ないじゃん!」
「だから落ち着いてってクローナお姉さん。しばらく待ってれば脈が来るはずだから」
エリーの言葉に、クローナは半信半疑でもう一度エメリスの手首に指を添える。
通常なら数十回は脈を数えられるほど待った頃、ようやくエメリス手首から1回だけ脈を数えることができた。
「確かに脈はあるみたいだけど……めちゃくちゃ間隔長くない? それに、身体も冷たいんだけど」
「うん、それが重要なのよ」
「それが重要?」
「動物の冬眠って、クローナお姉さんも知ってるでしょ?」
「熊とかが冬の間穴の中で眠って過ごすってやつでしょ? それは知ってるけど、なんで突然そんな……あっ!」
「気がついた? 流石クローナお姉さんね」
「じゃあさっきの魔法は人間を冬眠させる魔法ってこと?」
「簡単に言えばそういうことよ」
「なるほど、そうすればひとまず冬眠している間は、エリーさんのお母さんの身体の中でエリス様の人格が表に出てくることはないってことですね」
ようやくエリーの意図に気がついたハイメが、感心したようにつぶやく。
「そういうこと。でも、これは問題の先送りでしかないわ」
「だよね。根本的にエリスの人格がなくなったわけじゃないわけだし」
「でも、ひとまずお母さんは取り戻せたわ」
「うん、今はそれで良しとしよう」
こうしてエリーは一応母親を取り戻すことに成功したのだった。
その後エリーは、ダニーが持っていた奴隷商人としての地位と、ダニーが蓄えていた莫大な富を手に入れた。
その地位と富でエルフの奴隷をすべて買い取り、買い取ったエルフすべてを解放し続けて今に至る。
***
「まあざっとこんなところね」
長い長い昔話を終えたエリーは、そう締めくくると大きく長く息を吐いた。
「そんなことが……」
エリーはマヤが考えていたよりずっと複雑な事情を抱えていた。
その事情を考えれば、エリーの先ほどの行動も理解できると言うものだ。
「そうだ、さっきの話でいくつか確認したいことがあるんだけど」
「何かしら」
マヤはエリーに、気になっていることを質問し始めたのだった。
エリーは叫ぶと同時に、エメリスに向けて魔法を放つ。
怒りに任せて放った攻撃魔法は、全く加減ができていなかった。
氷槍によって放たれた尖った氷が、狙い過たずエメリスに迫る。
「エリーちゃん!」
思わず叫んだクローナだったが、その時にはもう、エメリスが氷の槍によって貫かれた後だった。
「エリーさん、どうして……」
エメリスに迫られていたところを助けてもらったハイメまでも、エリーの行動に驚きを隠せない様子だった。
「はあはあはあ……私、どうして……」
魔法を放ったエリー自身も、自らの行動に驚いている様子だ。
エリーは魔法を放った自身の手と、その魔法で見るからに致命傷を負ってしまった母を交互に見る。
「今治癒魔法を使うから!」
クローナはエメリスに駆け寄ると、すぐに治癒魔法をかけ始める。
しかし、エメリスに添えられたその手は、エメリスによって掴まれ、エメリスから離されてしまう。
「ちょっと……待ってちょうだい……クローナちゃん……」
先ほどハイメを襲った時と異なり、昔懐かしい柔らかな笑みを浮かべるエメリスに、クローナは思わず涙が溢れた。
「エメリスさん!? エメリスさんなんですね!?」
「ええ……エリーの魔法で……ようやく……解放された……わ」
「お母さん!」
昔の母に、エリーが会いたかったエメリスに戻ったことに気がついたエリーも、エメリスのもとの駆け寄るとその手を取った。
「強く……なったのね……エリー」
「お母さん……お母さんっ! ごめん……ごめんなさい……私……」
「いいのよ……お陰で……久しぶりに……表に出てこれたわ」
それから途切れ途切れのエメリスの説明によると、ダニーが魔法や洗脳などの手法を使ってエメリスの精神を封印し、エリスという新しい人格を作ったのだという。
その結果としてエメリスの意識と記憶は表面に出てくることができず、エリーのことを何も知らないエリスという人格が自分の身体を操っているのを身体の中から見ていたということだった。
「じゃあ、どうして今はお母さんなの?」
「それはね……エリーが私の身体を……瀕死に……追い込んだからよ……」
「じゃあ、今お母さんを回復すると……」
「そうよ……だから……もう私のことは……諦めて……ちょうだい……」
「そんな……」
エメリスの言葉に、クローナは何も言えなくなってしまった。
「諦めないわ……」
「エリー……」
エリーの言葉に、エメリスはゆっくりとエリーの頭を撫でる。
エリーはその手を取ると、エメリスの目を正面から覗き込んだ。
「要するに、エリスの人格が表に出て来られないようにすればいいのよね?」
「それはそうだけど……どうするつもり」
「先送りでしかないけど……いつかなんとかするわ。治癒」
「やめて! またエリスが出てきてっ……」
「心配ないわお母さん。その代わり、少し長く眠ってもらうことになるけどね」
「どういうこと……?」
「細かい説明をしている時間はないわ。お母さんはエリスが出てこられないのように少しだけ耐えてくれる?」
「わ、わかったわ……」
エリスが出てこないようにしてくれなどと言われても、エメリスはそんなことやったこともないので、できるかどうか不安だった。
しかし、娘のエリーが自分のために頑張ってくれているのに、自分が頑張らないわけにはいかないと、エメリスはなんとか意識を強く持ち、エリスに精神を乗っ取られまいとする。
「それと、クローナお姉さんはお母さんから離れておいて」
「それはいいけど、エリーちゃん、一体何をするつもり?」
「後で説明するわ。それじゃ行くわよ。冬眠!」
呪文を唱えた瞬間、エリーの手から冷気が噴出し、同時にエメリスを急激な眠気が襲う。
しばらくして冷気が収まると、そこには静かに眠るエメリスの姿があった。
「冬眠? エリーちゃん、何? 今の魔法……」
クローナは聞いたこともない魔法を使ったエリーに驚きつつ、眠っているエメリスに近寄る。
そしてゆっくりとエメリスの手に触れて、そのあまりの冷たさに、慌ててエリーを振り返った。
「ちょ、ちょっと、エリーちゃん!? まさかエメリスさんを殺しちゃったんじゃないよね!?」
「落ち着いてクローナお姉さん。えーっと、どれどれ……」
エリーはエメリスの頭の近くにしゃがみ込むと、ゆっくりと首に手を添えた。
「………………うん、脈はあるわね。ペースも理想的だわ」
「え? 脈あるの?」
エリーの言葉に、クローナも慌てて握っていたエメリスの手首に掴み、脈を確認する。
「って、やっぱり脈ないじゃん!」
「だから落ち着いてってクローナお姉さん。しばらく待ってれば脈が来るはずだから」
エリーの言葉に、クローナは半信半疑でもう一度エメリスの手首に指を添える。
通常なら数十回は脈を数えられるほど待った頃、ようやくエメリス手首から1回だけ脈を数えることができた。
「確かに脈はあるみたいだけど……めちゃくちゃ間隔長くない? それに、身体も冷たいんだけど」
「うん、それが重要なのよ」
「それが重要?」
「動物の冬眠って、クローナお姉さんも知ってるでしょ?」
「熊とかが冬の間穴の中で眠って過ごすってやつでしょ? それは知ってるけど、なんで突然そんな……あっ!」
「気がついた? 流石クローナお姉さんね」
「じゃあさっきの魔法は人間を冬眠させる魔法ってこと?」
「簡単に言えばそういうことよ」
「なるほど、そうすればひとまず冬眠している間は、エリーさんのお母さんの身体の中でエリス様の人格が表に出てくることはないってことですね」
ようやくエリーの意図に気がついたハイメが、感心したようにつぶやく。
「そういうこと。でも、これは問題の先送りでしかないわ」
「だよね。根本的にエリスの人格がなくなったわけじゃないわけだし」
「でも、ひとまずお母さんは取り戻せたわ」
「うん、今はそれで良しとしよう」
こうしてエリーは一応母親を取り戻すことに成功したのだった。
その後エリーは、ダニーが持っていた奴隷商人としての地位と、ダニーが蓄えていた莫大な富を手に入れた。
その地位と富でエルフの奴隷をすべて買い取り、買い取ったエルフすべてを解放し続けて今に至る。
***
「まあざっとこんなところね」
長い長い昔話を終えたエリーは、そう締めくくると大きく長く息を吐いた。
「そんなことが……」
エリーはマヤが考えていたよりずっと複雑な事情を抱えていた。
その事情を考えれば、エリーの先ほどの行動も理解できると言うものだ。
「そうだ、さっきの話でいくつか確認したいことがあるんだけど」
「何かしら」
マヤはエリーに、気になっていることを質問し始めたのだった。
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