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第5巻第4章 エリーの過去

エリーの過去8

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「エリーさん!」

「こら、そんな大きな声で呼ばないの!」

 合流してきた今日は休みのダニーの護衛を、エリーは声を殺して叱りつける。

「すみません、つい……」

 今日の作戦がうまくいけばダニーから開放されることが嬉しいのか、エリーのもとにやってきた護衛のテンションは高めだった。

「それで、今日の護衛の配置は?」

「こちらです」

 明らかに年下であるエリーに対し、護衛のエルフは丁寧な口調でいうと護衛の配置が書かれた地図を差し出した。

 エリーが護衛の魔法陣を書き換えて助けてからというもの、護衛たちはエリーに対して敬意を払っていた。

「ありがとう。ふむ……予想通りね」

「なんとかなりそうですか?」

「ええ、この配置ならね。今日当番の護衛のみんなにはちょっと痛い目にあってもらわないとだけど」

「それは仕方ないことでしょう。彼らも喜んで協力すると言っていましたし」

「そう言ってくれると助かるわ。それじゃ、私は行ってくるから、あなたは家族のところに戻りなさい」

「はい、了解です」

 護衛は最後にエリーへ1つ礼をすると、サッと姿を消した。

 このあたりの動きを見ていると、ダニーの護衛たちがいかに優れた戦闘能力を持っているかがわかるというものだ。

(さて、それじゃあ予定通りいきましょうか)

 エリーは身体強化で路地裏から飛び出すと、1人目の護衛に向かって疾駆したのだった。

***

「さて、これで護衛は全部倒されちゃったわけだけど、どうするのかしら、ダニーさん?」

 目深にフードを被った少女に護衛のすべてを無力化され、名を呼ばれたダニーは震え上がる。

「ひいぃ……っ!?」

 エリーが最初の護衛を襲撃してから十数分後、エリーは最後の護衛を気絶させると、くるりとダニーへ振り返った。

 短く悲鳴を上げたダニーの周りには、ほとんど戦闘能力を持たない商人の部下たちがダニーと一緒に腰を抜かしていた。

「な、何が目的だ、この小娘!」

「あら、威勢がいいじゃない? 何が目的って……心当たりなら腐る程あるんじゃない?」

 エリーは大げさな仕草でフードを取り払うと、その美しい金髪を掻き上げダニーへとその耳を見せつけた。

「エルフ……なるほど、そういうことか」

「そういうことよ。それじゃ、みんなまとめて死んで頂戴」

 エリーは身体強化で加速した足でダニーへと一瞬で迫ると、そのままダニーのすぐ隣りにいた商人の首へと手刀を叩き込んだ。

 ベギゴッという嫌な音ともに、ダニーの部下は断末魔を上げる暇もなくその場に倒れてしまう。

 その首は完全に頭を支えられておらず、完全に外見上繋がっているというだけだった。

「わかった、交渉っ! 交渉しようじゃないか!」

 目の前で部下の一人を瞬殺されたダニーは、すがるような瞳でエリーを見上げる。

 それに絶対零度の視線を返したエリーは、ダニーへと顎で続きを話すように促す。

 普段ならそんな高圧的な態度をとる者がいればどんな手段を使ってでも謝罪させるダニーだが、今は命が惜しいのか素直に続きを話し始めた。

「お前の望みを叶えてやる! 金か? 男か? それともエルフの開放か?」

 最後の一言にエリーの眉がピクリと動いたのをダニーは見逃さなかった。

「エルフの開放がお前の望みだな? いいだろう、お前が望むエルフを開放しよう」

 持ち前の交渉術で窮地を脱せそうなところだったダニーの唯一の失敗は、最初からすべてのエルフを開放すると言わなかったことだろう。

「はあ、この期に及んで爆破バースト

 ため息とともにエリーが指を鳴らすと、ダニーの周りにいた部下たちが爆発四散した。

 ベチョという音ともに、ダニーの頬に生暖かい肉片がへばりつく。

「ひいぃっ……わかった、開放する、全てだ、全てのエルフを開放するから命だけは……っっ」

「へえ、全てのエルフを、ね。それはもちろんあなたがエリスって呼んでるエルフも含まれるのよね?」

「それは……」

 ダニーが一瞬躊躇したことで、エリーはゆっくりとダニーの頭に指を向ける。

 それを見たダニーは慌ててエリーの前にひれ伏した。

「当然だ! エリスも含めて全てのエルフを開放する! だから私だけは……」

「そう、ありがとう。それじゃあもうあなたには用はないわね」

 冷たく言い放ったエリーに、ダニーは青ざめた顔でエリー足に取り縋ると、捲し立てる。

「頼む。私の殺せばエルフ開放は不可能だ。嘘じゃない。見ろ、この魔法陣を! これがなにか、エルフの魔法使いである貴様ならわかるだろう?」

 ボタンを弾き飛ばす勢いで上半身の服を脱ぎ捨てたダニーは、そのままエリーへと背中を見せる。

 そこにはダニーの言う通り魔法陣が入れ墨されていた。

「なるほど、あなたを殺すとすべての奴隷が死ぬようになってるのね」

 すぐにその魔法陣の効果を看破したエリーは、蔑みきった目でダニーを見下ろす。

「そういうことだ。これを解除できるのは私だけっ――なぜだ! や、やめろっ!?」

 ダニーの予想に反してゆっくりと手を上げたエリーに、ダニーの思考は混乱を極めた。

「悪いけど、何があってもあんたは殺すって決めてたのよ」

「やめろ……やめてくれ……っっ!」

 みっともなく泣き始めたダニーに、エリーは冷たく言い捨てる。

爆破バースト

 エリーの魔法によって、ダニーは他の部下たち同様、その場で爆発四散し、後は四方八方に飛び散った血で地面に描かれた血華だけが残ったのだった。

***

「ふう……やっぱりもう一つ保険があったみたいね」

 エリーはゆっくりと目を開けると、ダニーの頭から手を離した。

「お疲れ様、エリーちゃん」

 夢の操作による尋問を終えたエリーを、クローナが飲み物差し出しながら労ってくれる。

 最後の護衛を無力化した時点でダニーとその部下たちは眠らされ、エリーが用意した町外れの小屋に連れ込まれていたのだ。

 つまり、ダニーが部下ともども爆死したのは、すべてエリーが見せた夢だったのだ。

「ありがとう、クローナお姉さん」

「それで、最後の保険って?」

「こいつの背中に魔法陣があるわ。どうやらこいつが死ぬと事前に魔力が溜め込まれた水晶か何かから魔法が発動して、こいつが自分の奴隷だと思ってる人全員を道連れにするみたいね」

「おそろしいですね、それは……」

「でも、わかってしまえばなんてことないわ。魔力が溜まってる場所も大体わかるしね」

「それじゃあエリーちゃんはそっちに行ってきて。この人たちは私が眠らせ続けておくわ」

「うん、お願い」

 エリーは立ち上がると、ダニーの屋敷へと向かったのだった。
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