上 下
215 / 324
第5巻第4章 エリーの過去

エリーの過去5

しおりを挟む

「ここで待ってればそのエリスって人が見れるのね?」

「そのはずです」

 ハイメからエリーの母かもしれない人物の情報を聞いたエリーたちは、早速その日のうちに、ハイメの案内で件のエリスとやらの姿を外から見ることができるらしい建物の屋根の上に来ていた。

「それにしてもよくこんな場所を知ってたね。完全に除きポイントじゃない?」

「あはは、まあそうですね。実は先輩のエルフたちがエリス様のことが大好きで、なんとかその姿を見れる場所はないものか、って街中を探し回って見つけた場所らしいです」

「なるほどね。てっきりハイメ君がそのエリス様って人を覗き見したくて見つけたのかと思っちゃった」

 いたずらっぽく笑ってハイメをからかうクローナに、ハイメは顔を真っ赤にして慌てる。

「そ、そんなわけないじゃないですかっ! それに僕は年上より同い年くらいの女の子が――んぐっ!?」

「うるさいわよ。見つかったらどうするの。クローナお姉さんもハイメをからかわないで」

「わー、怒られちゃった」

 全く反省した様子がないクローナに、エリーはジト目を向ける。

「ごめんごめん。でも、静寂サイレントを使ってるから声じゃ見つからないって」

「それはそうかもしれないけど……」

「ぷはっ……じゃあどうして僕の口を塞いだんです?」

 エリーの手から口を開放されたハイメは、不思議そうに尋ねる。

「それはね――」

 面白そうに意地悪く笑ったクローナがハイメに耳打ちしようとしたことに、嫌な予感がしたエリーは無理矢理に話題を変えた。

「2人とも、そろそろみたいよ」

「ちぇー、いいところだったのに」

 クローナはわざとらしく口をとがらせて拗ねてみせたが、すぐにエリスが見えるらしい場所に視線を移した。

「それは一体どういう……」

「ハイメは気にしなくていいのよ」

 エリーはクローナが何を言おうとしたのか気になる様子のハイメの腕を引っ張ると、自分の隣に引き寄せる。

 絶世の美少女と言ってもいいエリーと密着する形となりどうにも落ち着かないハイメだったが、すぐ隣のエリーが真剣にエリスが見えるポイントを見つめているのを見て、ハイメもなんとか思考を切り替える。

「…………っ!? まさかっ……!?」

 エリーたちが見つめる先にエリスが現れた瞬間、エリーは思わず呟いて、それ以上言葉が続かなかった。

「エリーさん?」

 明らかに普通ではないエリーの反応にハイメが戸惑っていると、反対側からびっくりするくらい冷たい声が聞こえてくる。

「エメリスさん……それに、あの男は、間違いない……っ」

「ク、クローナさん!?」

 先ほどまでの優しく明るく、時々お茶目なお姉さんといった様子から一変し、クローナの声には負の感情が溢れていた。

 後悔、憎悪、憤怒……そんな感情が入り混じり濃縮されたようなクローナの声に、ハイメの背筋に冷たい汗が流れる。

 エリスを見るなり様子のおかしくなった2人にハイメどうすればいいのか分からないでいると、その隣でエリーがスッと立ち上がった。

「あいつを殺して、取り戻してくるわ」

 クローナに負けず劣らずの冷たい声音で呟いたエリーは、そのまま屋根の縁から身を躍らせようとする。

 それに気がついたハイメは咄嗟にエリーの腰に抱きついてエリーを制止した。

「離して!」

 突然男の子に抱きつかれたことに恥ずかしがる余裕もなく、エリーはハイメを見下ろして怒鳴りつける。

「駄目だって!」

 しかし、ハイメも引き下がらずにより一層強くエリー腰を抱きしめた。

「なんでよ! 今あいつの近くには誰もいないじゃない!」

「そう見えるだけなんだよ! エリーさんがどれくらい強いかは知らないけど、まず間違いなく殺されちゃうよ!」

「……どういうことよ?」

 ハイメの必死さに、本当に今出て行くと危ないのではないか、と不安になり少し冷静さを取り戻したエリーはハイメに尋ねる。

「僕らの主にはエルフの精鋭が護衛として付いてるんだ。彼らは命がけで僕らの主を守ってる」

「エルフがあのエルフの敵でしかない男を守ってるっていうの?」

「そうだよ。もちろん、彼らだって好きでそんなことをしてるわけじゃない。彼らは家族を人質に取られてるんだ」

「家族を人質に……外道ね」

 クローナは冷たく吐き捨てると、一層軽蔑を込めた瞳でハイメの主を見る。

「その上、彼らは身体に入れ墨された魔法陣の効果で、僕らの主に攻撃するとそれが全部自分の家族に行ってしまうようにされてるんだ。だから、主を殺して自由になることもできない」

「酷いわね……」

「そんなエルフの護衛が常に5人は僕らの主を守ってる。だから、正攻法で僕らの主を襲うのは自殺行為なんだよ」

「……わかったわ。今は見るだけにする」

「わかってくれてよかったよ」

 エリーが諦めてくれたことに、ハイメはほっと胸をなでおろす。

 相変わらずエリーの腰に、抱きついたまま。

「………………ねえハイメ?」

「何かな?」

「………………いつまで抱きついているつもりかしら?」

 落ち着いた途端恥ずかしくなってきたのか、エリーはぷるぷると震えながらハイメを見下ろす。

「……っ!? ご、ごめん!」

 ハイメは慌ててエリーから離れると、顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。

 そんな甘酸っぱいやり取りをしている2人を見て、クローナはやれやれとため息をついた。

 クローナもまた、今は引き下がるしかないことを理解して冷静さを取り戻していた。

「はいはい、それじゃいったんに宿に戻るよ、2人とも」

 クローナは踵を返すと、魔法で近くの路地へと軽やかに着地する。

「…………私たちも行きましょう」

 エリーはハイメに手を差し出す。

 奴隷であるハイメは魔封じの拘束具のせいで魔法を使えないため、屋根の上から下りるにはクローナかエリーに一緒に下りてもらうしかないのだ。

「…………うん、ありがとう」

 まだどこか気まずそうな2人は、手をつなぐと屋根から路地へと消えていったのだった。

***

「でも、四六時中護衛をつけてるのに、どうやってお母さんを助ければいいのよ」

「お母さん?」

 宿に戻りソファーに座るなりぼやいたエリーに、ハイメが反応した。

「そういえばハイメには言ってなかったわね」

 エリーはクローナに目配せする。

「もう教えてもいいんじゃないかな。さっきので私たちの目的もわかっちゃっただろうし、あそこまで必死にエリーちゃんを止めたハイメ君のことは信じていいと思うしね」

 クローナの言葉にエリーは1つ頷くと、エリー達の過去と、エリスとエリー達の関係について話し始めたのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

ひだまりを求めて

空野セピ
ファンタジー
惑星「フォルン」 星の誕生と共に精霊が宿り、精霊が世界を創り上げたと言い伝えられている。 精霊達は、世界中の万物に宿り、人間を見守っていると言われている。 しかし、その人間達が長年争い、精霊達は傷付いていき、世界は天変地異と異常気象に包まれていく──。 平凡で長閑な村でいつも通りの生活をするマッドとティミー。 ある日、謎の男「レン」により村が襲撃され、村は甚大な被害が出てしまう。 その男は、ティミーの持つ「あるもの」を狙っていた。 このままだと再びレンが村を襲ってくると考えたマッドとティミーは、レンを追う為に旅に出る決意をする。 世界が天変地異によって、崩壊していく事を知らずに───。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

処理中です...