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第5巻第4章 エリーの過去
エリーの過去4
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「んんっ……ここは……」
少年が目を覚ますと、そこは見慣れない天井だった。
(そもそも僕はどうして寝ていたんだっけ……?)
少年は自分の最後の記憶を思い出そうとする。
(そうだ、確か今日もお客様にお飲み物を運ぶ時に失敗して、店長に店から叩き出されたんだった……)
少年は奴隷として働いていた居酒屋でミスをして、そのまま罰として店から追い出されたことを思い出した。
最後にまともな食事をもらったのがいつかわからないほど長い間食べ物を口にしていなかったため、店から少し行ったところの路地裏で意識を失っていたのだろう。
(でも、それならなんで僕はこんなところにいるんだろう? それに、このお姉さんと女の子は……エルフ?)
少年は少年が寝ているベッドと同じベッドに寝ている女性と、少し離れたところにあるソファーで眠っている少女へと目を向ける。
その2人は少年と同じく特徴的な尖った耳をしていた。
それは間違いなくエルフの特徴だった。
「あのー……」
起こすのは少し申し訳ないような気がしたが、起きて貰わないことには状況がわからないので、少年は控えめに声をかけてみる。
「んっ……んんーっ、ふわあぁ……」
少年の問いかけに気がついたのか、少年の隣で眠っていた女性が目を覚まして上体を起こすと、大きく伸びをした。
「……っ!?」
薄手の寝間着を着ていたせいで、女性の胸が目の前で揺れて少年は思わず目をそらした。
寝顔からもわかっていたが、その女性は人間に比べて見た目の美しい者が多いエルフの中でも整った目鼻立ちをしており、歓楽街の有名な遊女達に比べても遜色がないほどだった。
「おはよう。エリーちゃーん? この子起きたみたいだよー」
「んっ…………んん? おはようクローナお姉さん。それと、ああ……起きたのね。おはよう。以外と元気そうじゃない」
エリーと呼ばれた少女は女性改めクローナに挨拶すると、少年に目をやって少し安心したように呟いた。
エリーもクローナと同様、美形揃いのエルフの中でもとびきりの美少女と言っていい可愛らしさだった。
それは美女は見慣れているはずの少年が、思わず直視できないほどだ。
「その、どうして僕はお2人と同じ部屋で寝ていたんでしょう?」
「あなた道で倒れてたのよ。だからとりあえずここまで運んできたの。重かったのよ? 感謝してよね」
「そうなんですか……その、ありがとうございます」
「それはそうと、なんであんなところで倒れてたのかな? 君は――っと、その前に自己紹介だね。私はクローナ。そっちの女の子はエリーね。君の名前は?」
「ハイメって言います。お姉さんたちと同じエルフです」
「それは見たらわかるわ。なんであんなところで倒れてたのよ」
「実は――」
ハイメは自分が路地裏で意識を失うまでの経緯を説明した。
「それで倒れてたってわけね」
「やっぱり奴隷だったのね」
「クローナお姉さんはわかってたの?」
「まあね」
「この数字、ですね」
「ええ、それは奴隷を管理する用の番号よね」
「その通りです。僕はこの街の歓楽街を仕切っている大商人が所有している奴隷の1人です」
「その大商人って……」
「そうかもしれないね。ハイメ君、君の所有者は、この子をそのまま大人にしたようなとてもきれいなエルフの女性を所有してないかな?」
「エリーさんを大きくしたような……?」
言われてハイメは改めてエリーに目を向けると、その容姿を確認した。
エルフらしい白磁のように白い肌に、朝日を反射してキラキラと輝く金の髪。
整った目鼻立ちはエルフの中でも美少女と言っても異論が出ないレベルだ。
「ここまで可愛い女の子をそのまま大きくしたような女性ですか……」
「かわっ……!? なっ、ななっ……」
何やらエリーが口をパクパクさせて頬を染めていたが、すでに視線を中空にやって思い当たりそうなエルフを探していたハイメは、それに気がつかなかった。
「あらあら、ハイメ君はもしかして天然の女たらしなのかしら?」
面白そうに頬に手を当てるクローナの言葉に、ハイメは首を傾げる。
「え? なんのことです?」
「ふふふっ、何でもないわ、気にしないで」
「はあ、そうですか……?」
「それよりどうかしら? エリーちゃんをそのまま大きくしたようなエルフに心当たりはないかしら?」
「そうですね、一番近いのはエリス様かもしれません」
「エリス様? 誰かしらそれは」
未だに耳まで真っ赤にしてうつむいているエリーを放っておいて、クローナはハイメに質問する。
「この街で一番の遊女です。私と同じ主が所有するエルフの奴隷なのですが、それはそれはお美しい方で、彼女を抱けるのは所有者である私の主人と、一握りの大商人や大貴族だけだとか」
「ふうん、なるほどね。そのエリス様というひとが、エリーちゃんに似てるのね?」
「はい。エルフの中でも白く透き通るような美しい肌と、輝く金髪に作りものかと思ってしまうほど整った目鼻立ちが特徴の方で、今の可愛いエリーさんがそのまま大きくなったらエリス様みたいになるんだろうなあ、って思いました」
「ま、またっ……か、かわいい、って……」
ようやく落ち着きを取り戻してきたエリーは、再びハイメがエリーを可愛いと言ったせいで、ボンッと音が聞こえそうなほどの一気に顔を赤く染める。
あまりに初心で可愛らしい反応に、クローナは思わず微笑んでしまった。
「ハイメ君がそう言うなら、きっとそのエリス様って言うのが私たちの探している人ね。そして、ハイメ君の主が、私たちの――」
殺すべき相手、という言葉をクローナは流石に口にすることはなかった。
なぜならこのハイメという少年が、本当に信用できるかまだわからないからだ。
それに、信用に足る人物だとしても、自分たちの復讐に直接的には無関係なハイメを巻き込むのは気が引けた。
「私たちの、なんですか?」
「ううん、何でもないわ。さて、そろそろ朝食にしましょうか」
その言葉を聞いた途端、ハイメのお腹が大きな音を立てた。
「……あはは、ごめんなさい……」
笑って誤魔化しながら頭をかくハイネの手を、エリーが掴んでベッドから立ち上がらせた。
「あんた、そういえばお腹が空いて倒れたんだったわよね?」
「そうですね、お恥ずかしながら」
柔らかく微苦笑するハイメに、エリーはぷいっと顔を背けながら。
「だったら早くご飯食べに行くわよ。また倒れられたら困るしね」
とエリーは言うなりハイメの手を引いてドアへ向かうと部屋を出て言ってしまう。
「ちょ、ちょっと、エリーさん! 自分でついていけますからー」
自らに手を引いてどんどんと進んでいくエリーに、戸惑った声を上げるハイメ。
そんな2人を微笑ましく眺めながら、クローナも2人に続いて部屋を出ていったのだった。
少年が目を覚ますと、そこは見慣れない天井だった。
(そもそも僕はどうして寝ていたんだっけ……?)
少年は自分の最後の記憶を思い出そうとする。
(そうだ、確か今日もお客様にお飲み物を運ぶ時に失敗して、店長に店から叩き出されたんだった……)
少年は奴隷として働いていた居酒屋でミスをして、そのまま罰として店から追い出されたことを思い出した。
最後にまともな食事をもらったのがいつかわからないほど長い間食べ物を口にしていなかったため、店から少し行ったところの路地裏で意識を失っていたのだろう。
(でも、それならなんで僕はこんなところにいるんだろう? それに、このお姉さんと女の子は……エルフ?)
少年は少年が寝ているベッドと同じベッドに寝ている女性と、少し離れたところにあるソファーで眠っている少女へと目を向ける。
その2人は少年と同じく特徴的な尖った耳をしていた。
それは間違いなくエルフの特徴だった。
「あのー……」
起こすのは少し申し訳ないような気がしたが、起きて貰わないことには状況がわからないので、少年は控えめに声をかけてみる。
「んっ……んんーっ、ふわあぁ……」
少年の問いかけに気がついたのか、少年の隣で眠っていた女性が目を覚まして上体を起こすと、大きく伸びをした。
「……っ!?」
薄手の寝間着を着ていたせいで、女性の胸が目の前で揺れて少年は思わず目をそらした。
寝顔からもわかっていたが、その女性は人間に比べて見た目の美しい者が多いエルフの中でも整った目鼻立ちをしており、歓楽街の有名な遊女達に比べても遜色がないほどだった。
「おはよう。エリーちゃーん? この子起きたみたいだよー」
「んっ…………んん? おはようクローナお姉さん。それと、ああ……起きたのね。おはよう。以外と元気そうじゃない」
エリーと呼ばれた少女は女性改めクローナに挨拶すると、少年に目をやって少し安心したように呟いた。
エリーもクローナと同様、美形揃いのエルフの中でもとびきりの美少女と言っていい可愛らしさだった。
それは美女は見慣れているはずの少年が、思わず直視できないほどだ。
「その、どうして僕はお2人と同じ部屋で寝ていたんでしょう?」
「あなた道で倒れてたのよ。だからとりあえずここまで運んできたの。重かったのよ? 感謝してよね」
「そうなんですか……その、ありがとうございます」
「それはそうと、なんであんなところで倒れてたのかな? 君は――っと、その前に自己紹介だね。私はクローナ。そっちの女の子はエリーね。君の名前は?」
「ハイメって言います。お姉さんたちと同じエルフです」
「それは見たらわかるわ。なんであんなところで倒れてたのよ」
「実は――」
ハイメは自分が路地裏で意識を失うまでの経緯を説明した。
「それで倒れてたってわけね」
「やっぱり奴隷だったのね」
「クローナお姉さんはわかってたの?」
「まあね」
「この数字、ですね」
「ええ、それは奴隷を管理する用の番号よね」
「その通りです。僕はこの街の歓楽街を仕切っている大商人が所有している奴隷の1人です」
「その大商人って……」
「そうかもしれないね。ハイメ君、君の所有者は、この子をそのまま大人にしたようなとてもきれいなエルフの女性を所有してないかな?」
「エリーさんを大きくしたような……?」
言われてハイメは改めてエリーに目を向けると、その容姿を確認した。
エルフらしい白磁のように白い肌に、朝日を反射してキラキラと輝く金の髪。
整った目鼻立ちはエルフの中でも美少女と言っても異論が出ないレベルだ。
「ここまで可愛い女の子をそのまま大きくしたような女性ですか……」
「かわっ……!? なっ、ななっ……」
何やらエリーが口をパクパクさせて頬を染めていたが、すでに視線を中空にやって思い当たりそうなエルフを探していたハイメは、それに気がつかなかった。
「あらあら、ハイメ君はもしかして天然の女たらしなのかしら?」
面白そうに頬に手を当てるクローナの言葉に、ハイメは首を傾げる。
「え? なんのことです?」
「ふふふっ、何でもないわ、気にしないで」
「はあ、そうですか……?」
「それよりどうかしら? エリーちゃんをそのまま大きくしたようなエルフに心当たりはないかしら?」
「そうですね、一番近いのはエリス様かもしれません」
「エリス様? 誰かしらそれは」
未だに耳まで真っ赤にしてうつむいているエリーを放っておいて、クローナはハイメに質問する。
「この街で一番の遊女です。私と同じ主が所有するエルフの奴隷なのですが、それはそれはお美しい方で、彼女を抱けるのは所有者である私の主人と、一握りの大商人や大貴族だけだとか」
「ふうん、なるほどね。そのエリス様というひとが、エリーちゃんに似てるのね?」
「はい。エルフの中でも白く透き通るような美しい肌と、輝く金髪に作りものかと思ってしまうほど整った目鼻立ちが特徴の方で、今の可愛いエリーさんがそのまま大きくなったらエリス様みたいになるんだろうなあ、って思いました」
「ま、またっ……か、かわいい、って……」
ようやく落ち着きを取り戻してきたエリーは、再びハイメがエリーを可愛いと言ったせいで、ボンッと音が聞こえそうなほどの一気に顔を赤く染める。
あまりに初心で可愛らしい反応に、クローナは思わず微笑んでしまった。
「ハイメ君がそう言うなら、きっとそのエリス様って言うのが私たちの探している人ね。そして、ハイメ君の主が、私たちの――」
殺すべき相手、という言葉をクローナは流石に口にすることはなかった。
なぜならこのハイメという少年が、本当に信用できるかまだわからないからだ。
それに、信用に足る人物だとしても、自分たちの復讐に直接的には無関係なハイメを巻き込むのは気が引けた。
「私たちの、なんですか?」
「ううん、何でもないわ。さて、そろそろ朝食にしましょうか」
その言葉を聞いた途端、ハイメのお腹が大きな音を立てた。
「……あはは、ごめんなさい……」
笑って誤魔化しながら頭をかくハイネの手を、エリーが掴んでベッドから立ち上がらせた。
「あんた、そういえばお腹が空いて倒れたんだったわよね?」
「そうですね、お恥ずかしながら」
柔らかく微苦笑するハイメに、エリーはぷいっと顔を背けながら。
「だったら早くご飯食べに行くわよ。また倒れられたら困るしね」
とエリーは言うなりハイメの手を引いてドアへ向かうと部屋を出て言ってしまう。
「ちょ、ちょっと、エリーさん! 自分でついていけますからー」
自らに手を引いてどんどんと進んでいくエリーに、戸惑った声を上げるハイメ。
そんな2人を微笑ましく眺めながら、クローナも2人に続いて部屋を出ていったのだった。
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