転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第5巻第3章 過去の世界へ

エリーvsマヤ2

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「この辺りなら大丈夫そうね」

 前を歩くエリーが立ち止まったのは、町外れの草原のど真ん中だった。

「こんなに街から離れなくても良かったんじゃない?」

「それはそうかもしれないけど、一応よ、一応。万が一流れ弾で家とか道とか壊しちゃったら色々めんどくさいし」

「流れ弾で家や道を壊せるような攻撃をするつもりなの?」

 サラッと怖いことを言うエリーに、マヤは思わず頬を引つらせる。

 実際はマヤであればその程度の魔法攻撃はどうとでもなるのだが、それを知らないはずのエリーがそんな攻撃をするつもりなのかと思うと、正直ゾッとした。

「まさか。マヤがよっぽど強くって、その上全く手加減をしてくれなくて、私が威力を制御する余裕がないような状況にでもならない限りは、そんな高威力の魔法を使う予定なんてないわよ」

「なあんだ、良かった……」

「でも、万が一にもそういう事態になったときの為に……はいこれ」

 マヤはエリーからよくわからない装飾が施された杭を2本受け取る。

「何これ?」

「これは結界を張るための魔道具よ。魔力を流したこの杭を四隅に刺せば、その内側が結界で囲まれるの。マヤはそっちに2本刺してちょうだい」

 エリーはマヤにそう言うと、回れ右して自分の後方に間隔を開けて2本の杭を刺す。

 マヤもそれに習い、できるだけ正方形になるように自分の後方に間隔を開けて2本の杭を刺すと、エリーのところに戻った。

「魔力は流してくれた?」

「うん、流しといたよ」

「よし、それじゃあ発動!」

 エリーがパンと1回拍手をすると、四隅の杭かが淡い光を放ち始め、その直後、杭と杭の間に魔力の壁が生成された。

「ほう、すごいものだ」

 結界の外では、シャルルがパンパンとその魔力でできた壁を叩いている。

 音からして結構な力で叩いているようだが、魔力の壁はびくともしていなかった。

「準備できた感じかな?」

「そうね、後はこれをつければ、っと」

 エリーが辺りを照らす魔道具を上に投げると、そのままその魔導具はマヤとエリーの頭上の高いところで停止し光を放ち始めた。

「これで準備完了ね。早速始めましょう」

「了解。いつでもいいよ」

 マヤはエリーと少し距離を取ると、剣の柄に軽く手をかける。

「そう、それなら遠慮なくいかせてもらうわ!」

 エリーがそう言って手を横に薙ぐと、その動作に合わせて4つの魔法がエリーの頭上に展開される。

(6つまで発動できるって言ってたから、それが嘘じゃなければ……)

 マヤは強化魔法で加速した思考で冷静に状況を分析すると、エリーの頭上の魔法陣は一旦無視してエリー本体へと斬りかかる。

 もしなんの防御魔法も展開されていなかったら寸止めしよう、と思っていたマヤだったがその心配は杞憂に終わる。
 
 マヤの予想通り、マヤの剣はエリーの手前で見えない壁に阻まれて止まっていた。

 そして、剣が止まったことで同時に止まったマヤの手を、一瞬のすきをついてエリーの手が掴んでいた。

 その力はいつものエリーからは考えられないほど強い。

「やっぱり、残りの2つは防御魔法と身体強化だったんだね」

「その通りよ。そして、これでおしまいね!」

 エリーの言葉にマヤが上を見ると、頭上の魔法が完成し、マヤに降り注いでくるところだった。

「なるほど、これじゃ回避できないね」

「ふふん、そうでしょう?」

 マヤは現在、エリーに剣を持った手を掴まれているため、剣を振ることも、その場から動くこともできない。

 なので普通に考えれば、マヤの言う通りエリーの魔法は回避できないだろう。

 エリーが勝ちを確信するのも無理はない話だった。

 が、それはあくまで、エリーとマヤの力が対等だった場合の話だ。

(なるほど、エリーは思ったより戦い慣れてるみたいだね。これは私もちょっとだけ本気出さないと……でも、どうしようかなあ)

 あまり本気を出しすぎて目立つのも良くないと思っているマヤは、どの程度本気を出したものか考える。

 しばらく考えたマヤは、とりあえずエリーよりちょっと強いくらい、という感じを目指すことにした。

「それっ!」

「わわっ!? な、何今の!? って、ああ!」

 マヤはエリーに掴まれていた手を、もう片方の手で掴んで1方向に引っ張り上げることで、エリーの手から離すことに成功する。

 ちなみに今の動きは特別な技術などではなく、マヤが向こうの世界にいた頃に不審者に手を掴まれたときの抜け出し方、として教わったごくごく簡単なものだ。

「はあああっ!」

 エリーの拘束から開放されたマヤは、そのまま迫りきていたエリーの魔法の1つを切り裂くと、そこから抜け出してエリーの背後に迫る。

 本来であれば後ろに回ったところで防御魔法に守られているエリーには傷1つつけられないはずなのだが……。

「動揺したでしょ? 防御魔法が解けてるよ?」

 剣の切っ先をうなじに突きつけられたエリーは、大人しく両手を上げた。

「私の負けね……それにしても、あそこから逆転されるなんて」

「あはは、まあこれでもそこそこ強いからね、私」

 あっけらかんと言うマヤに、エリーはジト目を向ける。
  
「そこそこって、魔法を斬る剣士なんて聞いたことないわよ? マヤって本当何者なの?」

「ただの冒険者だよ。それに、魔法を切ったっていうより、魔法で作られた氷柱を斬っただけだから、意外とできる剣士は多いと思うよ? 炎を斬ったわけじゃないんだからさ? 普通だよ普通」

「そう、なのかしら?」

 普通だと言い張るマヤにエリーが流されそうになっていると、呆れた様子のシャルルが結界の外から会話に入ってくる。

「こらこらエリー、マヤの言う事を真に受けてはいけないぞ? こいつの感覚は色々おかしいからな」

「シャルルさん、ちょっと酷くない? 私ズレてないと思うんだけどー?」

「普通なものか。普通の少女は私より強かったりしないだろう?」

「うぐっ……それは……」

「そうね、6個も魔法を並列発動できる魔法使いに勝ったりもしないと思うわ」

「うぐぐっ……やっぱり普通じゃ、ない?」

「ああ、普通じゃないな」

「ええ、普通じゃないわね」

 異口同音に言って頷く2人に、マヤは肩を落とす。

「そっかあ、普通じゃないのかあ……」

 一応目立たないように気をつけていたマヤだったのだが、どうやら今くらいの力を見せただけでも目立ってしまうらしい。

 マヤはその昔マッシュと一緒に冒険者をしていた時に、国王に認知されてしまう程度に目立ってしまっていたことを思い出した。

 あの時は目立って困ることはなかったのでよかったのだが、今はそうもいかない。

 過去の世界目立ってしまい、歴史に影響が出てしまっては困るからだ。

 マヤはこれからはこれまで以上に目立たないようにしないと、と心の決めたのだった。
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