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第5巻第3章 過去の世界へ

裸の付き合い

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「相変わらずすごいよね」

 街の浴場の脱衣所で、マヤはさらしから開放されたシャルルの立派な胸を見てしみじみとつぶやく。

「おい、そんなに見るな、恥ずかしい」

「別にいいじゃん、女同士なんだし」

 厳密には、マヤは元男なのだが、良くも悪くもすっかり女であることに慣れてしなっているため、今さら女性の裸で興奮したりはしない。

「それでもだ。そんなに凝視しないでくれ」

 シャルルは脱いだ服をたたみ終えると、浴場に向かって歩き出す。

「シャルルさんは恥ずかしがり屋だなあ」

 マヤもシャルルを追いかけていた浴場へと歩き出した。

「マヤが堂々とし過ぎなのだ」

 シャルルの言う通り、マヤは全くタオルで隠したりせずに裸体を晒している。

「だって、女の人しかいないじゃん。それに、自分で言うのもなんだけど、私の身体、なかなか綺麗じゃない? 隠す理由とかないじゃん?」

 マヤは少し早足でシャルルの前に出ると、洗い場の中程で両手を広げてくるりと回ってみせた。

「それは否定しないが……」

 シャルルは自分の身体を見下ろし、再びマヤの身体へと目を向ける。

 自分でいうだけあって、マヤの身体は少し小柄なことを除けば、適度に出るとこは出て引っ込むところは引っ込んだ、均整の取れたものだった。

「でしょ? でも、シャルルさんだってきれいな身体してるんだから、もっと堂々としていいと思うよ?」

 マヤは浴槽から桶で汲んだお湯をかぶると、髪を洗い始める。

「いや、私は……胸が大きすぎるから……」

 マヤに一緒に髪を洗い始めていたシャルルは、手を止めて胸に手をおいてそんなことを言った。

「…………そんなこと言ってると全世界の貧乳の方々に殺されるよ?」

「そんなこと言っても仕方ないだろう、気になるものは気になるのだ」

「うーん、まあ確かにシャルルさんの胸は規格外に大きいけど、そういうのが好きな男の人も多いと思うけどなあ」

 大きければいいというものではないし、みんながみんな大きければ大きいほど好きなわけでは無い、というのは、元男であるマヤはよく知っている。

 しかしながら、どちらかといえば大きい方が好きな男が多いのは、ほぼ間違いないだろうとマヤは思っている。

「そうか? 流石にここまで大きいと男性的にも気持ち悪いんじゃ……」

「いや、気持ち悪いってことはないでしょ? 形もきれいだし」

 マヤは髪と身体を洗い終え、立ち上がると浴槽へと向かった。

 シャルルも身体を洗い終えて浴槽へと向かう。

「形がきれいと言われてもなあ」

 シャルルがお湯に浸かると、その大きな胸がお湯に浮かんだ。

「「おお~、すごい」」

 思わず声を上げたマヤと一緒に、マヤから見てシャルルの向こう側から、全く同じつぶやきが聞こえてきて、マヤはシャルルの向こうへと首を伸ばす。

「ん? あなたは?」

「ごめんなさい、すごかったからつい」

 シャルルの向こう側にいたのは、小柄なマヤよりもさらに小柄な少女だった。

 よく見ると、その耳は両方とも尖っている。

 どうやらその少女はエルフらしかった。

「だよね、すごいよね」

「お、おいマヤ!」

 断りもなくシャルルの片方の胸を持ち上げたマヤに、シャルルは驚いて声を上げる。

「うん、すごい。私なんてまだこんななのに」

 エルフの少女は全く起伏のない自身の身体を見下ろしながら悲しそうにつぶやく。

「大丈夫だよ、あなたはエルフだから、きっと大きくなるって」

「でも、お姉さんみたいな大きさの人は、エルフにもいない」

「確かにね。これは規格外だから。でも、あなたも――って、よければ名前を教えてくれる?」

「人に名前を聞くときは、自分から名乗るものでしょ?」

 見た目だけなら年下のエルフの少女の言葉に、マヤは頷いた。

「それもそうだ。私はマヤ。こっちの胸の大きなお姉さんはシャルルさん」

「胸の大きなお姉さん……」

 マヤの雑な紹介にシャルルが何かをつぶやいていたが、マヤはそれを無視する。

「私はエリー。この街に住んでる。お姉さんたちは旅の人? 初めて見たけど」

「うん、今朝この街に着いたんだよ」

「そうなんだ。この街はどう? と言っても大きな奴隷市場がある以外普通の街なんだけど」

「そういえばどうしてこの街にはあんなに大きな奴隷市場があるの?」

「私もこの街の生まれではないから、昔お母さんに聞いた話なんだけど、何でもその昔近く美女の村って呼ばれてる村があったらしいの」

「美女の村?」

「聞いたことがある。数百年前この辺りに美しい女性が多い村があったらしい」

「そう、その村が美女の村よ。その村も人々にはエルフの血が混ざっていると言われていてね。エルフほどじゃないけど、長寿で年老いても美しい女性が多かったそうよ」

「ふうん……でもどうして突然そんな話を……」

「わからない? エルフのように魔法に秀でているわけでもなく、でも見た目はエルフのように美しい女性がいる村があったのよ? あとはわかるでしょう?」

「そうか、その村が奴隷商人に襲われて……」

「そういうこと。村人をまとめて攫ってきた奴隷商人が、この街で奴隷市場を開いたのよ。それはそれは大盛況だったそうよ。なにせ、見た目はエルフの美しさな上、エルフの奴隷の管理で一番面倒な魔法の対策はいらないんだもん」

「ひどい話だね……」

「全くだ……」

「そうね、ひどい話よね。でも、おかげでこの街は栄えている。皮肉ね」

 見た目に似合わず憂うを帯びた表情をするエリーに、マヤはこの少女の年齢がわからなくなってしまう。

 まあ、エルフの年齢は本人から年齢を聞いたあとでも信じられない場合も多いので、わからなくて当然かもしれないが。

「湿っぽくなっちゃったわね、ごめんなさい。最後に一応言っておくけど、私はこの街の奴隷市場についてはなんとも思ってないわ。流石に、良いものだ、って肯定したりはしないけどね」

 エリーはそれだけいうと、すっとお湯から上がり脱衣所の方に歩いていく。

 エルフなのに奴隷市場のことをなんとも思っていないとは、変わった子だな~、などと考えながらマヤがエリーの後ろ姿を見ていると、エリーが突然ふらついた。

「危ない!」

 とっさに飛び出したマヤは、エリーが床に頭をぶつける前になんとかその身体を受け止めることに成功する。

「大丈夫、エリー……って、気を失ってる? のぼせちゃったかな?」

「そのようだな」

 大人びた雰囲気に見た目より年齢が高いのだろうかと思った矢先、のぼせて倒れるという見た目相応に子どもらしい一面を見せられて、マヤはますますエリーという少女がわからなくなるのだった。
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