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第5巻第3章 過去の世界へ
奴隷品評会
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「奴隷品評会?」
マヤは聞き慣れない言葉に、思わずオウム返しで質問してしまう。
「そうだ」
「私初めて聞いたんだけど、その奴隷品評会っていうのは何なの?」
「奴隷の能力や容姿などを比べて評価する品評会だな」
「そのまんまだね。でも、それでどうしてオーガの奴隷だけを集めることができるの? 他の奴隷も来ちゃわない?」
未来の世界のマヤであれば、他の奴隷がきても全員まとめて開放してあげればいいだけなので問題ないのだが、この過去の世界ではそうはいかない。
オーガ以外の奴隷については、その後の歴史に影響が出かねないので基本的には干渉できないからだ。
なのでマヤとしては、救ってあげられない奴隷まで集まってきてしまうのは、精神衛生上よろしくない。
「その心配はない。奴隷品評会はエルフならエルフの奴隷だけ、ドワーフならドワーフ奴隷だけ、オーガならオーガ奴隷だけというように、種族ごとに別々に行うからな」
「そうなんだ。どうしてそんなめんどくさいことするの?」
「簡単な話だ。種族ごとに得意不得意があるだろう? 例えばエルフならたいていの種族より魔力量が多いし、オークならたいていの種族より力が強い。種族ごとに能力が大きく違うのに、同じ基準で評価したらおかしなことになる」
「確かに」
「だから奴隷品評会は種族ごとに行われるわけだ。ということは、だ。オーガの奴隷品評会を開催できれば、オーガの奴隷を一箇所に集めることができるということになる」
「なるほど、確かにそうだね……でも、奴隷品評会って、私達が「やりまーす」って言って開催できるものなの?」
「無理だろうな」
「だよねー……ていうかそもそも、奴隷品評会を開けたとしても、参加しない奴隷商人とか所有者もいるんじゃないの?」
「いや、それはないと思うぞ?」
「どうしてさ?」
「奴隷品評会での評価は、その後の奴隷の価値を大きく高めるからだ。オーガの奴隷を扱っている商人なら、奴隷品評会で高い評価を得ればその後その奴隷を高く売ることができる。オーガの奴隷を持っている所有者にしても、自分が持っている奴隷が奴隷品評会で高い評価を得れば、それはその所有者のステータスになる。それに、手放す時の売値も上がるしな」
「ふむふむ。そういうことなら参加しないパターンは考えなくていい感じか……そうなると、開催できない、ってことだけが問題なわけだね」
「そうなるな」
「そもそも奴隷品評会ってどういう感じで開催されるのさ」
「それを私が知っていると思うか?」
「まあそうだよね。シャルルさんだって別に元奴隷でもなければ奴隷商人でもないんだし。その割に奴隷品評会のことには詳しかったけど」
「奴隷品評会は大々的に行われるからな。奴隷になってしまっている人々には悪いが、奴隷でない私達からすればちょっとしたお祭りみたいものなのだ。私もオーガたちが奴隷にされてしまうまでは、お祭り感覚で楽しんでいたからな……」
自分の過去を恥じ入るシャルルに、マヤはそっとその肩に手をおいた。
「誰だってそんなもんだよ。赤の他人の不幸まで自分事にしてたら身が持たないもん」
対岸の火事、という言葉があるように、人間の誰しも自分に関わらないことには鈍感なものだ。
それはこちらの世界に来る前のマヤも、こちらの世界に来た後のマヤも、シャルルも、みんなそうなのだ。
だからマヤはそれを悪いことだとは思わない。
それが人間というもので、人間はそうやって自分を守っているのだから。
「ありがとう。だが、これからは目を背けたくないんだ」
「うん、それでいいと思うよ。…………それじゃあひとまずは奴隷品評会がどうやって開催されるのかを調べればいいってことだね」
「そうだな。どうやって開催されるのかを知らないことには、私達が開催できるかどうかも判断できないしな」
「よし、そういうことならさっそくちょっと調べてくるよ」
「今からか?」
シャルルが指差す窓の外には、暗闇が広がっていた。
シャルルの修行終えたのが昼過ぎ、マヤが奴隷商人から話を聞いて帰ってきたのが夕方だったので、2人が話している間にすっかり日が暮れていたのだ。
「あー、奴隷市場って、もうやってないよね?」
「だろうな。基本的には日没と同時にたいていの店は店じまいしてしまうからな」
「だよねー」
マヤが元いた未来の世界でも、大都市の一部店舗、酒場やいわゆる夜のお店以外は日没と同時に閉店していた。
ましてやここはそこからさらに過去の世界なのだ。
完全に日が暮れたあとに、奴隷市場の店が開いているはずがなかった。
(今更だけど、現代日本って相当便利だったんだなあ)
マヤは段々と遠い昔の記憶になりつつある転生前のことを思い出す。
マヤは夜に外出することはほとんどなかったので実際にお世話になったことはなかったが、真夜中でもコンビニで買い物ができるというのは、とても便利な世界だったんだな、と改めて思った。
「明日でいいのではないか?」
「そうだね、そうするよ」
マヤが伸びをすると、次の瞬間くきゅぅという可愛らしい音が前から聞こえてきた。
マヤがそちらに視線を向けると、シャルルが恥ずかしそうに頬を染めていた。
「…………っ」
今のシャルルは、剣の修行と戦う可能性のある外出の時以外は晒しを外して普通の下着をつけている。
理由は単純で、マヤが「そんなにずーっと押しつぶしてたら形が崩れる!」と力説したためである。
結果、今のシャルルには、一目でわかるほど立派な、服を大きく押し上げる2つの膨らみがあるのだ。
そのせいもあって、頬を染めてうつむくシャルルは、なんとも言えず色っぽかった。
「あはは、そうだよね、夜ご飯食べに行こうか。私もおなかすいちゃった」
マヤは立ち上がるとシャルルの手を取ってドアへと歩いていく。
この後もしばらく恥ずかしそうにしていたシャルルは、いつものさらしで胸を隠し、大きな剣を背負った普段の格好とのギャプが激しすぎて、シャルルをよく知らない人からすれば別人にしか思えなかったのだろう。
そのため、この時のシャルルを目撃した街の男たちの間で「見たことのないスタイル抜群の美女が、白い髪の美少女に手を引かれて歩いていた」という噂が流れたりしたのだが、マヤたちは知る由もないのだった。
マヤは聞き慣れない言葉に、思わずオウム返しで質問してしまう。
「そうだ」
「私初めて聞いたんだけど、その奴隷品評会っていうのは何なの?」
「奴隷の能力や容姿などを比べて評価する品評会だな」
「そのまんまだね。でも、それでどうしてオーガの奴隷だけを集めることができるの? 他の奴隷も来ちゃわない?」
未来の世界のマヤであれば、他の奴隷がきても全員まとめて開放してあげればいいだけなので問題ないのだが、この過去の世界ではそうはいかない。
オーガ以外の奴隷については、その後の歴史に影響が出かねないので基本的には干渉できないからだ。
なのでマヤとしては、救ってあげられない奴隷まで集まってきてしまうのは、精神衛生上よろしくない。
「その心配はない。奴隷品評会はエルフならエルフの奴隷だけ、ドワーフならドワーフ奴隷だけ、オーガならオーガ奴隷だけというように、種族ごとに別々に行うからな」
「そうなんだ。どうしてそんなめんどくさいことするの?」
「簡単な話だ。種族ごとに得意不得意があるだろう? 例えばエルフならたいていの種族より魔力量が多いし、オークならたいていの種族より力が強い。種族ごとに能力が大きく違うのに、同じ基準で評価したらおかしなことになる」
「確かに」
「だから奴隷品評会は種族ごとに行われるわけだ。ということは、だ。オーガの奴隷品評会を開催できれば、オーガの奴隷を一箇所に集めることができるということになる」
「なるほど、確かにそうだね……でも、奴隷品評会って、私達が「やりまーす」って言って開催できるものなの?」
「無理だろうな」
「だよねー……ていうかそもそも、奴隷品評会を開けたとしても、参加しない奴隷商人とか所有者もいるんじゃないの?」
「いや、それはないと思うぞ?」
「どうしてさ?」
「奴隷品評会での評価は、その後の奴隷の価値を大きく高めるからだ。オーガの奴隷を扱っている商人なら、奴隷品評会で高い評価を得ればその後その奴隷を高く売ることができる。オーガの奴隷を持っている所有者にしても、自分が持っている奴隷が奴隷品評会で高い評価を得れば、それはその所有者のステータスになる。それに、手放す時の売値も上がるしな」
「ふむふむ。そういうことなら参加しないパターンは考えなくていい感じか……そうなると、開催できない、ってことだけが問題なわけだね」
「そうなるな」
「そもそも奴隷品評会ってどういう感じで開催されるのさ」
「それを私が知っていると思うか?」
「まあそうだよね。シャルルさんだって別に元奴隷でもなければ奴隷商人でもないんだし。その割に奴隷品評会のことには詳しかったけど」
「奴隷品評会は大々的に行われるからな。奴隷になってしまっている人々には悪いが、奴隷でない私達からすればちょっとしたお祭りみたいものなのだ。私もオーガたちが奴隷にされてしまうまでは、お祭り感覚で楽しんでいたからな……」
自分の過去を恥じ入るシャルルに、マヤはそっとその肩に手をおいた。
「誰だってそんなもんだよ。赤の他人の不幸まで自分事にしてたら身が持たないもん」
対岸の火事、という言葉があるように、人間の誰しも自分に関わらないことには鈍感なものだ。
それはこちらの世界に来る前のマヤも、こちらの世界に来た後のマヤも、シャルルも、みんなそうなのだ。
だからマヤはそれを悪いことだとは思わない。
それが人間というもので、人間はそうやって自分を守っているのだから。
「ありがとう。だが、これからは目を背けたくないんだ」
「うん、それでいいと思うよ。…………それじゃあひとまずは奴隷品評会がどうやって開催されるのかを調べればいいってことだね」
「そうだな。どうやって開催されるのかを知らないことには、私達が開催できるかどうかも判断できないしな」
「よし、そういうことならさっそくちょっと調べてくるよ」
「今からか?」
シャルルが指差す窓の外には、暗闇が広がっていた。
シャルルの修行終えたのが昼過ぎ、マヤが奴隷商人から話を聞いて帰ってきたのが夕方だったので、2人が話している間にすっかり日が暮れていたのだ。
「あー、奴隷市場って、もうやってないよね?」
「だろうな。基本的には日没と同時にたいていの店は店じまいしてしまうからな」
「だよねー」
マヤが元いた未来の世界でも、大都市の一部店舗、酒場やいわゆる夜のお店以外は日没と同時に閉店していた。
ましてやここはそこからさらに過去の世界なのだ。
完全に日が暮れたあとに、奴隷市場の店が開いているはずがなかった。
(今更だけど、現代日本って相当便利だったんだなあ)
マヤは段々と遠い昔の記憶になりつつある転生前のことを思い出す。
マヤは夜に外出することはほとんどなかったので実際にお世話になったことはなかったが、真夜中でもコンビニで買い物ができるというのは、とても便利な世界だったんだな、と改めて思った。
「明日でいいのではないか?」
「そうだね、そうするよ」
マヤが伸びをすると、次の瞬間くきゅぅという可愛らしい音が前から聞こえてきた。
マヤがそちらに視線を向けると、シャルルが恥ずかしそうに頬を染めていた。
「…………っ」
今のシャルルは、剣の修行と戦う可能性のある外出の時以外は晒しを外して普通の下着をつけている。
理由は単純で、マヤが「そんなにずーっと押しつぶしてたら形が崩れる!」と力説したためである。
結果、今のシャルルには、一目でわかるほど立派な、服を大きく押し上げる2つの膨らみがあるのだ。
そのせいもあって、頬を染めてうつむくシャルルは、なんとも言えず色っぽかった。
「あはは、そうだよね、夜ご飯食べに行こうか。私もおなかすいちゃった」
マヤは立ち上がるとシャルルの手を取ってドアへと歩いていく。
この後もしばらく恥ずかしそうにしていたシャルルは、いつものさらしで胸を隠し、大きな剣を背負った普段の格好とのギャプが激しすぎて、シャルルをよく知らない人からすれば別人にしか思えなかったのだろう。
そのため、この時のシャルルを目撃した街の男たちの間で「見たことのないスタイル抜群の美女が、白い髪の美少女に手を引かれて歩いていた」という噂が流れたりしたのだが、マヤたちは知る由もないのだった。
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