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第5巻第3章 過去の世界へ

オーガの救い方

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「さて、考えてみるとは言ったものの、どうしたもんかな」

 当面の目標を話し合った翌日、シャルルの修行を終えたマヤは、街の中を散歩していた。

(まずはもうちょっと詳しい状況がわからないことにはどうしようもないよね)

 オーガを救うとは言っても、具体的にどれくらいの数のオーガが生き残っていて、どのくらいの範囲で奴隷として囚われているのか、そのあたりがわからないことにはどうすることもできない。

(となると、やっぱり奴隷市場に行くしかないかあ……)

 マヤの結論は、わかってはいたが目を背けていた最適と思われる手段に戻ってくる。

 未来の世界では目につくすべての奴隷市場を廃止させたマヤだが、過去の世界でそんなことはできない。

 なぜなら、奴隷市場を廃止すると言うにのその後の歴史に与える影響が大きいからだ。

 何らかの事情で未来では絶滅しているオーガを助けるのとはわけが違う。

(助けてあげられないから、できれば見たくないんだけどなあ……)

 しかしながら、今のマヤには他に手がかりもない。

 マヤは心なしか重い足を動かして、奴隷市場へと歩いていく。

 程なくして、マヤは奴隷市場にたどり着いた。

 折の中に入れられた大男や、鎖に繋がれた女子供など、どこから集めてきたんだというほどたくさんの奴隷たちの姿がそこにはあった。

 この奴隷市場というのは、店を営んでいる者や貴族の家長が基本的な利用者なので、少女であるマヤは奴隷商人や他の利用者、さらには売られている奴隷たちにまで注目されていた。

 しかも心なしか、奴隷商人たちの目が鋭い気もする。

(もしかして私、狙われてる? やめてほしいなあ……手加減するの大変なんだけど……)

 マヤにとって、そこらの奴隷商人ごときに襲われること自体は何でもないのだが、殺さないように手加減するのが大変なのだ。

(それにしても、やっぱり亜人を取り扱ってる店が多いね)

 マヤの予想通り、奴隷市場で売られてい奴隷は半分以上が亜人だった。

 この時代の亜人は未来の世界のように国を作っているわけではないので、それだけ奴隷商人の獲物になりやすいのだろう。

 マヤは助けてあげられないことを心のなかで謝りながら、オーガを売っているお店を探して市場を歩き回る。

(うーん、いたと思ったらオークなんだよね……やっぱりオーガって数が少ないのかな……)

 しばらくさまよっていたマヤは、ほぼ一周しようかというところで、ようやくオーガを売っているお店を見つけた。

「こんにちはー」

「ん? なんだ嬢ちゃん? ここは嬢ちゃんみたいなのが来る場所じゃねえぞ?」

 そう言いながら奴隷商人の目が、マヤを品定めするように上から下までじっくり観察しているのを、マヤは見逃さなかった。

「まあまあそんなこと言わないでよ。ちょっと教えてほしいことがあってさ」

「ほう、こんなしがない奴隷商人に何が聞きたいってんだい?」

「うん、実はさ、オーガについて教えてほしくて」

「オーガについて、だと?」

「うん、おじさんも売ってるでしょ?」

 マヤは大きな折の中に入れられているオーガを親指で指す。

「教えても構わねえが……ここじゃちょっとな、場所を変えさせてくれ」

「いいよ」

 奴隷商人は立ち上がると、部下に店番を任せて市場の外へと歩き出す。

 マヤがその後をついて歩いていくと、商人は町外れの路地で足を止めた。

「…………嬢ちゃん、俺が言うのもおかしな話だがもうちょっと気をつけた方がいいぜ? 嬢ちゃん可愛いんだからよ」

「あはは、ありがとね。でも確かに、今から私を商品にしようって人にそんなこと言われるなんて、おかしな話だね」

「わかっててついてくるとは、とんだかわりもんだな。おい、お前らやっちまえ。傷つけるんじゃねえぞ? せっかくの上玉だからな」

「「うっす!」」

 商人の言葉に、路地の奥と路地の入口からそれぞれ声がして、マヤは一瞬で挟み撃ちのされる形となる。

「おお、怖い怖い。おじさん、女の子相手にこんな大男使うなんて結構鬼畜だね」

「はっ、鬼畜じゃなくて奴隷商人なんてできるかよ。やれ!」

 奴隷商人の合図でマヤへと襲いかかった2人に、マヤはどうしたものかと考える。

 すでに強化魔法を発動しているマヤには、襲いかかる2人の動きがゆっくりとした動きに見えていた。

(まあ、多少は頑丈そうだし、適当に殴って気絶させればいいか)

 マヤはそう結論づけると、その場からかき消えるように姿を消した。

「なに!?」

「どこに行った!?」

「後ろだけど?」

「ぐえっ!?」

 どこに行ったと聞かれて素直に答えたマヤは、そのまま大男の1人の首裏に手刀を叩き込んで意識を刈り取る。

「こいつ!」

「あーはいはい、そんな感情的にならないの」

「ぐはっ!?」

 マヤは襲いかかってきたもう1人へと一瞬で距離を詰めると懐に潜り込んでみぞおちに拳を叩き込む。

 こうして奴隷商人の手勢は一瞬のうちに無力化されてしまった。

「さて、これでやっと落ち着いて話ができそうだね?」

 今しがた大男2人をあっという間にのしておいて、少女然とした笑顔を向けてくるマヤに、奴隷商人は思わずその場でへたり込んでしまう。

「なっ!? な、何なんだ! お前は!」

「え? 何って普通の女の子だよ? まあ、ちょっとだけ強いけどね?」

 その後奴隷商人は、マヤに聞かれるままオーガについて知っているすべてのことを話したのだった。

***

「シャルルさーん」

 マヤは宿に戻ると部屋の前でシャルルに声をかける。

 程なくしてシャルルは内側から鍵を開けてくれた。

「マヤか。どこに行っていたのだ?」

「ちょっと情報収集にね」

 マヤは奴隷市場に行ったこと、そこで見つけた奴隷商人からオーガたちの状況を教えてもらったことなどをシャルルに説明した。

「まさか周辺3カ国にも広がっているとは……」

「ねー、思ったより範囲が広いよね。それと、オーガの奴隷だけど、ざっと2000人くらいいるらしいよ」

「予想はできていたことだが、かなりの数だな」

「そうだね。範囲も広いし数も多い。でもこっちは私とシャルルさんの2人だけ。普通に考えればどうしようもないよね」

「そうだな。で、それをどうにかする案は思いついたのか?」

「ぜーぜん。どうしたもんかなあ……」

 以前バニスター王国で捕虜をまとめて救出したことがあるマヤだが、あのときはオリガの魔法ありきだった。

 その上、捕虜たちは数か所にまとめられており一度にたくさん救出することが可能だった、という事情もあり、あの作戦はうまくいったのだ。

 しかしながら、今回はオリガもいなければオーガの奴隷たちがまとまっているということもない。

「せめてオーガの奴隷たちがまとまっててくれればいいんだけど……」

「ん? オーガの奴隷が集まっていた方がいいのか?」

「え? うん、まあそうだけど……なにか心当たりがあるの?」

「ああ、特定の種族の奴隷を集めるだけなら、やりようはある」

 シャルルはその方法について、マヤに説明を始めたのだった。
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