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第5巻第1章 ヘンダーソン王国にて
ジョンと剣神
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「すげえ……」
剣神の道場に一歩踏み入れた瞬間、ジョンは思わずそう呟いていた。
王族の嗜みとして剣を習い始めてからというもの、その才覚を発揮しぐんぐんと実力をつけ
、すでに剣に多少の自信があったジョンだったが、今目の前にいる者たちは例外なくジョン以上の実力者だった。
「そういえば、王子様ってめちゃくちゃすごい剣士だったね」
かつてジョンと戦った際、ジョンの剣技にすべての攻撃をいなされたことをマヤは思い出す。
数多の魔物で次々に攻撃を仕掛けたマヤの攻撃を、ジョンはその剣技でことごとく防ぎきったのだ。
「そうでしたね。クロエ、今のジョンはどのくらいのレベルの剣士なんですか?」
「今のジョンちゃんですか? あの年の頃は、まだ剣を習い始めた頃でしたけど……たしかそこらの兵士よりは強かったはずですよ」
「それはすごいな」
素直に感心するウォーレンを、オリガがいたずらっぽく笑ってからかう。
「お兄ちゃんはもっとすごかったってカーサさんが言ってましたよ?」
「そうでもないさ。俺なんてよくいる子供の頃に神童と呼ばれただけの凡才だよ」
「そんな、こと、ない。お兄ちゃんは、すごい」
「ははは、ありがとうな、カーサ」
「うん」
キラキラした目でウォーレンを見上げるカーサに、ウォーレンはその頭をポンポンと撫でる。
「魔王会議の時に現れる扉とよく似た扉が現れた、と聞いてきてみればやはりマヤだったか」
「ふんっ!」
マヤは声が聞こえた瞬間には腰から下げていた日本刀のような細身の剣を抜いて後ろへと斬撃を放っていた。
「ほう、いい太刀筋だ」
「指先で受け止めながら言われても説得力ないんだけど?」
マヤはデリックに指先だけで受け止められた剣から力を抜くと、そのまま腰から下げているさやにしまった。
「気がついて斬りかかれただけで一流の剣士だと言えるだろう。それに、お前の本領は剣ではないのだ、これだけできれば十分だろうさ」
なんでマヤがこんな芸当を身に着けていたかといえば、ウォーレンの修行の付き合う形でデリックにしごかれたからだ。
デリックは一年間みっちり鍛えた弟子がしっかり剣の腕を維持していたことに満足そうだった。
「まあそうだけど、いつかは剣神さんにも剣だけで勝ちたいんだけどなあ」
「ははは、それは当面無理だろう。それができるようになるには、まずはそこの2人のように私に背後を取られても攻撃の意志がないことを読み取って動かずにいるくらいのことはできんとな?」
デリックが示した通り、ウォーレンとカーサはデリックの接近に気がついた上で、それがマヤを驚かせるためだけのものだと気配で察し、特に何もしていなかった。
「そんなの無理でしょ、ねえオリガ」
マヤは、マヤと同じくデリックの接近に気が付き防御魔法を発動していたオリガに同意を求める。
「ですよね。そもそもなんですが、どうして剣神様は私の探知魔法に引っかからないんですか?」
「さて、どうしてだろうな?」
「まあ、教えてくれませんよね……」
はぐらかされたオリガだったが、特に落ち込んだ様子でもなかった。
その答えは予想通りだったのだろう。
「してマヤ。どうして突然やってきたのだ? まさかまた修行でもつけてほしいのか?」
スッと目を細めたデリックに、マヤはぶんぶんと首をふる。
スパルタなどという言葉が生ぬるく感じる地獄の1年間をもう一度やりたいと思うほど、マヤは強さにストイックにはなれない。
「実はマルコスさんのことを教えてほしくてさ」
「マルコス殿のことをか?」
「うん、実は――」
と、ジョンの事情を説明しようとしたマヤを、当のジョンが遮ってくる。
「なあ! あんた剣神様だろ?」
「ん? ああ、そうだが。何だこの小僧は?」
「俺はジョン、ヘンダーソンの王子だ!」
「ヘンダーソンのジョン王子? かの王子はすでに成人していたはずだが……」
「実はそれに関係が――」
と、再び説明を始めたマヤだったが、再びジョンによってその説明は出鼻をくじかれる。
「剣神様! 俺と勝負してくれ!」
「ほう、私と戦いたいと」
「そうだ! 剣神様はめちゃくちゃ強いって城の皆が言ってたんだ。だからいつか一回戦ってみたいと思ってたんだ!」
「いいだろう。お前のような度胸のある小僧は嫌いではない」
デリックはついてくるように手で示すと、道場の真ん中へと歩いていく。
「ええっ!? ちょっと、剣神さん!」
マヤの抗議に振り返らずデリックはひらひらと手を振ると。
「この小僧も疲れれば静かになるだろう。なに、すぐ終わる」
「それはそうかもしれないけどさあ……」
呆れるマヤの肩に、ウォーレンがぽんと手を置いた。
「師はああいう人なのだ。諦めてくれ」
「いや、まあ知ってたけどさあ……」
突然デリックが現れたことに驚いた弟子たちは、修行の手を止めると壁の方に避けて真ん中のスペースを開けた。
「悪いな」
「いえいえ、師匠が直々に稽古をつけるところが見られるのです。誰も文句なんてありませんよ」
代表して答えた1人の言葉に、残りの弟子たちもうんうんとうなずく。
「そう言ってくれると助かるが……稽古の邪魔をしたのは事実だ。この小僧に稽古をつけてやった後、順番にお前らにも稽古をつけてやろう」
デリックの言葉に、弟子たちから歓声が上がる。
しかし、そのやり取りを見ていたジョンは少し不服そうだった。
「剣神様、ちょっと俺のこと舐め過ぎじゃないか? 俺と戦った後この人たちと戦えると思ってるんだろ?」
「無論だ。小僧の実力はもうだいたいわかっているしな」
わざとらしく鼻で笑って見せて挑発するデリックに、ジョンは簡単に頭にきてしまう。
その様子を見ていた弟子たちは、相変わらず子供相手にも容赦なく大人げない師の姿に苦笑していた。
「懐かしいなあ、あの感じ」
「ああ、俺が最初に師匠に会った時もあんな感じだった」
「俺もだよ。いやー、あの頃は世間知らずのガキだったなあ」
「だよなあ。おっ、あのガキ、背後から仕掛けたぞ」
昔の自分たちそっくりのジョンの姿に、懐かしいものを感じながら弟子たちが話している間に、まんまと挑発に乗ったジョンは背後からデリックに切りかかっていた。
「なっ!? このじじいっ!」
「不意打ちか。本来なら責めるべきかもしれんが、まあいいだろう。続けていいぞ?」
完全に死角から攻撃を仕掛けたジョンの攻撃を、一瞥すらせずに剣で受け止めて弾き返したデリックにそんなことを言われ、ジョンはまた頭にきて正面から斬りかかる。
「ほう、その年で、流石は未来の剣の君といったところか」
鋭い斬撃を連続して繰り出すジョンに、デリックは感心した様子だ。
とはいえ、口ではジョンを褒めるデリックだが、いつの間にか剣をしまって手を後ろに組んでいた。
その体勢のままジョンの斬撃をかわし続けているのだ。
「くうぅ、見た目爺さんのくせになんて動きしやがるっ」
デリックに剣を蹴り上げられて倒れ込んだジョンは、素早く立ち上がると再びデリックにむけて剣を構える。
諦めないジョンに、デリックは微笑んだ。
「そうだ、お前の限界を見せてみろ」
デリックの言葉に、ジョンはニッと笑うと再び斬りかかるのだった。
剣神の道場に一歩踏み入れた瞬間、ジョンは思わずそう呟いていた。
王族の嗜みとして剣を習い始めてからというもの、その才覚を発揮しぐんぐんと実力をつけ
、すでに剣に多少の自信があったジョンだったが、今目の前にいる者たちは例外なくジョン以上の実力者だった。
「そういえば、王子様ってめちゃくちゃすごい剣士だったね」
かつてジョンと戦った際、ジョンの剣技にすべての攻撃をいなされたことをマヤは思い出す。
数多の魔物で次々に攻撃を仕掛けたマヤの攻撃を、ジョンはその剣技でことごとく防ぎきったのだ。
「そうでしたね。クロエ、今のジョンはどのくらいのレベルの剣士なんですか?」
「今のジョンちゃんですか? あの年の頃は、まだ剣を習い始めた頃でしたけど……たしかそこらの兵士よりは強かったはずですよ」
「それはすごいな」
素直に感心するウォーレンを、オリガがいたずらっぽく笑ってからかう。
「お兄ちゃんはもっとすごかったってカーサさんが言ってましたよ?」
「そうでもないさ。俺なんてよくいる子供の頃に神童と呼ばれただけの凡才だよ」
「そんな、こと、ない。お兄ちゃんは、すごい」
「ははは、ありがとうな、カーサ」
「うん」
キラキラした目でウォーレンを見上げるカーサに、ウォーレンはその頭をポンポンと撫でる。
「魔王会議の時に現れる扉とよく似た扉が現れた、と聞いてきてみればやはりマヤだったか」
「ふんっ!」
マヤは声が聞こえた瞬間には腰から下げていた日本刀のような細身の剣を抜いて後ろへと斬撃を放っていた。
「ほう、いい太刀筋だ」
「指先で受け止めながら言われても説得力ないんだけど?」
マヤはデリックに指先だけで受け止められた剣から力を抜くと、そのまま腰から下げているさやにしまった。
「気がついて斬りかかれただけで一流の剣士だと言えるだろう。それに、お前の本領は剣ではないのだ、これだけできれば十分だろうさ」
なんでマヤがこんな芸当を身に着けていたかといえば、ウォーレンの修行の付き合う形でデリックにしごかれたからだ。
デリックは一年間みっちり鍛えた弟子がしっかり剣の腕を維持していたことに満足そうだった。
「まあそうだけど、いつかは剣神さんにも剣だけで勝ちたいんだけどなあ」
「ははは、それは当面無理だろう。それができるようになるには、まずはそこの2人のように私に背後を取られても攻撃の意志がないことを読み取って動かずにいるくらいのことはできんとな?」
デリックが示した通り、ウォーレンとカーサはデリックの接近に気がついた上で、それがマヤを驚かせるためだけのものだと気配で察し、特に何もしていなかった。
「そんなの無理でしょ、ねえオリガ」
マヤは、マヤと同じくデリックの接近に気が付き防御魔法を発動していたオリガに同意を求める。
「ですよね。そもそもなんですが、どうして剣神様は私の探知魔法に引っかからないんですか?」
「さて、どうしてだろうな?」
「まあ、教えてくれませんよね……」
はぐらかされたオリガだったが、特に落ち込んだ様子でもなかった。
その答えは予想通りだったのだろう。
「してマヤ。どうして突然やってきたのだ? まさかまた修行でもつけてほしいのか?」
スッと目を細めたデリックに、マヤはぶんぶんと首をふる。
スパルタなどという言葉が生ぬるく感じる地獄の1年間をもう一度やりたいと思うほど、マヤは強さにストイックにはなれない。
「実はマルコスさんのことを教えてほしくてさ」
「マルコス殿のことをか?」
「うん、実は――」
と、ジョンの事情を説明しようとしたマヤを、当のジョンが遮ってくる。
「なあ! あんた剣神様だろ?」
「ん? ああ、そうだが。何だこの小僧は?」
「俺はジョン、ヘンダーソンの王子だ!」
「ヘンダーソンのジョン王子? かの王子はすでに成人していたはずだが……」
「実はそれに関係が――」
と、再び説明を始めたマヤだったが、再びジョンによってその説明は出鼻をくじかれる。
「剣神様! 俺と勝負してくれ!」
「ほう、私と戦いたいと」
「そうだ! 剣神様はめちゃくちゃ強いって城の皆が言ってたんだ。だからいつか一回戦ってみたいと思ってたんだ!」
「いいだろう。お前のような度胸のある小僧は嫌いではない」
デリックはついてくるように手で示すと、道場の真ん中へと歩いていく。
「ええっ!? ちょっと、剣神さん!」
マヤの抗議に振り返らずデリックはひらひらと手を振ると。
「この小僧も疲れれば静かになるだろう。なに、すぐ終わる」
「それはそうかもしれないけどさあ……」
呆れるマヤの肩に、ウォーレンがぽんと手を置いた。
「師はああいう人なのだ。諦めてくれ」
「いや、まあ知ってたけどさあ……」
突然デリックが現れたことに驚いた弟子たちは、修行の手を止めると壁の方に避けて真ん中のスペースを開けた。
「悪いな」
「いえいえ、師匠が直々に稽古をつけるところが見られるのです。誰も文句なんてありませんよ」
代表して答えた1人の言葉に、残りの弟子たちもうんうんとうなずく。
「そう言ってくれると助かるが……稽古の邪魔をしたのは事実だ。この小僧に稽古をつけてやった後、順番にお前らにも稽古をつけてやろう」
デリックの言葉に、弟子たちから歓声が上がる。
しかし、そのやり取りを見ていたジョンは少し不服そうだった。
「剣神様、ちょっと俺のこと舐め過ぎじゃないか? 俺と戦った後この人たちと戦えると思ってるんだろ?」
「無論だ。小僧の実力はもうだいたいわかっているしな」
わざとらしく鼻で笑って見せて挑発するデリックに、ジョンは簡単に頭にきてしまう。
その様子を見ていた弟子たちは、相変わらず子供相手にも容赦なく大人げない師の姿に苦笑していた。
「懐かしいなあ、あの感じ」
「ああ、俺が最初に師匠に会った時もあんな感じだった」
「俺もだよ。いやー、あの頃は世間知らずのガキだったなあ」
「だよなあ。おっ、あのガキ、背後から仕掛けたぞ」
昔の自分たちそっくりのジョンの姿に、懐かしいものを感じながら弟子たちが話している間に、まんまと挑発に乗ったジョンは背後からデリックに切りかかっていた。
「なっ!? このじじいっ!」
「不意打ちか。本来なら責めるべきかもしれんが、まあいいだろう。続けていいぞ?」
完全に死角から攻撃を仕掛けたジョンの攻撃を、一瞥すらせずに剣で受け止めて弾き返したデリックにそんなことを言われ、ジョンはまた頭にきて正面から斬りかかる。
「ほう、その年で、流石は未来の剣の君といったところか」
鋭い斬撃を連続して繰り出すジョンに、デリックは感心した様子だ。
とはいえ、口ではジョンを褒めるデリックだが、いつの間にか剣をしまって手を後ろに組んでいた。
その体勢のままジョンの斬撃をかわし続けているのだ。
「くうぅ、見た目爺さんのくせになんて動きしやがるっ」
デリックに剣を蹴り上げられて倒れ込んだジョンは、素早く立ち上がると再びデリックにむけて剣を構える。
諦めないジョンに、デリックは微笑んだ。
「そうだ、お前の限界を見せてみろ」
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