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第4巻第4章 初代剣聖

第4巻エピローグ

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「じゃあその夢の中みたいなところで喋ってる間に仲良くなったってこと?」

「そういうことだ」

「じゃあどうしてカーリはウォーレンさんと戦ったの?」

 マヤが言っているのは、マヤの強化魔法で狂化したカーリの意識を消した後の戦いのことだ。

「あれはカーサが我の言うことを信じなくてだな」

 やれやれと頭を振ったカーリは、すぐカーサと入れ代わり今度は無表情で話し出す。

「だって、お兄、ちゃんが、一番、強い、って、思ってた、から」

「え? じゃあカーリさんとカーサの意見が食い違ったからそれを確かめるために戦ったの?」

「そう、だけど?」

「えーっ……」

 お陰で策が失敗したかと思ったマヤからすると、そんな理由で最後の戦いが行われたというのは、正直勘弁してくれ、といった感じだ。

「何がおかしいのだ? どちらが強いかわからないなら戦ってみるほかあるまい?」

「あー、うん。そうだね~……」

 一見常識人に見えるカーリだが、やはり生粋の剣士というべきか、ちょっとマヤとは感覚がズレている。

 ただどちらが強いか確かめたいだけなら、とりあえず狂化したカーリは無事消せたことを報告してから、改めて戦ってくれればよかったのに、と思ったのはマヤだけではないはずだ。

 そういう意味では、カーサとカーリが仲良くなれたのは似た者同士だったからかもしれない。

「さて、何はともあれ一件落着ってことで、屋敷に帰ろうか!」

「我もついて行っていいのか?」

「逆に聞くけど、カーサから離れられるの?」

「できないこともない。もちろんその分力を失ってしまうが……」

「じゃあ一緒にくればいいじゃん。カーサもそれでいいよね?」

「うん、もちろん、いい。むしろ、カーリには、一緒に、いて、欲しい」

「カーサ……」

 傍から見ると今のカーサは、一人で表情をコロコロ変えながら喋っているようにしか見えず、ちょっと面白かった。

 カーリが先に話し始めたために機会を失っていたウォーレンが何か言う前に、マヤはウォーレンの腕に自分の腕を絡める。

「どこに行こうとしてるのかな?」

「いや、俺もお前らと一緒にいる資格は……」

「なにわけわからないこと言ってるのさ。ウォーレンさんはカーサのお兄ちゃんで、最近じゃオリガのお兄ちゃんでもあるんだよ? それに私だって……」

 そこまで言って急に歯切れの悪くなったマヤに、ウォーレンがその顔を覗き込んだ。

「私だって、どうしたのだ?」

「へっ!? あっ、いや、その、私の国、そうっ! 私の国にだって迷惑かけたんだから、しっかり償って貰わないといけないし!」

「それは……確かにその通りだ。今回お前の協力がなければカーサを救うことはできなかっただけでなく、俺が不甲斐なかったばっかりにカーサにあいつを取り憑かせてしまった。そのせいでお前の国の民にも――」

 予想以上に責任を感じて徐々に項垂れていくウォーレンに、マヤは慌ててしまう。

 単にマヤがウォーレンと離れたくないと思い、でもそれを素直に認めるのは恥ずかしかったから償えなどと言っただけで、実際にマヤはそんなことを微塵も気にしていない。

「ごめんごめんっ! そんなに責任は感じなくていいからっ、ねっ? ただ、その……これからもできれば一緒にいたいなあ……って、その、思っただけで……っっ」

 マヤは言葉を重ねていくほどに混乱し、なんだか最後の方などちょっとした告白のようになってしまっていた。

 ただ、幸か不幸か、ウォーレンは色恋に鈍感なため、マヤの言葉の意味を額面通りの受け取った。

「ん? なんだ、それだけなのか? それならそう言えば良いものを。マヤは回りくどい言い方をする」

「あはは……ごめんね?」

 嬉しいような悲しいような気持ちでマヤがほっと胸をなでおろすと、マヤが掴んでいない方のウォーレンの手が、マヤの頭へと乗せられる。

「俺もマヤのことは嫌いじゃないからな。お前が一緒にいたいなら、一緒にいることにしよう。カーサもいるしな」

 そう言ってウォーレンはマヤの頭を撫で始めた。

 ウォーレンの行動に、マヤはすでに十分朱が挿していた頬を真っ赤にしてうつむいてしまう。

 こうして、マヤの仲間にカーリとウォーレンが加わった。

 ちなみに、ウォーレンに頭を撫でられて赤くなっているマヤを、カーサは羨ましそうに、オリガは温かい目でそれぞれ見ていたのだった。

***

「なるほど、流石は聖女と呼ばれるだけのことはある」

 マヤとカーリの一部始終を魔法で観察していたマルコスはゆっくりと顔を上げた。

 視界を目の前に戻したマルコスは、呆れた様子のデリックと目があう。

「何が、流石は聖女と呼ばれるだけのことはある、だ。貴殿がその気になればあの程度の問題たやすく解決できただろうに」

「そんなことはない。お前のところに乗り込んでウォーレンとやらを殺すのは、私とて手を焼くさ」

 戦力だけなら魔王屈指と言われるデリックのところに正面から乗り込み、門弟の1人を殺すのを「手を焼く」で済ませるマルコスに、デリックは格の違いを改めて認識する。

「それで、わざわざ私に猿芝居までさせて探りたかった魔王マヤは、貴殿のお眼鏡にかなったのか?」

「そうだな……まあ及第点といったところか」

 見事問題を解決してみせたマヤを、及第点と評したマルコスに、デリックはますますその真意がわからなくなる。

 そもそもとしてマルコスはデリックに、なぜマルコスがマヤを観察し干渉しているのか、その理由を説明していない。

 なので、デリックがマルコスの真意を知るのは土台無理な話だった。

「及第点、か。それはマルコス殿の計画に支障をきたすと言うことか?」

「いや、そうではない。ただ、もう少しあの魔王には強くなってもらわなければならん」

 強大な力を持つ原初の魔王の1人であるマルコスが、どうしてマヤの力を気にするのか、デリックにはさっぱり分からなかった。

「魔王マヤが強くなる必要があるのか? なるほど、先日かの魔王に負けた私では力不足だというわけだな?」

 それは、何も教えぬまま、ただ世界のために協力しろと言ってデリックに手伝いをさせているマルコスに対する、ちょっとした仕返しだった。

「冗談を言うな。あの敗北は演技だろう?」

「そうだな、あれも貴殿の指示だ」

「……悪かった。しかし今はまだ、お前にも事情は話せん。だがな、これだけは覚えておいてくれ。時が来れば、私が魔王マヤに力をつけさせる必要がある、と言った意味がわかるはずだ」

 信じられないことに、世界最強の3人の中の1人であるマルコスは、目に見えて恐怖しながらデリックに語りかけた。

 その恐怖が本物であるとわかった、いや、わかってしまったデリックは、それ以上マルコスに何かを尋ねることはできなかったのだった。
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