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第4巻第4章 初代剣聖
初代剣聖の真相1
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「おかえり、カーサ」
カーサとウォーレンが立ち上がったのを見計らって、マヤは2人のところに歩いて行った。
「うん、ただいま。それと、ごめん、なさい、迷惑、かけ、ちゃって」
「いいっていいって。別にカーサが悪いわけじゃないんだし」
「でも、私が、出て、いったり、しなければ……」
「あー、まあそれはそうかもしれないけど、でもそれだって、カーリになにか吹き込まれたからでしょ? だったらカーサは悪くないって、ねえオリガ」
相変わらず魔力が枯渇寸前なため足元がおぼつかないマヤに肩を貸してくれているオリガに、マヤは同意を求める。
マヤの言葉に、オリガも大きくうなずいた。
「そうです。カーサさんは悪くありません。悪いのはカーリと頼りないお兄ちゃんです」
「…………そういえば、オリガも、お兄ちゃんの、こと、お兄ちゃん、って、呼んでるん、だね」
「え? ええ、そうですけど……」
そういえば、実の妹であるところのカーサからどう思われるか、ということは全く考えていなかったオリガは、少し不安になる。
別にオリガとしては親しみを込めてウォーレンのことをお兄ちゃんと呼んでいるだけなのでやましいことはなにもないのだが、それでも本物の妹から何を言われるかは不安だった。
しかし、そんなオリガの不安は完全に杞憂だった。
「それ、じゃあ、私は、オリガさんの、妹? それ、とも、お姉ちゃん?」
「へっ? それは、どうでしょうか?」
予想外の質問に、オリガは質問で返すことしかできない。
歳はオリガのほうがかなり上だが、それを言ったらオリガがお兄ちゃんと呼んでいるウォーレンよりもかなり年上だ。
なのでどちらが妹でどちらが姉かなどと聞かれても分からなかった。
「じゃあ、私が、お姉ちゃん、で、いい?」
「まあ、カーサさんがその方がいいなら……」
「違う」
少し不満そうに頬を膨らませるカーサに、オリガは少し驚いた。
今まで表情の変化が少なかったカーサにしては珍しいと思ったからだ。
(これもお兄ちゃんと再会できたからでしょうか? とはいえ、なんですねてるのかはわかりませんけど)
オリガはカーサの変化を微笑ましく思いながら、なんで頬を膨らましているのか教えてもらうことにした。
「何が違うんです?」
「カーサさん、じゃ、なくて、カーサ、お姉ちゃん」
「ああそういう……って、それは流石にちょっと恥ずかしいですよ」
「でも、オリガは、妹、でしょ?」
「それはそうですけど……」
期待に満ちた視線を向けられたオリガは、折れることにした。
「仕方ないですね……カーサお姉ちゃん」
「うん、なあに、オリガ」
カーサは思わずオリガの頭を撫で始める。
オリガはやれやれといった様子で、されるがままになっていた。
そんなやり取りを見ていると、オリガのほうがお姉ちゃんらしかった。
「今回は助かった」
隣でじゃれ合う2人を目を細めて眺めながら、ウォーレンが話しかけてくる。
「お礼なんていいって。私もカーサを助けたかったしさ」
「それでもだ。お前がいなければカーサを助けることはできなかった」
そう言ってウォーレンは大きくごつごつとした手をマヤへと差し出した。
マヤはそれに応じて手を差し出した。
しかし、次の瞬間、ただの握手だと思っていたマヤは、そのままウォーレンに手を引かれ、その腕の中に抱きしめられていた。
「ちょっ……!?」
「ありがとうっ! 本当にありがとうっ! 全部っ、全部お前のおかげだ、マヤっ!」
力強くマヤを抱きしめながら、マヤへのお礼の繰り返すウォーレンだったが、抱きしめられたマヤはそれどころではない。
(魔力切れで強化魔法は使えないし、男に抱きしめられてるってのにやたらドキドキするしっ! もうっ、誰か助けてー!)
逃げることもできず、ウォーレンのたくましい体つきに不本意ながらドキドキさせられながら、マヤはウォーレンが満足するまで待っていることしかできなかった。
程なくしてウォーレンはマヤを開放した時には、マヤの顔は真っ赤に染まっていた。
「すまない、苦しかったか?」
「あ、いや、これはそういうんじゃなくて――って、それよりっ」
ウォーレンにドキドキしてしまって頬を紅潮させていたなどとは知られたくなかったマヤは、わざとらしく話題を変える。
マヤはびしっとカーサを指さした。
未だ満足そうにオリガをよしよししていたオリガは、マヤに指さされていることに気がついてマヤの方に顔を向ける。
そのまま自分を指さしたカーサに、マヤはうんうんと頷いた。
「そう、カーサだよ。ねえカーサ、結局カーリは消えたの? 消えてないの?」
それはこの場にいるカーサ以外の全員が気になっていた部分だったのだろう。
すぐに全員の注目がカーサに集まった。
「消えた、といえば、消えた、けど、消えてない、といえば、消えて、ない」
「どういうことです? カーサさ……お姉ちゃん」
「うん、オリガ、偉い。うーんとね……え? 説明、して、くれる、の? うん、わかった」
突然声も姿も見えない誰かと話し始めたカーサは、身体から一瞬力が抜けてうつむいたかと思うと、すぐに再び顔を上げた。
「詳しいことは我から説明しよう」
「その喋り方はカーリだね」
「その通り。まずカーサの言っていたことだが、あれは間違いではないが、説明不足だ」
カーリは近くの枝をひろうと、地面に丸を2つ書き、一方に「悪い」、もう一方に「良い」と書き込んだ。
そしてその2つの丸まとめてを更に大きなまるで囲むと、その大きな丸に「カーリ」と書き込んだ。
「簡単に言ってしまえば、私の中に悪い私と良い私がいてだな、マヤの強化魔法で消えたのは悪い私で、今の私が良い私、ということだ」
カーリは悪いと書かれた丸にバツをつける。
「じゃあ今のカーリは安全ってこと」
「ああ……おいこら割り込――うん、そう、この、カーリ、は、いい人」
何がカーサの身体の中で起きているのか分からないが、突然カーサに戻ると、カーサは断言した。
「なんでそう言い切れるんですか?」
「それは……ちょっと、難しい。交代――おいっ、勝手に割り込んでおいて突然戻すな! まったくカーサのやつ……」
オリガの質問に、答えに窮したカーサが主導権を譲ったことで、再びカーリが表に出てくる。
「あはは……カーリも大変だね。それで、なんでカーサは良いカーリ?のことをあんなに信頼してるのかな?」
完全にカーサに振り回されているカーリに、マヤは苦笑しつつ改めて質問した。
「それは、私とカーサが同じ場所に押し込められていたからだな」
そう言ってカーリは、悪いカーリがカーサの身体を乗っ取った後の、カーサの身体の中での出来事を語り始めた。
カーサとウォーレンが立ち上がったのを見計らって、マヤは2人のところに歩いて行った。
「うん、ただいま。それと、ごめん、なさい、迷惑、かけ、ちゃって」
「いいっていいって。別にカーサが悪いわけじゃないんだし」
「でも、私が、出て、いったり、しなければ……」
「あー、まあそれはそうかもしれないけど、でもそれだって、カーリになにか吹き込まれたからでしょ? だったらカーサは悪くないって、ねえオリガ」
相変わらず魔力が枯渇寸前なため足元がおぼつかないマヤに肩を貸してくれているオリガに、マヤは同意を求める。
マヤの言葉に、オリガも大きくうなずいた。
「そうです。カーサさんは悪くありません。悪いのはカーリと頼りないお兄ちゃんです」
「…………そういえば、オリガも、お兄ちゃんの、こと、お兄ちゃん、って、呼んでるん、だね」
「え? ええ、そうですけど……」
そういえば、実の妹であるところのカーサからどう思われるか、ということは全く考えていなかったオリガは、少し不安になる。
別にオリガとしては親しみを込めてウォーレンのことをお兄ちゃんと呼んでいるだけなのでやましいことはなにもないのだが、それでも本物の妹から何を言われるかは不安だった。
しかし、そんなオリガの不安は完全に杞憂だった。
「それ、じゃあ、私は、オリガさんの、妹? それ、とも、お姉ちゃん?」
「へっ? それは、どうでしょうか?」
予想外の質問に、オリガは質問で返すことしかできない。
歳はオリガのほうがかなり上だが、それを言ったらオリガがお兄ちゃんと呼んでいるウォーレンよりもかなり年上だ。
なのでどちらが妹でどちらが姉かなどと聞かれても分からなかった。
「じゃあ、私が、お姉ちゃん、で、いい?」
「まあ、カーサさんがその方がいいなら……」
「違う」
少し不満そうに頬を膨らませるカーサに、オリガは少し驚いた。
今まで表情の変化が少なかったカーサにしては珍しいと思ったからだ。
(これもお兄ちゃんと再会できたからでしょうか? とはいえ、なんですねてるのかはわかりませんけど)
オリガはカーサの変化を微笑ましく思いながら、なんで頬を膨らましているのか教えてもらうことにした。
「何が違うんです?」
「カーサさん、じゃ、なくて、カーサ、お姉ちゃん」
「ああそういう……って、それは流石にちょっと恥ずかしいですよ」
「でも、オリガは、妹、でしょ?」
「それはそうですけど……」
期待に満ちた視線を向けられたオリガは、折れることにした。
「仕方ないですね……カーサお姉ちゃん」
「うん、なあに、オリガ」
カーサは思わずオリガの頭を撫で始める。
オリガはやれやれといった様子で、されるがままになっていた。
そんなやり取りを見ていると、オリガのほうがお姉ちゃんらしかった。
「今回は助かった」
隣でじゃれ合う2人を目を細めて眺めながら、ウォーレンが話しかけてくる。
「お礼なんていいって。私もカーサを助けたかったしさ」
「それでもだ。お前がいなければカーサを助けることはできなかった」
そう言ってウォーレンは大きくごつごつとした手をマヤへと差し出した。
マヤはそれに応じて手を差し出した。
しかし、次の瞬間、ただの握手だと思っていたマヤは、そのままウォーレンに手を引かれ、その腕の中に抱きしめられていた。
「ちょっ……!?」
「ありがとうっ! 本当にありがとうっ! 全部っ、全部お前のおかげだ、マヤっ!」
力強くマヤを抱きしめながら、マヤへのお礼の繰り返すウォーレンだったが、抱きしめられたマヤはそれどころではない。
(魔力切れで強化魔法は使えないし、男に抱きしめられてるってのにやたらドキドキするしっ! もうっ、誰か助けてー!)
逃げることもできず、ウォーレンのたくましい体つきに不本意ながらドキドキさせられながら、マヤはウォーレンが満足するまで待っていることしかできなかった。
程なくしてウォーレンはマヤを開放した時には、マヤの顔は真っ赤に染まっていた。
「すまない、苦しかったか?」
「あ、いや、これはそういうんじゃなくて――って、それよりっ」
ウォーレンにドキドキしてしまって頬を紅潮させていたなどとは知られたくなかったマヤは、わざとらしく話題を変える。
マヤはびしっとカーサを指さした。
未だ満足そうにオリガをよしよししていたオリガは、マヤに指さされていることに気がついてマヤの方に顔を向ける。
そのまま自分を指さしたカーサに、マヤはうんうんと頷いた。
「そう、カーサだよ。ねえカーサ、結局カーリは消えたの? 消えてないの?」
それはこの場にいるカーサ以外の全員が気になっていた部分だったのだろう。
すぐに全員の注目がカーサに集まった。
「消えた、といえば、消えた、けど、消えてない、といえば、消えて、ない」
「どういうことです? カーサさ……お姉ちゃん」
「うん、オリガ、偉い。うーんとね……え? 説明、して、くれる、の? うん、わかった」
突然声も姿も見えない誰かと話し始めたカーサは、身体から一瞬力が抜けてうつむいたかと思うと、すぐに再び顔を上げた。
「詳しいことは我から説明しよう」
「その喋り方はカーリだね」
「その通り。まずカーサの言っていたことだが、あれは間違いではないが、説明不足だ」
カーリは近くの枝をひろうと、地面に丸を2つ書き、一方に「悪い」、もう一方に「良い」と書き込んだ。
そしてその2つの丸まとめてを更に大きなまるで囲むと、その大きな丸に「カーリ」と書き込んだ。
「簡単に言ってしまえば、私の中に悪い私と良い私がいてだな、マヤの強化魔法で消えたのは悪い私で、今の私が良い私、ということだ」
カーリは悪いと書かれた丸にバツをつける。
「じゃあ今のカーリは安全ってこと」
「ああ……おいこら割り込――うん、そう、この、カーリ、は、いい人」
何がカーサの身体の中で起きているのか分からないが、突然カーサに戻ると、カーサは断言した。
「なんでそう言い切れるんですか?」
「それは……ちょっと、難しい。交代――おいっ、勝手に割り込んでおいて突然戻すな! まったくカーサのやつ……」
オリガの質問に、答えに窮したカーサが主導権を譲ったことで、再びカーリが表に出てくる。
「あはは……カーリも大変だね。それで、なんでカーサは良いカーリ?のことをあんなに信頼してるのかな?」
完全にカーサに振り回されているカーリに、マヤは苦笑しつつ改めて質問した。
「それは、私とカーサが同じ場所に押し込められていたからだな」
そう言ってカーリは、悪いカーリがカーサの身体を乗っ取った後の、カーサの身体の中での出来事を語り始めた。
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