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第4巻第4章 初代剣聖
カーリとカーサ
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「どうしたウォーレン! その程度か!」
カーリの斬撃を受け止めたウォーレンは、そのまま横に吹き飛ばされる。
時間経過でウォーレンにかけられていたマヤの強化魔法の効果が薄くなっていくにつれ、地力の差が現れるようになってきていた。
マヤがカーリへの強化魔法で魔力の大半を使い果たした今、ウォーレンは追加の強化魔法に頼ることもできず、いつしか防戦一方となっている。
「くそっ、やはり俺では敵わないのか……っ!」
剣で受けたはずのカーリの斬撃は、その衝撃だけでウォーレンにダメージを与えていたようで、ウォーレンは膝をつく。
「諦めるならそれでも構わんがな」
カーリはゆっくりと歩いてウォーレンへの距離を詰めてくる。
その様子を見ながら、ウォーレンはゆっくりと剣をおろした。
「諦める、か……それしかないのかもしれんな」
師に勇気を貰い、マヤに力を貰い、オリガに大切なことに気づかせてもらい、なんとかここまで来たウォーレンだったが、今度ばかりはもう無理だろう。
まだ余力がありそうなオリガと共闘すればどうにかなるかもしれないが、戦えたとしてもウォーレンにはカーリからカーサを取り戻す方法がない。
マヤの策を採用したということは、オリガも同じだろう。
「そうか。ん? ああ、わかっている」
「何の話だ?」
「ああいや、こっちの話だ」
諦めて近づいてくるカーリを見上げていたウォーレンは、剣を振り上げたカーリを見て死を覚悟した。
(操られているとはいえ、妹に殺されるなら本望か)
ウォーレンは静かに目を閉じると、その時を待つ。
カーリの殺し方をよく知っているウォーレンは、カーリの剣が心臓か首かどちらかにくることを予想していた。
しかし次の瞬間、ウォーレンの全く予想していなかったところに、全く予想していなかった衝撃があった。
ばちいいぃぃぃん、という大きな音と頬を襲った激痛に、ウォーレンはそのまま横にふっとばされる。
地面を転がったウォーレンが飛ばされた先で顔を上げると、カーリが平手を振り抜いた格好のまま止まっていた。
「諦めるな! お前はカーサの兄なのだろう?」
「どういうことだ? ……いや、というより、お前は誰だ?」
どこか様子のおかしいカーリに、ウォーレンは首を傾げる。
カーリはその質問に答えることなく、先程の平手でウォーレンの手から離れていた剣をウォーレンの近くに投げてよこす。
「立て。我は本気のお前と勝負がしたいのだ」
そこでようやく、ウォーレンはカーリの言葉が変わっていることに気がついた。
「なるほど、死合いではなく勝負、か。いいだろう。だが、勝負ならこれに頼るのは違うだろう?」
ウォーレンはマヤから預かった聖魔石の剣をそっとその場に置くと、少し離れたところに落ちてしまっていた愛用の剣を手に取った。
その剣は、聖魔石でもなんでもない、ただの鋼の剣だ。
「確かにお前の言うとおりだ」
カーリも聖魔石の剣をその場に置くと、座っているマヤのところへと向かう。
カーリの方を向いたマヤの手には、いつの間にか先程マヤが回収したカーリの剣があった。
こちらもウォーレン同様、なんということはないただの鋼の剣だ。
「ちょうど我にかかっていた強化魔法もなくなったようだ。ここからは完全な実力勝負だ」
心底楽しそうに笑うカーリには、先ほどまでの邪悪さがなかった。
あまりに無邪気なその笑顔に、ウォーレンは思わず昔のカーサを思い出す。
「いいだろう」
「オリガとやら、合図を頼めるか?」
「へっ? ええ、いいですけど……」
未だに今のカーリが敵なのか味方なのか判断しかねていたオリガは、急にカーリから話しかけられて気の抜けた返事をしてしまう。
それどころか、カーリの勢いに負けて勝負の合図まで引き受けてしまう始末だった。
「えーっと、それでは…………始め!」
オリガの合図で、剣を構えていた2人が一気に距離を詰める。
1合、2合と剣を撃ち合う度に火花をちらしながら、2人は攻守を次々と入れ替えながら斬り結ぶ。
「なんとかなったねえ」
「マヤさん、もう大丈夫なんですか?」
「うん、なんとか。魔力ほとんど使っちゃったからふらふらだけどね……おっとと」
オリガの近くまでよろよろ歩いてきたマヤは、その場でふらついて倒れそうになってしまう。
オリガは慌ててマヤに手を取ると、そのままマヤに肩を貸した。
「大丈夫じゃないじゃないですか……それで、なんとかなったっていうのは一体……」
「うーん? まあ、オリガがそう思うのも仕方ないかもね。だってまだあの2人戦ってるし。でもさ……ふふっ」
マヤは小さく笑って未だに斬り結び合う2人を指差す。
「さっきまでと違って、2人ともすっごく楽しそうじゃない?」
マヤに言われて改めて2人に目を向けたオリガは、カーリだけでなく、ウォーレンまでいつの間にやら楽しそうに剣を振るっていることに気がついた。
「もしかして、今のカーサさんって……」
「うーん、どうだろう? まだカーリな気がするけど、でもさっきまでのカーリとは別人みたいだよね」
マヤがのんきにそんなことを言った直後、疲労からか足を取られたウォーレンが体勢を崩してしまい、そのまま地面に倒れ込む。
その隙を見逃さなかったカーリによって、ウォーレンは首筋に切っ先を突きつけられた。
「勝負あり、だな?」
「ああ、俺の負けだ」
ウォーレンは剣を手放して両手を上げ、降参の意を示した。
「では我の勝ち――おいこら、まだこれから勝者としての言葉がだ――ああもう、分かった、代わるからそれ以上騒ぐな!」
突然誰に言うでもなく叫びだしたカーリにウォーレンが驚いていると、突然カーリが抱きついてきた。
「お兄ちゃん!」
ウォーレンを抱きしめ、その肩に顔を埋めながら泣き始めたカーリに、ウォーレンは今の彼女はカーリではないことに気がついた。
「カーサ、なのか?」
「うん、うん……うんっ! 私、だよ、カーサ、だよっ! お兄ちゃんっ!」
カーサはウォーレンの肩に埋めていた顔を離すと、ウォーレンの両肩に手をおいてウォーレンに正面から顔を見せる。
一杯に浮かべた涙を浮かべたカーサに、ウォーレンは優しく微笑むとその涙を指で拭ってやった。
「全く、泣き虫なのは昔のままだな」
「ふふっ、お兄ちゃん、だって、泣いて、るよ?」
カーサの涙を拭うウォーレンの目にも、いつしか大粒の涙が浮かんでいた。
「はははっ、今日だけは許してくれ。なにせ、やっとお前を助けられたんだからな」
「じゃあ、私だって、今日、だけ。だって、お兄ちゃんと、やっと、再会、できたん、だもん」
微笑みながら嬉し涙を流す2人を、マヤたちは何も言わず見守っていたのだった。
カーリの斬撃を受け止めたウォーレンは、そのまま横に吹き飛ばされる。
時間経過でウォーレンにかけられていたマヤの強化魔法の効果が薄くなっていくにつれ、地力の差が現れるようになってきていた。
マヤがカーリへの強化魔法で魔力の大半を使い果たした今、ウォーレンは追加の強化魔法に頼ることもできず、いつしか防戦一方となっている。
「くそっ、やはり俺では敵わないのか……っ!」
剣で受けたはずのカーリの斬撃は、その衝撃だけでウォーレンにダメージを与えていたようで、ウォーレンは膝をつく。
「諦めるならそれでも構わんがな」
カーリはゆっくりと歩いてウォーレンへの距離を詰めてくる。
その様子を見ながら、ウォーレンはゆっくりと剣をおろした。
「諦める、か……それしかないのかもしれんな」
師に勇気を貰い、マヤに力を貰い、オリガに大切なことに気づかせてもらい、なんとかここまで来たウォーレンだったが、今度ばかりはもう無理だろう。
まだ余力がありそうなオリガと共闘すればどうにかなるかもしれないが、戦えたとしてもウォーレンにはカーリからカーサを取り戻す方法がない。
マヤの策を採用したということは、オリガも同じだろう。
「そうか。ん? ああ、わかっている」
「何の話だ?」
「ああいや、こっちの話だ」
諦めて近づいてくるカーリを見上げていたウォーレンは、剣を振り上げたカーリを見て死を覚悟した。
(操られているとはいえ、妹に殺されるなら本望か)
ウォーレンは静かに目を閉じると、その時を待つ。
カーリの殺し方をよく知っているウォーレンは、カーリの剣が心臓か首かどちらかにくることを予想していた。
しかし次の瞬間、ウォーレンの全く予想していなかったところに、全く予想していなかった衝撃があった。
ばちいいぃぃぃん、という大きな音と頬を襲った激痛に、ウォーレンはそのまま横にふっとばされる。
地面を転がったウォーレンが飛ばされた先で顔を上げると、カーリが平手を振り抜いた格好のまま止まっていた。
「諦めるな! お前はカーサの兄なのだろう?」
「どういうことだ? ……いや、というより、お前は誰だ?」
どこか様子のおかしいカーリに、ウォーレンは首を傾げる。
カーリはその質問に答えることなく、先程の平手でウォーレンの手から離れていた剣をウォーレンの近くに投げてよこす。
「立て。我は本気のお前と勝負がしたいのだ」
そこでようやく、ウォーレンはカーリの言葉が変わっていることに気がついた。
「なるほど、死合いではなく勝負、か。いいだろう。だが、勝負ならこれに頼るのは違うだろう?」
ウォーレンはマヤから預かった聖魔石の剣をそっとその場に置くと、少し離れたところに落ちてしまっていた愛用の剣を手に取った。
その剣は、聖魔石でもなんでもない、ただの鋼の剣だ。
「確かにお前の言うとおりだ」
カーリも聖魔石の剣をその場に置くと、座っているマヤのところへと向かう。
カーリの方を向いたマヤの手には、いつの間にか先程マヤが回収したカーリの剣があった。
こちらもウォーレン同様、なんということはないただの鋼の剣だ。
「ちょうど我にかかっていた強化魔法もなくなったようだ。ここからは完全な実力勝負だ」
心底楽しそうに笑うカーリには、先ほどまでの邪悪さがなかった。
あまりに無邪気なその笑顔に、ウォーレンは思わず昔のカーサを思い出す。
「いいだろう」
「オリガとやら、合図を頼めるか?」
「へっ? ええ、いいですけど……」
未だに今のカーリが敵なのか味方なのか判断しかねていたオリガは、急にカーリから話しかけられて気の抜けた返事をしてしまう。
それどころか、カーリの勢いに負けて勝負の合図まで引き受けてしまう始末だった。
「えーっと、それでは…………始め!」
オリガの合図で、剣を構えていた2人が一気に距離を詰める。
1合、2合と剣を撃ち合う度に火花をちらしながら、2人は攻守を次々と入れ替えながら斬り結ぶ。
「なんとかなったねえ」
「マヤさん、もう大丈夫なんですか?」
「うん、なんとか。魔力ほとんど使っちゃったからふらふらだけどね……おっとと」
オリガの近くまでよろよろ歩いてきたマヤは、その場でふらついて倒れそうになってしまう。
オリガは慌ててマヤに手を取ると、そのままマヤに肩を貸した。
「大丈夫じゃないじゃないですか……それで、なんとかなったっていうのは一体……」
「うーん? まあ、オリガがそう思うのも仕方ないかもね。だってまだあの2人戦ってるし。でもさ……ふふっ」
マヤは小さく笑って未だに斬り結び合う2人を指差す。
「さっきまでと違って、2人ともすっごく楽しそうじゃない?」
マヤに言われて改めて2人に目を向けたオリガは、カーリだけでなく、ウォーレンまでいつの間にやら楽しそうに剣を振るっていることに気がついた。
「もしかして、今のカーサさんって……」
「うーん、どうだろう? まだカーリな気がするけど、でもさっきまでのカーリとは別人みたいだよね」
マヤがのんきにそんなことを言った直後、疲労からか足を取られたウォーレンが体勢を崩してしまい、そのまま地面に倒れ込む。
その隙を見逃さなかったカーリによって、ウォーレンは首筋に切っ先を突きつけられた。
「勝負あり、だな?」
「ああ、俺の負けだ」
ウォーレンは剣を手放して両手を上げ、降参の意を示した。
「では我の勝ち――おいこら、まだこれから勝者としての言葉がだ――ああもう、分かった、代わるからそれ以上騒ぐな!」
突然誰に言うでもなく叫びだしたカーリにウォーレンが驚いていると、突然カーリが抱きついてきた。
「お兄ちゃん!」
ウォーレンを抱きしめ、その肩に顔を埋めながら泣き始めたカーリに、ウォーレンは今の彼女はカーリではないことに気がついた。
「カーサ、なのか?」
「うん、うん……うんっ! 私、だよ、カーサ、だよっ! お兄ちゃんっ!」
カーサはウォーレンの肩に埋めていた顔を離すと、ウォーレンの両肩に手をおいてウォーレンに正面から顔を見せる。
一杯に浮かべた涙を浮かべたカーサに、ウォーレンは優しく微笑むとその涙を指で拭ってやった。
「全く、泣き虫なのは昔のままだな」
「ふふっ、お兄ちゃん、だって、泣いて、るよ?」
カーサの涙を拭うウォーレンの目にも、いつしか大粒の涙が浮かんでいた。
「はははっ、今日だけは許してくれ。なにせ、やっとお前を助けられたんだからな」
「じゃあ、私だって、今日、だけ。だって、お兄ちゃんと、やっと、再会、できたん、だもん」
微笑みながら嬉し涙を流す2人を、マヤたちは何も言わず見守っていたのだった。
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