転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第4巻第4章 初代剣聖

狂気の払拭

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「くっ!」

 カーリは間断なく迫るウォーレンの剣撃を捌きながら、剣を手放す機会を伺い続けていた。

 しかし、少しでも余裕ができた思った時にはすでに次の斬撃が迫っているため、カーリは対応するしかなく、いつまで経っても剣を手放せずにいた。

(せめてあの魔王の強化魔法がくれば状況を打開できるのだろうが……)

 カーリはマヤがウォーレンに向けて強化魔法をかけるのを待つことしかできない。

 カーリの推測ではマヤが強化魔法を使えば、その効果がカーリにも来るはずだ。

 そうなれば、自力で勝るカーリが再び優位に立てる。

「魔王マヤ、貴様は見ているだけでいいのか?」

 ウォーレンの剣撃を捌きながら、カーリはマヤへと話しかける。

 水を向けられたマヤは首を傾げる。

「私だってウォーレンさんに強化魔法かけてるし、一応戦ってると思うけど?」

「強化魔法の持続時間は大丈夫なのか?」

「なに? 私達のことを心配してくれるの?」

 マヤはカーリが何を狙っているのか見透かしておきながら、わざとらしくそんなことを言う。

 あまりにもあからさまなマヤの態度に、カーリもマヤがこちらの狙いに気がついた上ですっとぼけていることに気がついた。

「…………食えないやつだ」

「そんなことないと思うけどなー」
 
 マヤは無邪気な少女ぶってカーリの言葉を否定する。

 そのまますっと手を上げたマヤは、にやりと笑った。
 
「でもいいよ、かけてあげる、強化魔法」
 
「……なんだと?」

 カーリにとってあまりにも予想外な発言に、カーリは顔をしかめる。

「だからかけてあげるって、強化魔法」

 そんなやり取りをしている間も、ウォーレンの猛攻は続いており、カーリは魔石の剣でその攻撃を捌き続けている。

強化ブースト

 マヤが静かに唱えると、その両手から光の粒子が溢れ出し、それぞれカーリとウォーレンへと向かっていく。

 二人へとたどり着いた光の粒子は、その身体にまとわりつくと、次々とその身体に溶けていった。

「ほう、これは」

 カーリは瞬間全身にみなぎった力を感じ感嘆の声を漏らす。

「ウォーレンが我を圧倒できたのも納得だな」

 強化魔法を受けたウォーレンに対し防戦一方だったカーリは、大きく剣を薙いでウォーレンを吹き飛ばす。

 吹き飛ばされたウォーレンもそれは予想の範疇だったのか、危なげなく着地すると、カーリと向き合った。

「お前も強化を受けたからなんだというのだ?」

 ウォーレンの言葉は、今のカーリには強がりにしか聞こえない。
 
「ははっ、はははっ! これは素晴らしい。魔王マヤ、我を強化してしまった事を後悔するがいい!」

 カーリは凄惨な笑みを浮かべると、一瞬にしてカーリへと肉薄する。

「……っっ!?」

 予想以上の速度で迫るカーリに、ウォーレンはなんとか剣撃を合わせて応戦するが、その攻撃は難なくカーリに受け止められてしまう。

「ははっ、止まって見えるぞ?」

 カーリはウォーレンの剣を大きく上へと弾き上げると、狙い過たずウォーレンの心臓へと突きを入れる。

 しかし、その突きは幾重にも重なった防御魔法によって防がれた。

「なに?」

 予想外の出来事によって一瞬生まれた隙をついて、ウォーレンは大きく飛び退る。

 その後ろには昨日も見たドアが姿を表しており、そのドアの前立った1人のダークエルフがこちらを見ていた。

「大丈夫ですか、お兄ちゃん!」

「ああ、助かった」

「流石オリガ、完璧なタイミングだね」

 マヤはオリガの完璧なタイミングを称賛する。

 オリガにはあらかじめ、ウォーレンが本当に危なくなったらフォローするように頼んでおいたのだ。

「それほどでも。でも、マヤさんがそう言うってことは……」

「うん、そろそろじゃないかな」

「我の前でそこまで呑気に話せるとな!」

 戦場とは思えないほどのんびり話しているマヤたちに、容赦ないカーリの斬撃が迫る。

 瞬時にこの場で最も厄介なのはオリガだと判断し、その首を斬りつけようとしたことは、流石の状況判断能力だったが――。

「はーいスト~ップ」

「なっ…………」

 カーリの斬撃がオリガの褐色肌を斬り裂く直前、その剣はそのままその場でピタリと止まる。

 止まった言っても、ウォーレンが受け止めたわけでも、オリガが防御魔法で受け止めたのでもない。

 カーリの動きが完全に止まっていたのだ。

「な、何を、した!」

 カーリは全く身体を動かせない事を驚愕しながら、明らかに何かした張本人であるマヤを問い詰める。

「いやー、な~んにも難しいことはしてないよ?」

「嘘をつけ! この我が動けないなどありえない! まして、貴様の強化魔法で今の我は……!? まさか!?」

「やっと気がついたね。まあこんなにまんまと引っかかってくれるとは思わなかったけど」

 マヤの言う通り、マヤは何も難しいことはしていない。

 というより、魔物強化の魔法である強化ブーストにそんな高度な効果はない。

「絶対命令権……っ!」

「正解」

 そう、マヤが使ったのは魔物に対する絶対命令権だ。

 今のマヤとカーリは、強化魔法を使うマヤと、その強化魔法で強化されるカーリという形で一時的な主従関係が出来上がっている。

 それには当然、魔物使いの魔物に対する絶対命令権も含まれるのだ。

「しかし、どうして剣を極めたオークである我が……」

「あーそれねー、確かに剣を極めて、同時に精神力も鍛えるオークの剣士に、精神操作魔法は効かないよ。でも、これは別に精神操作じゃないし」

 実を言うと、この作戦が成功するだろうな、とマヤが予測した理由がそれだったりする。

 基本的に魔法による支配を受けないオークの剣士であるカーリなら、魔法による支配の可能性を見落とすのではないか、と思ったのだ。

「…………なるほど、我の負け、ということか」

「まあそうだね。それじゃあ、カーサから出て行ってもらうよ」

 マヤはカーリの頭に手を乗せる。

強化ブースト!!!!」

 先ほどとは比べ物にならない量の光の粒子粒子がマヤの手から溢れ出し、そのままカーリの頭に流れ込んでいく。

 すぐにカーリの頭は、マヤの強化魔法によって直視に耐えない極光を放つ。

 時間にして1分も経たないうちに光の奔流が収まり、眩しさに目をそらしていたウォーレンが2人に目を向けると、ちょうどマヤがその場に座り込むところだった。

 その場で動かないカーリに、ウォーレンはゆっくりと近づいていく。

「お前はカーリか? それともカーサに戻ったのか?」

「………………さて、どちらだと思う?」

「っっ!?」

 ぎいいぃぃんという金属と石とも違う魔石同士がぶつかる轟音とともに、ウォーレンとカーリが2人の間を中心に大きく後ろに飛ばされる。

「勝負だ、ウォーレン!」

 マヤの策では、マヤの全力の強化魔法によってカーサはカーリから開放されるはずだった。

 しかし……。

「そんな……失敗……」

 絶望してそう呟いたオリガが眼前では、カーリがウォーレンへと襲いかかっていた。
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