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第4巻第3章 剣聖とウォーレン

修行の成果

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「はああっ!」

 マヤは最大出力の強化魔法で自分を強化し、ウォーレンへと肉薄すると、そのまま剣を振り下ろした。

 ウォーレンが認識できていないであろう速度で近づき斬りつけたマヤは勝利を確信する。

 しかし、振り下ろした剣は、ウォーレンの剣に受け止められていた。

「まだまだっ!」

「わわっ!?」

 ウォーレンが力任せにマヤの剣を吹き飛ばすと、バランスを崩したマヤはそのまま尻もちを付きそうになり、慌てて地面に手をついてバク転の要領で1回転し、飛ばされた勢いを利用して距離をとる。

「まさか今のを受け止められるなんて」

「俺も成長しているということだ。今度はこちらから行かせてもらうっ!」

 今度はウォーレンがマヤへと攻撃を仕掛け、2人は数多の火花を撒き散らしながら剣と剣をぶつけ合う。

 その様子を、デリックとオリガは少し離れたところから見ていた。

「お兄ちゃん本当に強くなりましたね」

「そうだな、マヤの速度に対応できるようになったのは大きい。あれが見切れるなら、大抵の攻撃には対処できるはずだ」

 ウォーレンが封印空間で修行を始めて早1年、ウォーレンは確実に実力を伸ばしていた。

 ついでに言うと、オリガはいつの頃からか、自然にウォーレンのことをお兄ちゃんと呼ぶようになっていた。

「マヤさんも前より戦い方が洗練されているはずなのに、それを見切るんですもんね」

「マヤは元々の戦い方が単調すぎたのだ。あの強化魔法が規格外なおかげでなんとかなっていただけで、そうでなければあんな素人丸出しの戦い方ではすぐに死んでいただろう」

「あはは……まあ確かにそうかもしれませんね」

 そんなマヤも、今では一廉の剣士として戦闘面で最低限の読み合いや駆け引きを行えるようになっている。

 まだまだ未熟であることは変わりないが、それでもそこにマヤの強化魔法で得られるパワーとスピードが合わされば魔王の名に恥じない実力となる。

「それより私はお前の行く末が恐ろしいな」

「私ですか?」

「ああ、流石あの伝説の副官エメリンの娘というべきか、並外れた魔力と魔法のセンスに戦闘時の勘にも優れている。私が教えた剣もすぐに修得してしまったしな」

「そんなそんな……! それはデリックさんの教え方が上手いからで!」

「それは否定しないが、それにしてもお前の上達は目を見張る者がある。将来魔王を殺す存在にならんか今から恐ろしい」

 珍しく口元を綻ばせるデリックに、オリガはようやくそれが冗談だと気がついた。

「そんなことしないですって! あっほら! 決着がついたみたいですよ!」

 オリガが指差す先では、剣を首元に突きつけられたマヤが、剣から手を離すところだった。

「私の負け、だね」

「ふうぅ……始めてお前に勝ったな」

 ウォーレンはマヤの首元から剣を離すと、そのまま剣を鞘に収めた。

 マヤは地面に落とした細身の剣を拾うと、背中にぶら下げていた鞘にしまう。

「お疲れ様です、2人とも」

 オリガからタオルと飲み物を受け取った2人は、汗を拭きながらデリックの前へとやってきた。

「ねえ剣神さん、そろそろ大丈夫なんじゃない?」

「そうだな、本来魔物使いであり1対1での戦闘で優れているわけではないとはいえ魔王であるマヤに勝ったのだ、流石に大丈夫だろう」

「よーっし、そうと決まればさっそく外に出てカーサを探しに行こーう!」

「何だ、やっと終わったのか?」

 マヤの言葉に、忽然と現れたルースは外に繋がるドアへと変身しようとする。

 しかし、そんな2人の動きをデリックが遮った。

「まあ待て、そんなに急いでも仕方あるまい。マヤ、ここでの1日は外だとどれくらいなのだ?」

「え? えーっとねぇ…………だいたい9秒もないくらいかな?」

 なんとか暗算して結果を伝えると、デリックがゆっくりと頷いた。

「その程度の時間であれば、一旦ここで体を休めてから外に行った方がいいと思うが違うか?」

 マヤは言われて初めて、先ほどの戦闘で疲れ切っていることを思いだし、そのままその場に座り込んでしまう。

 同じくマヤとの戦闘で疲弊していたウォーレンもその場に座り込んでいた。

「はははっ、そうだね剣神さんの言う通りだね。とりあえず明日くらいまで休んでから外に出ることにしようか」

 こうしてマヤたちは、この後2日間しっかりと身体を休め、万全の体調で外へと出ることにしたのだった。

***

「ふう、久しぶりの外だねえ」

 マヤはドアになったルースをくぐるなり、大きき伸びをした。

 久しぶりに見る外の空は雲一つない晴天だった。

 ちなみに外の世界では1時間程度しか経っていないので、マヤがルースの封印空間に入ったときと天気は大して変わっていないのだが、マヤとしては1年前のことなので、覚えているはずがなかった。

「おかえりなさい、マヤさん。早かったですね」

「ただいま、ラッセル君。まあラッセルくん的には早かったかもねえ……。それで、君がここにいるってことは、カーサの居場所がわかったってことかな?」

「その通りです。ようやくカーサさんの足取りが掴めました」

 ラッセルはマヤの隣に立つと、大きな地図を広げてマヤへと見せる。

 その地図にはいくつか印がついていた。

「この印のところで、カーサさんに会ったという人物が確認できました。そしてこの移動経路から予想されるカーサさんの現在位置は、ここです」

 ラッセルは徐々にキサラギ亜人王国から離れていっている印を繋ぐ直線のすぐ近くにある街を指さした。

 しかし、それを上から覗き込んでいたウォーレンが、ラッセルが指さした街の隣の街を指さした。

「カーサがいるのは、きっとこっちの街だ」

 ウォーレンがマヤの後ろから地図を指差すせいで、ウォーレンに覆い被さられる形となったマヤがドキドキしているのをよそに、2人は話し始める。

「あなたは……その緑の髪……そうですか、あなたがウォーレンさんなんですね。それで、どうしてそちらの街だと思うんですか? なにか根拠があるんでしょうか?」

 ラッセルの言葉に、ウォーレンは頷く。

「ラッセルと言ったか、お前が印をつけたカーサがいたらしい街だが、それは全部俺がいたことのある街だ。そして、おそらく最後にカーサがいた街から一番近いのが」

 ウォーレンはそう言ってトントンと地図上の街を指差す。

「この街、というわけですか……そういうことなら、おそらくカーサさんはそちらでしょうね。それではさっそく部隊に連絡して――」

「いや、その必要はないよ」

 ウォーレンの腕の中から抜け出したマヤは、少し朱の残る頬をしたまま、ラッセルの言葉を遮った。

「これから私達が直接カーサを連れ戻しに行くからね!」

 と、力強くそう宣言したのだった。
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