162 / 324
第4巻第3章 剣聖とウォーレン
唯一の打開策
しおりを挟む
「これはすごいな……」
ウォーレンは後ろに何もなかったはずのドアをくぐった先に広がっていた空間に、思わず息を呑んだ。
「すごいでしょ?」
マヤがウォーレンの後に続いて中に入ると、その後ろに続いてデリックが入ってくる。
「これが全てあの少女の作った空間とはな」
「あの少女じゃなくてルースだ、デリック殿」
最後に入ってきたルースの後ろには、もう外へのドアがない。
あのドア自体がルースが姿を変えていたものなのだから当然である。
「マヤさーん、こっちでーす」
マヤが声の方に顔を向けると、大きな家の前でオリガが手を振っていた。
「立派な家だねー」
「ですよね。諜報部隊の人たちが1年間訓練するために、こんな感じの家をたくさん作ったみたいで、まだまだいくつもあるらしいですよ」
「らしいね。私も計画書や報告書では知ってたけど、実物は見に来る余裕がなかったから初めて見るんだよね。立派なもんだねー」
マヤの目の前に建っている家は、1年やそこらで駄目になるような造りには見えなかった。
もちろん建築素人のマヤから見ての判断なのであてにならないかもしれない。
しかしこの封印空間はルースがなにかしない限り常に適温で雨も風もなく家が劣化する要因が少ないので、これからしばらくマヤたちが住むぶんには問題ないだろう。
「よーし、それじゃあさっそく部屋を決めよーう!」
楽しそうにドアを開けて中に入っていくマヤに、ウォーレンはいつでもマヤは楽しそうで羨ましいな、と苦笑しながらついていく。
同時に、こんなにのんびりしていて本当に大丈夫なのだろうか、ウォーレンは不安を感じてもいた。
どうしてウォーレンがマヤに連れられてこんなところに来たのかと言えば、きっかけは昨日の話し合いへと遡る。
***
「結局、ウォーレンさんがカーサよりももっともっと強くなるしかないんじゃない?」
ウォーレンのもたらした初代剣聖の情報を元に、ウォーレンが間借りしている部屋へと場所を移して延々と話し合いを続けた結果、マヤが出した結論がそれだった。
解決策が出ては消え、出ては消えを繰り返しいたずらに時間が過ぎていった結果、窓からは真紅の夕日が差し込んできている。
マヤがウォーレンをつつき回して起こしたのが日の出前だったので、ほぼ丸一日話し合っていた事になるのだが、結局ところ、何度も至った結論に戻ってきた形だ。
「それはまあそうなんでしょうけど、それができないから困ってるって話じゃないですか」
「まあそうなんだけどさー」
マヤは頭の後ろで手を組むと、腰掛けていたウォーレンのベッドへと倒れ込む。
床に座るオリガの位置からマヤのスカートの中が見えてしまいそうでオリガは慌てて隣に座っているウォーレンに目を向けると、ウォーレンは気まずそうにマヤから顔をそらしていた。
「なんかさあ、こう、短期間で一気に強くなれたりしないかなあ……」
ベッドから垂らした足をぷらぷらさせながら、マヤは天井を眺めて考える。
(よく漫画とかであるような、短い時間で長い時間修行したのと同じような効果を……ん?)
マヤは何かを忘れているような気がして、ゆっくりと上半身を起こした。
オリガを見てみると、どうやらオリガも何かを引っかかっているらしい。
「ねえオリガ、最近短時間でたくさん訓練してもらったこと、あったよね?」
マヤの答えに、オリガはうんうんと頷いた。
「ありましたありました。あれは確か諜報部隊の皆さんの訓練のときで……」
「だよね。そうだよね。つまりさ……?」
「はい……」
マヤとオリガは顔を見合わせると、同時に1つの答えを口にする
「「ルースの封印空間!」」
そう、ルースの封印空間であれば、その内部の時間が流れる速度を自在に操ることができる。
つまり、短期間でその何倍もの時間分の修行ができるのだ。
「……その、盛り上がっているところ悪いが、その「ルースの封印空間」というのは何なのだ?」
「えーっとね、簡単に言うと――」
マヤがかいつまんでルースの封印空間に着いて説明すると、ウォーレンの表情がみるみる明るくなっていった。
「……なるほど。なるほど……なるほどっ! それなら……それなら本当になんとかなるかもしれん!」
ウォーレンは喜びのあまり説明していたマヤの手をその大きな両手で包む。
「わわっ」
ただそれだけのことに、マヤはなぜだか心がざわついてしまう。
同時に動機が激しくなるが、不思議と不快な感じはしなかった。
(何なんだろう、これ?)
マヤの手を包んだ両手を額に当てて、静かに涙を流しているウォーレンを見ながら、マヤは一人首を傾げるのだった。
***
そんなこんなで、マヤたちはデリックを連れてキサラギ亜人王国まで戻り、ルースの封印空間へとやってきているわけだ。
「マヤ、もう封印空間内の時間の流れを早くして大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
「何倍にする?」
「そうだななあ、1万倍ってできるんだっけ?」
「お前が私に強化魔法をかけてくれればな」
「まかせて」
マヤは頷くと、すぐにルースへと強化魔法をかけた。
「それでは1万倍にしておくぞ。いつでも出られるように私も中にいる関係上、私の強化魔法も内部の時間経過で切れる。すまんが1日1回は強化魔法をかけてくれ」
「了解。それじゃあ部屋が決まったら、さっそく修行と行きますか」
マヤは手近なドアを開けると、中へと入っていった。
***
「ねえ剣神さん、なんで私も剣を持たされてるの?」
「おかしいことではあるまい。ウォーレンの練習相手は1人でも多いほうがいいだろう?」
だからお前にも剣をもたせた、と言外に語るデリックに、マヤは参ったなあと隣をみやった。
そこには同じく普段は剣を持たないオリガが剣を持たされて立たされている。
「だからってこんな付け焼き刃で剣の練習したってさあ……ねえオリガ?」
「そうですよ。そもそも私に剣なんて……」
「安心しろ、基本さえできれば後はお前たちの身体強化である程度は補えるはずだ。手始めに、軽くて合わせするぞ」
問答無用で向かってくるデリックの剣を、マヤはなんとか自らの剣で受け止める。
「悪くない。次、行くぞ!」
こうしてここから1ヶ月あまり、なぜだかマヤとオリガの2人がみっちり剣神直々の手ほどきを受けることになったのだった。
ウォーレンは後ろに何もなかったはずのドアをくぐった先に広がっていた空間に、思わず息を呑んだ。
「すごいでしょ?」
マヤがウォーレンの後に続いて中に入ると、その後ろに続いてデリックが入ってくる。
「これが全てあの少女の作った空間とはな」
「あの少女じゃなくてルースだ、デリック殿」
最後に入ってきたルースの後ろには、もう外へのドアがない。
あのドア自体がルースが姿を変えていたものなのだから当然である。
「マヤさーん、こっちでーす」
マヤが声の方に顔を向けると、大きな家の前でオリガが手を振っていた。
「立派な家だねー」
「ですよね。諜報部隊の人たちが1年間訓練するために、こんな感じの家をたくさん作ったみたいで、まだまだいくつもあるらしいですよ」
「らしいね。私も計画書や報告書では知ってたけど、実物は見に来る余裕がなかったから初めて見るんだよね。立派なもんだねー」
マヤの目の前に建っている家は、1年やそこらで駄目になるような造りには見えなかった。
もちろん建築素人のマヤから見ての判断なのであてにならないかもしれない。
しかしこの封印空間はルースがなにかしない限り常に適温で雨も風もなく家が劣化する要因が少ないので、これからしばらくマヤたちが住むぶんには問題ないだろう。
「よーし、それじゃあさっそく部屋を決めよーう!」
楽しそうにドアを開けて中に入っていくマヤに、ウォーレンはいつでもマヤは楽しそうで羨ましいな、と苦笑しながらついていく。
同時に、こんなにのんびりしていて本当に大丈夫なのだろうか、ウォーレンは不安を感じてもいた。
どうしてウォーレンがマヤに連れられてこんなところに来たのかと言えば、きっかけは昨日の話し合いへと遡る。
***
「結局、ウォーレンさんがカーサよりももっともっと強くなるしかないんじゃない?」
ウォーレンのもたらした初代剣聖の情報を元に、ウォーレンが間借りしている部屋へと場所を移して延々と話し合いを続けた結果、マヤが出した結論がそれだった。
解決策が出ては消え、出ては消えを繰り返しいたずらに時間が過ぎていった結果、窓からは真紅の夕日が差し込んできている。
マヤがウォーレンをつつき回して起こしたのが日の出前だったので、ほぼ丸一日話し合っていた事になるのだが、結局ところ、何度も至った結論に戻ってきた形だ。
「それはまあそうなんでしょうけど、それができないから困ってるって話じゃないですか」
「まあそうなんだけどさー」
マヤは頭の後ろで手を組むと、腰掛けていたウォーレンのベッドへと倒れ込む。
床に座るオリガの位置からマヤのスカートの中が見えてしまいそうでオリガは慌てて隣に座っているウォーレンに目を向けると、ウォーレンは気まずそうにマヤから顔をそらしていた。
「なんかさあ、こう、短期間で一気に強くなれたりしないかなあ……」
ベッドから垂らした足をぷらぷらさせながら、マヤは天井を眺めて考える。
(よく漫画とかであるような、短い時間で長い時間修行したのと同じような効果を……ん?)
マヤは何かを忘れているような気がして、ゆっくりと上半身を起こした。
オリガを見てみると、どうやらオリガも何かを引っかかっているらしい。
「ねえオリガ、最近短時間でたくさん訓練してもらったこと、あったよね?」
マヤの答えに、オリガはうんうんと頷いた。
「ありましたありました。あれは確か諜報部隊の皆さんの訓練のときで……」
「だよね。そうだよね。つまりさ……?」
「はい……」
マヤとオリガは顔を見合わせると、同時に1つの答えを口にする
「「ルースの封印空間!」」
そう、ルースの封印空間であれば、その内部の時間が流れる速度を自在に操ることができる。
つまり、短期間でその何倍もの時間分の修行ができるのだ。
「……その、盛り上がっているところ悪いが、その「ルースの封印空間」というのは何なのだ?」
「えーっとね、簡単に言うと――」
マヤがかいつまんでルースの封印空間に着いて説明すると、ウォーレンの表情がみるみる明るくなっていった。
「……なるほど。なるほど……なるほどっ! それなら……それなら本当になんとかなるかもしれん!」
ウォーレンは喜びのあまり説明していたマヤの手をその大きな両手で包む。
「わわっ」
ただそれだけのことに、マヤはなぜだか心がざわついてしまう。
同時に動機が激しくなるが、不思議と不快な感じはしなかった。
(何なんだろう、これ?)
マヤの手を包んだ両手を額に当てて、静かに涙を流しているウォーレンを見ながら、マヤは一人首を傾げるのだった。
***
そんなこんなで、マヤたちはデリックを連れてキサラギ亜人王国まで戻り、ルースの封印空間へとやってきているわけだ。
「マヤ、もう封印空間内の時間の流れを早くして大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
「何倍にする?」
「そうだななあ、1万倍ってできるんだっけ?」
「お前が私に強化魔法をかけてくれればな」
「まかせて」
マヤは頷くと、すぐにルースへと強化魔法をかけた。
「それでは1万倍にしておくぞ。いつでも出られるように私も中にいる関係上、私の強化魔法も内部の時間経過で切れる。すまんが1日1回は強化魔法をかけてくれ」
「了解。それじゃあ部屋が決まったら、さっそく修行と行きますか」
マヤは手近なドアを開けると、中へと入っていった。
***
「ねえ剣神さん、なんで私も剣を持たされてるの?」
「おかしいことではあるまい。ウォーレンの練習相手は1人でも多いほうがいいだろう?」
だからお前にも剣をもたせた、と言外に語るデリックに、マヤは参ったなあと隣をみやった。
そこには同じく普段は剣を持たないオリガが剣を持たされて立たされている。
「だからってこんな付け焼き刃で剣の練習したってさあ……ねえオリガ?」
「そうですよ。そもそも私に剣なんて……」
「安心しろ、基本さえできれば後はお前たちの身体強化である程度は補えるはずだ。手始めに、軽くて合わせするぞ」
問答無用で向かってくるデリックの剣を、マヤはなんとか自らの剣で受け止める。
「悪くない。次、行くぞ!」
こうしてここから1ヶ月あまり、なぜだかマヤとオリガの2人がみっちり剣神直々の手ほどきを受けることになったのだった。
0
お気に入りに追加
555
あなたにおすすめの小説
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました
うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。
そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。
魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。
その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。
魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。
手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。
いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。
スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!!
僕は異世界転生してしまう
大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった
仕事とゲームで過労になってしまったようだ
とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた
転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった
住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる
◇
HOTランキング一位獲得!
皆さま本当にありがとうございます!
無事に書籍化となり絶賛発売中です
よかったら手に取っていただけると嬉しいです
これからも日々勉強していきたいと思います
◇
僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました
毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます
俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ
『壽命 懸(じゅみょう かける)』
しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。
だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。
異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる