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第4巻第3章 剣聖とウォーレン
唯一の打開策
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「これはすごいな……」
ウォーレンは後ろに何もなかったはずのドアをくぐった先に広がっていた空間に、思わず息を呑んだ。
「すごいでしょ?」
マヤがウォーレンの後に続いて中に入ると、その後ろに続いてデリックが入ってくる。
「これが全てあの少女の作った空間とはな」
「あの少女じゃなくてルースだ、デリック殿」
最後に入ってきたルースの後ろには、もう外へのドアがない。
あのドア自体がルースが姿を変えていたものなのだから当然である。
「マヤさーん、こっちでーす」
マヤが声の方に顔を向けると、大きな家の前でオリガが手を振っていた。
「立派な家だねー」
「ですよね。諜報部隊の人たちが1年間訓練するために、こんな感じの家をたくさん作ったみたいで、まだまだいくつもあるらしいですよ」
「らしいね。私も計画書や報告書では知ってたけど、実物は見に来る余裕がなかったから初めて見るんだよね。立派なもんだねー」
マヤの目の前に建っている家は、1年やそこらで駄目になるような造りには見えなかった。
もちろん建築素人のマヤから見ての判断なのであてにならないかもしれない。
しかしこの封印空間はルースがなにかしない限り常に適温で雨も風もなく家が劣化する要因が少ないので、これからしばらくマヤたちが住むぶんには問題ないだろう。
「よーし、それじゃあさっそく部屋を決めよーう!」
楽しそうにドアを開けて中に入っていくマヤに、ウォーレンはいつでもマヤは楽しそうで羨ましいな、と苦笑しながらついていく。
同時に、こんなにのんびりしていて本当に大丈夫なのだろうか、ウォーレンは不安を感じてもいた。
どうしてウォーレンがマヤに連れられてこんなところに来たのかと言えば、きっかけは昨日の話し合いへと遡る。
***
「結局、ウォーレンさんがカーサよりももっともっと強くなるしかないんじゃない?」
ウォーレンのもたらした初代剣聖の情報を元に、ウォーレンが間借りしている部屋へと場所を移して延々と話し合いを続けた結果、マヤが出した結論がそれだった。
解決策が出ては消え、出ては消えを繰り返しいたずらに時間が過ぎていった結果、窓からは真紅の夕日が差し込んできている。
マヤがウォーレンをつつき回して起こしたのが日の出前だったので、ほぼ丸一日話し合っていた事になるのだが、結局ところ、何度も至った結論に戻ってきた形だ。
「それはまあそうなんでしょうけど、それができないから困ってるって話じゃないですか」
「まあそうなんだけどさー」
マヤは頭の後ろで手を組むと、腰掛けていたウォーレンのベッドへと倒れ込む。
床に座るオリガの位置からマヤのスカートの中が見えてしまいそうでオリガは慌てて隣に座っているウォーレンに目を向けると、ウォーレンは気まずそうにマヤから顔をそらしていた。
「なんかさあ、こう、短期間で一気に強くなれたりしないかなあ……」
ベッドから垂らした足をぷらぷらさせながら、マヤは天井を眺めて考える。
(よく漫画とかであるような、短い時間で長い時間修行したのと同じような効果を……ん?)
マヤは何かを忘れているような気がして、ゆっくりと上半身を起こした。
オリガを見てみると、どうやらオリガも何かを引っかかっているらしい。
「ねえオリガ、最近短時間でたくさん訓練してもらったこと、あったよね?」
マヤの答えに、オリガはうんうんと頷いた。
「ありましたありました。あれは確か諜報部隊の皆さんの訓練のときで……」
「だよね。そうだよね。つまりさ……?」
「はい……」
マヤとオリガは顔を見合わせると、同時に1つの答えを口にする
「「ルースの封印空間!」」
そう、ルースの封印空間であれば、その内部の時間が流れる速度を自在に操ることができる。
つまり、短期間でその何倍もの時間分の修行ができるのだ。
「……その、盛り上がっているところ悪いが、その「ルースの封印空間」というのは何なのだ?」
「えーっとね、簡単に言うと――」
マヤがかいつまんでルースの封印空間に着いて説明すると、ウォーレンの表情がみるみる明るくなっていった。
「……なるほど。なるほど……なるほどっ! それなら……それなら本当になんとかなるかもしれん!」
ウォーレンは喜びのあまり説明していたマヤの手をその大きな両手で包む。
「わわっ」
ただそれだけのことに、マヤはなぜだか心がざわついてしまう。
同時に動機が激しくなるが、不思議と不快な感じはしなかった。
(何なんだろう、これ?)
マヤの手を包んだ両手を額に当てて、静かに涙を流しているウォーレンを見ながら、マヤは一人首を傾げるのだった。
***
そんなこんなで、マヤたちはデリックを連れてキサラギ亜人王国まで戻り、ルースの封印空間へとやってきているわけだ。
「マヤ、もう封印空間内の時間の流れを早くして大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
「何倍にする?」
「そうだななあ、1万倍ってできるんだっけ?」
「お前が私に強化魔法をかけてくれればな」
「まかせて」
マヤは頷くと、すぐにルースへと強化魔法をかけた。
「それでは1万倍にしておくぞ。いつでも出られるように私も中にいる関係上、私の強化魔法も内部の時間経過で切れる。すまんが1日1回は強化魔法をかけてくれ」
「了解。それじゃあ部屋が決まったら、さっそく修行と行きますか」
マヤは手近なドアを開けると、中へと入っていった。
***
「ねえ剣神さん、なんで私も剣を持たされてるの?」
「おかしいことではあるまい。ウォーレンの練習相手は1人でも多いほうがいいだろう?」
だからお前にも剣をもたせた、と言外に語るデリックに、マヤは参ったなあと隣をみやった。
そこには同じく普段は剣を持たないオリガが剣を持たされて立たされている。
「だからってこんな付け焼き刃で剣の練習したってさあ……ねえオリガ?」
「そうですよ。そもそも私に剣なんて……」
「安心しろ、基本さえできれば後はお前たちの身体強化である程度は補えるはずだ。手始めに、軽くて合わせするぞ」
問答無用で向かってくるデリックの剣を、マヤはなんとか自らの剣で受け止める。
「悪くない。次、行くぞ!」
こうしてここから1ヶ月あまり、なぜだかマヤとオリガの2人がみっちり剣神直々の手ほどきを受けることになったのだった。
ウォーレンは後ろに何もなかったはずのドアをくぐった先に広がっていた空間に、思わず息を呑んだ。
「すごいでしょ?」
マヤがウォーレンの後に続いて中に入ると、その後ろに続いてデリックが入ってくる。
「これが全てあの少女の作った空間とはな」
「あの少女じゃなくてルースだ、デリック殿」
最後に入ってきたルースの後ろには、もう外へのドアがない。
あのドア自体がルースが姿を変えていたものなのだから当然である。
「マヤさーん、こっちでーす」
マヤが声の方に顔を向けると、大きな家の前でオリガが手を振っていた。
「立派な家だねー」
「ですよね。諜報部隊の人たちが1年間訓練するために、こんな感じの家をたくさん作ったみたいで、まだまだいくつもあるらしいですよ」
「らしいね。私も計画書や報告書では知ってたけど、実物は見に来る余裕がなかったから初めて見るんだよね。立派なもんだねー」
マヤの目の前に建っている家は、1年やそこらで駄目になるような造りには見えなかった。
もちろん建築素人のマヤから見ての判断なのであてにならないかもしれない。
しかしこの封印空間はルースがなにかしない限り常に適温で雨も風もなく家が劣化する要因が少ないので、これからしばらくマヤたちが住むぶんには問題ないだろう。
「よーし、それじゃあさっそく部屋を決めよーう!」
楽しそうにドアを開けて中に入っていくマヤに、ウォーレンはいつでもマヤは楽しそうで羨ましいな、と苦笑しながらついていく。
同時に、こんなにのんびりしていて本当に大丈夫なのだろうか、ウォーレンは不安を感じてもいた。
どうしてウォーレンがマヤに連れられてこんなところに来たのかと言えば、きっかけは昨日の話し合いへと遡る。
***
「結局、ウォーレンさんがカーサよりももっともっと強くなるしかないんじゃない?」
ウォーレンのもたらした初代剣聖の情報を元に、ウォーレンが間借りしている部屋へと場所を移して延々と話し合いを続けた結果、マヤが出した結論がそれだった。
解決策が出ては消え、出ては消えを繰り返しいたずらに時間が過ぎていった結果、窓からは真紅の夕日が差し込んできている。
マヤがウォーレンをつつき回して起こしたのが日の出前だったので、ほぼ丸一日話し合っていた事になるのだが、結局ところ、何度も至った結論に戻ってきた形だ。
「それはまあそうなんでしょうけど、それができないから困ってるって話じゃないですか」
「まあそうなんだけどさー」
マヤは頭の後ろで手を組むと、腰掛けていたウォーレンのベッドへと倒れ込む。
床に座るオリガの位置からマヤのスカートの中が見えてしまいそうでオリガは慌てて隣に座っているウォーレンに目を向けると、ウォーレンは気まずそうにマヤから顔をそらしていた。
「なんかさあ、こう、短期間で一気に強くなれたりしないかなあ……」
ベッドから垂らした足をぷらぷらさせながら、マヤは天井を眺めて考える。
(よく漫画とかであるような、短い時間で長い時間修行したのと同じような効果を……ん?)
マヤは何かを忘れているような気がして、ゆっくりと上半身を起こした。
オリガを見てみると、どうやらオリガも何かを引っかかっているらしい。
「ねえオリガ、最近短時間でたくさん訓練してもらったこと、あったよね?」
マヤの答えに、オリガはうんうんと頷いた。
「ありましたありました。あれは確か諜報部隊の皆さんの訓練のときで……」
「だよね。そうだよね。つまりさ……?」
「はい……」
マヤとオリガは顔を見合わせると、同時に1つの答えを口にする
「「ルースの封印空間!」」
そう、ルースの封印空間であれば、その内部の時間が流れる速度を自在に操ることができる。
つまり、短期間でその何倍もの時間分の修行ができるのだ。
「……その、盛り上がっているところ悪いが、その「ルースの封印空間」というのは何なのだ?」
「えーっとね、簡単に言うと――」
マヤがかいつまんでルースの封印空間に着いて説明すると、ウォーレンの表情がみるみる明るくなっていった。
「……なるほど。なるほど……なるほどっ! それなら……それなら本当になんとかなるかもしれん!」
ウォーレンは喜びのあまり説明していたマヤの手をその大きな両手で包む。
「わわっ」
ただそれだけのことに、マヤはなぜだか心がざわついてしまう。
同時に動機が激しくなるが、不思議と不快な感じはしなかった。
(何なんだろう、これ?)
マヤの手を包んだ両手を額に当てて、静かに涙を流しているウォーレンを見ながら、マヤは一人首を傾げるのだった。
***
そんなこんなで、マヤたちはデリックを連れてキサラギ亜人王国まで戻り、ルースの封印空間へとやってきているわけだ。
「マヤ、もう封印空間内の時間の流れを早くして大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
「何倍にする?」
「そうだななあ、1万倍ってできるんだっけ?」
「お前が私に強化魔法をかけてくれればな」
「まかせて」
マヤは頷くと、すぐにルースへと強化魔法をかけた。
「それでは1万倍にしておくぞ。いつでも出られるように私も中にいる関係上、私の強化魔法も内部の時間経過で切れる。すまんが1日1回は強化魔法をかけてくれ」
「了解。それじゃあ部屋が決まったら、さっそく修行と行きますか」
マヤは手近なドアを開けると、中へと入っていった。
***
「ねえ剣神さん、なんで私も剣を持たされてるの?」
「おかしいことではあるまい。ウォーレンの練習相手は1人でも多いほうがいいだろう?」
だからお前にも剣をもたせた、と言外に語るデリックに、マヤは参ったなあと隣をみやった。
そこには同じく普段は剣を持たないオリガが剣を持たされて立たされている。
「だからってこんな付け焼き刃で剣の練習したってさあ……ねえオリガ?」
「そうですよ。そもそも私に剣なんて……」
「安心しろ、基本さえできれば後はお前たちの身体強化である程度は補えるはずだ。手始めに、軽くて合わせするぞ」
問答無用で向かってくるデリックの剣を、マヤはなんとか自らの剣で受け止める。
「悪くない。次、行くぞ!」
こうしてここから1ヶ月あまり、なぜだかマヤとオリガの2人がみっちり剣神直々の手ほどきを受けることになったのだった。
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