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第4巻第3章 剣聖とウォーレン
ウォーレンの暴走
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「それからっ、それからどうなったのっ!?」
いつもとぎれとぎれに話すカーサにしては珍しく、カーサは畳み掛けるように話すとレジェスへと身を乗り出した。
「まあ待ってくれよカーサちゃん。ちゃんと話すからさ」
突然大きな声を出したカーサに驚きながら、レエジェスはカーサの肩に優しく手を置くと、そのまま席に座らせる。
苦笑するレジェスを見てようやくカーサも自分の行動に気がついたのか、少し恥ずかしそうに座り直した。
「ごめん、なさい。すこし、びっくり、しちゃ、って」
「いいっていいって。俺もあの時は驚いたよ。カーサちゃんの方がよく知ってると思うけど、ウォーレンっていつもは虫を殺すのすら躊躇するようなやつだったんだぜ?」
最初俺に会った時に決闘吹っ掛けといておかしな話だけどな、と笑うレジェスに、カーサはうんうんと頷いた。
「やっぱり、お兄ちゃんは、お兄ちゃんの、まま、だったんだ」
ウォーレンは昔から、実力のある剣士と戦う時は殺すつもりで戦うが、それ以外で無益な殺生はしない優しい人物だった。
「そんなやつが突然、人が変わったようにごろつき共を殺し始めるんだもんな~」
レジェスはウォーレンがごろつきたちを片っ端から始末していった光景を説明し始めた。
***
ボスを殺し、剣を投げて少女を人質にした男を殺し、そしてその男へと一瞬で迫ったウォーレンは、男の眉間から剣を引き抜いた。
「我と死合いたい者はおらんのか?」
べっとりと血の付いた剣を振るって地面に血しぶきの三日月を作ったウォーレンは、ごろつき共を一瞥して問いかける。
「「「「…………」」」」
ボスに次ぐ実力を持つ側近たちを瞬殺し、仲間内で最強だった自分たちのボスを圧倒したウォーレンに、ごろつきたちは完全に怯えてしまい、全員黙りこくってしまった。
その様子に、ウォーレンは失望した様子でため息をつくと、一番近くにいた男に切っ先を向ける。
「はあ、命をかける覚悟もなく戦場に立つとは笑止千万。まずはそこのお前だ。かかってこい」
「……っ! か、勘弁してくれっ! 俺はまだ死にたくねえっ!」
ウォーレンに指名された男は、しばし逡巡したが、逃走を選択する。
背を向け仲間たちをかき分け走り出す男に、ウォーレンは一瞬で距離を詰め、その両足を切り落とした。
「ぐああああっ! 足がっ!? 足があああああっ!」
「死合え言うのが聞こえんのか?」
「あがっ……足…………あし……が……」
足を切り落とされた激痛に、白目を向いて地面をのたうち回る男に、ウォーレンは冷笑するとそのままその首を切り落とした。
「もう良い、死ね。さて、次は誰にしようか……誰が逃げて良いと言った?」
「ひっ」
ウォーレンが動いたことで路地への道が開け、そこから数人のごろつきが逃げ出そうとしているのを見つけたウォーレンは、瞬時に元の場所へと戻ると、その数人をまとめて斬り殺す。
「死合う気がないとは情けない。負けるとわかっていても挑んでこそ戦士だろうに。そんなに犬死にしたいなら、望み通りにしてやろう」
ウォーレンが振り返ってごろつきたちをギロリとにらみつけると、近くの男から順に殺し始めた。
首をはね、心臓を一突きする。
それを一瞬のうちに何度も繰り返し、ウォーレンは死体の山を築いていく。
逃げようが、抵抗しようが、どちらにせよ殺される。
それがはっきりわかったごろつきたちは、皆一様にその場で棒立ちとなり、そのままウォーレンに斬り殺されたのだった。
***
「それは、私の、知ってる、お兄ちゃんじゃ、ない」
ウォーレンのあまりに残酷な行動に、カーサは顔を青ざめさせる。
実際に兄を戦場で見たことがあったわけではないので、敵と戦う時の兄が同じような行動を取らないとカーサには言い切れないが、降伏した敵を片っ端から殺すというのはカーサの知っている兄からは考えられなかった。
「そうなのか?」
自分が知っているくらいなのだから、妹であるカーサも当然知っているのだろうと思っていたレジェスは、不思議そうに聞き返す。
レジェスの問いかけに、カーサはしばらく宙を見つめて考えた後、ゆっくりと頷いた。
「うん、やっぱり、知らない。そんな、お兄ちゃん、見たこと、ない」
「なるほど、それじゃあやっぱりあれが関係してるのか……」
「なにか、あった、の?」
「実はな、ウォーレンが俺たちのところからいなくなったのもちょうどその後なんだ」
ごろつきを皆殺しにしたウォーレンはその後意識を失い、目覚めてしばらくして姿を消してしまったらしい。
「お兄、ちゃんは、何か、言ってた?」
「特に何も……ただ、自分が皆殺しにしたことを最初は覚えてなかったみたいだな。まあ突然意識を失ったから、記憶が混乱してただけだと思うが」
「そう、なんだ……」
カーサはレジェスの言葉に、似たような事が自分にもあったような気がしたが、なぜだかうまく思い出せない。
カーサはその後もしばらくウォーレンの話を聞いた後、レジェスの家を後にした。
「お兄ちゃんは、剣神様に、操られて、たんじゃ、ない、のかな?」
「なぜそう思ったのだ?」
「だって、剣神様の、所に、行く、前に、レジェスさんの、ところに、いたん、でしょ?」
「そういえばお前は、デリックがウォーレンのやつを操って、お前を見捨てて村を出ていったと思っているのだったな」
「うん、そう、思ってた、けど……でも、それなら、一旦、レジェスさんの、ところに、行く、必要は、ない、はず」
「たしかにそれはそうだな」
「それに、私、なにか、気がついて、いない、ことが、ある、気が……」
カーサは先ほどのレジェスの話の中で、なにか重大な点を見落としている気がするのだが、なぜだかそれを考えようとすると思考に靄がかかってしまい、うまく考えがまとまらなかった。
「すぐに思い出せないということは、大して重要なことではないのだろう。それよりどうする? 私はまだウォーレンの知り合いに心当たりがあるが」
「そう、だね……、それ、じゃあ、次の、人の、ところに、案内、して」
本来であればどうして謎の声が失踪した後のウォーレン知り合いを知っているのか、ということを疑問に思うはずなのだが、カーサは不審に思うこともなく謎の声の言うことを信じてしまう。
カーサは知らず知らずのうちに、謎の声に操られてしまっているのだが、その事実にカーサが気づくことはないのだった。
いつもとぎれとぎれに話すカーサにしては珍しく、カーサは畳み掛けるように話すとレジェスへと身を乗り出した。
「まあ待ってくれよカーサちゃん。ちゃんと話すからさ」
突然大きな声を出したカーサに驚きながら、レエジェスはカーサの肩に優しく手を置くと、そのまま席に座らせる。
苦笑するレジェスを見てようやくカーサも自分の行動に気がついたのか、少し恥ずかしそうに座り直した。
「ごめん、なさい。すこし、びっくり、しちゃ、って」
「いいっていいって。俺もあの時は驚いたよ。カーサちゃんの方がよく知ってると思うけど、ウォーレンっていつもは虫を殺すのすら躊躇するようなやつだったんだぜ?」
最初俺に会った時に決闘吹っ掛けといておかしな話だけどな、と笑うレジェスに、カーサはうんうんと頷いた。
「やっぱり、お兄ちゃんは、お兄ちゃんの、まま、だったんだ」
ウォーレンは昔から、実力のある剣士と戦う時は殺すつもりで戦うが、それ以外で無益な殺生はしない優しい人物だった。
「そんなやつが突然、人が変わったようにごろつき共を殺し始めるんだもんな~」
レジェスはウォーレンがごろつきたちを片っ端から始末していった光景を説明し始めた。
***
ボスを殺し、剣を投げて少女を人質にした男を殺し、そしてその男へと一瞬で迫ったウォーレンは、男の眉間から剣を引き抜いた。
「我と死合いたい者はおらんのか?」
べっとりと血の付いた剣を振るって地面に血しぶきの三日月を作ったウォーレンは、ごろつき共を一瞥して問いかける。
「「「「…………」」」」
ボスに次ぐ実力を持つ側近たちを瞬殺し、仲間内で最強だった自分たちのボスを圧倒したウォーレンに、ごろつきたちは完全に怯えてしまい、全員黙りこくってしまった。
その様子に、ウォーレンは失望した様子でため息をつくと、一番近くにいた男に切っ先を向ける。
「はあ、命をかける覚悟もなく戦場に立つとは笑止千万。まずはそこのお前だ。かかってこい」
「……っ! か、勘弁してくれっ! 俺はまだ死にたくねえっ!」
ウォーレンに指名された男は、しばし逡巡したが、逃走を選択する。
背を向け仲間たちをかき分け走り出す男に、ウォーレンは一瞬で距離を詰め、その両足を切り落とした。
「ぐああああっ! 足がっ!? 足があああああっ!」
「死合え言うのが聞こえんのか?」
「あがっ……足…………あし……が……」
足を切り落とされた激痛に、白目を向いて地面をのたうち回る男に、ウォーレンは冷笑するとそのままその首を切り落とした。
「もう良い、死ね。さて、次は誰にしようか……誰が逃げて良いと言った?」
「ひっ」
ウォーレンが動いたことで路地への道が開け、そこから数人のごろつきが逃げ出そうとしているのを見つけたウォーレンは、瞬時に元の場所へと戻ると、その数人をまとめて斬り殺す。
「死合う気がないとは情けない。負けるとわかっていても挑んでこそ戦士だろうに。そんなに犬死にしたいなら、望み通りにしてやろう」
ウォーレンが振り返ってごろつきたちをギロリとにらみつけると、近くの男から順に殺し始めた。
首をはね、心臓を一突きする。
それを一瞬のうちに何度も繰り返し、ウォーレンは死体の山を築いていく。
逃げようが、抵抗しようが、どちらにせよ殺される。
それがはっきりわかったごろつきたちは、皆一様にその場で棒立ちとなり、そのままウォーレンに斬り殺されたのだった。
***
「それは、私の、知ってる、お兄ちゃんじゃ、ない」
ウォーレンのあまりに残酷な行動に、カーサは顔を青ざめさせる。
実際に兄を戦場で見たことがあったわけではないので、敵と戦う時の兄が同じような行動を取らないとカーサには言い切れないが、降伏した敵を片っ端から殺すというのはカーサの知っている兄からは考えられなかった。
「そうなのか?」
自分が知っているくらいなのだから、妹であるカーサも当然知っているのだろうと思っていたレジェスは、不思議そうに聞き返す。
レジェスの問いかけに、カーサはしばらく宙を見つめて考えた後、ゆっくりと頷いた。
「うん、やっぱり、知らない。そんな、お兄ちゃん、見たこと、ない」
「なるほど、それじゃあやっぱりあれが関係してるのか……」
「なにか、あった、の?」
「実はな、ウォーレンが俺たちのところからいなくなったのもちょうどその後なんだ」
ごろつきを皆殺しにしたウォーレンはその後意識を失い、目覚めてしばらくして姿を消してしまったらしい。
「お兄、ちゃんは、何か、言ってた?」
「特に何も……ただ、自分が皆殺しにしたことを最初は覚えてなかったみたいだな。まあ突然意識を失ったから、記憶が混乱してただけだと思うが」
「そう、なんだ……」
カーサはレジェスの言葉に、似たような事が自分にもあったような気がしたが、なぜだかうまく思い出せない。
カーサはその後もしばらくウォーレンの話を聞いた後、レジェスの家を後にした。
「お兄ちゃんは、剣神様に、操られて、たんじゃ、ない、のかな?」
「なぜそう思ったのだ?」
「だって、剣神様の、所に、行く、前に、レジェスさんの、ところに、いたん、でしょ?」
「そういえばお前は、デリックがウォーレンのやつを操って、お前を見捨てて村を出ていったと思っているのだったな」
「うん、そう、思ってた、けど……でも、それなら、一旦、レジェスさんの、ところに、行く、必要は、ない、はず」
「たしかにそれはそうだな」
「それに、私、なにか、気がついて、いない、ことが、ある、気が……」
カーサは先ほどのレジェスの話の中で、なにか重大な点を見落としている気がするのだが、なぜだかそれを考えようとすると思考に靄がかかってしまい、うまく考えがまとまらなかった。
「すぐに思い出せないということは、大して重要なことではないのだろう。それよりどうする? 私はまだウォーレンの知り合いに心当たりがあるが」
「そう、だね……、それ、じゃあ、次の、人の、ところに、案内、して」
本来であればどうして謎の声が失踪した後のウォーレン知り合いを知っているのか、ということを疑問に思うはずなのだが、カーサは不審に思うこともなく謎の声の言うことを信じてしまう。
カーサは知らず知らずのうちに、謎の声に操られてしまっているのだが、その事実にカーサが気づくことはないのだった。
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