転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

文字の大きさ
上 下
158 / 324
第4巻第3章 剣聖とウォーレン

ウォーレンの暴走

しおりを挟む
「それからっ、それからどうなったのっ!?」

 いつもとぎれとぎれに話すカーサにしては珍しく、カーサは畳み掛けるように話すとレジェスへと身を乗り出した。

「まあ待ってくれよカーサちゃん。ちゃんと話すからさ」

 突然大きな声を出したカーサに驚きながら、レエジェスはカーサの肩に優しく手を置くと、そのまま席に座らせる。

 苦笑するレジェスを見てようやくカーサも自分の行動に気がついたのか、少し恥ずかしそうに座り直した。
 
「ごめん、なさい。すこし、びっくり、しちゃ、って」

「いいっていいって。俺もあの時は驚いたよ。カーサちゃんの方がよく知ってると思うけど、ウォーレンっていつもは虫を殺すのすら躊躇するようなやつだったんだぜ?」

 最初俺に会った時に決闘吹っ掛けといておかしな話だけどな、と笑うレジェスに、カーサはうんうんと頷いた。
 
「やっぱり、お兄ちゃんは、お兄ちゃんの、まま、だったんだ」

 ウォーレンは昔から、実力のある剣士と戦う時は殺すつもりで戦うが、それ以外で無益な殺生はしない優しい人物だった。

「そんなやつが突然、人が変わったようにごろつき共を殺し始めるんだもんな~」

 レジェスはウォーレンがごろつきたちを片っ端から始末していった光景を説明し始めた。

***

 ボスを殺し、剣を投げて少女を人質にした男を殺し、そしてその男へと一瞬で迫ったウォーレンは、男の眉間から剣を引き抜いた。

「我と死合いたい者はおらんのか?」

 べっとりと血の付いた剣を振るって地面に血しぶきの三日月を作ったウォーレンは、ごろつき共を一瞥して問いかける。

「「「「…………」」」」

 ボスに次ぐ実力を持つ側近たちを瞬殺し、仲間内で最強だった自分たちのボスを圧倒したウォーレンに、ごろつきたちは完全に怯えてしまい、全員黙りこくってしまった。

 その様子に、ウォーレンは失望した様子でため息をつくと、一番近くにいた男に切っ先を向ける。

「はあ、命をかける覚悟もなく戦場に立つとは笑止千万。まずはそこのお前だ。かかってこい」

「……っ! か、勘弁してくれっ! 俺はまだ死にたくねえっ!」

 ウォーレンに指名された男は、しばし逡巡したが、逃走を選択する。

 背を向け仲間たちをかき分け走り出す男に、ウォーレンは一瞬で距離を詰め、その両足を切り落とした。

「ぐああああっ! 足がっ!? 足があああああっ!」

「死合え言うのが聞こえんのか?」

「あがっ……足…………あし……が……」

 足を切り落とされた激痛に、白目を向いて地面をのたうち回る男に、ウォーレンは冷笑するとそのままその首を切り落とした。

「もう良い、死ね。さて、次は誰にしようか……誰が逃げて良いと言った?」

「ひっ」

 ウォーレンが動いたことで路地への道が開け、そこから数人のごろつきが逃げ出そうとしているのを見つけたウォーレンは、瞬時に元の場所へと戻ると、その数人をまとめて斬り殺す。

「死合う気がないとは情けない。負けるとわかっていても挑んでこそ戦士だろうに。そんなに犬死にしたいなら、望み通りにしてやろう」

 ウォーレンが振り返ってごろつきたちをギロリとにらみつけると、近くの男から順に殺し始めた。

 首をはね、心臓を一突きする。

 それを一瞬のうちに何度も繰り返し、ウォーレンは死体の山を築いていく。

 逃げようが、抵抗しようが、どちらにせよ殺される。

 それがはっきりわかったごろつきたちは、皆一様にその場で棒立ちとなり、そのままウォーレンに斬り殺されたのだった。

***

「それは、私の、知ってる、お兄ちゃんじゃ、ない」

 ウォーレンのあまりに残酷な行動に、カーサは顔を青ざめさせる。

 実際に兄を戦場で見たことがあったわけではないので、敵と戦う時の兄が同じような行動を取らないとカーサには言い切れないが、降伏した敵を片っ端から殺すというのはカーサの知っている兄からは考えられなかった。

「そうなのか?」

 自分が知っているくらいなのだから、妹であるカーサも当然知っているのだろうと思っていたレジェスは、不思議そうに聞き返す。

 レジェスの問いかけに、カーサはしばらく宙を見つめて考えた後、ゆっくりと頷いた。

「うん、やっぱり、知らない。そんな、お兄ちゃん、見たこと、ない」

「なるほど、それじゃあやっぱりあれが関係してるのか……」

「なにか、あった、の?」

「実はな、ウォーレンが俺たちのところからいなくなったのもちょうどその後なんだ」

 ごろつきを皆殺しにしたウォーレンはその後意識を失い、目覚めてしばらくして姿を消してしまったらしい。

「お兄、ちゃんは、何か、言ってた?」

「特に何も……ただ、自分が皆殺しにしたことを最初は覚えてなかったみたいだな。まあ突然意識を失ったから、記憶が混乱してただけだと思うが」

「そう、なんだ……」

 カーサはレジェスの言葉に、似たような事が自分にもあったような気がしたが、なぜだかうまく思い出せない。

 カーサはその後もしばらくウォーレンの話を聞いた後、レジェスの家を後にした。

「お兄ちゃんは、剣神様に、操られて、たんじゃ、ない、のかな?」

「なぜそう思ったのだ?」

「だって、剣神様の、所に、行く、前に、レジェスさんの、ところに、いたん、でしょ?」

「そういえばお前は、デリックがウォーレンのやつを操って、お前を見捨てて村を出ていったと思っているのだったな」

「うん、そう、思ってた、けど……でも、それなら、一旦、レジェスさんの、ところに、行く、必要は、ない、はず」

「たしかにそれはそうだな」

「それに、私、なにか、気がついて、いない、ことが、ある、気が……」

 カーサは先ほどのレジェスの話の中で、なにか重大な点を見落としている気がするのだが、なぜだかそれを考えようとすると思考にもやがかかってしまい、うまく考えがまとまらなかった。

「すぐに思い出せないということは、大して重要なことではないのだろう。それよりどうする? 私はまだウォーレンの知り合いに心当たりがあるが」

「そう、だね……、それ、じゃあ、次の、人の、ところに、案内、して」

 本来であればどうして謎の声が失踪した後のウォーレン知り合いを知っているのか、ということを疑問に思うはずなのだが、カーサは不審に思うこともなく謎の声の言うことを信じてしまう。

 カーサは知らず知らずのうちに、謎の声に操られてしまっているのだが、その事実にカーサが気づくことはないのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

処理中です...