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第4巻第3章 剣聖とウォーレン
ウォーレンとレジェス3
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ひとまず子どもたちを襲っていたごろつきを撃退し、怪我の大小はともかく子どもたちが全員無事であることを確認したレジェスは、子どもたちに家の奥に隠れるように言い含め、ウォーレンを探しに来ていた。
「ウォーレン! おーい! ウォーレンっ!!」
レジェスはウォーレンが一人になっている街はずれの林で、力いっぱい声を張り上げる。
「はあはあ……全く、こんな時にどこ行きやがったんだ……っ」
早くしなければ先ほどのごろつきたちが仲間を連れて再びレジェスとウォーレン、そして子どもたちが暮らす家へと襲撃してくるだろう。
裏社会では面子が命なのだ。
一度舐められたら終わりな世界だけに、やられたらやられた以上にやり返すのが常識となっている。
先に手を出してきたのはあちらとはいえ、レジェスがごろつきを撃退してしまった以上、先ほどとは比べ物にならない襲撃があることはほぼ確定事項だ。
「くそっ、まずいな……。連中は東地区を抑えてる最大派閥のメンバーだったはずだ。あの連中全員が来たりしたら、流石の俺でも……」
この街の路地裏最強の剣士であるレジェスでも、街で1,2を争う規模の犯罪グループを1人で相手することは不可能だろう。
だからこそ急いでウォーレンを探しに来たわけだが、どこを探してもその姿は見当たらなかった。
「ウォーレンっ! ウォーレンっ! 頼む! 聞こえてるなら返事をしてくれっ!」
一向に姿を表さないウォーレンに、レジェスは疲れて近くの木に手をついて肩で息をする。
大声を出しすぎて休んでいただけだったのだが、結果としてそれが功を奏した。
「……から…………って…………です……だと! ……れは……ああっ……」
「この声はっ……!」
走って町外れの林につくなり、大声でウォーレンを呼び続けていたので気が付かなかったが、林の奥の方から微かにウォーレンの声が聞こえてきていたのだ。
レジェスは急いで声のした方に走り出す。
段々と鮮明に聞こえてくる声は、いつもニコニコとして温厚なウォーレンにしては珍しく声を荒らげて誰かと言い争っているようだった。
「――ですからっ! それはあなたがやりたいと思っていることでしょう! それに私は――」
「ウォーレン!」
何やら込み入ったことで言い争っている様子だったので、一瞬話しかけることを躊躇したレジェスだったが、即座に今はそれどころではないと判断し、ウォーレンの言葉を遮る形でウォーレンへと話しかける。
特に周囲を確認せず話しかけたレジェスは、誰かと言い争っていた様子のウォーレンの前に誰もいないことに驚愕する。
「レジェス……」
「ウォーレン、お前今、誰かと言い争ってなかったか?」
「それは…………それよりレジェス、わざわざそんなに息を切らして私に所に来たということは、何かあったのではないですか?」
「そうだ! 落ち着いて聞いてくれよ? 俺たちの家がこの街の東地区を牛耳ってる犯罪グループに襲われた」
「なんですって!?」
ウォーレンはレジェスが動き出すのを待たず、即座に家の方へと走り出す。
レジェスもすぐにそれを追いかけると、隣に並んで走りながら状況を説明した。
「たまたま俺が帰れたおかげで、ごろつきは撃退したし、死んじまったやつもいねえが、死なない程度に大怪我しちまってるやつはいる。それと、お前も知ってると思うが……」
「裏社会では面子が命、ですね」
「そういうことだ。十中八九メンバー全員で俺たちの家へ攻めてくる」
「……わかりました。レジェス、あなたは子どもたちの手当をお願いします。基本的なことは――」
ウォーレンは簡易的な応急措置の方法と、その道具ややり方が書かれた本がある場所などを短く説明し、レジェスに子どもたちの手当てにあたれという。
「なんでだよ! 俺じゃ足手まといだってのか!?」
「そういうことではありませんよ。私だって完璧ではありません。そしてもちろんあなたも。ですから保険をかけるのです」
「保険?」
「そうです。私が敵を取り逃がしても、子どもたちのそばにレジェスがいればレジェスが戦うことができます。私たちが守るべきは子どもたち、そうでしょう?」
「そういうことか。そうだな、それならウォーレンの言う通り、俺が家の中で手当をしながらもしもの時には戦うってのが一番いいだろう」
正直悔しいが、今のレジェスには1つの犯罪グループを1人で相手にして無事でいられる自信がなかった。
「それではそれでいきましょう。――もう近くまで来ているようですね」
ウォーレンは前方、家の向こう側から微かに聞こえる多数の足音で、敵の接近を察知した。
「ちっ、連中相当頭に来てやがるな」
ついさっき決めた通り、ウォーレンは家の前に通じる通路付近で仁王立ちし、レジェスはそのまま家の中に入ると早速子どもたちの手当てを始めた。
「さて、どれほどの人数が来るんでしょうね」
背負った大剣を静かに抜いて構えるウォーレンの前に、路地を埋め尽くさんばかりのごろつきたちが姿を表す。
「お前か? うちのグループの若えもん可愛がってくれた野郎ってのは」
ごろつきの先頭に立つ、ひときわ大きな存在感放つ男が、ウォーレンへと問いかける。
おそらくこの男が東地区を牛耳っているボスなのだろう。
言葉だけで弱者を屈服させるだけの圧を放つその男に、しかしながらウォーレンは平然としていた。
「いいえ、残念ながら。でも――」
瞬間、ウォーレンの姿がかき消えたかと思うと、ボスを取り囲むがたいのいい男たちが、剣の腹で殴り飛ばされ、近くの壁へと激突する。
そのまま意識を失って地面へと倒れると、それを見た周囲のごろつきたちに衝撃が走った。
「なるほど、俺の側近を全員まとめて瞬殺するとは、お前只者じゃねえな」
ボスが手を上げると、ボスとウォーレンの中間を中心として円形の空間が形成される。
「なんのつもりです?」
「お前は俺が殺す、ってことだ」
ボスは剣の抜いてその切っ先でウォーレンの首を指し示す。
「なるほど、わかりやすくて助かります」
常人なら失禁するレベルの殺気を叩きつけられて、怯むどころから笑って見せるウォーレンに、ボスは逆に冷や汗が背中を伝うのを感じた。
「いい度胸だ、嫌いじゃねえ」
その言葉とともにボスがウォーレンに斬り掛かったことで、2人の決闘が始まった。
しかし、それは周囲が予想していたような接戦ではなく、一方的なものだった。
結果から言ってしまえばウォーレンがボスを圧倒していたのだ。
数合打ち合った時点で、ボスは剣を取り落とし、ウォーレンはボスの首に切っ先を突きつけていた。
「……俺の、負けだ。殺せ」
「殺しませんよ。その代わり、もうこんなことはしないと誓って下さい」
「ちっ、舐めた野郎だ。いいだろう、その条――」
ボスが潔く勝者の命令を受け入れようとしたその時、少女の悲鳴が響き渡った。
「きゃああああああ」
「へへっ、おいあんちゃん、こいつの命がどうなってもいいのか?」
「た、助けて、ウォーレンお兄ちゃん……っ!」
「っ!?」
声の先に目を向けると、1人のごろつきが家の中に隠れ遅れた少女の手を掴み、その胸に剣の切っ先を突きつけていた。
「てめえ! 余計なことしてんじゃねえ!」
「いいじゃないすかボス、ボスは甘いんすよ」
静止するボスの声にも聞く耳を持たないそのごろつきは、涙を浮かべる少女の胸に剣の切っ先をより深く突きつけ、少女の服は裂け、白い肌を露出させる。
「それで、どうするんだよ、ウォーレンお兄ちゃん?」
負けの認めたボスと、人質を取った仲間の1人という、なんとも言えない状況のせいか、全員ではなかったものの、形勢逆転と見てウォーレンをバカにする笑いがごろつきたちから上がる。
「……黙れ」
「あん? 聞こえませんよー、ウォーレンお兄ちゃん? とりあえず剣置いて土下座しろよ、ああん?」
自分を兄と慕う少女を人質に調子づくごろつきに、ウォーレンの中で何かが切れる音がした。
「……あなたは止めようとしてくれたのに、すみません……今の私は、こいつを止められそうにありません」
ウォーレンがボスへと静かにそう告げると、次の瞬間、ウォーレンの剣はボスの首をはね飛ばしていた。
「そうだ、それでよい。剣士ならば死合うことによって上を目指すべきだ」
突然人が変わったようにわけの分からないことを言い出したウォーレンが投げた剣は、少女を人質に取っていたごろつきを眉間に寸分たがわず突き刺さり、一瞬でその命を刈り取ったのだった。
「ウォーレン! おーい! ウォーレンっ!!」
レジェスはウォーレンが一人になっている街はずれの林で、力いっぱい声を張り上げる。
「はあはあ……全く、こんな時にどこ行きやがったんだ……っ」
早くしなければ先ほどのごろつきたちが仲間を連れて再びレジェスとウォーレン、そして子どもたちが暮らす家へと襲撃してくるだろう。
裏社会では面子が命なのだ。
一度舐められたら終わりな世界だけに、やられたらやられた以上にやり返すのが常識となっている。
先に手を出してきたのはあちらとはいえ、レジェスがごろつきを撃退してしまった以上、先ほどとは比べ物にならない襲撃があることはほぼ確定事項だ。
「くそっ、まずいな……。連中は東地区を抑えてる最大派閥のメンバーだったはずだ。あの連中全員が来たりしたら、流石の俺でも……」
この街の路地裏最強の剣士であるレジェスでも、街で1,2を争う規模の犯罪グループを1人で相手することは不可能だろう。
だからこそ急いでウォーレンを探しに来たわけだが、どこを探してもその姿は見当たらなかった。
「ウォーレンっ! ウォーレンっ! 頼む! 聞こえてるなら返事をしてくれっ!」
一向に姿を表さないウォーレンに、レジェスは疲れて近くの木に手をついて肩で息をする。
大声を出しすぎて休んでいただけだったのだが、結果としてそれが功を奏した。
「……から…………って…………です……だと! ……れは……ああっ……」
「この声はっ……!」
走って町外れの林につくなり、大声でウォーレンを呼び続けていたので気が付かなかったが、林の奥の方から微かにウォーレンの声が聞こえてきていたのだ。
レジェスは急いで声のした方に走り出す。
段々と鮮明に聞こえてくる声は、いつもニコニコとして温厚なウォーレンにしては珍しく声を荒らげて誰かと言い争っているようだった。
「――ですからっ! それはあなたがやりたいと思っていることでしょう! それに私は――」
「ウォーレン!」
何やら込み入ったことで言い争っている様子だったので、一瞬話しかけることを躊躇したレジェスだったが、即座に今はそれどころではないと判断し、ウォーレンの言葉を遮る形でウォーレンへと話しかける。
特に周囲を確認せず話しかけたレジェスは、誰かと言い争っていた様子のウォーレンの前に誰もいないことに驚愕する。
「レジェス……」
「ウォーレン、お前今、誰かと言い争ってなかったか?」
「それは…………それよりレジェス、わざわざそんなに息を切らして私に所に来たということは、何かあったのではないですか?」
「そうだ! 落ち着いて聞いてくれよ? 俺たちの家がこの街の東地区を牛耳ってる犯罪グループに襲われた」
「なんですって!?」
ウォーレンはレジェスが動き出すのを待たず、即座に家の方へと走り出す。
レジェスもすぐにそれを追いかけると、隣に並んで走りながら状況を説明した。
「たまたま俺が帰れたおかげで、ごろつきは撃退したし、死んじまったやつもいねえが、死なない程度に大怪我しちまってるやつはいる。それと、お前も知ってると思うが……」
「裏社会では面子が命、ですね」
「そういうことだ。十中八九メンバー全員で俺たちの家へ攻めてくる」
「……わかりました。レジェス、あなたは子どもたちの手当をお願いします。基本的なことは――」
ウォーレンは簡易的な応急措置の方法と、その道具ややり方が書かれた本がある場所などを短く説明し、レジェスに子どもたちの手当てにあたれという。
「なんでだよ! 俺じゃ足手まといだってのか!?」
「そういうことではありませんよ。私だって完璧ではありません。そしてもちろんあなたも。ですから保険をかけるのです」
「保険?」
「そうです。私が敵を取り逃がしても、子どもたちのそばにレジェスがいればレジェスが戦うことができます。私たちが守るべきは子どもたち、そうでしょう?」
「そういうことか。そうだな、それならウォーレンの言う通り、俺が家の中で手当をしながらもしもの時には戦うってのが一番いいだろう」
正直悔しいが、今のレジェスには1つの犯罪グループを1人で相手にして無事でいられる自信がなかった。
「それではそれでいきましょう。――もう近くまで来ているようですね」
ウォーレンは前方、家の向こう側から微かに聞こえる多数の足音で、敵の接近を察知した。
「ちっ、連中相当頭に来てやがるな」
ついさっき決めた通り、ウォーレンは家の前に通じる通路付近で仁王立ちし、レジェスはそのまま家の中に入ると早速子どもたちの手当てを始めた。
「さて、どれほどの人数が来るんでしょうね」
背負った大剣を静かに抜いて構えるウォーレンの前に、路地を埋め尽くさんばかりのごろつきたちが姿を表す。
「お前か? うちのグループの若えもん可愛がってくれた野郎ってのは」
ごろつきの先頭に立つ、ひときわ大きな存在感放つ男が、ウォーレンへと問いかける。
おそらくこの男が東地区を牛耳っているボスなのだろう。
言葉だけで弱者を屈服させるだけの圧を放つその男に、しかしながらウォーレンは平然としていた。
「いいえ、残念ながら。でも――」
瞬間、ウォーレンの姿がかき消えたかと思うと、ボスを取り囲むがたいのいい男たちが、剣の腹で殴り飛ばされ、近くの壁へと激突する。
そのまま意識を失って地面へと倒れると、それを見た周囲のごろつきたちに衝撃が走った。
「なるほど、俺の側近を全員まとめて瞬殺するとは、お前只者じゃねえな」
ボスが手を上げると、ボスとウォーレンの中間を中心として円形の空間が形成される。
「なんのつもりです?」
「お前は俺が殺す、ってことだ」
ボスは剣の抜いてその切っ先でウォーレンの首を指し示す。
「なるほど、わかりやすくて助かります」
常人なら失禁するレベルの殺気を叩きつけられて、怯むどころから笑って見せるウォーレンに、ボスは逆に冷や汗が背中を伝うのを感じた。
「いい度胸だ、嫌いじゃねえ」
その言葉とともにボスがウォーレンに斬り掛かったことで、2人の決闘が始まった。
しかし、それは周囲が予想していたような接戦ではなく、一方的なものだった。
結果から言ってしまえばウォーレンがボスを圧倒していたのだ。
数合打ち合った時点で、ボスは剣を取り落とし、ウォーレンはボスの首に切っ先を突きつけていた。
「……俺の、負けだ。殺せ」
「殺しませんよ。その代わり、もうこんなことはしないと誓って下さい」
「ちっ、舐めた野郎だ。いいだろう、その条――」
ボスが潔く勝者の命令を受け入れようとしたその時、少女の悲鳴が響き渡った。
「きゃああああああ」
「へへっ、おいあんちゃん、こいつの命がどうなってもいいのか?」
「た、助けて、ウォーレンお兄ちゃん……っ!」
「っ!?」
声の先に目を向けると、1人のごろつきが家の中に隠れ遅れた少女の手を掴み、その胸に剣の切っ先を突きつけていた。
「てめえ! 余計なことしてんじゃねえ!」
「いいじゃないすかボス、ボスは甘いんすよ」
静止するボスの声にも聞く耳を持たないそのごろつきは、涙を浮かべる少女の胸に剣の切っ先をより深く突きつけ、少女の服は裂け、白い肌を露出させる。
「それで、どうするんだよ、ウォーレンお兄ちゃん?」
負けの認めたボスと、人質を取った仲間の1人という、なんとも言えない状況のせいか、全員ではなかったものの、形勢逆転と見てウォーレンをバカにする笑いがごろつきたちから上がる。
「……黙れ」
「あん? 聞こえませんよー、ウォーレンお兄ちゃん? とりあえず剣置いて土下座しろよ、ああん?」
自分を兄と慕う少女を人質に調子づくごろつきに、ウォーレンの中で何かが切れる音がした。
「……あなたは止めようとしてくれたのに、すみません……今の私は、こいつを止められそうにありません」
ウォーレンがボスへと静かにそう告げると、次の瞬間、ウォーレンの剣はボスの首をはね飛ばしていた。
「そうだ、それでよい。剣士ならば死合うことによって上を目指すべきだ」
突然人が変わったようにわけの分からないことを言い出したウォーレンが投げた剣は、少女を人質に取っていたごろつきを眉間に寸分たがわず突き刺さり、一瞬でその命を刈り取ったのだった。
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