転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第4巻第3章 剣聖とウォーレン

ウォーレンとレジェス2

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「はあはあはあはあ……今日も……一発も……入れられ……ねえのかよ」

 地面に大の字になって倒れたレジェスは、荒い息を吐きながら毒づく。

 そんなレジェスを、相変わらず呼吸すら乱れていないウォーレンが上から覗き込んできた。

「でも今日は何度か惜しい場面がありましたよ。私も少し驚いてしまいました」

「下手なフォローしてんじゃねえ」

 一体どこにそんな場面があったのか、レジェスには全く思い当たるふしがない。

「本当ですって。レジェスは日に日に強くなってますよ。私が抜かさせれる日も近いですね」

 ここ数日で急速に実力を伸ばしているレジェスに、ウォーレンは嬉しそうだった。

「それ本気で言ってんのか? 俺がお前に勝てる日なんて来るとは思えねえけどな」

「そんなことありませんよ。それに、そうなって貰わないと私が困ります」

「なんだそりゃ。相変わらず時々よくわかんねえこと言うよな、お前」

「そうですか? いや、そうかもしれませんね」

 ウォーレンは何かをごまかすように笑うと、レジェスに手を差し伸べた。

 レジェスは素直にその手をとると、その手を借りて立ち上がる。

「それで、今日はどこに行くんだ?」

 レジェスは修行の後の日課となっている、浮浪児探しについてウォーレンに確認する。

 ウォーレンはレジェスと出会ってからというもの、街中の浮浪児を集めて家と食べ物を与え、読み書きを教えているのだ。

「そうですね、まだ東の方には行ったことがなかったですよね?」

「ああ、確かにそうだが、あそこはなかなかやばいぞ?」

「レジェスがいてもですか?」

「いや俺がいれば危ねえことはねえが――って、さっき俺をコテンパンにしたお前がそれを聞くのって、ちょっとおかしくねえか?」

「はははっ、そんなことないでしょう? 確かに剣の腕は私のほうが上ですが、この街についてはあなたのほうが詳しいですし」

「お前くらい強けりゃ街に詳しくなくなってどうとでもなるだろうに」

「たとえそうだとしても、ですよ」

 ウォーレンは楽しそうにそう言うと、街の東側の地区に向けて歩き出す。

「全く、何がそんなに楽しいんだかね」

 そんな悪態を付きながらウォーレンについて行くレジェスも、言葉とは裏腹にどこか楽しそうに笑っていた。

***

「はい、皆さん、今日のお勉強はここまでです」

「「「「「ウォーレンせんせー、ありがとーございましたー!」」」」」

 ウォーレンがぱたんと本を閉じて授業の終わりを知らせると、子どもたちが大きな声で挨拶する。

 子どもたちの明るく元気な声があふれていると、ここが年中薄暗い街の裏側だということを忘れそうだった。

「なあ兄弟、なんで俺まで勉強させられてんだ?」

「なんでって、レジェスも読み書きできませんよね?」

「ああ、できねえな」

「じゃあ一緒に勉強しないとだめじゃないですか」

「いやいやいやっ! なんで俺がこんなガキどもと一緒に――うおっ」

 勉強するのがさも当然といった様子のウォーレンに反論するレジェスに、授業を終えた子どもたちが群がってくる。

「わあああい、レジェス兄ちゃん一緒にあそぼ~」

「お、おいっ! このガキ! 離れやがれ!」

 口ではきついことを言っているものの、流石に子どもに手を上げるのは気が引けるのか、どうにか怪我をさせないように引き剥がそうとしているせいで、子どもたちは全くレジェスから離れなかった。

「ふふふっ、大人気ですねレジェス。ちょうどいいからしばらく遊んであげてください」

 ウォーレンはそう言うと「私の食事の準備をしてきますから、それが終わるまで面倒見ておいてくださいね」と言い残して去っていってしまう。

(なんでこの俺がガキの面倒なんてみねえといけねえんだ)

 かつて路地裏最強の剣士として恐れられた姿はもはやそこにはなく、そこにいたのはただただ弟や妹に群がられて困っているお兄ちゃんだった。

***

「ぐっ!」

「おっしゃ!」

 ウォーレンがレジェスのところに来てから数ヶ月が経った頃、レジェスはようやくウォーレンに攻撃を食らわせることができるようになっていた。

「なかなかやります、ねっ!」

「うおっと、危ねえ」

 レジェスの攻撃を食らってよろめいたはずのウォーレンが、よろめいた状態のまま繰り出した斜め下からの斬り上げを、レジェスは慌てて仰け反ってかわす。

 いつもながらわけの分からない体勢から、恐ろしく鋭い攻撃をしてくるウォーレンに、レジェス感心するしかない。

「これもかわされるとは、やはり私の見込んだ通り、レジェスは剣の才能があります」

 ウォーレンは剣を鞘にしまいながら、レジェスへと近づいてくる。

「いい加減お前がそれを本気で言ってるのはわかってるけどな、お前が言うと嫌味にしか聞こえねえぞ、兄弟」

「そんなつもりはないんですが、気をつけましょう」

 ウォーレンは微笑むと、そのままレジェスの横を通り過ぎて街のはずれの方へと歩いて行く。

「どこへ行くんだ?」

 ウォーレンとレジェス、それに一緒に暮らしている浮浪児たちとともに建てたウォーレンたちの家とは逆方向へ歩いて行くウォーレンに、レジェスは不思議そうに話しかけた。
 
 いつもならそのままウォーレンは修行の後、家へと帰るはずだ。

「少し1人で考えたいことがありまして。しばらくしたら戻ります」

「そうか? そういうことなら先に帰ってるぞ?」

「ええ、そうして下さい」

 いつもはウォーレンの方からレジェスに絡んでくるので、珍しいこともあったものだと思いながらも、レジェスは特に疑問に思うこともなく1人で帰路につく。

 まっすぐ帰るつもりだったレジェスだが、ふと家で待つ子どもたちのことが頭に浮かんだ。

「はあ、俺も焼きが回ったもんだ」

 レジェスはめったに行かない表通りの方に足を向けると、そのまま菓子屋へと向かう。

 レジェスは子どもたちが菓子を食べたいと言っていたのを思い出したのだった。

「全く、らしくねえな」

 レジェスがそんなことをつぶやきながら家の近くまでやってくると、家の方から子どもたちの悲鳴が聞こえた気がした。

「なんだ!?」

 とっさに駆け出したレジェスは、あっという間に家の前へとたどり着く。

 そして、目の前に飛び込んできた光景に、思わず買ってきた菓子の袋を落としてしまった。

「なん……だよ……これ……っ!」

 レジェスの目に飛び込んできたのは、街のごろつきたちに襲われる子どもたちの姿だった。
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