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第4巻第3章 剣聖とウォーレン

真実を求めて

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「ここが、お兄、ちゃんの、いた、町?」

「そうだ」

 謎の声に導かれるままやってきたのは、小さな人間の街だった。

 バニスター将国やヘンダーソン王国の首都へとつながる街道から少し外れてはいるが、それなりに栄えている様子だ。

「それで、誰が、お兄ちゃんの、ことを、知って、いるの?」

 カーサは行く宛もなく街の中心部に向かって歩きながら尋ねる。

 傍から見ればカーサは1人で喋っているように見えるので、すれ違う人々が気味悪そうにカーサを見て来たが、カーサは気にも止めない。

 生来人の目をあまり気にしない上に、今は兄のことが気になってそれどころではないからだ。

「そこの路地を曲がれ」

「わかった」

 カーサは謎の声に導かれるまま、大通りの裏に広がる、治安の悪そうなエリアへと足を進めていった。

 カーサは全く気がついていないが、カーサが路地に消えた直後、大通りにキサラギ亜人王国の諜報部隊員が現れる。

(まだお前らにこの娘の場所を知られるわけにはいかないのでな)

 謎の声が諜報部隊からの追跡をかいくぐるように案内していることなど露知らず、カーサは兄のことを知るという人物を求めて路地を行く。

 何度も右に左にと曲がっていき、もうどうやってここまで来たかも分からない程進んだ頃、カーサの目の前に古い館が現れた。

 館と言うには小さすぎるかもしれないが、それでも掘っ立て小屋としか言えないような建物がひしめいている裏路地奥のこのあたりでは、ひときわ大きく目立っている。

「なんだ嬢ちゃん。ここは嬢ちゃんみたいなのが来る場所じゃねーぜ?」

 カーサが館の前に立つやいなや、目の前の館から下卑た笑いを浮かべる男が出てきた。

 みすぼらしい格好をした男は、カーサの全身を舐めるように見回すと、その整った顔立ちと肉感的な身体つきを見て舌なめずりする。

「お前ら、獲物だぞ!」

 男が声をかけると、周囲の掘っ立て小屋からも似たような薄汚い男たちが次々と姿を表した。

 皆一様に、カーサの美貌と扇情的なスタイルに下卑た笑みを一層深くする。

「ねえ、この、人たちが、お兄ちゃんの、知り合い、なの?」

「いや、こいつらはウォーレンの知り合いではないはずだ。そもそもお前を見てただの上玉の女としか思わんような奴らがウォーレンの知人なわけがないだろう?」

「たしかに、それは、そう」

 カーサが静かに周囲を一瞥すると、瞬間場の空気が一変する。

 退廃的で怠惰な空気が漂っていた空間に、澄んだ空気が広がるように、カーサから放たれる気配が、場の空気を変えたのだ。

 しかして、それに気がつける人物は、ここにはいなかった。

「なんだ、来ねえのか? それならこっちから行っちまうぞ! 行くぞおめえら!」

 彼我の実力差も分からない男たちは、そのまま一斉にカーサへと群がる。

 おおかた、そのまま暴力で服従させ、集団レイプでもするつもりだったのだろう。

「ひひひっ、大人しく――ぐべばっ!?」

 我先にとやってくる男たちに対し、カーサは剣を抜くのすら馬鹿らしくなり、1人目を殴り飛ばし、気を失ったその1人目の男の足を持って振り回すことで2人目以降をまとめて1人目の男で殴り飛ばした。

「「「「ぶばべっ!?」」」」

 あっという間に全員をのしてしまったカーサは、改めて屋敷の方に歩き出す。

「それで、お兄ちゃんの、知り合い、どこ?」

「ここの主のはずだが……」

 どこに行ったのだろうか、と謎の声が首を傾げる気配を感じたカーサは、先ほど叩きのめした連中の中から、リーダーらしき人物を見つけ出すと、倒れているその人物の後ろ襟を掴んで持ち上げた。

「ひぃっ!」

 先程までの威勢はどこへやら、すっかり怯えきってしまっているリーダーは、カーサに持ち上げられて小さく悲鳴をあげる。

「教えて、この、屋敷の、主は、どこ?」

「ボ、ボスのことか? へへっ、そうだ、お前だってボスにかかりゃイチコロだ。すげえんだぜ、俺たちのボスはよう」

 そのボスとやらの実力を相当信頼しているのか、一転して強気になったリーダーは、饒舌になって続ける。

「なんたって今や剣神の弟子になった剣士と一緒に修行してたことだってある剣の達人だからな。だからお前らなんて――」

「お前らなんて、なんだ?」

「へっ?」

 調子に乗り始めたリーダーを止めたのは、人間にしてはがたいのいい男性だった。

「まさかおめえら、この嬢ちゃんに手え出したんじゃねえだろうな?」

「いやー、そのー……」

 一瞬で顔中に冷や汗を書き始めたリーダーに、カーサは残酷にも真実をその男性へ伝えた。

「襲われた。弱過ぎて、なんの、被害も、なかった、けど」

「馬鹿野郎!」

「ぐびばっ!?」

 怒鳴り声とともに、男性の回し蹴りがリーダーの脇腹に突き刺さる。

 このまま後ろ襟持っていてはリーダーが死んでしまうと判断したカーサがとっさに手を離したので、リーダーはそのまま蹴られた勢いで横に飛んでいき地面を何度かバウンドしてから動かなくなった。

「殺し、ちゃった、の?」

「いや、嬢ちゃんが手を離してくれたおかげで死んじゃいねえはずだ」

 カーサが手を離したことで、蹴りのエネルギーの大半が横に吹き飛ぶエネルギーに変わったはずなので、リーダーは大したダメージは負っていないはずだ。

「ううっ……」

 リーダーのうめき声が聞こえて、カーサは一安心する。

「まさか自分を襲ったやつを心配するとは、オークってのはみんな優しいんだな。あいつが変わりもんなのかと思ってたが」

「っ!? もしかしてそのあいつって、お兄ちゃんのこと?」

「お兄ちゃん? もしかして嬢ちゃんはカーサちゃんなのか?」

「私の名前を知ってるってことは……」

「そうだ、こいつがこの街にウォーレンがいた頃の知り合いの――」

 脳内に響く謎の声をかき消すように、男性は大きな声で話しながらカーサの手を取った。

「やっぱりそうなのか! 俺の名前はレジェス。ウォーレンの義兄弟だ」

 こうしてカーサは、始めてオークの村を出た後の兄のことを知る人物と出会ったのだった。
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