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第4巻第3章 剣聖とウォーレン
カーサと謎の声
しおりを挟む「んんっ……」
歓楽街での人斬りから数時間後、ちょうどマヤがオリガに叩き起こされた頃、カーサは森の中で目を覚ました。
「ここは、どこ?」
カーサは自分がどうして森の中で寝ているのかさっぱり分からず、キョロキョロと周囲を見回す。
しばらく周りを見ていたカーサだったが、残念なことに今倒れている場所に見覚えはなかった。
「確か、寝る前は……っ!?」
ようやく意識がはっきりしてきたカーサは、自身が寝る前に見せられた光景を、そして最後に話した謎の存在のことを思い出した。
「確か、私は、あいつの、せいで、意識を、失って……」
その後自分が何をどうしてこうなったのかさっぱり思い出せないカーサは、なんとなしに自分の手に目を向ける。
「ひぃっ……」
いつもの口数が少なく、めったに感情を表に出さないカーサにしては珍しく、カーサは自分の手を見て小さな悲鳴をあげてしまった。
カーサの手は、大量の血糊でべったりと覆われていたのである。
思わず手を握り閉じた拍子に、手のひらについて固まった血糊がポロポロと落ちるほど血まみれのその手は、当然の如く手の甲まで赤黒く染まっている。
「やっと目覚めたか」
驚いて固まっているカーサは、頭の中に直接響いた声に大きく肩を震わせる。
「これは、あなたの、しわざ?」
「どれのことかわからないが、お前の手が血まみれな理由を問うているならその通りだ」
「いったい、私に、なにを、したのっ!?」
声を荒げるカーサに、姿が見えない謎の声は、くつくつと愉快そうに笑う。
「お前にはこれと言って何もしていない。少し身体を操らせてもらっただけだ」
なにかしているじゃないか、と反論したいカーサだったが、カーサが口を挟む前に、謎の声は続ける。
「お前は兄の真相を知ることを望んだそして私はお前の望みを叶えるために、少しばかしお前の身体を使わせてもらった、それだけだ」
淡々と告げながら、核心を話さない謎の声に、カーサは語気を強めて追及する。
「そんな、ことは、どうでも、いいっ! この、血は、何か、って、言って、るのっ!」
「なんだ、そんなことが知りたいのか。その血はお前がいた歓楽街を歩いていた雑魚の返り血だ。お前の身体の実力を調べておきたかったからな」
「そんなっ…………!?」
カーサは改めて自分に手を見て絶望する。
つまりこれは、自分が謎の声の主に操られるままに、周りの人々を無差別に斬りつけた結果付いたものだということだ。
これだけの返り血を浴びるまで、自分はどれだけの罪のない人たちを傷つけたのだろうか。
いや、傷つけるだけで済んでいればいいが最悪の場合殺しているかも――。
「おえっ、うっ……っ!?」
カーサは思わず胃の中のものを戻しそうになってしまい、慌てて手で口を抑えたが血の匂いがこびりついた手で口を抑えたせいで、かえって吐き気が増してしまい、結局戻してしまった。
「…………はあ、はあ、はあ」
「まさかあのような雑魚を斬っただけで吐くとは、お前本当に剣士か?」
声だけであるにも関わらず、カーサの様子に呆れているのが伝わってくる謎の声に、カーサはなにもない空間を睨みつける。
「雑魚、なんて、言わ、ないで。みんな、必死に、生きて、るん、だから」
「それがどうしたというのだ? 必死なら良いというものではない。雑魚はどこまで行っても雑魚だ」
「あなたはっ……!」
カーサは思わず斬りかかろうとして、今話している相手が姿形のない存在であるということを思い出す。
更にカーサを絶望させたのは、思わず抜いた愛用の剣もまた、血まみれだったことだ。
どうすることもできないもどかしさを地面にぶつけ、殴りつけられた地面に大きなクレーターを作ると、カーサの前方の地面にまでひび割れが広がった。
「それで、お前はこれからどうするのだ?」
「どう、する、って、帰ら、なくちゃ……」
カーサはゆっくり立ち上がると、朝日の報告からおおよその方位を確認する。
ここがどこだかはわからないが、1つの方向に向かって歩けばいつかは街道かなにかにぶつかるだろう。
とにかく早く帰らないと、と歩き始めたカーサを、謎の声が止めた。
「いいのか? 帰ってもなんの意味もないと思うが」
「それは、どう、いう、こと?」
苛立ちを通り越して怒気をはらむカーサの言葉に、謎の声は怯むどころかそれを鼻で笑う。
「今やお前は人殺しの犯罪者だ」
「っ!? そ、れは……」
カーサは改めて自分の手を見て謎の声の言ったことを理解する。
本当は言われるまでもなくカーサもわかっていたことだった。
ただカーサは、その現実から目を背けてとにかく帰ろうとすることで自分を誤魔化していたのだ。
「誰が人殺しが帰ってきて温かく出迎えてくれるというのだ? 最低でも拘束されるだろう。場合によっては殺されることだってありえる」
「…………」
謎の声の言葉に、カーサは何も言い返すことができなかった。
追い打ちをかけるように、謎の声は続ける。
「それにそもそも、お前が私の提案に乗って来たのは、あの王が信じられなくなったからだろう? そんな王のところに戻って何になるというのだ?」
「………………」
「お前が眠る前にも言ったが、私ならお前には真実を知る機会を与えることができる」
謎の声はそこまで話すと、カーサの答えを待つように話さなくなる。
カーサには、答えを急かされているわけでもないただの沈黙した時間が、全身に重くのしかかってくるように感じられた。
長い静寂の後カーサはゆっくりと口を開く。
「…………わかった。私に、真実を……お兄、ちゃんの、本当の、ことを、教えて」
カーサがそう答えると、見えないはずの謎の声が口の端を吊り上げて笑った気がした。
「承った。お前に真実を教えてやろう」
カーサは謎の声に導かれるまま、森の奥へと消えていったのだった。
歓楽街での人斬りから数時間後、ちょうどマヤがオリガに叩き起こされた頃、カーサは森の中で目を覚ました。
「ここは、どこ?」
カーサは自分がどうして森の中で寝ているのかさっぱり分からず、キョロキョロと周囲を見回す。
しばらく周りを見ていたカーサだったが、残念なことに今倒れている場所に見覚えはなかった。
「確か、寝る前は……っ!?」
ようやく意識がはっきりしてきたカーサは、自身が寝る前に見せられた光景を、そして最後に話した謎の存在のことを思い出した。
「確か、私は、あいつの、せいで、意識を、失って……」
その後自分が何をどうしてこうなったのかさっぱり思い出せないカーサは、なんとなしに自分の手に目を向ける。
「ひぃっ……」
いつもの口数が少なく、めったに感情を表に出さないカーサにしては珍しく、カーサは自分の手を見て小さな悲鳴をあげてしまった。
カーサの手は、大量の血糊でべったりと覆われていたのである。
思わず手を握り閉じた拍子に、手のひらについて固まった血糊がポロポロと落ちるほど血まみれのその手は、当然の如く手の甲まで赤黒く染まっている。
「やっと目覚めたか」
驚いて固まっているカーサは、頭の中に直接響いた声に大きく肩を震わせる。
「これは、あなたの、しわざ?」
「どれのことかわからないが、お前の手が血まみれな理由を問うているならその通りだ」
「いったい、私に、なにを、したのっ!?」
声を荒げるカーサに、姿が見えない謎の声は、くつくつと愉快そうに笑う。
「お前にはこれと言って何もしていない。少し身体を操らせてもらっただけだ」
なにかしているじゃないか、と反論したいカーサだったが、カーサが口を挟む前に、謎の声は続ける。
「お前は兄の真相を知ることを望んだそして私はお前の望みを叶えるために、少しばかしお前の身体を使わせてもらった、それだけだ」
淡々と告げながら、核心を話さない謎の声に、カーサは語気を強めて追及する。
「そんな、ことは、どうでも、いいっ! この、血は、何か、って、言って、るのっ!」
「なんだ、そんなことが知りたいのか。その血はお前がいた歓楽街を歩いていた雑魚の返り血だ。お前の身体の実力を調べておきたかったからな」
「そんなっ…………!?」
カーサは改めて自分に手を見て絶望する。
つまりこれは、自分が謎の声の主に操られるままに、周りの人々を無差別に斬りつけた結果付いたものだということだ。
これだけの返り血を浴びるまで、自分はどれだけの罪のない人たちを傷つけたのだろうか。
いや、傷つけるだけで済んでいればいいが最悪の場合殺しているかも――。
「おえっ、うっ……っ!?」
カーサは思わず胃の中のものを戻しそうになってしまい、慌てて手で口を抑えたが血の匂いがこびりついた手で口を抑えたせいで、かえって吐き気が増してしまい、結局戻してしまった。
「…………はあ、はあ、はあ」
「まさかあのような雑魚を斬っただけで吐くとは、お前本当に剣士か?」
声だけであるにも関わらず、カーサの様子に呆れているのが伝わってくる謎の声に、カーサはなにもない空間を睨みつける。
「雑魚、なんて、言わ、ないで。みんな、必死に、生きて、るん、だから」
「それがどうしたというのだ? 必死なら良いというものではない。雑魚はどこまで行っても雑魚だ」
「あなたはっ……!」
カーサは思わず斬りかかろうとして、今話している相手が姿形のない存在であるということを思い出す。
更にカーサを絶望させたのは、思わず抜いた愛用の剣もまた、血まみれだったことだ。
どうすることもできないもどかしさを地面にぶつけ、殴りつけられた地面に大きなクレーターを作ると、カーサの前方の地面にまでひび割れが広がった。
「それで、お前はこれからどうするのだ?」
「どう、する、って、帰ら、なくちゃ……」
カーサはゆっくり立ち上がると、朝日の報告からおおよその方位を確認する。
ここがどこだかはわからないが、1つの方向に向かって歩けばいつかは街道かなにかにぶつかるだろう。
とにかく早く帰らないと、と歩き始めたカーサを、謎の声が止めた。
「いいのか? 帰ってもなんの意味もないと思うが」
「それは、どう、いう、こと?」
苛立ちを通り越して怒気をはらむカーサの言葉に、謎の声は怯むどころかそれを鼻で笑う。
「今やお前は人殺しの犯罪者だ」
「っ!? そ、れは……」
カーサは改めて自分の手を見て謎の声の言ったことを理解する。
本当は言われるまでもなくカーサもわかっていたことだった。
ただカーサは、その現実から目を背けてとにかく帰ろうとすることで自分を誤魔化していたのだ。
「誰が人殺しが帰ってきて温かく出迎えてくれるというのだ? 最低でも拘束されるだろう。場合によっては殺されることだってありえる」
「…………」
謎の声の言葉に、カーサは何も言い返すことができなかった。
追い打ちをかけるように、謎の声は続ける。
「それにそもそも、お前が私の提案に乗って来たのは、あの王が信じられなくなったからだろう? そんな王のところに戻って何になるというのだ?」
「………………」
「お前が眠る前にも言ったが、私ならお前には真実を知る機会を与えることができる」
謎の声はそこまで話すと、カーサの答えを待つように話さなくなる。
カーサには、答えを急かされているわけでもないただの沈黙した時間が、全身に重くのしかかってくるように感じられた。
長い静寂の後カーサはゆっくりと口を開く。
「…………わかった。私に、真実を……お兄、ちゃんの、本当の、ことを、教えて」
カーサがそう答えると、見えないはずの謎の声が口の端を吊り上げて笑った気がした。
「承った。お前に真実を教えてやろう」
カーサは謎の声に導かれるまま、森の奥へと消えていったのだった。
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