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第4巻第2章 諜報部隊結成

大学完成、そして本題へ

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「まさかこんなにたくさんいるとは……」

 マヤはとりあえず分類し終わった報告書を見て思わず呟いた。

 分類の結果、パソコンに関する情報が3つ、階差機関に関する情報が28、隠れた天才に関する情報が147だったのだ。

「すごいですね、頭のいい人って意外と多いんだなあ」

「そうだね~、まあ、これは別に大して頭がいいわけでもないでしょ、っていう人も結構いるけど」

 マヤが適当に取った報告書には、掛け算がものすごく早い人物として1桁かける1桁の掛け算が一瞬でできる人物のことが書かれていたが、これは九九を覚えれば誰でもできる。

 もちろん、誰もが九九を知っているわけではないこの世界ではすごいことかもしれないが、流石にこれを天才扱いはできないだろう。

「そうなんですか? マヤさん結構厳しいですね」

「まあね。本当に頭のいい人はうちに移住してもらって好きなだけ研究してもらおうと思ってるし」

「どういうことです?」

「実は、この国にも大学を作ろうと思うんだよ」

「大学、というと一部の国にある最高峰の教育機関ですか」

「そうそう。それをうちの国にも作りたいんだよ。エメリンさんのお陰で小学校、中学校、高校まではもうあるからね」

 マヤが思いっきり日本の学校制度をパク――参考にしてエメリンに学校を整備してもらったお陰で、キサラギ亜人王国は現在、この世界で唯一の義務教育実施国となっている。

 現代日本の実情に合わせて高校まで義務教育にしているので、もしかすると日本より教育水準が高いかもしれない。

 もちろんカリキュラムなどはまだまだ完成度は低いので、それは今後の課題だが。

「でも、どうして大学を作るんです? 今でも十分教育制度は充実してると思いますよ?」

「まあそうなんだけどさ、やっぱり大学がある国とそうじゃない国、もっというと大学での研究に力を入れてる国とそうじゃない国って、追々差がついてくるものなんだよ」

「やけに実感がこもってますね」

「まあね」

 世代的に、大学や企業での研究開発にお金をつぎ込んだ中国に抜かれていく日本を見てきたマヤは、自分の国はそうしたくないのだ。

 自分が舵取りをできる立場にあるため余計にそう思うのかもしれない。

「さて、それじゃあとりあえずこの70人くらいをさっそくうちに移住してくれないか交渉してくれるかな」

「いつの間に選んでたんですか……」

「そりゃ話しながらだよ」

 ラッセルと話ながらも報告書を再分別を行っていたマヤが差し出した報告書を山を袋で受け取りながら、ラッセルは驚いていた。

「マヤさんって、実は事務処理とか得意ですか?」

「うーん、まあそこそこかな? そこらの事務職に負ける気はしないけどね」

 そもそも手紙か対面かくらいでしかやり取りのないこちらの世界で発生する事務仕事と、手紙に対面はもちろん電話にメールにオンライン会議にと遅延なくいくつものツールで仕事が舞い込んでくるあちらの世界で発生する事務仕事とではレベルが違う。

 そこで戦っていたマヤが、のんびり手書きしている事務職員に負けるわけがない。

(でもその方がストレスは少ないかも?……そう考えるとパソコンは見つからなくてよかったかもしれないね)
 
「本当にマヤさんって本当たまによくわからないですね……。それじゃあ僕はさっそく部隊に指示を出してきます」

「うん、よろしくね~」

 マヤがひらひらと手をふると、ラッセルは1礼して部屋を出ていった。

***

 1ヶ月後、マヤの目の前には大きな校舎がそびえ立っていた。

「いやー、ナタリーさん、これはちょっと大きすぎないかな?」

 マヤは目の前の校舎を見上げながら、隣に立つナタリーに話しかけた。

 上を向いて口を開けるマヤに、ナタリーはクスクスと口元に手を当てて小さく笑う。

「陛下もそうしているとラッセル君と大して変わらない子供のようですね」

「そうかな? まあ実際ほとんど歳も変わらないしね」

「ちなみに陛下、大きすぎるんじゃないか、ということでしたけど、実はこれでもまだ足りないんですよ?」

「…………それ本当?」

「はい、陛下が「倫理的に問題ないならどんな要求でも聞き入れて連れてくるように」とおっしゃったのでいろいろ条件を飲んだ結果こうなったんです」

「あー、そういえばそんなこと言ったね……ちなみにどんな要求があったの?」

「そうですね「このリストの実験器具と薬品全部を用意してほしい」とか「白い紙とインクが無限にほしい」とか「壁一面にこの分野の文献を用意してほしい」とかそんな感じですね」

 ナタリーの説明を聞いて、マヤはほっと胸をなでおろす。

「なーんだ、よかったー、そういう系なら大歓迎だよ。今回集めた人たちが、いつかこの国にとって大きな財産になるはずだからね、今から楽しみだよ」

 マヤは改めてしみじみと校舎を見上げる。

「楽しそうですね陛下」

「そうかな?」

「そうですよ。陛下がそれだけ楽しそうなら、私たちも頑張ったかいがありました」

「あはは、こんなことでナタリーさんたちが報われるならいくらでも楽しませてもらうよ。でもさ、今回の仕事は後々になって本当にやってよかったと思うはずだよ」

「よくわかりませんが、陛下がそう言うならそうなのでしょうね」

 ナタリーはそう言って微笑んだ。

 マヤはもう一度巨大な校舎を見上げた後、踵を返して屋敷へと戻ったのだった。

***

「さてラッセル君、諜報部隊のみんなの実力も問題ないことが確認できたし、本題の任務を任せようと思うんだけど、大丈夫かな」

「本題の任務、ですか?」

 世界中から学者が集められ、エルフの森の木の間を縫うようにたくさんの校舎や研究棟が建て終わり、ようやく諜報部隊の仕事も落ち着き始めた頃、マヤはラッセルとナタリーを屋敷に呼び出していた。

 マヤの後ろにはカーサが立っており、マヤが座るソファーの隣にはマッシュが座っている。

「カーサの兄に関する調査だな」

「うん、私の、お兄、ちゃんの、ことを、調べて、ほしい」

「えーっと、カーサさんのお兄さんを調べるだけでいいんですか?」

 マヤが色々と準備してやっと出てきた本題にしてはあまりにも簡単に聞こえてしまい、ラッセルは首を傾げる。

 確かにわざわざ諜報部隊を組織し、1年間訓練期間を用意し、2ヶ月近く危険性が少ない情報を調査させてまでして、やっと出てきた本題がカーサの兄の調査というのは拍子抜けである。

 もちろん、カーサの兄がどこで何をしているかを知らなければ、だが。

「ラッセルくんの言いたいことはわかるよ。なんでその程度のことを、って思ったんでしょ? でもね、カーサのお兄さんは今、剣神デリックのところのいるんだよ。つまり、魔王のところにいる人を調査をしてほしいってことだね」

 マヤの言葉に、先ほどまでリラックスした様子だったラッセルは思わずつばを飲む。

「魔王の配下の調査……」

「まあ、危なくなったら逃げてきていいし、なにも調べてほしいのはカーサのお兄さん本人だけじゃないからさ」

 マヤはラッセルとナタリーに、具体的に何を調べてほしいかを説明した。

「なるほど、わかりました。つまり、カーサさんのお兄さんであるウォーレンさんが、どうして魔王のところにいるのか、ってことを調べれば良いわけですね」

「そういうことだね。お願いできるかな?」

「はい! 危険がない範囲で頑張ってみます」

 力強く宣言したラッセルに、マヤは大きく頷いたのだった。
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