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第4巻第2章 諜報部隊結成

諜報部隊結成

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「それでは最後にマヤ陛下からお言葉を頂きます」

 魔法によって拡大されたオリガの声が会場に響き渡ると、集まった諜報部隊員たちの視線が隊員たちの前方に設けられた演台へと集まった。

「こんにちはみんな。国王っぽく話したほうがいいかな、とかちょっと思ったんだけど、やっぱり私の柄じゃないし普通に話すね」

 マヤがそう言うと、会場から小さな笑いが起こる。

 流石に建国してからそれなりに時間が経っているので、国民もマヤのゆるさに慣れてきているのだろう。

「普通に喋ってる陛下の方が可愛くて好きですよー」

 挙句の果てにはこの様な声まで飛んでくる始末である。

 マヤとしては尊敬されて距離を置かれるよりもこの程度の距離感のほうが心地よいので良いのだが。

「あはは、ありがとうね。それじゃあまず、みんな諜報部隊に入ってくれありがとう。これから時間の流れを早くしたルースの封印空間で訓練をしてもらうことになるから、実質的に寿命が少し減っちゃうことになるのに承諾してくれたことには本当に感謝してる。諜報部隊の大切さとかいろいろ語りたいことはあるけど、それはこれは嫌って言うほど聞かされると思うから、私からは1つだけ。大変だと思うけど頑張ってね! 以上」

 マヤは頭を下げると、大きな拍手が巻き起こった。

「任せてくれよ陛下! 俺の命は陛下に救ってもらったんだからよ!」

「陛下は俺の息子の命の恩人だ! 全力で頑張らせてもらうぜ!」

「俺たち元敵兵を殺さずに受け入れてくれたこと、俺は一生忘れねえからな!」

 会場からの声を耳を傾けると、マヤが殺さずに助けた元バニスター兵や先のベルフェゴールの侵攻で自分や家族が死にかけたところをマヤによって助けられた者などが諜報部隊に志願してきているようだ。

「マヤ陛下、ありがとうございました。以上で、キサラギ亜人王国諜報部隊結成記念式典を終了します。諜報部隊員の皆さんは、このままルースさんの封印空間へと移動となりますので、その場で待機していてください」

 オリガの言葉で式典が終了すると、会場にいた諜報部隊員たちがガヤガヤと話し始めた。

 マヤも演題から降りて緊張を解いた。

「いやー、緊張した」

「お疲れ様です、マヤさん」

「オリガもお疲れ。そういえばみんなにはその場で待機って言ってたけど、この後どうするの?」

「この後は今諜報部隊員の皆さんがいる場所から直接、ルースさんの封印空間に転移してもらう予定です。封印空間には先に指導役のSAMASサマスの隊員さんたちがいるんですよね?」

「うん、式典の前に入ってもらったからね。それよりルース、あの人数一気に転移とかできるの?」

「やったことはないが、おそらく問題ないだろう。あの程度の人数なら私の封印空間に余裕で収まるしな」

「…………初めて入ったときから思ってたけど、ルースの封印空間って本当に大きいよね。実際どれくらいの広さなの?」

「そうだな…………だいたいオリガの故郷のエルフの村がまるっと収まるくらいじゃないか?」

「そんなに大きいの!? あの村でも1万人は暮らしてるはずだけど……なるほど、それだけ広いなら1000人くらい確かに余裕だね」

「そういうことだ。そもそもお前だって中に入るための隊員のためとかなんとか言って、食料庫やら燃料庫やら巨大なため池とろ過施設やらを私の封印空間に入れただろうに。そのあたりで普通気がつくだろう」

「そういえばそうだった。でもそういうことなら心配なさそうだから、早速お願いしていいかな?」

「任せろ。すぐに訓練を終えて戻ってくる。まあ、お前らの体感では、だがな」

 ルースはそれだけ言うと、マヤの返事を待たずに指をパチンと鳴らす。

 次の瞬間、会場に1,000人いた諜報部隊員たちとルースの姿が忽然と消えた。

「行っちゃいましたね。今回も1,000倍の速度で中の時間が進んでいるんでしたっけ?」

「そうだね。今のルースは私の強化を受けてないから1,000倍だね。訓練は1年位で終わるはずだから、夕方には帰ってくるんじゃないかな? ここに帰ってくるんだっけ?」

 マヤは先程まで諜報部隊員がいた広場を指差す。

「その予定ですね」

「そっか。んんーーーっ! じゃあ天気もいいし、この辺に敷物でも敷いてのんびりしながら待つとしようかな」

 マヤは収納袋から耐水と防汚の魔法が施された絨毯を取り出すと、勢いよく目の前に広げた。

 そのまま靴を脱いで絨毯に乗ると、大の字になって寝転がる。

「マヤさん、これで、やっと、お兄、ちゃんの、こと、調べ、られる、の?」

 マヤに習って靴を脱いで絨毯に上がったカーサが、マヤの横に座りながら尋ねてくる。

 マヤはカーサの質問に大きくうなずいた。

「そうだね、調べられるはずだよ。ただ、カーサのお兄さんは魔王のところのいるからね、いきなりはちょっと不安かな。とりあえずいくつか他の危険が少なそうな情報収集をしてもらってその後、って感じかな」

「そう、なんだ。わかった。お兄、ちゃんは、前から、ずっと、剣神様の、ところに、いる、みたい、だから、私は、急が、ない。大丈夫」

「ありがとね。でもできるだけ急ぐからさ。早くお兄さんと再開できるといいね」

「うん、ありが、とう、マヤさん」

 その後マヤたちは、降り注ぐ陽光の中、お昼ごはんを食べたり、昼寝をしたりお茶とお菓子を楽しんだりしながら夕方までゆったりと時間を過ごした。

 そして日が暮れてしばらく経った頃、マヤがシロちゃんをソファー代わりにオリガの魔法の灯りで本を読んでいると、突然後ろが騒がしくなった。

「うわあっ! なになに? って、そうか、諜報部隊員のみんなが一斉に帰ってきたのか!」

 マヤは突然後ろから聞こえ始めた沢山の人の話し声に驚いて本を取り落としてしまったが、すぐに状況を理解した。

「マヤ、戻ったぞ。久しぶりだな」

「お疲れルース。私としては朝会ったばっかりなんだけどね」

「そういえばそうだったな」

「それで、訓練はうまくいったの?」

「それはそっちの奴らに聞いてくれ」

 ルースが親指で広報を示すと、SAMASサマス所属のエルフが10人ほどの横一列で並んでいた。

「お疲れ様、みんな。ごめんね、1年間も手伝ってもらっちゃって」

「いえ、陛下の頼みであれば喜んで! それに我々エルフにとって1年などあっという間ですから」

「そう? そう言ってくれると助かるけど……。それで、訓練の方はうまくいったのかな?」

「はい、バニスター軍の諜報部隊訓練の資料があったのがやはり大きかったです。うちの事情に合わせてアレンジは必要でしたが、だいたいはこれのとおりに行えば大丈夫でした」

「そうなんだ、それは良かったよ。まあ何はともあれお疲れ様。しばらくはゆっくり休んでいいからね」

「「「「「はい、ありがとうございます陛下!」」」」」

 SAMASサマス所属のエルフたちはマヤに1礼すると、そのまま回れ右して駆け足で去っていった。

「ふう、とりあえずこれで一応諜報部隊結成ってことでいいのかな? 後は実際に情報を集めてみてもらってどんな感じかってことだねえ」

 こうして、キサラギ亜人王国に諜報部隊が誕生したのだった。
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