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第4巻第1章 魔王会議
カーサとウォーレン
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「それで、ウォーレンはどうしてカーサと合ってくれなかったの?」
マヤはテーブルにつくといきなり本題を切り出した。
「これは私の推測に過ぎんが、意地になっているのだ、ウォーレンのやつは」
「意地になってる? どういうこと? 喧嘩でもしてるの、あの2人?」
「いや、そういう訳では無いと思うが……。これを説明するにはまず、どうしてウォーレンが私のところのいるのか、ということを説明せねばならんな」
デリックはウェイトレスを呼び止めて果実酒を2つ受け取ると、1つをマヤの前に置き、もう1つに口をつけた。
「ウォーレンが私のところに来たのは7年ほど前だ。ちょうど今のカーサくらいの歳の頃だった」
「じゃあカーサはまだ10歳にもなってない頃なんだ」
「だろうな。そしてやってきたあいつは開口一番言ったのだ「俺を強くしてくれ」とな」
「よくある話じゃん。男の子は強さを求めるものでしょ?」
「まあそうかもしれが、あいつの場合は少々変わっていてな。このままでは妹に負けてしまう、俺は妹より強くなくちゃいけない、というのが来た頃のあいつの口癖だった」
「カーサより強くなくちゃいけない? なにそれ、兄としてのプライドが許さない的なやつ?」
マヤも向こうの世界では弟を持つ兄だったので、ウォーレンの気持ちも分からなくはないが、それで魔王のところまで強くしてくれ、と頼みに行くというのはちょっと理解できなかった。
「おそらくな。ただ、それだけで私のところまで来るというのは少々異常な気もしたが……しかし私は強さを求めてくるものを拒まないことにしている。結果としてウォーレンは私のもとで修行している、というわけだ」
「なるほど……ちょっとだけカーサのお兄さんのことはわかったけど、どうしてそこまでしてカーサよりも強くあろうとするのかはよくわからないね」
本当に、ただ兄としてのプライドが許さない、というだけなのだろうか。
もしかしたら本当にそれだけの理由で故郷の村を捨て幼い妹を置き去りにしてデリックのところに行ったのかもしれないが、マヤはなんとなく引っかかりを感じた。
「それは私もわかりかねる。それに先ほどカーサとの対面を拒んだ理由もな」
「そういえば、剣神さんから見て今のウォーレンとカーサだったらどっちが強いの?」
「そうだな…………カーサの戦いぶりをこの目で見たわけではないのでな、あくまで会議の場で感じた立ち居振る舞いだけからの判断だが……互角だろうな」
「互角か……」
デリックの話によれば、ウォーレンはデリックのところに来てからの修行で相当強くなったらしい。
そんな強い師匠のもとで修行して強くなった今のウォーレンと、自分より強い師匠などいない環境で修行した年下のカーサが同じ強ということは……。
(カーサの方が剣の才があるってことだよね……ってことは本当にプライドが許さなかっただけなのかも?)
「私が知っているのはこれくらいだ。他になにか聞いておきたいことはあるか?」
「ううん、大丈夫。ありがとね、いろいろ教えてくれて」
マヤはデリックが取ってくれた果実酒を飲み干して椅子から立ち上がると、そのまま歩き出す。
「そうだ、同じ魔王としてこれからよろしくね、剣神さん」
マヤはひらひらと手を振ってデリックとその配下の一団がいるあたりを後にしたのだった。
***
「あっ、おかえりなさいマヤさん」
「あ~、マヤだ~、おかえり~」
マヤが元の場所に戻ってくると、2つ並べた椅子の上でオリガに膝枕されているルーシェと、呆れた様子で介抱するオリガがマヤに気がついた。
「ただいま。ルーシェさん、まだ酔っ払ってるの?」
「えへへ~、だから~、酔って無いってばあ~」
「あーはいはい、酔ってない酔ってない」
「もーう、マヤが冷たいよ~オリガちゃ~ん」
「そうですね~、マヤさんったら酷いですねえ」
オリガはルーシェの頭をよしよしと撫でながら、マヤへと目配せする。
(カーサさんは先に部屋に戻りました。私もルーシェ様を配下の方々に預けたら戻りますから、マヤさんは先に戻っていてください)
と、オリガは念話で頭の中に直接話しかけて来た。
マヤはオリガに了解の意味を込めて軽く手を挙げると、そのままパーティ会場を出て部屋へと向かう。
(あれ? なにか忘れてるような……まあいっか)
なにか忘れている気がしたマヤだったが忘れているくらいなので大したことじゃないだろう、と考えても部屋へと足を進め、程なくして部屋の前にたどり着いた。
「カーサ、もう戻ってるのー?」
マヤが声をかけながらドアを開けると、カーサは部屋の中で灯りもつけずに窓辺に佇んでいた。
「カーサ?」
「マヤさん……」
「どうしたの? ランプくらいつけなよ」
マヤはマッチを擦って火をつけると、ランプに火を灯した。
魔王とその配下のための部屋にマッチがおいてあるのは、単純にマヤが持ち込んだためである。
「ねえ、マヤさん」
「なにかな?」
「私、剣神様、から、お兄、ちゃんを、取り、戻し、たい」
「取り戻す?」
マヤがデリックから聞いてきた話と食い違うことを言うカーサに、マヤは首を傾げる。
「そう、取り、戻す」
「剣神さんが、お兄さんを攫ったってこと?」
「そういう、こと。剣神様は、強い、剣士を、攫って、自分が、最強の、剣士に、なるための、道具、として、使ってる。お兄ちゃんも、強い、剣士、だった、から、攫われて、剣神様に、操られて、剣神、様の、道具に、されてる。だから、今日、も、私と、あって、くれ、なかった」
確信をを持っている様子で語るカーサに、マヤはますます混乱する。
「えーっと、カーサ?」
「なに、マヤさん」
「それはどこで手に入れた情報なの?」
「ん? 昔、商人、から、教えて、もらった」
「それは信じられるの?」
「うん。その、商人は、嘘は、つかない。情報が、間違ってた、ことも、ない」
「うーん、そうなんだ……どっちが正しいんだろう?」
カーサに情報をもたらした商人が間違っている可能性の方が高い気がするマヤだが、仮にその商人の情報が正しいならデリックにとっては不都合な事実なわけで、マヤにあえて説明しなかったのも納得できるといえばできる。
もちろんその場合は、どうしてそこらの商人が知っているような情報を伏せたのか、という話になるわけだが、新参の魔王であるマヤがその程度の情報も知らない可能性も考慮して黙っていた可能性もある。
(んん? うーん……わからないなあ、どっちが正しいんだろう?…………やっぱりうちも帰ったら大急ぎで諜報部隊作ろ。裏取れないのはちょっと良くないよね)
マヤが部屋でうんうんと頷いている頃、パーティ会場に忘れ去られたマッシュは……。
「いい加減助けに――おふうっ……」
何度目かの助けを求める声を上げようとして、もふもふされる気持ちよさに言葉を失っていたのだった。
マヤはテーブルにつくといきなり本題を切り出した。
「これは私の推測に過ぎんが、意地になっているのだ、ウォーレンのやつは」
「意地になってる? どういうこと? 喧嘩でもしてるの、あの2人?」
「いや、そういう訳では無いと思うが……。これを説明するにはまず、どうしてウォーレンが私のところのいるのか、ということを説明せねばならんな」
デリックはウェイトレスを呼び止めて果実酒を2つ受け取ると、1つをマヤの前に置き、もう1つに口をつけた。
「ウォーレンが私のところに来たのは7年ほど前だ。ちょうど今のカーサくらいの歳の頃だった」
「じゃあカーサはまだ10歳にもなってない頃なんだ」
「だろうな。そしてやってきたあいつは開口一番言ったのだ「俺を強くしてくれ」とな」
「よくある話じゃん。男の子は強さを求めるものでしょ?」
「まあそうかもしれが、あいつの場合は少々変わっていてな。このままでは妹に負けてしまう、俺は妹より強くなくちゃいけない、というのが来た頃のあいつの口癖だった」
「カーサより強くなくちゃいけない? なにそれ、兄としてのプライドが許さない的なやつ?」
マヤも向こうの世界では弟を持つ兄だったので、ウォーレンの気持ちも分からなくはないが、それで魔王のところまで強くしてくれ、と頼みに行くというのはちょっと理解できなかった。
「おそらくな。ただ、それだけで私のところまで来るというのは少々異常な気もしたが……しかし私は強さを求めてくるものを拒まないことにしている。結果としてウォーレンは私のもとで修行している、というわけだ」
「なるほど……ちょっとだけカーサのお兄さんのことはわかったけど、どうしてそこまでしてカーサよりも強くあろうとするのかはよくわからないね」
本当に、ただ兄としてのプライドが許さない、というだけなのだろうか。
もしかしたら本当にそれだけの理由で故郷の村を捨て幼い妹を置き去りにしてデリックのところに行ったのかもしれないが、マヤはなんとなく引っかかりを感じた。
「それは私もわかりかねる。それに先ほどカーサとの対面を拒んだ理由もな」
「そういえば、剣神さんから見て今のウォーレンとカーサだったらどっちが強いの?」
「そうだな…………カーサの戦いぶりをこの目で見たわけではないのでな、あくまで会議の場で感じた立ち居振る舞いだけからの判断だが……互角だろうな」
「互角か……」
デリックの話によれば、ウォーレンはデリックのところに来てからの修行で相当強くなったらしい。
そんな強い師匠のもとで修行して強くなった今のウォーレンと、自分より強い師匠などいない環境で修行した年下のカーサが同じ強ということは……。
(カーサの方が剣の才があるってことだよね……ってことは本当にプライドが許さなかっただけなのかも?)
「私が知っているのはこれくらいだ。他になにか聞いておきたいことはあるか?」
「ううん、大丈夫。ありがとね、いろいろ教えてくれて」
マヤはデリックが取ってくれた果実酒を飲み干して椅子から立ち上がると、そのまま歩き出す。
「そうだ、同じ魔王としてこれからよろしくね、剣神さん」
マヤはひらひらと手を振ってデリックとその配下の一団がいるあたりを後にしたのだった。
***
「あっ、おかえりなさいマヤさん」
「あ~、マヤだ~、おかえり~」
マヤが元の場所に戻ってくると、2つ並べた椅子の上でオリガに膝枕されているルーシェと、呆れた様子で介抱するオリガがマヤに気がついた。
「ただいま。ルーシェさん、まだ酔っ払ってるの?」
「えへへ~、だから~、酔って無いってばあ~」
「あーはいはい、酔ってない酔ってない」
「もーう、マヤが冷たいよ~オリガちゃ~ん」
「そうですね~、マヤさんったら酷いですねえ」
オリガはルーシェの頭をよしよしと撫でながら、マヤへと目配せする。
(カーサさんは先に部屋に戻りました。私もルーシェ様を配下の方々に預けたら戻りますから、マヤさんは先に戻っていてください)
と、オリガは念話で頭の中に直接話しかけて来た。
マヤはオリガに了解の意味を込めて軽く手を挙げると、そのままパーティ会場を出て部屋へと向かう。
(あれ? なにか忘れてるような……まあいっか)
なにか忘れている気がしたマヤだったが忘れているくらいなので大したことじゃないだろう、と考えても部屋へと足を進め、程なくして部屋の前にたどり着いた。
「カーサ、もう戻ってるのー?」
マヤが声をかけながらドアを開けると、カーサは部屋の中で灯りもつけずに窓辺に佇んでいた。
「カーサ?」
「マヤさん……」
「どうしたの? ランプくらいつけなよ」
マヤはマッチを擦って火をつけると、ランプに火を灯した。
魔王とその配下のための部屋にマッチがおいてあるのは、単純にマヤが持ち込んだためである。
「ねえ、マヤさん」
「なにかな?」
「私、剣神様、から、お兄、ちゃんを、取り、戻し、たい」
「取り戻す?」
マヤがデリックから聞いてきた話と食い違うことを言うカーサに、マヤは首を傾げる。
「そう、取り、戻す」
「剣神さんが、お兄さんを攫ったってこと?」
「そういう、こと。剣神様は、強い、剣士を、攫って、自分が、最強の、剣士に、なるための、道具、として、使ってる。お兄ちゃんも、強い、剣士、だった、から、攫われて、剣神様に、操られて、剣神、様の、道具に、されてる。だから、今日、も、私と、あって、くれ、なかった」
確信をを持っている様子で語るカーサに、マヤはますます混乱する。
「えーっと、カーサ?」
「なに、マヤさん」
「それはどこで手に入れた情報なの?」
「ん? 昔、商人、から、教えて、もらった」
「それは信じられるの?」
「うん。その、商人は、嘘は、つかない。情報が、間違ってた、ことも、ない」
「うーん、そうなんだ……どっちが正しいんだろう?」
カーサに情報をもたらした商人が間違っている可能性の方が高い気がするマヤだが、仮にその商人の情報が正しいならデリックにとっては不都合な事実なわけで、マヤにあえて説明しなかったのも納得できるといえばできる。
もちろんその場合は、どうしてそこらの商人が知っているような情報を伏せたのか、という話になるわけだが、新参の魔王であるマヤがその程度の情報も知らない可能性も考慮して黙っていた可能性もある。
(んん? うーん……わからないなあ、どっちが正しいんだろう?…………やっぱりうちも帰ったら大急ぎで諜報部隊作ろ。裏取れないのはちょっと良くないよね)
マヤが部屋でうんうんと頷いている頃、パーティ会場に忘れ去られたマッシュは……。
「いい加減助けに――おふうっ……」
何度目かの助けを求める声を上げようとして、もふもふされる気持ちよさに言葉を失っていたのだった。
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