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第4巻第1章 魔王会議

魔王になった

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「へえ、デリックの太刀を受け止めるなんてやるじゃねえか」

 マヤがデリックの斬撃を受け止めたのを上から見ていたセシリオは感心した様子だ。

「確かに、あれは私でも対処に困るからね」

「そりゃステラちゃんじゃどうしようもねえだろ、あれは。ステラちゃんは戦闘向きじゃねえからな」

「そんなことないわよ! あれくらい受け止められるわ!」

「無理しない方がいいですよステラ。あれは私でも――」

「「それはない」」

「そんな食い気味に否定しなくても……」

 ステラを庇おうとしたルーシェは、セシリオとステラに異口同音に否定され、悲しそうだった。

 落ち込むルーシェを放っておいて、セシリオはマヤとデリックを円卓に部屋に呼び戻す。

「戻ったか、2人とも。デリック、満足したか?」

 もともと座っていた席の後ろに突然現れた2人に、マルコスが問いかける。

「ああ、満足だ。少なくともベルフェゴールよりは強いと言っていいだろう」

「ふう、良かった……今度はそこのエッチなお姉さんと戦えとか言われたらどうしようかと思ったよ」

「誰がエッチなお姉さんよ!」

 マヤにエッチ呼ばわりされたステラがマヤに食って掛かるが……。

「そうですねえ、確かにステラちゃんのその格好は、お姉さんちょっと良くないと思います」

「そうだな、俺としちゃ最高だが、ちと露出が激しすぎる気はするな」

「2人までこいつの味方するの? いや、ルーシェはそもそもこいつの味方か……じゃなくて! 私がこういう格好なのは意味があるのよ! 私は――」

「ステラ、お前の格好がふしだらかどうかは今はどうでもいい。少し静かにしていろ。それからルーシェとセシリオ、お前らもステラをいじりその辺にしてやれ」

「ふしだっ……なんで私が……まあいいわ」

「そうですね、この辺にしておきましょうか」

「だな」

 納得いかない様子ながら言うことを聞いたステラと、まあ潮時かと顔を見合わせるルーシェとセシリオが席についたあと、デリックとマヤも席についた。

「それでは改めて問おう。マヤを魔王とすることに何か意見がある者は?」

 マルコスは一同を見回すが、今度は誰も意見を言うことはなかった。

「それでは、今この瞬間をもってマヤを新たな魔王とする」

 マルコスがそう宣言し、魔王会議は幕を閉じた閉じたのだった。

***

「疲れたー」

 マヤは魔王会議が行われた屋敷に、マヤたちのために用意されていた部屋に入るなりベッドに倒れ込んだ。

「お疲れ様です。大変でしたね」

 ベッドの上で半回転し仰向けになって両手を広げるマヤを、オリガが苦笑しながら労ってくれる。

「本当だよ! あのおじいさん本気で殺しにくるんだもん。あのまま首を落とされてたらどうするんだって話だよ」

「すごかったですよね。私も気が気じゃなかったですよ」

「しかし、そのおかげでお前が勝てたのだから良いではないか」

 マッシュの言う通り、デリックが本気で殺しに来ていなければ、マヤが攻撃を防ぐこともできなかっただろう。

「あの老人、おそらくだが、2度同じ手が通じる手合いではない。あそこで決められなければもっと長期戦になっていただろうな」

「まあそれもそうなんだけどさあ」

 マヤはベットに仰向けになって、垂らした足をパタパタさせる。

「でも、やっぱり、マヤさんは、すごい。私、剣神の、動き、全く、見えな、かった」

「ええー、そうかなあ、私すごいかなー?」

 キラキラした瞳でマヤを見てくるカーサに、マヤは照れくさくて頭をかく。

 オリガは基本冷静だし、マッシュはマヤに厳しいで、あまり褒められることのないマヤは、カーサが素直に心から褒めてくれることが嬉しかった。

「うん、すごい。うん……マヤさんが、いれば、大丈夫」

「えへへっ、そっかー、すごいかー」

「カーサ、あまりマヤを調子に乗らせてはいかんぞ? そいつはすぐに油断して失敗するからな」

「まあまあ、今日くらいはいいんじゃないですか? 魔王になった日でもありますし」

「それは祝っていい日なのか?」

「さあ? でも、一応すごいことですし、いいんじゃないですか?」

「ふむ、そういうものか」

「そうそう、そういうものだよー。だからマッシュも私を讃えて! 私にご褒美を! 具体的にはもふもふさせて!」

「はあ、お前は私を撫で回したいだけだろう……」

 呆れながらもマッシュはベッドに跳び乗ると、マヤのお腹の上に乗る。

「やった! へへへ、思う存分モフらせてもらうからねえ?」

「ま、待てっ! やっぱりなしということに――」

「もう遅いよ!」

「あああああああ!」

 マッシュの悲鳴は程なくして聞こえなくなってしまう。

 マッシュはいつものようにマヤに撫でられてうっとりと目を細めている。

 マヤはマッシュをもふもふしながら寝転んだまま隣に腰掛けているオリガに顔を向けた。

「それで、夜にあるっているパーティって何するの? 私社交ダンスとかできないよ?」

 現代日本で生まれ育ち、こちらの世界に来てからは冒険者しかやったことがないマヤに、社交ダンス学ぶ機会などなかった。

 王になってからそれなりに経つので、なぜ習っておかなかったのかと言われればそれまでだが、バニスターが攻めてきたりベルフェゴールが攻めてきたりでそれどころではなかったのも事実なのでマヤだけを攻めるのも酷というものだろう。

「別に踊れなくてもいいんじゃないですか? お母さんが言うには魔王配下同士の交流が主な目的らしいですから」

「オリガさん、パーティ、には、剣神の、配下も、くる、のかな?」

「デリック様の配下ですか? 多分来るんじゃないですかね? あの場にいなかった配下の人たちもパーティには出てくるってこともあるらしいですし」

「護衛でもない配下も連れてくるなんて、そのパーティって結構大事なのかな?」

「どうでしょう? 大事ならもっと魔王会議を頻繁にやってるような気もしますけどね」

「それもそうだね。まあ考えても仕方ないか。とりあえず夜までゆっくりしようっと」

 マヤはマッシュを隣に下ろすと、横寝しながらマッシュを撫でつつ目をつむる。

 程なくして、マヤは寝息を立て始めた。

「寝ちゃいましたね」

「うん、マヤさん、大変、だったし。しかた、ない」

「ですね」

 オリガとカーサはしばらくマヤを見守っていたが、2人も疲れていたのか気づいたときには2人ともベッドの上で眠ってしまっていたのだった。

***

 マヤたちが仲良く川の字で眠り始めた頃。

 同じ屋敷の1室でマルコスとデリックが顔を合わせていた。

「すまなかったな、デリック」

「構わんさ。私が適任だったしな」

「そう言ってくれると助かる。私やセシリオでは力が強すぎる、ルーシェはマヤの友人で、ステラは……あの娘には演技などできまい」

「違いない。それにしても、マヤは何者なのだ? 手合わせしてわかったが、あれは力は本物だが戦闘はずぶの素人に毛が生えた程度だ」

「さあな。私にわかるのは、魔王にふさわしい実力の持ち主だ、ということだけだ」

「マルコスがそのようなこと言うとは、ますますマヤの正体が気になってしまうな」

「あまり詮索するものではないぞ?」

「わかっているさ。私もルーシェに睨まれるのはごめんだ。それではな、マルコス」

 軽く手を上げて挨拶するデリックを、マルコス呼び止めた。
 
「そういえば、マヤのところのオークの剣士、あれはデリックの知り合いか?」

「…………さあな、オークの知り合いはいるが、あの娘は知らん」

 デリックはそれだけ言うと、今度こそマルコスの部屋を後にしたのだった。
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