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第4巻第1章 魔王会議
剣神VSマヤ
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円卓とその後ろに控える従者を入れてもまだまだ余裕のある明らかに不要というほかないほど広い部屋と、見上げて初めて視界に入るほど高い天井によって形作られる広大な空間に、マルコスの声が響く。
「久々の再開を嬉しく思う。前回から1名欠員が出たことは悲しいことだが、残りの皆が壮健で何よりだ」
「おいおいマルコス、そんな固っ苦しい挨拶はなしにしようぜ? どうせお互いにずっと監視しあってんだ、元気なことくらいわかってただろ? さっさと本題に入っちまえって」
セシリオはマヤに視線を投げる。
「セシリオ、これは魔王会議の伝統だ。お前も原初の魔王の端くれなら邪魔をするな」
「へいへい、わかりましたよおじい様」
マルコスの重苦しい声に、セシリオはひらひらと手を振って引き下がった。
「お前というやつは……。まあいいだろう、セシリオの言うことも一理ある。今回集まってもらったのはほかでもない。そこの少女がベルフェゴールを殺したことによる魔王の欠員の件だ」
マルコスの言葉で一同の視線が一斉にマヤへと集中する。
魔王5人とそれぞれの5人ほどの従者の視線にさらされ、マヤは居心地が悪くなる。
「ベルフェゴールは決して弱くはなかったはずだが……それがこの少女にな」
マヤの隣に座る老齢の男性が今まで閉じていた目をかすかに開いてマヤを見やる。
マヤはそれだけで背筋に冷や汗が流れる。
「剣神さん、あまりマヤをいじめないで下さい」
マヤの隣の老人をルーシェが剣神と呼んだ瞬間、マヤの後ろに控えていたカーサの眉がわずかに動いた。
「おや、ルーシェ殿はこいつの味方ですかな?」
「この場でマヤに肩入れする気はありませんよ。ですが、マヤは私のお友達ですから」
ルーシェの言葉に反応したのは、マヤの老人と反対隣に座っていた大きく胸元の開いたドレスに身を包んだ妙齢の女性だった。
「まあ! ルーシェにお友達なんて珍しい! 精神支配でもしてるんじゃないの?」
頭にヤギのような巻き角があるので、おそらく悪魔なのだろう。
「あら、ステラちゃんったら酷いですね。私はステラちゃんのこともお友達だと思っていたのですが」
「誰が友達よ、この年増女! あんたなんかさっさと隠居しちゃえばいいのよ」
「いつからそんな口汚くなったんです? 昔はルーシェお姉ちゃんルーシェお姉ちゃんと私の後ろをついてきてくれていたのに……」
「いつの話よ!?」
「ははっ、俺がガキの頃よりは最近だろ? 俺も覚えてるぜ、ステラちゃん?」
「セシリオまで! 今の私はもう立派な魔王なの! いつまでも子供扱いしないでほしいわ!」
ステラと呼ばれた悪魔は、勢いよく座るとそっぽを向いてしまう。
「ルーシェ、セシリオ、ステラをいじめるのはそれくらいにしろ、話が進まん」
「はい」
「へーい」
「それで、マヤとやら、貴様が我らが同胞ベルフェゴールを殺したのは事実か?」
マルコスとしては特に何をしたわけでもないのだろうが、マヤは質問されただけで身体が重くなるのを感じた。
マヤが一瞬顔をしかめたのを見逃さなかったルーシェがパチンッと指を鳴らすと、マヤはマルコスの重圧から開放される。
「マルコス、まだマヤは一般人です。少しは魔力を抑えたらどうです?」
「これから魔王になる者にそのような配慮は不要と思ったが……まあいい、マヤよ質問に答えてもらおう」
「事実だよ。もう火葬しちゃったから首とかは持ってないけどね」
「そうか。それでは私は貴様を新たな魔王として推薦する。異論のある者は?」
マルコスは円卓をぐるりと見渡す。
しばらくして、先ほど剣神と呼ばれた老人が手を上げた。
「いいだろうか」
「なんだデリック」
「ベルフェゴールは先程も申したように、決して弱いわけではなかった。しかし、魔王でなくとも場合によっては倒せない相手ではない、程度の強さであったことは事実だ」
「何が言いたいんだよデリック?」
相変わらず軽い調子のセシリオが、デリックの言わんとしていることがわかっていながらあえてそんな質問をする。
「そうだな、単刀直入に言おう、マヤは私よりも強いのか?」
「マヤの実力を疑うのですか?」
「ルーシェ、あなたの言葉を疑うわけではありませんが、この目で確かめねば納得できない性分でしてな」
「戦ってみればいいんじゃない? それで死んだらその程度のやつだったってことでしょ?」
いつの間に取り出したのか、やすりで爪を磨きながらステラがとんでもないことを言う。
「いいこと言うじゃねえかステラちゃん。おっし、じゃあ俺が一肌脱ごうじゃねーか」
「わわっ!?」
マヤの同意どころか剣神デリックの同意も得ないままステラの提案に乗っかったセシリオによって、マヤとデリックは何もない空間へと転移させられる。
一瞬で目の前の景色が変わったマヤはキョロキョロと当たりを見回す。
マヤが同じ空間にデリックしかいないことを確認した頃、頭上からマルコスの声が聞こえた。
「セシリオ、どういうつもりだ?」
「なに、ここで戦ってもらうわけにはいかんだろ? だから適当に作った空間に飛ばした」
こともなげに空間を作ったなどと言うセシリオに、マルコスはため息をつく。
「そういうことを聞いているのではない……ルーシェ、あのマヤとやらは大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫じゃないですか? デリックにやられるほど弱くないと思いますよ?」
「ちょっ!? ルーシェ! そこは止めてよ!」
マヤの叫びはどうやらルーシェには届いていないようで、ルーシェから返事はなかった。
円卓がある部屋とこの空間の声の伝達が、円卓の部屋からこの空間への一方通行なのか、ルーシェが無視しただけなのかは分からないが。
「そうか、そういうことならいいだろう。デリック、好きにやっていいぞ」
マルコスのその言葉で、2人の戦闘が始まった。
(はやっ! なにこれ? えっ?)
マヤは早速仕掛けて来たデリックの動きを見て驚愕する。
今のマヤは自身に強化魔法をかけている状態で、思考速度も大幅に強化されている。
そのため並の相手なら簡単に動きを見切ることができるのだが、デリックは強化状態のマヤが見ても捉えるのがやっとなほど速かった。
(落ち着け私……。デリックとか言う人は剣を抜いてないから、たぶん抜刀術みたいな剣技を使うはず……だったら直前でかわすのはほとんど無理だから)
マヤはなんとか思考を巡らせ打開策を考える。
だが、高速で思考できているはずのマヤから見ても速く動くデリックは、もうすぐそこまで迫っていた。
「仕方ない! 強化!」
マヤは最大出力で自分へと強化魔法をかけると、そのまま向かってくるデリックへと突っ込んだ。
「愚かな」
マヤがデリックの間合いに入った瞬間、デリックの剣撃が、未だ強化魔法の光の粒子を吸収し続けているマヤを襲う。
狙い過たずマヤの首へと迫った剣閃に、しかして絶体絶命のはずのマヤの口元には笑みが浮かんでいた。
「っ!?」
「私の勝ちだね」
自らの腕でデリックの剣を受け止めたマヤは、もう片方の手で作った手刀をデリックの首筋に当て、苦痛に少し顔を歪めながらも不敵に笑ってみせたのだった。
「久々の再開を嬉しく思う。前回から1名欠員が出たことは悲しいことだが、残りの皆が壮健で何よりだ」
「おいおいマルコス、そんな固っ苦しい挨拶はなしにしようぜ? どうせお互いにずっと監視しあってんだ、元気なことくらいわかってただろ? さっさと本題に入っちまえって」
セシリオはマヤに視線を投げる。
「セシリオ、これは魔王会議の伝統だ。お前も原初の魔王の端くれなら邪魔をするな」
「へいへい、わかりましたよおじい様」
マルコスの重苦しい声に、セシリオはひらひらと手を振って引き下がった。
「お前というやつは……。まあいいだろう、セシリオの言うことも一理ある。今回集まってもらったのはほかでもない。そこの少女がベルフェゴールを殺したことによる魔王の欠員の件だ」
マルコスの言葉で一同の視線が一斉にマヤへと集中する。
魔王5人とそれぞれの5人ほどの従者の視線にさらされ、マヤは居心地が悪くなる。
「ベルフェゴールは決して弱くはなかったはずだが……それがこの少女にな」
マヤの隣に座る老齢の男性が今まで閉じていた目をかすかに開いてマヤを見やる。
マヤはそれだけで背筋に冷や汗が流れる。
「剣神さん、あまりマヤをいじめないで下さい」
マヤの隣の老人をルーシェが剣神と呼んだ瞬間、マヤの後ろに控えていたカーサの眉がわずかに動いた。
「おや、ルーシェ殿はこいつの味方ですかな?」
「この場でマヤに肩入れする気はありませんよ。ですが、マヤは私のお友達ですから」
ルーシェの言葉に反応したのは、マヤの老人と反対隣に座っていた大きく胸元の開いたドレスに身を包んだ妙齢の女性だった。
「まあ! ルーシェにお友達なんて珍しい! 精神支配でもしてるんじゃないの?」
頭にヤギのような巻き角があるので、おそらく悪魔なのだろう。
「あら、ステラちゃんったら酷いですね。私はステラちゃんのこともお友達だと思っていたのですが」
「誰が友達よ、この年増女! あんたなんかさっさと隠居しちゃえばいいのよ」
「いつからそんな口汚くなったんです? 昔はルーシェお姉ちゃんルーシェお姉ちゃんと私の後ろをついてきてくれていたのに……」
「いつの話よ!?」
「ははっ、俺がガキの頃よりは最近だろ? 俺も覚えてるぜ、ステラちゃん?」
「セシリオまで! 今の私はもう立派な魔王なの! いつまでも子供扱いしないでほしいわ!」
ステラと呼ばれた悪魔は、勢いよく座るとそっぽを向いてしまう。
「ルーシェ、セシリオ、ステラをいじめるのはそれくらいにしろ、話が進まん」
「はい」
「へーい」
「それで、マヤとやら、貴様が我らが同胞ベルフェゴールを殺したのは事実か?」
マルコスとしては特に何をしたわけでもないのだろうが、マヤは質問されただけで身体が重くなるのを感じた。
マヤが一瞬顔をしかめたのを見逃さなかったルーシェがパチンッと指を鳴らすと、マヤはマルコスの重圧から開放される。
「マルコス、まだマヤは一般人です。少しは魔力を抑えたらどうです?」
「これから魔王になる者にそのような配慮は不要と思ったが……まあいい、マヤよ質問に答えてもらおう」
「事実だよ。もう火葬しちゃったから首とかは持ってないけどね」
「そうか。それでは私は貴様を新たな魔王として推薦する。異論のある者は?」
マルコスは円卓をぐるりと見渡す。
しばらくして、先ほど剣神と呼ばれた老人が手を上げた。
「いいだろうか」
「なんだデリック」
「ベルフェゴールは先程も申したように、決して弱いわけではなかった。しかし、魔王でなくとも場合によっては倒せない相手ではない、程度の強さであったことは事実だ」
「何が言いたいんだよデリック?」
相変わらず軽い調子のセシリオが、デリックの言わんとしていることがわかっていながらあえてそんな質問をする。
「そうだな、単刀直入に言おう、マヤは私よりも強いのか?」
「マヤの実力を疑うのですか?」
「ルーシェ、あなたの言葉を疑うわけではありませんが、この目で確かめねば納得できない性分でしてな」
「戦ってみればいいんじゃない? それで死んだらその程度のやつだったってことでしょ?」
いつの間に取り出したのか、やすりで爪を磨きながらステラがとんでもないことを言う。
「いいこと言うじゃねえかステラちゃん。おっし、じゃあ俺が一肌脱ごうじゃねーか」
「わわっ!?」
マヤの同意どころか剣神デリックの同意も得ないままステラの提案に乗っかったセシリオによって、マヤとデリックは何もない空間へと転移させられる。
一瞬で目の前の景色が変わったマヤはキョロキョロと当たりを見回す。
マヤが同じ空間にデリックしかいないことを確認した頃、頭上からマルコスの声が聞こえた。
「セシリオ、どういうつもりだ?」
「なに、ここで戦ってもらうわけにはいかんだろ? だから適当に作った空間に飛ばした」
こともなげに空間を作ったなどと言うセシリオに、マルコスはため息をつく。
「そういうことを聞いているのではない……ルーシェ、あのマヤとやらは大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫じゃないですか? デリックにやられるほど弱くないと思いますよ?」
「ちょっ!? ルーシェ! そこは止めてよ!」
マヤの叫びはどうやらルーシェには届いていないようで、ルーシェから返事はなかった。
円卓がある部屋とこの空間の声の伝達が、円卓の部屋からこの空間への一方通行なのか、ルーシェが無視しただけなのかは分からないが。
「そうか、そういうことならいいだろう。デリック、好きにやっていいぞ」
マルコスのその言葉で、2人の戦闘が始まった。
(はやっ! なにこれ? えっ?)
マヤは早速仕掛けて来たデリックの動きを見て驚愕する。
今のマヤは自身に強化魔法をかけている状態で、思考速度も大幅に強化されている。
そのため並の相手なら簡単に動きを見切ることができるのだが、デリックは強化状態のマヤが見ても捉えるのがやっとなほど速かった。
(落ち着け私……。デリックとか言う人は剣を抜いてないから、たぶん抜刀術みたいな剣技を使うはず……だったら直前でかわすのはほとんど無理だから)
マヤはなんとか思考を巡らせ打開策を考える。
だが、高速で思考できているはずのマヤから見ても速く動くデリックは、もうすぐそこまで迫っていた。
「仕方ない! 強化!」
マヤは最大出力で自分へと強化魔法をかけると、そのまま向かってくるデリックへと突っ込んだ。
「愚かな」
マヤがデリックの間合いに入った瞬間、デリックの剣撃が、未だ強化魔法の光の粒子を吸収し続けているマヤを襲う。
狙い過たずマヤの首へと迫った剣閃に、しかして絶体絶命のはずのマヤの口元には笑みが浮かんでいた。
「っ!?」
「私の勝ちだね」
自らの腕でデリックの剣を受け止めたマヤは、もう片方の手で作った手刀をデリックの首筋に当て、苦痛に少し顔を歪めながらも不敵に笑ってみせたのだった。
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