124 / 324
第3巻第3章 キサラギ亜人王国の危機
ファムランドという男
しおりを挟む
「馬鹿なこと……してんじゃねーよ……っ」
レオノルのナイフによって貫かれたファムランドは、激痛に顔を歪めながらレオノルに話しかける。
「ファムランドさん、どうしてこんなことを……」
「お前が死のうとしてて……止めねえ俺だと……思うか?」
ファムランドは口端から血を流しながら、それでもまっすぐにレオノルを見つめ、無理やりに微笑んで見せる。
「それは……っ! でも、今はこうするしか!」
「だから……馬鹿なこと……言ってんじゃねー…………お前さんがいなきゃ……俺だけ生きてても……しゃーねーだろが」
「それは私も同じですっ! あなたがいない世界で生きていたって……っ!」
「ははは……そりゃそうだ……こんな止め方しか……できねえ自分が……情けねえ……ごめんな、レオノル」
ファムランドは最後にレオノルの頭に手を置くと、そのまま意識を失った。
レオノルは自分の頭からずり落ちるファムランドの手を掴むと、キュッとその手を胸に抱きしめる。
「そんな……ファムランド……」
呆然とその様子を見ていたマヤに、勢いよく顔を上げたレオノルの視線が刺さった。
「陛下!」
「え?」
突然力強く呼びかけられたマヤは、呆気にとられてしまう。
マヤを呼んだのは、未だ涙を流しながらも、強い意志を感じさせる瞳でこちらを見るレオノルだった。
「陛下!」
「え!? あ、はい!」
「私のナイフは治癒魔法を無効化します。つまり、今のファムランドさんに治癒魔法は効きません」
「う、うん」
早口でまくしたてるレオノルに、マヤはただただ頷くことしかできない。
「ですから、陛下の強化魔法しか頼れるものがありません」
「うん……うん? でもファムランドは……」
「ええ、その通りです。ですから、ファムランドさんを魔人化して下さい!」
「ええ!? で、でも間に合わないんじゃ……」
「できるかどうかじゃないんです! やるんです!」
「は、はいっ!」
レオノルの気迫に、マヤは気圧されて返事をしてしまう。
「おいレオノル、お前の半分はまだ俺の支配下だと言うことを――」
「うるさい!」
話に入ってきたベルフェゴールをレオノルが一喝すると、レオノルの身体に変化が起こる。
先程半分ほどで止まってしまった白い部分がどんどんと広がり始めたのだ。
「馬鹿な!」
驚愕するベルフェゴールをよそに、白い部分は広がっていく。
「私はファムランドさんを助けるんです! 邪魔しないで下さい!」
そしてとうとう、レオノルはその身体からベルフェゴールを追い出してしまう。
「……ベルフェゴールは?」
「追い出しました」
「そ、そうなんだ……」
これはマヤの推測に過ぎないが、ベルフェゴールがレオノルを支配できていたのは、ファムランドにために国を裏切っているという負の感情を利用したものだったのかもしれない。
今はそれよりもファムランドを助けたいという思いが、決意が、レオノルの中で大きくなったため、ベルフェゴールは追い出されたのだろう。
「よし! それじゃあさっそく、と言いたいところだけど、たぶんすぐには無理だから――ルース!」
「はあ、わかった。最大限時間の流れを遅くした封印空間にその男を入れておけば良いのだろう?」
「さっすが、話が早いね。ちなみにどれくらい遅くできる?」
「1万倍といったところだろうな」
「えーっと、1万倍ってことは……」
「封印空間での1分が外の世界の1週間になるということだ」
「なるほど、それならファムランドの症状が悪化することもないね。じゃあお願いできる?」
「もう入れた。1分1秒を争う事態だと判断したのでな」
「ありがとね。それじゃあレオノルさんはマッシュを探してファムランドのことを伝えてくれるかな?」
「わかりました。でもファムランドさんは本当に大丈夫なんですか? 突然消えましたけど……それにその子は?」
「説明すると長くなるけど、とりあえず大丈夫なはずだよ。なにせ私とファムランドは1週間その子の封印空間にいたんだから」
「1週間一緒に?…………いえ、今はそれはいいです。ともかくわかりました。マッシュさんに話して来ます。陛下は?」
一瞬マヤとファムランドが1週間も2人きりだったことに嫉妬を感じたレオノルだが、今はそれどころではないと追及することはやめた。
「私? 私はね――」
マヤは静かにある方向に顔を向ける。
ただそれだけの動作で、レオノルに全身の肌が粟立つのを感じた。
「へ、陛下?」
ついさっき気迫でマヤを圧倒したレオノルだったが、今は静かな怒りに魔力を溢れさせるマヤに、完全にのまれてしまっていた。
「ん?」
「その……お気をつけて」
「うん。行ってくるね」
今まで見たこともないほど強い強化の光に包まれたシロちゃんにまたがったマヤは、爆音と共に跳んでいく。
「あの馬鹿、あんな勢いで飛び出したら危ないだろうが」
思わずよろめいてしまったレオノルを支えたのは、いつの間にかレオノルのすぐ後ろに来ていたルースだった。
「ありがとうございます」
「うむ、気にするな。それでは、私達はマッシュのところに行くぞ」
「はい」
飛び出していったマヤに遅れて、ルースとレオノルも、マッシュのところへと駆け出したのだった。
***
「それっ!」
レオノルたちと別れてまもなく、ベルフェゴールの姿を捉えたマヤは、そのままの勢いでベルフェゴールの背後からシロちゃんの前脚を叩きつける。
ベルフェゴールは、まるで見えているかのように、シロちゃんの攻撃が当たる直前に素早く数歩分横に移動してかわしてみせた。
「ちっ」
「ふふっ、突然攻撃とは、流石に失礼ではないですか?」
優雅に身を翻したベルフェゴールは、シロちゃんに乗ったマヤと対峙する。
「人の留守中に人の国に攻め込んできた人には言われたくないね」
「それは作戦と言ってほしいですね」
「まあ、戦争だから私もつべこべ言わないけど」
「話の分かる方で助かりました。それで、私を殺してすべてを終わらせようと?」
「うん、まあね」
こちらに来てからというもの、人であれば敵も殺さないできたマヤだったが、ベルフェゴールの言葉を否定することはなかった。
「なるほど、本気のようですね」
ベルフェゴールが右手を横に払うと、魔法陣が次々と現れ、その中から合計1000近い魔物が出現する。
「流石魔王だね。でも、私の子たちに勝てるかな?」
マヤは腕輪を掲げると、戦闘が得意な魔物100匹あまりを呼び出し、そのまま一気に強化魔法をかける。
魔物使いの魔王と、魔物使いの聖女の戦いが今始まった。
レオノルのナイフによって貫かれたファムランドは、激痛に顔を歪めながらレオノルに話しかける。
「ファムランドさん、どうしてこんなことを……」
「お前が死のうとしてて……止めねえ俺だと……思うか?」
ファムランドは口端から血を流しながら、それでもまっすぐにレオノルを見つめ、無理やりに微笑んで見せる。
「それは……っ! でも、今はこうするしか!」
「だから……馬鹿なこと……言ってんじゃねー…………お前さんがいなきゃ……俺だけ生きてても……しゃーねーだろが」
「それは私も同じですっ! あなたがいない世界で生きていたって……っ!」
「ははは……そりゃそうだ……こんな止め方しか……できねえ自分が……情けねえ……ごめんな、レオノル」
ファムランドは最後にレオノルの頭に手を置くと、そのまま意識を失った。
レオノルは自分の頭からずり落ちるファムランドの手を掴むと、キュッとその手を胸に抱きしめる。
「そんな……ファムランド……」
呆然とその様子を見ていたマヤに、勢いよく顔を上げたレオノルの視線が刺さった。
「陛下!」
「え?」
突然力強く呼びかけられたマヤは、呆気にとられてしまう。
マヤを呼んだのは、未だ涙を流しながらも、強い意志を感じさせる瞳でこちらを見るレオノルだった。
「陛下!」
「え!? あ、はい!」
「私のナイフは治癒魔法を無効化します。つまり、今のファムランドさんに治癒魔法は効きません」
「う、うん」
早口でまくしたてるレオノルに、マヤはただただ頷くことしかできない。
「ですから、陛下の強化魔法しか頼れるものがありません」
「うん……うん? でもファムランドは……」
「ええ、その通りです。ですから、ファムランドさんを魔人化して下さい!」
「ええ!? で、でも間に合わないんじゃ……」
「できるかどうかじゃないんです! やるんです!」
「は、はいっ!」
レオノルの気迫に、マヤは気圧されて返事をしてしまう。
「おいレオノル、お前の半分はまだ俺の支配下だと言うことを――」
「うるさい!」
話に入ってきたベルフェゴールをレオノルが一喝すると、レオノルの身体に変化が起こる。
先程半分ほどで止まってしまった白い部分がどんどんと広がり始めたのだ。
「馬鹿な!」
驚愕するベルフェゴールをよそに、白い部分は広がっていく。
「私はファムランドさんを助けるんです! 邪魔しないで下さい!」
そしてとうとう、レオノルはその身体からベルフェゴールを追い出してしまう。
「……ベルフェゴールは?」
「追い出しました」
「そ、そうなんだ……」
これはマヤの推測に過ぎないが、ベルフェゴールがレオノルを支配できていたのは、ファムランドにために国を裏切っているという負の感情を利用したものだったのかもしれない。
今はそれよりもファムランドを助けたいという思いが、決意が、レオノルの中で大きくなったため、ベルフェゴールは追い出されたのだろう。
「よし! それじゃあさっそく、と言いたいところだけど、たぶんすぐには無理だから――ルース!」
「はあ、わかった。最大限時間の流れを遅くした封印空間にその男を入れておけば良いのだろう?」
「さっすが、話が早いね。ちなみにどれくらい遅くできる?」
「1万倍といったところだろうな」
「えーっと、1万倍ってことは……」
「封印空間での1分が外の世界の1週間になるということだ」
「なるほど、それならファムランドの症状が悪化することもないね。じゃあお願いできる?」
「もう入れた。1分1秒を争う事態だと判断したのでな」
「ありがとね。それじゃあレオノルさんはマッシュを探してファムランドのことを伝えてくれるかな?」
「わかりました。でもファムランドさんは本当に大丈夫なんですか? 突然消えましたけど……それにその子は?」
「説明すると長くなるけど、とりあえず大丈夫なはずだよ。なにせ私とファムランドは1週間その子の封印空間にいたんだから」
「1週間一緒に?…………いえ、今はそれはいいです。ともかくわかりました。マッシュさんに話して来ます。陛下は?」
一瞬マヤとファムランドが1週間も2人きりだったことに嫉妬を感じたレオノルだが、今はそれどころではないと追及することはやめた。
「私? 私はね――」
マヤは静かにある方向に顔を向ける。
ただそれだけの動作で、レオノルに全身の肌が粟立つのを感じた。
「へ、陛下?」
ついさっき気迫でマヤを圧倒したレオノルだったが、今は静かな怒りに魔力を溢れさせるマヤに、完全にのまれてしまっていた。
「ん?」
「その……お気をつけて」
「うん。行ってくるね」
今まで見たこともないほど強い強化の光に包まれたシロちゃんにまたがったマヤは、爆音と共に跳んでいく。
「あの馬鹿、あんな勢いで飛び出したら危ないだろうが」
思わずよろめいてしまったレオノルを支えたのは、いつの間にかレオノルのすぐ後ろに来ていたルースだった。
「ありがとうございます」
「うむ、気にするな。それでは、私達はマッシュのところに行くぞ」
「はい」
飛び出していったマヤに遅れて、ルースとレオノルも、マッシュのところへと駆け出したのだった。
***
「それっ!」
レオノルたちと別れてまもなく、ベルフェゴールの姿を捉えたマヤは、そのままの勢いでベルフェゴールの背後からシロちゃんの前脚を叩きつける。
ベルフェゴールは、まるで見えているかのように、シロちゃんの攻撃が当たる直前に素早く数歩分横に移動してかわしてみせた。
「ちっ」
「ふふっ、突然攻撃とは、流石に失礼ではないですか?」
優雅に身を翻したベルフェゴールは、シロちゃんに乗ったマヤと対峙する。
「人の留守中に人の国に攻め込んできた人には言われたくないね」
「それは作戦と言ってほしいですね」
「まあ、戦争だから私もつべこべ言わないけど」
「話の分かる方で助かりました。それで、私を殺してすべてを終わらせようと?」
「うん、まあね」
こちらに来てからというもの、人であれば敵も殺さないできたマヤだったが、ベルフェゴールの言葉を否定することはなかった。
「なるほど、本気のようですね」
ベルフェゴールが右手を横に払うと、魔法陣が次々と現れ、その中から合計1000近い魔物が出現する。
「流石魔王だね。でも、私の子たちに勝てるかな?」
マヤは腕輪を掲げると、戦闘が得意な魔物100匹あまりを呼び出し、そのまま一気に強化魔法をかける。
魔物使いの魔王と、魔物使いの聖女の戦いが今始まった。
0
お気に入りに追加
561
あなたにおすすめの小説
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる