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第3巻第3章 キサラギ亜人王国の危機

ファムランドの開放

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「…………なあマヤ、それは本気で言ってるんだな?」

 しばらく開いた口が塞がらないといった様子で呆然としていたファムランドが、自分の息子を指さしてマヤに改めて確認してきた。

「うん。具体的にどういう原理なのかはわからないけど、これが原因なのは間違いない」

「わかった、とりあえずマヤが嘘を言ってねえってのは信じる。信じるが、そうだとすりゃどうしようもなくねえか?」

「うーん……股間だけ吹き飛ばす、とか?」

 マヤの言葉にファムランドは思わず股間を押える。

「ばっ! 恐ろしいこと言ってんじゃねー!」

「あはは、まあそうだよねー。うーん、困ったなあ」

 流石にファムランドの股間を吹き飛ばすのは冗談としても、それ以外の方法が思いつかないのも事実だ。

 オリガやエメリンのような魔法の専門家がいればなんとかしてくれたかもしれないが、今ここにいるのは戦うことにしか魔法を使えない脳筋エルフと強化魔法以外の魔法が一切使えない魔物使いのだけである。

「それにしても、あのエメリンが解除できねえってのが驚きだな。あいつなら簡単に解除できそうなもんだが」

「確かにそれはそうだよね。もしかすると解除しようとしたらファムランドが死ぬようになってるんじゃないの?」

「それで脅されてるってわけか」

「そうそう。たぶん今ファムランドが無事なのは、この空間にいるからだね」

 今ファムランドとマヤがいる封印空間は、ルースが管理している異空間であるため、ベルフェゴールもファムランドを観測できていないはずだ。

 だからこそ、ファムランドも無事なのだろう。

「ベルフェゴールとか言う魔王は魔王とは思えないようなせこい手段を使いやがるな」

「ねえー。正面から来ればいいのにね」

 とはいえマヤも地下水路から侵入したり隠し通路から突入したりとあまり正面から行くタイプではないのだが、それでもベルフェゴールのようにこそこそ暗躍するのはどうかと思う。

「なあマヤ、俺がかけられてる魔法はお前さんの強化魔法で上書きできねえのか?」

「上書きかあ…………確かにジョセフとレオノルさんの時はうまく行ったけど、今回はファムランドが魔人になってるわけじゃないしなあ」

「確かにそうだが、同じベルフェゴールの魔法だろう? ダメ元でやってみりゃいいじゃねーか」

「うーん、じゃあやってみるかー……」

 正直股間に強化魔法をかけるという行為に抵抗があったため、試したくなかったのだが、解決の糸口がない以上、ダメ元でやってみるしかないだろう。

「じゃあいくよ? 強化ブースト

 マヤの手から溢れた強化魔法の光の粒子は、ファムランドの股間に吸い込まれていった。

 強化魔法の光の粒子は、魔物や魔人が近くにいなければ、そこら辺に漂ったままになるはずなのだが、ファムランドの股間に吸収されたということは……。

「えーっと、もしかして上手くいった?」

「自分でやってみればいいとか言っといてなんなんだが、本当にうまくいっちまったのか?」

 ファムランドは未だに淡い光を放つ股間を訝しげに見ている。

 次も瞬間、パリンッという音がして、股間の光が収まった。

「なんだ? 何が起きた?」

「うーん、わからないけど、たぶんなんとかなったっぽい?」

 マヤが見てみると、先程まで見えていた黒いもや見えなくなっている。

 念の為目を凝らして見てみたが、それでも黒いもやは全く見えなかった。

「うん! 本当に大丈夫みたい。うまくいったね!」

「おう! まさか息子に強化魔法をかけられる日が来るとは思わなかったが……ともかく! これでレオノルを止めに行けるってことだろう?」

「そうだね! さっそく行こうか!」

「おう! 早くレオノルを助けてやらねえとな!………………で、マヤ? 俺たちはこっからどうやって出るんだ?」

「あー、それならしばらくしたらルースが迎えに来てくれるから」

「それなら安心だな。どれくらいしたら来るんだ?」

「えーっとね、確かの10分後に一回見に来てって言ってあるんだけど……あっ……」

 マヤはそこまで言って、なにかまずいことでも思い出したのか、その頬を冷や汗が伝った。

「どうした?」

「いやー、その……気合を入れてもらったところ悪いんだけど、多分迎えが来るのは明後日かなーなんて?」

「はあ!? なんでそんなことになってんだよ!」

「しょうがないでしょ! ファムランドがいつ起きるのかなんてわからなかったんだから!」

 そう、マヤはこの時間の流れが1,000倍になっている封印空間に入る前にルースに10分くらい経ったらいったん様子を見に来るように頼んだのだ。

 つまり、ルースが来るのはマヤが入ってから1万分後、すなわち約1週間後で、今日は5日目なので、迎えに来るのは明後日というわけだ。

「はあ、まあそういうことなら仕方ねえ。それじゃあよ、マヤ、ちょっと手合わせしてくれねえか?」

「えー、私が? 私じゃ相手にならないと思うよ?」

「とぼけなくていいじゃねえか。さっき俺の手を弾いた力、なにかあるんだろう?」

「あー、気づいちゃった? まあいいか、ここならベルフェゴールも見れないだろうし」

「やっぱり何か隠してやがるんだな?」

「まあね。でも、怪我するといけないし、あんまり消耗するのも良くないから、ほどほどでね?」

「おう! それじゃあいくぜ!」

 こうして、何故だがファムランドと自身に強化魔法をかけたマヤとの模擬戦が始まったのだった。

***

「来た!」

 模擬戦をして、一晩寝て、また模擬戦をして、一晩寝て、ルースが来る予定の日は外に出た後に備えてのんびりして待っていたマヤとファムランドは、少し離れたところに突然現れたルースを見つけた。

「うまくいったようだな」

 歩いてきたルースは、起き上がっているファムランドを見て状況を理解した。

「うん、なんとかね。ファムランド、この子がルース。新しい仲間だよ」

「お初にお目にかかる。私はルース、ドアに封じられた悪魔のようなものだ」

「へえ、こんな小せえお嬢ちゃんがこの空間を作ってんのかい……すごいんだな、嬢ちゃん。俺はファムランド、よろしくな」

 ルースとファムランドは軽く握手を交わす。

「そっちは何もなかった?」

「たったの10分だ。何かあるわけもない」

「確かに。それじゃあさっさと出ようか」

「うむ」

 ルースがパチンと指を鳴らすと、マヤたちは一瞬で外の世界に出てきていた。

「よし! それじゃあさっそくレオノルさんのところに行こうか!」

 マヤたちは、ベルフェゴールの呪縛から開放したファムランドとともに、レオノルのところに向かったのだった。
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