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第3巻第3章 キサラギ亜人王国の危機

目覚めたファムランドとその状態

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 時間の流れを早くしたルースの封印空間で、5日ばかり経った頃、ファムランドはようやく目を覚ました。

 「んんっ……なんだ、どうしたレオノル、なんだかお前さん縮んで――あでっ!」

 開口一番隣で見守っていたマヤをレオノルと勘違いした上、失礼な事を言ったファムランドをマヤは軽く小突く。

「悪かったね、ちんちくりんで」

「なんだ? どうしてマヤが俺たちの寝室に……」

「まあびっくりするのも仕方ないと思うけどまず言っておくと、ここはファムランドの家じゃないよ」

「…………そういえばそうだな、何だこののっぺりしただだっ広い空間は」

「ここは私の新しい仲間が持ってる魔法で作った空間みたいなやつなんだけど、色々あって寝かされてたファムランドをここに運んだんだよ」

「何だよその色々ってのは」

「そんなこと説明してる時間は――いや、この空間にいる間なら別に時間は気にしなくていいのか……えーっとね」

 現在外の世界の1000倍の速度で時間が流れているこの封印空間では、丸一日時間を無駄にしても、外の世界では2分も経っていないのだ。

 時間を気にする必要が無いことを思い出したマヤは、ファムランドに現在の状況を1から説明した。

「じゃあ、あれはそういうことだったのか……?」

「何か心当たりでもあるの?」

「ああ、ここ最近レオノルがどうもよそよそしくてな。それに、最近はその――」

「その?」

「その、だな……こんなことまだ子供のマヤに言っていいのかわからねえが……」

「あー、そういう話なら全然気にしないから大丈夫だよ。むしろ、なにかの手がかりになるかもしれないからちゃんと教えて欲しいな」

「お、おう……マヤがそう言うなら話しちまうが、3回位したっきり、最近夜の営みってやつが全くなくなってな」

「なるほど……ファムランドが飽きられただけじゃなくて?」

 ファムランドの告白に、マヤは三白眼でファムランドを見返した。

「なっ、なんてこと言いやがる!」

「だってー、あのレオノルさんだよ? 国中の男が恋い焦がれる絶世の美女だよ? ファムランドに飽きたって引く手あまただよ?」

「確かにそうかもしれねえが……」

 目に見えてしょんぼりしてしまったファムランドに、マヤはぷっ、と吹き出した。

「あははははは、ごめんごめん! 流石にそれはないよね! なんてたってレオノルさんは自分に誘惑されないファムランドが好きで好きでたまらないんだから。ごめんね意地悪言って」

「マヤ、流石に今のは趣味が悪りぃぞ?」

「ごめんごめん。でも、なんで突然やめちゃったんだろうね。何か前兆でもあった? 最後にした時に何かあったとか」

「いや、何もなかったと思うぞ? むしろお互いのことがよくわかって――って、いるか? この続き?」
 
「いや、流石に細かく聞いても私も経験ないからわからないしいいよ。とりあえず、不自然なことはなかったわけだね?」

「ああ、好きなくとも俺はそう思ってるんだが」

「他にはなにかなかった?」

「そうだな……そういえば、最後にした日の翌朝に、なんでか知らねえがレオノルが朝早くに1人で起きててな。また不安になっちまったのかと思ってその時は気にしなかったんだが……」

「うーん、じゃあたぶんその時に何かあったんだろうけど……」

 マヤは状況を整理して考えを巡らせる。

 まず、レオノルはファムランドと3回夜の営みをした。

 次に翌朝、レオノルが早く起きており、それっきり夜の営みがなくなった。

 そしてレオノルは、ファムランドを深い眠りに落とした上でキサラギ亜人王国を結界で封じ、ベルフェゴール配下の襲撃を手引した。

(レオノルさんの支配契約の書き替えが上手くいってなかった?)

 まず自分の対処が悪かったのではないかと疑ったマヤだが、おそらくそれは違うだろうと首を振る。

(あのレオノルさんの様子は演技だとは思えないし、そもそもそれならファムランドを眠らせて閉じ込めてたのはおかしい)

 もし仮にレオノルが未だにベルフェゴールの支配下にあり、本心からキサラギ亜人王国を崩壊させようとしていたなら、ファムランドを眠らせて閉じ込めているだけなのは明らかに不自然だ。

 数日寝たままになるほど深く眠らせることができるなら、殺すことだって容易だったはずだからである。

(つまり、レオノルさんは何らかの事情でベルフェゴールに従わざるを得ない状況で、キサラギ亜人王国を襲う手助けをさせられている?)

 しかしそうなると、レオノルがどうしてそのような状況にあるのか、ということになるが、これは簡単に推測できる。

(たぶんだけど、ファムランドのことで脅されて、ファムランドの無事と引き換えに、ベルフェゴールの襲撃の片棒をかつがされてるんだろうね)

 少なくともマヤの認識ではこの国とマヤに恩義を感じているはずのレオノルが、それを裏切るとすればファムランドのことしか考えられなかった。

(でも、ベルフェゴールのやつはどうやってファムランドの命を脅かしてるんだろう?)

 マヤはファムランドの姿を改めて確認する。

 突然黙り込んでしまったマヤに、ファムランドは怪訝な様子でこちらを見ていた。

 とりあえずダメ元で目を凝らし、魔眼の力を最大限に発揮できる(と、少なくともマヤはそう思っている)方法である、目に力を入れて対象を見る、というのをやってみる。

 すると、布団に下半身を入れたまま上半身だけ起こしているファムランドの、その下半身が入っている布団の隙間から、ほんの僅かだが黒くもやが出ていることに気がついた。

 そこでマヤは、今まで点と点だった情報が線でつながるのを感じた。

「なるほど!」

「どうした? なにかわかったのか――っておい、マヤ、何してる?」

 謎が解けて興奮気味のマヤは、戸惑うファムランドを無視してその下半身にかかっていた掛け布団を引っ剥がすと、ベッドに手をついてファムランドの股間を服の上から至近距離で凝視する。

「お、おい、マヤ? 一体なんだってんだ?」

「…………やっぱりね」

 マヤは小さくつぶやくと、そのままなんの躊躇もなくファムランドの寝間着のズボンの中に手を突っ込むと、ファムランドのものを取り出した。

「な、何してやがる! 生娘がそんなことするんじゃねえ!」

 慌ててマヤを退かそうとするファムランドを、マヤが普段のマヤからは信じられない力で跳ね除ける。

「別にこんなのなんでも無いって。それよりファムランド、落ち着いて聞いてね」

 取り出したファムランドのものをいろんな角度から確認してから、マヤは真剣な表情でファムランドに話しけかる。

 ちなみにマヤがファムランドのものを触ることに対して何でもないというのは当然で、もともと男だったマヤからすれば用を足す度に触っていたものなのだから、抵抗などあるわけがなかった。

 むしろ最近ようやくなれてきた自分の胸のほうが触りなれていないくらいである。

 まあ、女の体になったからか妙にドキドキした気はするが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

「股間を露出したまま真面目に聞けとか言われてもよ……」

「それもそうだけど、問題なのはこれだから我慢してほしいな」

 マヤはそう言ってファムランドの股間を指差す。

「お、おう、そうか。それで、俺の息子がどうしたって?」

「うん、単刀直入に言うと、これでファムランドはベルフェゴールに操られてるっぽい」

「はあ?」

 自分の国の国王から、大真面目に、魔王によって股間で操られていると言われたファムランドは、ただただ呆然と口を開けてそう返すことしかできないのだった。
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