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第3巻第2章 里上層部vsマヤ

オークション会場制圧

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(これかな?)

 マヤは忍び込んだ部屋の中で、大きな本棚の間にしゃがみ込んでいた。

 数十分探し回って、ようやくそれらしい資料がまとまっている場所を見つけたマヤは、一番新しいと思われる冊子を本棚から引き出して開いてみた。

(…………うん、この辺の資料で正解みたいだね)

 軽く読んだだけでも目を覆いたくなるような内容がたくさん書いてあったので、マヤはそっと冊子を閉じる。

(よし、それじゃあとりあえず全部持ってっちゃおう)

 マヤは先程確認した冊子と似たような名前が手書きされた背表紙の冊子を片っ端から収納袋に入れていく。

 ご丁寧に「ノットリミッド業務日報07」とか「ノットリミッド経営報告23」とか名前とナンバリングがしてあったので、関係のある資料を見分けるのは簡単だった。

(よしっ、これで全部かな……あとは……)

 マヤはラッセルから預かっていた、白紙の冊子を取り出すと、先程収納袋に入れた資料と同じ内容を背表紙を書いて本棚に戻していく。

(ラッセル君のいった通り、ハミルトンって人はおんなじ形の冊子ばっかり使ってるんだねえ)

 マヤはそんなことを考えながら、次々にダミーの冊子を作っていくと、程なく本物をの抜いてできた空間をダミーで埋め終えた。

(よっし、完了。それじゃあ、奴隷の少女に戻るとしますか)

 マヤは再び窓から窓へと移動し、自分が監禁されている部屋へと戻り、手早く着替えてマネキンと入れ替わった。

 腕輪も念の為ブラジャーの中に戻してしまったので、万が一のためにシロちゃんには屋敷の屋根の上で待機してもらうことにした。

 マヤはすべてを片付けてベッドで横になっていると、次第にまぶたが重くなってきた。

(あ、やばい……これは、寝落ち、する……)

 なんとものんきな話だが、マヤはそのままベッドでぐっすり眠ってしまったのだった。

***
 
 翌朝、寝ているマヤの部屋の鍵が開けられる音がして、誰かが入ってくる。

「おい起きろ! 初めての仕事だ!」

 マヤは鎖を引っ張られて起こされた。

 寝起きは悪い方ではないのだが、こんな起こされ方をすれば気分は最悪である。

「なにぃ、こんな朝早くに……っていうかまだ夜じゃん」

 マヤは自分が、奴隷のふりをして囚われていることなどすっかり忘れて、呑気に起こしに来たドワーフ、ハミルトンに話しかける。

「ここまでのんきに眠りこけていた奴隷はお前が初めてだ……さっさと立て、会場に向かうぞ」

 ハミルトンの言葉と、伸びをしようとして手にぶつかった首元の大きな首輪を見て、マヤは自分が何をしていたかようやく思い出した。

「会場?」

「いいからお前は黙ってついてくるんだよ!」

 ぐいっと鎖を引っ張られ、マヤは顔から転びそうになりながらベッドから引きずり出される。

 そのまま無言のハミルトンに連れられたマヤは馬車に乗せられ、町外れの大きな劇場に連れてこられた。

 ちなみに、馬車の中で寝癖やら目やにやらを綺麗にされ、軽く化粧もされていた。

「こっちだ」

 劇場に入るやいなやバックヤードの方に向かいそのまま奥の階段を下っていくハミルトンに、マヤは黙ってついていく。

 しばらく降りていくと、大きく開けた空間が目に飛び込んできた。

 地下とは思えない大空間にびっしりと並べられたいやに豪華な椅子には豪奢な服に身を包んだ男性たちが仮面をつけて座っている。

 そしてその椅子が向いている方向には大きなステージがあった。

 まばゆい明かりに照らされたその上には、マヤ同様着飾った少女が立たされている。

 輝かしいステージできらびやかな恰好をしている割に、少女たちの顔には絶望が広がっている。

 それもそのはずで、彼女たちもまたマヤと同じく大きな首輪をしている、つまりは奴隷なのだ。

 マヤがハミルトンに連れられて少女たちの最後尾に並んだところで、司会らしき男性がステージに躍り出る。

「さあさあ今宵はよくぞお集まりいただきました――」

 司会が朗々と口上を述べあげると、マヤと反対の少女から順にオークションが始まった。

(まあわかっちゃいたけどやっぱりそういうところか、ここは)

 ここはいわゆる奴隷オークションの会場なのだろう。

 程なくしてマヤの番が回ってきたところで、ハミルトンが司会から声を大きくする魔道具を預かった。

「会場の皆様、私ノットリミッドのオーナーでございます」

 会場に入る前に仮面を被っていたハミルトンは、自分の名前を名乗らなかった。

「今回は私が仕入れたこの人間の奴隷の初めてを出品させていただきます」

 ハミルトンの言葉に、会場中の目がマヤに注がれる。

(うわー、気持ち悪い……男の頃は信じられなかったけど、ここまで注目されると本当にわかるんだね、胸とかお尻とか見られてるの……)

 マヤは産まれて初めて視姦される気持ち悪さを感じながら、タイミングを見計らっていた。

 しばらくすると、いよいよオークションが始まり、次第に白熱していく。

(そんなに私の初めてが欲しいの? うわー……でも、逆に今がチャンスかな)

 会場がオークションの動向に注目し始めたタイミングで、マヤは頭の中で指示を出した。

(やっちゃえ、シロちゃん!)

 マヤが指示を出した途端、会場の入り口が爆音とともにぶち破られる。

「わおおおおおおおん!」

 木っ端微塵となった扉の向こうから、白銀の大狼が現れ、会場は一瞬静まり返り――。

「「「「「「うわあああああああ」」」」」」

 大の男たちが大声とともに逃げ惑う阿鼻叫喚の巷と化した。

「させないよ」

 シロちゃんがいない方の出口に向かう客たちに、マヤは手早く胸元から取り出した腕輪をはめて掲げ、呼び出した狼の魔物に入り口を塞がせる。

 ついでに呼び出した熊の魔物でハミルトンを押さえつけると、ハミルトンが持っていた声を大きくする魔道具を奪いとる。

「お前は、いったい……」

 地面に押さえつけられたハミルトンは、一瞬で色々なことが起こりすぎて何がなんだかわからないのか、やっと口にした質問はそんな簡単なものだった。

「うーん、まあこれから自己紹介するから待っててよ」

 マヤはすうぅとゆっくり息を吸い込むと、仄暗い闇のオークション会場にはあまりにも場違いな明るい声で。

「こんにちはっ、私はマヤ。キサラギ亜人王国の国王やってますっ」

 またたく間に会場を制圧し、満面の笑みでそんなことを言う少女に、会場にいた全員が引きつった笑いを浮かべることしかできなかった。
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