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第3巻第2章 里上層部vsマヤ

共同戦線

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 ラッセルがマヤの店を偵察に来た日の深夜。

「君に呼ばれてきたのに、なんで私はこそこそしないといけなかったのかな?」

 マヤは1人、里長屋敷に忍び込み、窓からラッセルの私室に侵入し、中で待っていたラッセルに声をかけた。

「ごめんなさい、マヤさん。でも、こちらにも色々と事情がありまして」

 どうして2人がこんな夜中に会っているかと言えば、ラッセルが店で買い物をした際、会計の時にこっそりメモを渡してきたからだ。

 そのメモには「今夜0時すぎ、里長屋敷の誰にもバレないように、僕の部屋まで来てください。お話したいことがあります」という言葉とともに、里長屋敷の簡単な地図と里長の印が押されていた。

「わざわざ公印まで押したメモを渡されて、なんで私は不法侵入させられてるんだろう? って思ったよ」

 冗談めかして言うマヤに、ラッセルは苦笑する。

「本題の入る前に、なぜ秘密裏に来ていただいたのかの理由だけ先にお伝えします。早い話が、私の秘書が情報を流しているのです」

「秘書って今日一緒に来てたお姉さん?」

「そうです、その女性でナタリーさんといいます」

「ふーん、そのナタリーさんが情報を流してるんだ? でも誰に?」

「我が里の商人会会長のハミルトンさんです」

「なるほどなるほど……ん? それの何がだめなのさ」

「それを話すと長くなってしまうので……とりあえず座りませんか?」

 ラッセルは自身の正面にある椅子を示す。

「そうさせてもらおうかな」

 マヤが椅子に座ると、ラッセルが水を入れてくれた。

 ラッセルは同じ容器から出した水を自分のコップにも注ぐと、それを半分ほど飲んでみせる。

「それで、結局私はなんで呼ばれたのかな? 密かに密輸入品を売らない約束をしてほしいとか?」

 ラッセルが安全であることを示した水に、マヤも口をつける。

「違いますよ。むしろその逆です」

「逆? もっと密輸入を売っていいってこと?」

 何を言っているんだこいつは、と怪訝な表情を浮かべるマヤに、ラッセルは至って真面目に返す。

「ちょっと違いますが、まあだいたいそのとおりですね」

「それを里長の君が依頼してくる理由がわからないね。何が目的?」

「そうですね、順を追って説明しましょう」

 ラッセルは現在の政策、つまりキサラギ亜人王国からの農作物のストップがハミルトンの発案であること、それを続けることでどうやらハミルトンに利益があるらしいこと、ラッセルとしてはこの政策を辞めさせたいと思っていることを説明した。

「じゃあやめさせればいいじゃん。君は里長なんでしょう?」

「そうですが……」

「ですが?」

「……私は確かに今は里長です。でもそれは、里長であるお祖父様や、次の里長になるはずだった里長補佐のお父様がいなくなってしまったからで、私は里長代理にすぎません」

「だからそれをするだけの力がないって?」

「そういうことです。ですから、こうしてマヤさんに来ていただいのです!」

「えーっと、何かな? もしかして仮にも里長である君が、密輸入品を売ってる犯罪者の私に協力してほしいとか、そういう話かな?」

 マヤの言葉に、ラッセルは大きくうなずく。

 あまりに大胆すぎるやり方に、マヤは開いた口が塞がらなかった。

「数日警察の者に監視させていただけですが、あなたが只者ではないことはわかりました」

「やっぱりあのドワーフは見張りだったんだね」

 実はマヤも見張りには気がついていた。

 パコやエマが商品の会計を覚えてくれたおかげで、手持ち無沙汰になったマヤが周囲を見ていると、いつまでもこちらを見ているドワーフがいることに気がついたのである。

 マッシュとカーサに確認したところ、最初の逮捕の後から見張られていたらしいが、特に危害を加えてくる様子がないため無視していたらしい。

「いつまで経ってもわからない農作物の補給方法と輸送方法、仲間のオークの強さ、人語を解する高位の魔物を従えていること、どれをとってあなたが只者ではないことを示しています」

「いやいや、私は大したことないよ? 仲間がすごいだけでさ」

「いや、マヤさんも十分すごいですよ! だってここまで1人で来てくださったじゃないですか」

「いやー、まあ、それくらいなら」

 ちなみにマヤがここに侵入した方法は至ってシンプルかつある意味力技で、シロちゃんで大きく跳躍してほぼ真上から屋敷の屋根に着地し、シロちゃんにくくりつけたロープで部屋の窓まで降りてくるという方法だった。

「この屋敷の警備は一応里1番のはずです。それに忍び込めるなら十分すごいですよ! だからこそ、私はマヤさんに協力してほしいんです!」

「そんな力説しなくても……まあいいや、こっちにもメリットがありそうだし、協力してあげる」

 そもそも考えてみれば、マヤに断る理由はないのだ。

 なぜなら、密輸入を販売していたのは市民を味方につけ、里上層部をその地位から引きずり下ろし、最終的にこの里をキサラギ亜人王国の加入させることが目的だったからだ。

 引きずり降ろそうと思っていた里上層部の、それもトップの里長がマヤに協力してくれるなら、何かと都合がいい。

「本当ですか! それじゃあさっそく今後の方針を!」

 ラッセルはマヤの返事も聞かず、猛然と紙にペンを走らせ始めた。

 そろそろ寝たいマヤが「とりあえず明日も来るからそれまでにまとめといてよ」と言ってラッセルを止めて屋敷を後にしたのは、その数十分後だった。

 その後の数日の密会を経て、ラッセル発案のハミルトン失脚計画が完成した。

 こうしてマヤとラッセルは共同戦線を張ることとなり、ハミルトン打倒のために行動を開始することになったのだった。
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